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熱と熱
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重ね合う唇が熱い。
「サンク、さま…薬」
「飲ませて……口で」
薬を口に含んで、ゆっくりと流し込むと、コクコクと嚥下していく。
少し唇の端から溢れた分を指で掬い取って、濡れた唇に差し込むと、チュウと吸い取られた。
ゾクゾクと背中が擦り挙げられるような感覚に陥る。気が狂いそうな程に欲しい。
下半身を擦り付けてしまう。
「……もっと」
「はい」
チュウ、と濡れた音を響かせながら、再び唇を食み合う。
濡れたサンク様のまつ毛が長い。涙に縁取られた瞳が熱っぽくて色っぽい。
もう下半身がいたい。チュ、と音を立てながら唇が離れる。サンク様の視線は俺の下半身に注がれていた。
「あの……」
「シたい?」
欲望に勝てず、遂に、いや即時……コクリと頷くと、サンク様は微かに笑った。少し頬を染めて寂しそうに笑った。
「……僕のことなんて好きじゃないのにね……男だもの、溜まると身体は反応しちゃうんだ。ふふ、ごめんね……意地悪言って……シよう」
「サンク様……俺は」
『あなたが好き』
結局、言えなかった。
ただ涙を掬って泣かないで、と繰り返し心の中で唱える。
その日は優しく身体を互いを抱き締め合って寝た。
熱い身体を寄せ合って、時にすすり泣きながら眠りについた。
いつか、本当に気持ちを伝えることが出来るのだろうか。
俺のような身分の男が。首輪は外してもらっても、心は下賤な奴隷のままの俺。
もっと、サンク様には相応しい相手がいる。
あの村長の娘のように美しく、いつか子を望める相手。
寂しがり屋のサンク様が寂しく無いように、沢山の子を産める相手なら……それが俺なら、きっと好きだと面と向かって言える。夜の熱に浮かされてではなく、明るい光の中で、欲では無く好きなのだと言える。
そんな有りもしないことを窓の月を眺めながら考えては浅い眠りに沈んだ。
その日の夢は、最低な日々を思い出すには十分だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ログ?大丈夫?」
目覚めると、あの日と同じ天使がいた。
熱も下がったらしく、頬も健康な色に戻っていた。
俺は寝ながら泣いていたらしい。
「ずっとうなされていたから心配したんだ。嫌な夢でも見た?」
「……いえ、問題ありません。サンク様は大丈夫ですか?」
俺は顔を両手で隠して、それ以上、顔を見られたく無かった。きっと酷い顔をしているし、また泣いてしまいそうだ。
サンク様の顔を見たら余計に。
「僕には、言えない、か……風邪はすっかり治ったよ。ありがとう、看病してくれて。もう、すっかり良くなったから、水を汲んでくるね」
サンク様が遠ざかり、扉の閉まる音がした。部屋から出て行ったらしい。
俺は両手を下ろし、小さな鏡で顔を確認した。泣いた跡はあるが、そこまで酷くはなっていないらしくて安堵する。
水汲みを頼んでしまったなんて、俺はサンク様に対してなんてことを……
だが、本当に嫌な夢を見た。
サンク様には決して言えない。言いたくない。
奴隷として、ご主人様の夜の相手をしていた頃の夢だ。
妊娠しない男の奴隷は、そういう目的でも買われる。
俺は細身だったのもあって、少年と言える歳から、そういう目的で買われることが増えた。半年ほどで飽きられ、奴隷商の元へ戻り、またすぐに買い手が付いて売られ、という繰り返しの日々だった。
俺は何の感情も無く、ただ言われるがままに身体を委ねていた。
痛くされない時は内心喜び、骨も折られた時は奴隷商が金を多く取れると喜んだ。
俺の飯も、ほんの少し増えた。でも、大きくなると買い手が付きにくいから、と他の奴隷よりも常に腹ペコだった。
それでも、年々勝手にデカくなった。
そして、気付けば少年では無くなり、首輪もギリギリになった。
そうなった頃に嗜虐趣味のご主人様に買われたのだ。そして、廃棄されて、サンク様に拾われ、首輪を外してもらい……今では夢のような暮らしをしている。
だが、夜の経験の有無を尋ねられた時、俺の脳裏には奴隷として過ごした数多の夜が蘇った。
幸せだった事なんて一度も無かった。
全てが強制で、全てが苦痛だった。
苦しく重かった首輪の記憶と共に思い出す。
「初めてが、サンク様だったら、どんなに幸せだったんだろう」
サンク様と出会えて幸せになれたが、同時に過去の自分が不幸だったと、日に日に実感してしまう。
よし、と気合いを入れて寝台から起き上がる。
水汲みをサンク様にさせるなんて、あってはならないことだ。
顔を両手で強くパンッと叩いて外へ出る。
急いでサンク様の後を追い掛ける。
愛する人を探して水汲み場へと走る。
