16 / 22
朝チュン
しおりを挟む
「ん……」
朝陽の眩しさに目覚める。
なんだろう、身体に違和感。すっきり目覚めてるのに頭の中が真っ白。
隣に確かな温もり。
途端にぼんやりとだけど、生々しい記憶が蘇る。
ガバッと起きて隣を見る。
「あ、起きた?おはよう、愛」
肌面積多すぎる超イケメンが朝陽を浴びて光輝いていた。何もかも忘れる位の輝きだ。
「ぐあっ、眩しいっ!!目が、私の目がぁっ!!」
「カーテン閉めようか?でも、それよりシャワー浴びて準備した方が良いかも」
枕元の時計を彼が指差す。
それは、私の出勤時間20分前を指していた。
「えっ!今日、仕事?!ヤバい、遅刻する!!」
「じゃあ、まずはシャワー浴びてね」
もう二人共が全裸なことには構っていられない。
慌ててベッドから飛び起きてシャワーを浴びて気付く。
ここ、私の家じゃない。
途端にサーッと血の気が引く。
「ここに着替えあるからね」
脱衣所から声を掛けられて、ホッと息をつく。そうだ、彼の家だった。
「あ、ありがとう」
あれ?と何か忘れてる気がするけど、それが何かは分からない。
それより、早くしないと遅刻だ!!
「はい、これ。朝ごはんにおむすびと、お昼のお弁当ね。愛の好きなエビフライ入れてあるよ♡」
ピッカピカの笑顔の彼に手作り愛妻?愛夫?弁当を持たされる。
嬉しいのに、どこか違和感がある。でも、それが何かは分からない。
「あ?うん。いつもありがとう、涼」
うちは夫が在宅だから、こうして家事を引き受けてくれて本当に助かる。
こういう夫婦の形も良いよね。だって令和だもの。8歳の年の差なんて今時、普通!
私達は、ごく普通の夫婦なの。
「急がないと遅刻するよ?車で送るから、車の中で食べな」
優しい。私の夫は、とっても優しいの。イケメンな上にめちゃくちゃ優しいなんて完璧すぎる。幸せすぎてこわい。
「うん♡ありがとう、涼♡大好き♡」
「愛のためなら、何でもしたいから」
胸がキュウウン♡と高鳴って、濡れちゃう。私は、彼が好き過ぎて、いつもこうなる。
「んもう、涼ってば♡ずっと大好きだよ♡」
「僕もだよ、愛。ほら、おむすび落とさないでね」
「あーん♡食べさせて♡」
ラブラブな私達は、職場へと向かいながら、イチャイチャとおむすびを食べさせあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ?!で、その人と急に結婚したの?なんそれ!!」
「うふふ♡そうなんです!幼なじみの彼と運命的に再会して、私達、恋に落ちて!!そのまま結婚したんです!まだ式はしてないんですけど♡自分でも、びっくりです♡本当に運命ってあるんですね♡」
「なんだそりゃ。ねえ、あの結婚詐欺の男はどうなったの?」
「??結婚詐欺??なんですか?それ」
「ありゃまあ、こりゃ恋に浮かれて記憶喪失か?まあ、詐欺に引っ掛からなかったなら安心したわ。ちゃんと結婚したんだもんねぇ。良かったじゃない、今度こそ普通の人みたいで」
「そうなんです!本当に普通の人なんです♡私達、普通の夫婦になっちゃいました♡」
「はーぁ、なんか最近ぼんやりしてると思ったら、これだ。この前の報告書、まだでしょ?新婚旅行行く前に提出しなさいよ。おめでとう」
「「「おめでとーう!!」」」
「ありがとうございます!!!」
看護師長も混ざってワイワイと盛り上がる。
休憩時間だもの、狭い休憩室での会話は何でもあり。
そして、大事なことにハッと気付く。
「新婚旅行!!そうだ、新婚旅行行きたい!!」
「なに?考えて無かったの?ハワイ、いいわよ~」
「ヨーロッパも良いんじゃない?ねえ!思い切って長い休み取りなさいよ。仕事は皆で何とか回すからさ」
「そうよ!まだ有休あるんでしょ?仕事のことなんて忘れて、パーッと結婚式から空港へ直行よ!」
