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マルサン村
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「おや、サンク!今日も頑張ってるねぇ。あんまり無理するんじゃないよ」
「マアムおばさん!こんにちは~。薪、いりませんか?」
「薪なら、まだ家に……いや、一つ貰えるかい?一束、銅貨一枚だったかしら?」
村のマアムおばさんは、ふっくらしていて、とても優しくて気さくなおばさんだ。
多分、薪は間に合ってるんだろうけど、僕を見たら買ってくれる。
僕、そんなに貧しい身なりしてるかな…まあ、実際、余裕は無いんだけど。
「はいっ!いつもありがとう!マアムおばさん!」
「あぁ……リタさんもサンクが来たら薪を見たいって言っていたよ。少し寄って行きなさい」
リタさんとは、村長の娘。この村で一番の美人で、優しい人だ。
でも、ほんの少しお嬢様気質。僕は、ほんの少し苦手だ。
「えーん、リタさんか~……寄ってみるよ!またね!」
「はいよ~気を付けてね!」
タッタカと荷車を引いてリタさんの居るだろう村長宅を目指す。すぐに、みつけた。とりわけ目を引く茶髪の背も鼻も高い女性。同じ年だけど、僕よりも背が高い。うらやましい。
「リタさーん!薪を持って来ました~!」
「あら、サンク。ご苦労さま。薪ね、十束、家の裏手に置いておいてちょうだい。はい、これ、お代」
「え、こんなに?!いいですよ、そんな!いつも、もらい過ぎです……」
「何言ってるの。大変な思いして集めてるのに安過ぎるのよ、あんたは。まったく商売が下手なんだから」
リタさんは、本の売値の十倍も払ってくれた。嬉しい、けど、やっぱり僕、よほどみすぼらしいのかな……嬉しさと複雑な気持ちを抑えて、いつものように笑顔で御礼を伝える。
「あ、ありがとうございます!……いつも、すみません……」
「いいのよ、早く運んでおいてね。それより、サンク……シャツの隙間から下着が見えてるわ。レディの前では気を付けてちょうだい?」
リタさんに指をさされた先を視線で追って見ると、確かにヨレたシャツの隙間から下着が僅かに見えていた。ほんの僅かだけど。
今日も朝から彼の世話をしていて、自分の身支度は適当だったから。いや、適当なのはいつもか。
慌ててシャツを直して、リタさんにペコリと頭を下げて謝る。
こういうところに厳しいんだよね、お嬢様は。
「ごっ、ごめんなさい!以後、気を付けます」
「……別に気にしてないわ。でも、貴方も、もう19でしょ?そろそろ身の回りに気を使った方が良いわ。ほら、その……女の子と出掛ける機会もあるかもしれないでしょ?今度の豊穣祭とか」
「豊穣祭ですか……僕は、いつも売り子だから。よく野菜が売れるから、かきいれ時なんです」
「ふぅん…でも、たまには、誰かと楽しんでも良いんじゃなくて?切り株と暮らしてるなんて噂が立ってると、誰も誘わなくなるわよ」
「え……」
切り株って、もしかして……??誰かにみられてた?
「あら、知らないの?あなたが、川から大きな切り株を拾い上げて、切り株と暮らしてるって一時期噂になったのよ。マアムおばさんが偶然見かけたんですって。それで……別に悪い意味じゃないけど、あなたが、1人きりだから、余程寂しいんじゃないかって……ほら、ご両親が不幸なことになったじゃない?……村の皆も心配してるのよ」
グっと両拳を握り締め、奥歯を噛みしめる。それでも頑張って無理に笑顔を作るから、本当に笑えてる自信はないけど、リタさんの表情から見ると合格点らしい。
「やだなぁ、もう両親が亡くなってから、三年も経ってるんですよ?もう気にしてないです。それより、その切り株は……」
「おい、リタ!!探したぞ!!」
村長さんが、遠くからリタさんを呼んでいる。何やらめかし込んでるから、お客でも来るんだろう。恰幅の良い気の良いおじさんだ。
「やあ、サンク、リタを借りるぞ?すまないね。リタ、隣村の村長達がもう着くんだ。早く支度をしておくれ」
「まあ、そうだったわ……サンク、私ね、隣村の村長の息子さんと結婚するのよ……それでね……ごめんなさい」
「??ごめんなさい??えっと、あの、お、おめでとうございます?」
なぜ、僕は謝られるのだろう?結婚するって、おめでたいことだと思うけど?
リタさんは、少し寂し気に微笑むと、僕の方を向き直って明るく切り出した。
「あなたが、私のことを好いていてくれたことは、知ってるの。でも、ごめんなさい……私達、立場が違うから。あ、これからも変わらず薪は売りに来てね?あなたの所の薪は燃え方が良いってお父様も気に入ってるのよ。これからも、この村で一番高く買うって約束するわ。ただ……ふふ……豊穣祭では、ダンと踊るから、私との最後の思い出も作ってあげられなくて、ごめんなさい。ダンが妬くから、ダメなのよ。全く、先が思いやられるわ。じゃあね、また」
「……は、はいぃ……お幸せに……」
僕は、呆然と突っ立っていた。
なぜだか、次々と僕の肩を軽く叩いていく村人が耐えない。
なんだろ、これ……皆に慰められてる?とりあえず、ふにゃ、と笑って御礼を言っておく。これが、多分、正解なんだろ。
え、僕、いつからリタさんのこと好きってことになってたの?
誰が言ってたの?はぁ?
