ご主人さまと呼ばないで

にじいろ♪

文字の大きさ
上 下
17 / 23

高熱

しおりを挟む
サンク様が、高熱を出した。俺は当然、寝ずに看病している。

「ゴホッ、そんなに心配しなくて大丈夫だよ、すぐ治るから」

「でも……」

「だから、ログには薪売りと薬を買って来て欲しいんだ。マアムおばさんのところへ行けば分かるから大丈夫。村に入ってすぐの赤い屋根の丸いお家だよ」

俺は村への一人きりのお使いを頼まれた。

「……かしこまりました」

昔の嫌な記憶が蘇る。人は俺を見ると嫌悪する。石や土を投げられた。
果たして、きちんとお使いを果たすことなんて、この俺に出来るだろうか。
不安になりながら、けれども高熱で苦しむサンク様の為に出来ることは全てやりたい。

教えられた道を頭に叩き込んで薪を背負い村へと一人で向かう。

「気をつけて、いってらっしゃい」

高熱で潤んだサンク様の瞳があまりに色気を含んでいて、思わず下半身が反応してしまい、若干前屈みで家を出た。
本当に、サンク様は色っぽい。
元々美しいが、俺とのアレコレが増えると、日に日に美しさに磨きがかかり、例えようのない色香を、身にまとうようになった。見るだけで下半身が打ち震えるから、床に跪くしか無い。香りも、どんどん淫靡になっていく。俺の欲のせいか?
とにかく自分を何とか制御するので精一杯だ。そうでなければ、恐らくめちゃくちゃに抱いてしまう。全てを奪いたくて仕方ないのだから。

そんな妄想を首を振って振り払い、村へと向かう。サクサクと進み、そこはのどかな小さな村だった。初めて足を踏み入れた。
不安で胸が押し潰されそうだ。
どんな目で見られるのか……

「あら、まあ!!神様が来たわ!」

赤い屋根の丸いお家。マアムおばさんの家だと思うが、そのおばさんはキラキラとした瞳で俺を見た。

「あ!分かった!あなたがログね?!サンクから聞いてたまんま!ほんとに神様みたいに綺麗ねぇ!サンクが惚れるのも当然よ。あら、薪?良いわよ、あなたが持ってきてくれたんだもの、高値で買うわ」

何も投げ付けられることも無く、矢継ぎ早に話すと、薪を全て買い上げてくれた。

「その…薬を…」

「薬??あぁ、もしかしてサンクが風邪でもひいた?症状は?」

「熱が、ひどくて……」

「はいはい、じゃあ、アマリン草を今、煎じてあげるから待ってて?すごく良く効くんだから!あ、これサンクの好きなクッキーも持って行ってあげてね。あ、あなたも好きなのよね?このクッキー」

圧倒される勢いで話すマアムおばさん。ひたすらに首を縦に振るしかない。テキパキとあちこち動きながらも話し続ける。

「はい、好き、です」

「サンクがいつも言ってるもの!あなたのことなら、大抵知ってるわ!ほら、これがアマリン草よ。お茶にして飲ませてあげて?あと、この蜂蜜も一緒に飲ませると甘くて美味しいし、栄養になるわ!それと……これも!丸鶏を煮込んで柔らかくしたものよ。風邪には栄養が必要だもの。沢山食べさせて寝かせなさいよ?しっかり寝かせないと治らないんだから」

パチンとウインクされて、はぁ、と頷いた。

「あ、ありがとう、ございます…」

「いいのよ!サンクはとっても良い子だけど、ほら、素直過ぎるでしょ?あなたと恋人になれないことを悩んでるみたいだから心配してたの。あなたもとっても綺麗だけど、サンクも天使みたいな子だから、お似合いなんじゃないかしら?あの子の気持ちも少し考えてあげてくれる?余計なお世話だろうけど」

「は、いぃ………」

俺は真っ赤になってるだろう顔と大量の荷物を背負って村から山へと戻った。
山道を歩きながら、先程のマアムおばさんの言葉を反芻する。

『サンクがいつも言ってるの』

『あなたのことなら、大抵知ってるわ』

『恋人になれなくて悩んでる』

『お似合いなんじゃないかしら?』

それって、それって………
考え過ぎて足元がふらつく。

大量の荷物のせいじゃない。

もしかして、本当に、サンク様は、俺のことを……

「おかえり、ログ」

熱で潤んだ瞳のサンク様が声を掛けてくれた。
気付けば俺は寝台で寝るサンク様の隣に立っていた。
ハッとして俯こうとすると、荷物が邪魔で上手く出来なかった。

「…嬉しい」

「え?なんですか?サンク様」

「ログが俯かないで隣にいてくれるのが嬉しい」

そう言って指を絡められた。
少し湿った熱っぽい指に全神経を絡め取られた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

僕の幸せは

春夏
BL
【完結しました】 恋人に捨てられた悠の心情。 話は別れから始まります。全編が悠の視点です。 1日2話ずつ投稿します。

召喚先で恋をするのはまちがっているかもしれない

ブリリアント・ちむすぶ
BL
コウが異世界にきてすでに三年経った。 特に浮いた話もなく、魔法の実験体兼雑用係のコウにようやく恋が出来そうな機会がやってきた。 それはユーバ要塞司令官カイラスの命令で司令官付きの男娼アリスの見張りをすることだった。 少しづつ距離を深めていくコウとアリス。しかし、アリスには忘れれない相手がいたーー

幸せの温度

本郷アキ
BL
※ラブ度高めです。直接的な表現もありますので、苦手な方はご注意ください。 まだ産まれたばかりの葉月を置いて、両親は天国の門を叩いた。 俺がしっかりしなきゃ──そう思っていた兄、睦月《むつき》17歳の前に表れたのは、両親の親友だという浅黄陽《あさぎよう》33歳。 陽は本当の家族のように接してくれるけれど、血の繋がりのない偽物の家族は終わりにしなければならない、だってずっと家族じゃいられないでしょ? そんなのただの言い訳。 俺にあんまり触らないで。 俺の気持ちに気付かないで。 ……陽の手で触れられるとおかしくなってしまうから。 俺のこと好きでもないのに、どうしてあんなことをしたの? 少しずつ育っていった恋心は、告白前に失恋決定。 家事に育児に翻弄されながら、少しずつ家族の形が出来上がっていく。 そんな中、睦月をストーキングする男が現れて──!?

【旧作】美貌の冒険者は、憧れの騎士の側にいたい

市川パナ
BL
優美な憧れの騎士のようになりたい。けれどいつも魔法が暴走してしまう。 魔法を制御する銀のペンダントを着けてもらったけれど、それでもコントロールできない。 そんな日々の中、勇者と名乗る少年が現れて――。 不器用な美貌の冒険者と、麗しい騎士から始まるお話。 旧タイトル「銀色ペンダントを離さない」です。 第3話から急展開していきます。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

[完結]堕とされた亡国の皇子は剣を抱く

小葉石
BL
 今は亡きガザインバーグの名を継ぐ最後の亡国の皇子スロウルは実の父に幼き頃より冷遇されて育つ。  10歳を過ぎた辺りからは荒くれた男達が集まる討伐部隊に強引に入れられてしまう。  妖精姫との名高い母親の美貌を受け継ぎ、幼い頃は美少女と言われても遜色ないスロウルに容赦ない手が伸びて行く…  アクサードと出会い、思いが通じるまでを書いていきます。  ※亡国の皇子は華と剣を愛でる、 のサイドストーリーになりますが、この話だけでも楽しめるようにしますので良かったらお読みください。  際どいシーンは*をつけてます。

処理中です...