首輪を外して貰い、今ではこんなに走れる。
今度こそ言おう。
愛してると。
「サンク、さま…薬」
「飲ませて……口で」
薬を口に含んで、ゆっくりと流し込むと、コクコクと嚥下していく。
少し唇の端から溢れた分を指で掬い取って、濡れた唇に差し込むと、チュウと吸い取られた。
ゾクゾクと背中が擦り挙げられるような感覚に陥る。気が狂いそうな程に欲しい。
下半身を擦り付けてしまう。
「……もっと」
「はい」
チュウ、と濡れた音を響かせながら、再び唇を食み合う。
濡れたサンク様のまつ毛が長い。涙に縁取られた瞳が熱っぽくて色っぽい。
もう下半身がいたい。チュ、と音を立てながら唇が離れる。サンク様の視線は俺の下半身に注がれていた。
「あの……」
「シたい?」
欲望に勝てず、遂に、いや即時……コクリと頷くと、サンク様は微かに笑った。少し頬を染めて寂しそうに笑った。
「……僕のことなんて好きじゃないのにね……男だもの、溜まると身体は反応しちゃうんだ。ふふ、ごめんね……意地悪言って……シよう」
「サンク様……俺は」
『あなたが好き』
結局、言えなかった。
ただ涙を掬って泣かないで、と繰り返し心の中で唱える。
その日は優しく身体を互いを抱き締め合って寝た。
熱い身体を寄せ合って、時にすすり泣きながら眠りについた。
いつか、本当に気持ちを伝えることが出来るのだろうか。
俺のような身分の男が。首輪は外してもらっても、心は下賤な奴隷のままの俺。
もっと、サンク様には相応しい相手がいる。
あの村長の娘のように美しく、いつか子を望める相手。
寂しがり屋のサンク様が寂しく無いように、沢山の子を産める相手なら……それが俺なら、きっと好きだと面と向かって言える。夜の熱に浮かされてではなく、明るい光の中で、欲では無く好きなのだと言える。
そんな有りもしないことを窓の月を眺めながら考えては浅い眠りに沈んだ。
その日の夢は、最低な日々を思い出すには十分だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ログ?大丈夫?」
目覚めると、あの日と同じ天使がいた。
熱も下がったらしく、頬も健康な色に戻っていた。
俺は寝ながら泣いていたらしい。
「ずっとうなされていたから心配したんだ。嫌な夢でも見た?」
「……いえ、問題ありません。サンク様は大丈夫ですか?」
俺は顔を両手で隠して、それ以上、顔を見られたく無かった。きっと酷い顔をしているし、また泣いてしまいそうだ。
サンク様の顔を見たら余計に。
「僕には、言えない、か……風邪はすっかり治ったよ。ありがとう、看病してくれて。もう、すっかり良くなったから、水を汲んでくるね」
サンク様が遠ざかり、扉の閉まる音がした。部屋から出て行ったらしい。
俺は両手を下ろし、小さな鏡で顔を確認した。泣いた跡はあるが、そこまで酷くはなっていないらしくて安堵する。
水汲みを頼んでしまったなんて、俺はサンク様に対してなんてことを……
だが、本当に嫌な夢を見た。
サンク様には決して言えない。言いたくない。
奴隷として、ご主人様の夜の相手をしていた頃の夢だ。
妊娠しない男の奴隷は、そういう目的でも買われる。
俺は細身だったのもあって、少年と言える歳から、そういう目的で買われることが増えた。半年ほどで飽きられ、奴隷商の元へ戻り、またすぐに買い手が付いて売られ、という繰り返しの日々だった。
俺は何の感情も無く、ただ言われるがままに身体を委ねていた。
痛くされない時は内心喜び、骨も折られた時は奴隷商が金を多く取れると喜んだ。
俺の飯も、ほんの少し増えた。でも、大きくなると買い手が付きにくいから、と他の奴隷よりも常に腹ペコだった。
それでも、年々勝手にデカくなった。
そして、気付けば少年では無くなり、首輪もギリギリになった。
そうなった頃に嗜虐趣味のご主人様に買われたのだ。そして、廃棄されて、サンク様に拾われ、首輪を外してもらい……今では夢のような暮らしをしている。
だが、夜の経験の有無を尋ねられた時、俺の脳裏には奴隷として過ごした数多の夜が蘇った。
幸せだった事なんて一度も無かった。
全てが強制で、全てが苦痛だった。
苦しく重かった首輪の記憶と共に思い出す。
「初めてが、サンク様だったら、どんなに幸せだったんだろう」
サンク様と出会えて幸せになれたが、同時に過去の自分が不幸だったと、日に日に実感してしまう。
よし、と気合いを入れて寝台から起き上がる。
水汲みをサンク様にさせるなんて、あってはならないことだ。
顔を両手で強くパンッと叩いて外へ出る。
急いでサンク様の後を追い掛ける。
愛する人を探して水汲み場へと走る。
首輪を外して貰い、今ではこんなに走れる。
今度こそ言おう。
愛してると。
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