ご主人さまと呼ばないで

にじいろ♪

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森と泉に囲まれて

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「さあ、荷車に乗って」

「…………」

彼を運んで来た……いや、連れて来た時から二度目の荷車での運搬。
なぜなら、彼は息が上がると窒息する危険性があって、こんな森の中を歩かせられない。家の中でさえ、少し重い物を持つと首輪が狭くて息が出来なくなるのだ。
彼は、恐る恐る荷車に乗る。顔に不安、と書いてある。

「大丈夫です。女神は、きっとあなたを助けてくれます」

僕はどうなるか分からないけど、と心の中で呟いて森の泉へと荷車を引く。
僕の小屋は山のてっぺんにあるが、森の泉は、ひと山超えた森の奥にある。
村人が昔は信仰していたが、今では遠過ぎて誰も行かなくなった森の泉。
そこの女神は大層、美しいが変わり者。
自分の欲を隠さない女神。
それって、本当に女神?と思った村人達は遠退いて行ったってわけ。


ガタゴトと獣道を荷車に男1人を乗せて行く。自然と、汗が滴り落ちて行く。ふぅ、流石にキツい。でも、彼が助かる為には、もう僕に他の方法は思い付かない。だって、僕の両親の時も……

生い茂る木々の隙間から陽の光が射し込む。眩しい、と後ろを少し振り返ると、彼は空をずっと眺めていた。
光が当たる彼は神話の中に出て来そうな程に美しかった。


「はぁ、はぁ……着いたぁ…」

「…………」

汗だくになった頃、ようやく到着した。
静かな森の奥に透き通った水を輝かせる美しい泉。女神の泉である。

そう、生贄を捧げる代わりに願いを叶える女神の泉。

「降りられる?気を付けて下さい…そう、そこで待っていて」

彼に手を貸して荷車から降ろす。
彼には荷車の隣で待っていてもらうことにした。
泉のすぐ近くは泥濘んでいて、荷車の車輪が嵌まると大変だから、そこからは僕が一人で向かう。そうは言っても目と鼻の先だけど。

「…よし、大丈夫」

僕は彼の視線を背中に感じながらも、それを一旦忘れて、泉の前に跪く。
両手を胸の前に組み、一心に祈る。

『美しき森の女神よ。我が願いを叶えたまえ』

『えー、どうしよっかなぁ』

目を開くと、そこに女神がいた。長い金髪を靡かせながら微笑む妖艶な美女だ。

「!!!!!!!!出たっ!!!」

『そっちのMENの方が祈る気持ち強いしぃ。女神って、強い気持ちに応えたい性分っていうかぁ~』

「お願いします!彼の首輪を外して下さい!僕の命は差し上げます!生贄は僕です!!」

僕は目の前にふわふわ浮かび皮肉気に笑う女神に全力で願った。

『う~ん…生贄って、もう面倒くさいから、いらないのよねぇ。別に私、ほんとの女神じゃないし。それと……サンクチュアリが生贄になること、彼は別に望んで無いっぽいけど?っていうか、それよりもさぁ……二人が恋人になるなら、外してあげてもいいよ?BLってやつ?グフフ』