こういう時、先輩方は仕事でグチグチ言ったりしない。そこが素敵で頼れる先輩。
「人生楽しむ為に仕事してるんだもの、仕事の為に人生を犠牲にしちゃダメ」
これは、よく大先輩方に言われる言葉。
なんでも、院長先生の座右の銘らしい。
あのおじいちゃんの…と思うと不思議に感慨深い。
「はーい!!ハネムーンベイビー目指して頑張ります!!」
「はいはーい。応援してるわー」
休憩時間も終わり、ぞろぞろと各持ち場へ。
ポン、と肩を叩かれて振り向くと、看護師長さん。
「明後日、あなた夜勤でしょ?患者さんに急変無いか注意して見てね。早乙女ちゃんと組むと憑いてるなんて噂になってるから、夜勤組む相手が塩撒いたりして困るのよ。ただの偶然で、あなたも困ってるでしょうけど」
「あー……すいません。気を付けます」
「あなたが悪い訳では無い。憑いてるだけで」
後ろから急に話し掛けられて、びくりとする。まさか幽霊?!そろーっと振り返る。
「い、院長先生……」
「お疲れ様です……」
「ご苦労さま。まあ、この病院は最後を看取る方ばかりだから、あんまり気にしないで。早乙女さんに見送られて皆さん喜んでるでしょう」
「はぁ……ありがとうございます……」
良く分からない御礼を言って頭を下げる。
「それから、ご結婚おめでとうございます」
「あっ、ありがとうございます!!」
まさか聞こえていたとは!!
「新婚旅行は海外が良いですよ。思い切って色んな所へ行って見聞を広げて来て下さい。仕事にもきっと役立ちます」
「はっ、はいっ!!」
はっはっはっ、と笑って去って行くおじいちゃん先生。
ほーっと看護師長と胸をなでおろす。
「聞かれてたね……」
「はい、聞かれてました……」
「資格の名字変更して再提出してね。結婚後の諸々手続きあるだろうけど、明日休みでしょ?」
「はい、やっておきますぅ……」
尻窄みになる私の背中をパシンと軽く叩かれる。
「なーに暗くなってんの!!患者さん待ってるわよ!笑顔、笑顔!!行くよ~っ」
「はい、よろこんで!!!」
どこかで聞き覚えと、最近言ったことがあるような微かな違和感をさっくり脱ぎ捨てて、私は業務へと戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「は~っ、疲れた~」
アパートに帰って来てドアの鍵を開ける。
が、開かない。
「ん?んん?」
頭を捻っていると、隣のドアが開いた。
「愛?そこは隣だよ」
「え?は、あれ?」
私が開けようとしていたのは、彼の部屋の隣だった。
でも、確かにここだと不思議に確信していたんだけど……なんで?
「僕達、同棲してるでしょ?ほらほら、早く入って。ビーフシチュー出来てるよ」
「え!ビーフシチュー!?大好き♡」
頭を撫で撫でされて全身の疲れが癒えていく。
「今日もお仕事頑張った愛のために作っておいたんだ」
「うわぁ、涼ってば最高の旦那様♡愛してる♡」
きゅむっと抱き着けば、すぐに抱き締め帰される。
「僕も愛してるよ、愛。ご飯とお風呂の後、ご褒美くれる?明日、休みだもんね」
「あ、明日、資格とか諸々の変更手続きしないと。名字変更したから。まだ職場では早乙女だけど、篠山愛になったもん♡」
「ネットで出来るものは、僕が全部やっておいたよ」
「へ??どうやって?」
そんなの本人でなくても出来るの?とか、何で知ってるの?とか疑問があるはずなのに、なんだか疑問が上手く頭でまとまらない。最近、やたらに頭がふわふわしてる。
「ふふ、愛が、僕に頼んでたんじゃない。朝、寝坊して慌ててたから忘れてるんだよ。仕事の時は早目に起こしてあげるね?キスが良い?それとも……」
耳元に温かい吐息がかかる。
「舐められたい?」
低音のセクシーボイスに、私の腰が砕ける。
分かった、頭がふわふわする訳。
このセクシーボイスに下半身に血液が集中してるからだわ!!