………つ、疲れた………
僕は、ふらふらと荷車を引いて家へ帰った。
きっと周りからは、大失恋で余程のショックを受けた男に見えたんだろう。
それからも、薪は良く売れた。
「マアムおばさん!こんにちは~。薪、いりませんか?」
「薪なら、まだ家に……いや、一つ貰えるかい?一束、銅貨一枚だったかしら?」
村のマアムおばさんは、ふっくらしていて、とても優しくて気さくなおばさんだ。
多分、薪は間に合ってるんだろうけど、僕を見たら買ってくれる。
僕、そんなに貧しい身なりしてるかな…まあ、実際、余裕は無いんだけど。
「はいっ!いつもありがとう!マアムおばさん!」
「あぁ……リタさんもサンクが来たら薪を見たいって言っていたよ。少し寄って行きなさい」
リタさんとは、村長の娘。この村で一番の美人で、優しい人だ。
でも、ほんの少しお嬢様気質。僕は、ほんの少し苦手だ。
「えーん、リタさんか~……寄ってみるよ!またね!」
「はいよ~気を付けてね!」
タッタカと荷車を引いてリタさんの居るだろう村長宅を目指す。すぐに、みつけた。とりわけ目を引く茶髪の背も鼻も高い女性。同じ年だけど、僕よりも背が高い。うらやましい。
「リタさーん!薪を持って来ました~!」
「あら、サンク。ご苦労さま。薪ね、十束、家の裏手に置いておいてちょうだい。はい、これ、お代」
「え、こんなに?!いいですよ、そんな!いつも、もらい過ぎです……」
「何言ってるの。大変な思いして集めてるのに安過ぎるのよ、あんたは。まったく商売が下手なんだから」
リタさんは、本の売値の十倍も払ってくれた。嬉しい、けど、やっぱり僕、よほどみすぼらしいのかな……嬉しさと複雑な気持ちを抑えて、いつものように笑顔で御礼を伝える。
「あ、ありがとうございます!……いつも、すみません……」
「いいのよ、早く運んでおいてね。それより、サンク……シャツの隙間から下着が見えてるわ。レディの前では気を付けてちょうだい?」
リタさんに指をさされた先を視線で追って見ると、確かにヨレたシャツの隙間から下着が僅かに見えていた。ほんの僅かだけど。
今日も朝から彼の世話をしていて、自分の身支度は適当だったから。いや、適当なのはいつもか。
慌ててシャツを直して、リタさんにペコリと頭を下げて謝る。
こういうところに厳しいんだよね、お嬢様は。
「ごっ、ごめんなさい!以後、気を付けます」
「……別に気にしてないわ。でも、貴方も、もう19でしょ?そろそろ身の回りに気を使った方が良いわ。ほら、その……女の子と出掛ける機会もあるかもしれないでしょ?今度の豊穣祭とか」
「豊穣祭ですか……僕は、いつも売り子だから。よく野菜が売れるから、かきいれ時なんです」
「ふぅん…でも、たまには、誰かと楽しんでも良いんじゃなくて?切り株と暮らしてるなんて噂が立ってると、誰も誘わなくなるわよ」
「え……」
切り株って、もしかして……??誰かにみられてた?
「あら、知らないの?あなたが、川から大きな切り株を拾い上げて、切り株と暮らしてるって一時期噂になったのよ。マアムおばさんが偶然見かけたんですって。それで……別に悪い意味じゃないけど、あなたが、1人きりだから、余程寂しいんじゃないかって……ほら、ご両親が不幸なことになったじゃない?……村の皆も心配してるのよ」
グっと両拳を握り締め、奥歯を噛みしめる。それでも頑張って無理に笑顔を作るから、本当に笑えてる自信はないけど、リタさんの表情から見ると合格点らしい。
「やだなぁ、もう両親が亡くなってから、三年も経ってるんですよ?もう気にしてないです。それより、その切り株は……」
「おい、リタ!!探したぞ!!」
村長さんが、遠くからリタさんを呼んでいる。何やらめかし込んでるから、お客でも来るんだろう。恰幅の良い気の良いおじさんだ。
「やあ、サンク、リタを借りるぞ?すまないね。リタ、隣村の村長達がもう着くんだ。早く支度をしておくれ」
「まあ、そうだったわ……サンク、私ね、隣村の村長の息子さんと結婚するのよ……それでね……ごめんなさい」
「??ごめんなさい??えっと、あの、お、おめでとうございます?」
なぜ、僕は謝られるのだろう?結婚するって、おめでたいことだと思うけど?
リタさんは、少し寂し気に微笑むと、僕の方を向き直って明るく切り出した。
「あなたが、私のことを好いていてくれたことは、知ってるの。でも、ごめんなさい……私達、立場が違うから。あ、これからも変わらず薪は売りに来てね?あなたの所の薪は燃え方が良いってお父様も気に入ってるのよ。これからも、この村で一番高く買うって約束するわ。ただ……ふふ……豊穣祭では、ダンと踊るから、私との最後の思い出も作ってあげられなくて、ごめんなさい。ダンが妬くから、ダメなのよ。全く、先が思いやられるわ。じゃあね、また」
「……は、はいぃ……お幸せに……」
僕は、呆然と突っ立っていた。
なぜだか、次々と僕の肩を軽く叩いていく村人が耐えない。
なんだろ、これ……皆に慰められてる?とりあえず、ふにゃ、と笑って御礼を言っておく。これが、多分、正解なんだろ。
え、僕、いつからリタさんのこと好きってことになってたの?
誰が言ってたの?はぁ?
………つ、疲れた………
僕は、ふらふらと荷車を引いて家へ帰った。
きっと周りからは、大失恋で余程のショックを受けた男に見えたんだろう。
それからも、薪は良く売れた。
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