「こい、び、と…?びー、え?」

何だか聞いちゃいけないことを聞いた気がするけど、全部吹っ飛んだ。
女神は人差し指を僕の唇に当てて小声で僕だけに聞こえるように囁いた。

「ふふ、いいから、いいから。好きなんでしょ?彼のコト♡生贄はいらないから、彼とイチャイチャんしちゃってよ。こっそり見てるから……ゴホン、手伝ってあげる♡」

「えっ?!あっ!いや、その、え?」

僕は真っ赤だっただろう。イチャイチャんって、何てこと言うんだ、この破廉恥女神!!
アワアワと慌てふためく僕を彼には見られていないことを願った。涙目で。

『だからさ、女神からの使命ってことにして、付き合っちゃいなさいよ。上手いこと言っておくから』

「でっ、でも、その……彼は……」

彼は僕のことなんて……好きじゃない。ただ、治療の為に僕と居るだけ。だって、あんなにも格好良くて素敵な人が、何の力も無い僕なんて……

『ごちゃごちゃ考えおって、両片想いの典型か。んー、ゴホン、お前、名はログといったな』

気付けば僕の隣に彼は立っていた。キツく女神を睨んでいる。え、どした?何か怒ってる?ていうか、いつの間に?そして、女神とログが向かい合って話し合っている?いや、ログは話してないけど……

『今日中に男と交わらなければ死ぬ呪いをサンクチュアリに掛けた。お前も、サンクチュアリと交われば首輪が外れる。分かったか、今日中だぞ。これが女神の力。思い知ったか、人間共、ひれ伏すが良い。ガーッハッハッハ!!』

多分、女神としての在り方をどこかで間違えたと思うぞ、この女神。美しいだけに、残念感が半端ない。だから、誰も信仰しなくなったんだ。僕以外は。

「あ、ありがとう、ございます……?女神様……」

「…………」

僕も彼、いやログも、真っ赤になりながらも、どうにか頭を下げて家へと帰った。でも、帰りの気まずさったら無かった。二人共、終始無言だった。いや、ログは元々喋らないけども!!

え~~~~っ!!帰ったら、その、アレ?するの??えっとでも、僕、初めてだし、えぇ?!
考え過ぎてパニックになりながら進んでいたら、あっという間に家に着いてびっくりした。

「お、お疲れ様……その、お湯、浴びる?汗、かいたでしょ」

荷車からログを降ろす手も震える。
ログも、真っ赤になりながら頷いて素直に降りて来た。互いにモジモジして、上手く話せないし、目も合わせられない。
え、もしかしたら、お湯浴びるって、そういう意味に聞こえた?やば、もう意識しすぎて、なんて言えば良いか分からない。

「えーっと、僕は食事作るから、ゆっくり浴びてね。ほら、汗はちゃんと流さないと…って、そういうことじゃなくって、ほら、ちゃんと汗流して、美味しい物を食べてからが良いって、いや、ちが……ああっ!!」

もう頭がぐるぐるのパンク状態。
そんな僕から逃げるように、ログは、静かに湯浴みに行った。その背中を目で追って溜息をつく。焦りすぎて不審者だったよね、僕。嫌われた?

ちなみに湯浴みというのは、台所で沸かして大鍋に入れた湯で、外の板場で身体を洗う。
泉に行く前に沸かしておいたから、丁度良い温度になっている。

「あ!布巾!」

僕は慌てて身体を拭く為の布巾を持ってログの所へと向かう。ログは、身体を洗うことも拭くことも知らなかった。だから、自分で動けるようになってからは、僕がやり方を教えて、必ず身体も拭くように言ってるのだけれど。
ログは、大抵、拭いて来ない。ずぶ濡れ状態で出てくる。別に外だから大丈夫だけど、そのまま服を着ると濡れてしまうのと、目のやり場に困る。何せ、肌を上気させて水の滴るログは、艶めかしいのだ!!

「ろ、ログ?布巾、ここに置いておくからね」

板場の周りは、木に渡した紐に大きな布を掛けて目隠しにしてある。が、ログは大きいので、ほぼ胸から上が見えてしまう。
思わず肌を見て、僕は布巾を取り落としてしまう。

「あっ、ご、ごめんなさ……」

地面に落ちた布巾を拾おうと屈むと、僕の上に大きな影が落ちた。
スッと大きな手が布巾を拾い上げて僕に渡してくれた。

「えっ、ロ…」

パッと顔を挙げて後悔した。

「◯△□✕#%$~~~っ!!」

目の前に、長大なモノがぶら下がっていたから。

僕は思わず布巾を握り締めて、その場から走って逃げた。
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