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出会いは必然?!

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「うふふっ、神城さんて、面白い方ですね」

そう、彼女が笑った。まるで花が綻ぶように。

「いや、あの、えっと…あはは」

僕は、まだ何一つ面白いことなんて言えてないのに。むしろ、彼女と出会ってから、一度も、まともに視線も合わせられていない。挙動不審で、手汗も脇汗もビッショリな僕が面白いという意味だろうか。

「私…神城さんみたいな方が、タイプなんです」

「え…えっ?そっ、それはっ、どうーーワァッ!アチイッ!!」

気が動転して立ち上がり、ガタン、と机を大きく揺らしてしまって、慌てて謝ろうとしたら手元のコーヒーカップを倒して思い切り股間にホットコーヒーをぶちまけた。
自分の股間に、だ。情けないも、ここまで来れば勲章ものだろう。

「だっ、大丈夫ですかっ?!」

彼女が真っ白なハンカチを差し出してくれたけれど、それで股間を拭く訳にはいかないから断り、慌てておしぼりでテーブルの下でゴシゴシと擦って誤魔化す。もう彼女の顔なんて恥ずかしくて見れない。

だって、彼女「海原《うなばら》つばめ」は、すごく可愛いんだ。

輪郭はふっくらと丸くて、髪も自然な焦茶色で、ゆるくふんわりと肩下でカールしている。元々、こういう髪質なんだろうと思う。化粧もしてないのか、ほっぺたもほんのり赤味がかっていて、唇もツヤツヤ。血行が凄く良くて健康的だ。
目は大き過ぎず小さ過ぎず、アーモンド型で二重瞼。睫毛も長い。ふんわりしたワンピースに小さなポシェット。絵本に出て来る女の子みたいな可愛い靴を履いている。
僕の理想を現実にしたら、こんな感じ、がそのまま目の前に現れたら、どうする?実際は、何も出来ないんだ。
僕は29歳のしがない会社員だけど、夢見ることだってある。童貞だって、夢見ることはある。いや、むしろ、童貞だからこその夢だって、あるんだ。そして、夢は儚く散るもの。

「大丈夫、です…すみません…こんな、僕といると…恥ずかしいですよね…」

オシャレなカフェには似合わないダサいサラリーマンが、懸命に股間をおしぼりで拭いてるのだ。周りからは冷たい視線をビシビシ感じる。笑っているのは彼女だけ。

「恥ずかしいだなんて、思いませんよ?私は神城さんと一緒なら、どこでも楽しいです。それより、火傷になったら大変ですから、病院行きますか?」

コーヒーは熱かったとはいえ、あくまで布越しだっから、皮膚には直接の被害は少ないようだから心配無いと彼女に伝えた。でも、一張羅のスーツには濃い染みが広がって、とても彼女と並んで歩ける状態じゃない。
というか、これ以上、迷惑を掛けられない。メンタルの削られ方がエグくて、もう家に帰りたい。安息の地でHPを回復しなくては、まもなく野垂れ死ぬ。

「…いえ…帰ります…」

「えっ?!帰るんですか?!さっき来たばかりなのに?」

そう、僕達は、今日が初対面。
僕の同僚が彼氏募集中の女の子を紹介してやるって…半ば強引に連絡先を教えられ、その同僚が勝手にデート話を進めて、トントン拍子で、こうして洒落たカフェでどストライクな女の子を前に、今、汚れた一張羅で座ってる。

「じゃあ…お家に行ってもいいですか?」

「は、はい、そうですね………って、え?は?」

「楽しみです、神城さんのお家。せっかくだから、食べ物とか飲み物も買って、お家で飲みましょ?」

彼女は32歳だと聞いている。
人生経験が僕よりあるのだろうから、こういうのも慣れているのかもしれない。
でも、僕は一度も女の子を部屋に入れたことがない。更に言えば、来てくれる女の子なんて存在したことすら無い。あれ?部屋、片付いてた?朝の食器は洗った?服は脱ぎ散らかして…

膝ががくがくと震えている。僕の無様さを膝が笑っているのか。

「…は、はあ…そ、その…」

「じゃあ、近くのスーパーに寄りましょ!あそこ、割と安いんですよ?」

つばめさんと連れ立って、というよりも、腕を掴まれてやや強引にカフェを出て、近くのスーパーへ向かう。夢を見ているんだろうか。こんな冴えない会社員が、こんなに可愛い女性に腕を掴まれて歩いている。
もし、夢だとしてもお金を払いたい。

そうして僕は、夢見心地のまま、つばめさんを部屋に招き入れた。
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