「ごっ、ご飯食べたい!!」
股をモジモジさせながら真っ赤になって叫ぶ私。彼はクスクスと笑って私を席に座らせる。
完全にからかわれた。
全く、彼は本当に昔から……
昔?いつのこと?彼との思い出って……
「愛?どうしたの?冷めちゃうよ、ビーフシチュー」
「うん。あのね、涼との昔の思い出って何だったかなって。最近、頭がぼんやりしてるから、よく思い出せなくて」
コトリ、と甘い紅茶が置かれた。
「思い出は沢山あるけど、僕は今の愛との暮らしが一番楽しいな。それよりさ、新居と結婚式のことだけど…」
私は甘い紅茶を飲みながら、ふんふんと涼と今後の暮らしについて相談していた。
「それで、この平屋が良いと思うんだけど、今度内見に行かない?」
「うん、行く」
「式は、僕の両親と愛の職場の人だけで良いかな」
「うん、良い」
私は、ちゃんと話を聞いてるし、分かってる。でも、頭の表面しか動いていないような感覚。
「じゃあ、それで予定組んでおくね。楽しいな、毎日が充実してる。幸せだよ」
「私も幸せ」
オウム返しの返事。
頭が真っ白で、それ以上浮かばない。
「食べ終わった?僕が片付けておくから、愛はお風呂先に入ってて。後から行くから」
「うん、分かった」
私はふらふらと浴室へ向かう。
服をバサバサと脱ぎ捨て浴槽へ浸かる。
「愛、今日の下着も濡れてたよ。僕の声で濡れたの?」
少しすると洗い物を終えた彼が浴室へ入って来た。当然、全裸だ。
「うん、濡れた」
「愛は、僕の声が好きだよね。昔から、愛は僕の声が好きだったんだよ。僕達が5歳の頃から、両想いだったんだ。ごく普通のカップルと同じだよ。一時は離れていたけれど、また偶然再会出来たなんて運命だ。愛と結婚出来て嬉しいよ。沢山、二人で幸せになろうね」
「うん、幸せになる」
彼が私を後ろから抱き締めて耳元に唇を寄せる。
「愛、愛、愛……僕達は、普通の夫婦だよ。普通の夫婦、普通の普通の夫婦……僕のすることは普通なんだ」
「うん、私達は普通の夫婦、涼は普通」
私はオウム返しをする。
胸をやんわりと揉まれれば吐息が漏れる。
「普通の夫婦がするエッチをしよう」
「うん、普通のエッチ、する」
全身を涼の手で隈なく洗われ、私はベッドへと運ばれた。
これは、ごく普通のこと。普通の夫婦と同じ。
朝陽の眩しさに目覚める。
なんだろう、身体に違和感。すっきり目覚めてるのに頭の中が真っ白。
隣に確かな温もり。
途端にぼんやりとだけど、生々しい記憶が蘇る。
ガバッと起きて隣を見る。
「あ、起きた?おはよう、愛」
肌面積多すぎる超イケメンが朝陽を浴びて光輝いていた。何もかも忘れる位の輝きだ。
「ぐあっ、眩しいっ!!目が、私の目がぁっ!!」
「カーテン閉めようか?でも、それよりシャワー浴びて準備した方が良いかも」
枕元の時計を彼が指差す。
それは、私の出勤時間20分前を指していた。
「えっ!今日、仕事?!ヤバい、遅刻する!!」
「じゃあ、まずはシャワー浴びてね」
もう二人共が全裸なことには構っていられない。
慌ててベッドから飛び起きてシャワーを浴びて気付く。
ここ、私の家じゃない。
途端にサーッと血の気が引く。
「ここに着替えあるからね」
脱衣所から声を掛けられて、ホッと息をつく。そうだ、彼の家だった。
「あ、ありがとう」
あれ?と何か忘れてる気がするけど、それが何かは分からない。
それより、早くしないと遅刻だ!!
「はい、これ。朝ごはんにおむすびと、お昼のお弁当ね。愛の好きなエビフライ入れてあるよ♡」
ピッカピカの笑顔の彼に手作り愛妻?愛夫?弁当を持たされる。
嬉しいのに、どこか違和感がある。でも、それが何かは分からない。
「あ?うん。いつもありがとう、涼」
うちは夫が在宅だから、こうして家事を引き受けてくれて本当に助かる。
こういう夫婦の形も良いよね。だって令和だもの。8歳の年の差なんて今時、普通!
私達は、ごく普通の夫婦なの。
「急がないと遅刻するよ?車で送るから、車の中で食べな」
優しい。私の夫は、とっても優しいの。イケメンな上にめちゃくちゃ優しいなんて完璧すぎる。幸せすぎてこわい。
「うん♡ありがとう、涼♡大好き♡」
「愛のためなら、何でもしたいから」
胸がキュウウン♡と高鳴って、濡れちゃう。私は、彼が好き過ぎて、いつもこうなる。
「んもう、涼ってば♡ずっと大好きだよ♡」
「僕もだよ、愛。ほら、おむすび落とさないでね」
「あーん♡食べさせて♡」
ラブラブな私達は、職場へと向かいながら、イチャイチャとおむすびを食べさせあった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「はぁ?!で、その人と急に結婚したの?なんそれ!!」
「うふふ♡そうなんです!幼なじみの彼と運命的に再会して、私達、恋に落ちて!!そのまま結婚したんです!まだ式はしてないんですけど♡自分でも、びっくりです♡本当に運命ってあるんですね♡」
「なんだそりゃ。ねえ、あの結婚詐欺の男はどうなったの?」
「??結婚詐欺??なんですか?それ」
「ありゃまあ、こりゃ恋に浮かれて記憶喪失か?まあ、詐欺に引っ掛からなかったなら安心したわ。ちゃんと結婚したんだもんねぇ。良かったじゃない、今度こそ普通の人みたいで」
「そうなんです!本当に普通の人なんです♡私達、普通の夫婦になっちゃいました♡」
「はーぁ、なんか最近ぼんやりしてると思ったら、これだ。この前の報告書、まだでしょ?新婚旅行行く前に提出しなさいよ。おめでとう」
「「「おめでとーう!!」」」
「ありがとうございます!!!」
看護師長も混ざってワイワイと盛り上がる。
休憩時間だもの、狭い休憩室での会話は何でもあり。
そして、大事なことにハッと気付く。
「新婚旅行!!そうだ、新婚旅行行きたい!!」
「なに?考えて無かったの?ハワイ、いいわよ~」
「ヨーロッパも良いんじゃない?ねえ!思い切って長い休み取りなさいよ。仕事は皆で何とか回すからさ」
「そうよ!まだ有休あるんでしょ?仕事のことなんて忘れて、パーッと結婚式から空港へ直行よ!」
こういう時、先輩方は仕事でグチグチ言ったりしない。そこが素敵で頼れる先輩。
「人生楽しむ為に仕事してるんだもの、仕事の為に人生を犠牲にしちゃダメ」
これは、よく大先輩方に言われる言葉。
なんでも、院長先生の座右の銘らしい。
あのおじいちゃんの…と思うと不思議に感慨深い。
「はーい!!ハネムーンベイビー目指して頑張ります!!」
「はいはーい。応援してるわー」
休憩時間も終わり、ぞろぞろと各持ち場へ。
ポン、と肩を叩かれて振り向くと、看護師長さん。
「明後日、あなた夜勤でしょ?患者さんに急変無いか注意して見てね。早乙女ちゃんと組むと憑いてるなんて噂になってるから、夜勤組む相手が塩撒いたりして困るのよ。ただの偶然で、あなたも困ってるでしょうけど」
「あー……すいません。気を付けます」
「あなたが悪い訳では無い。憑いてるだけで」
後ろから急に話し掛けられて、びくりとする。まさか幽霊?!そろーっと振り返る。
「い、院長先生……」
「お疲れ様です……」
「ご苦労さま。まあ、この病院は最後を看取る方ばかりだから、あんまり気にしないで。早乙女さんに見送られて皆さん喜んでるでしょう」
「はぁ……ありがとうございます……」
良く分からない御礼を言って頭を下げる。
「それから、ご結婚おめでとうございます」
「あっ、ありがとうございます!!」
まさか聞こえていたとは!!
「新婚旅行は海外が良いですよ。思い切って色んな所へ行って見聞を広げて来て下さい。仕事にもきっと役立ちます」
「はっ、はいっ!!」
はっはっはっ、と笑って去って行くおじいちゃん先生。
ほーっと看護師長と胸をなでおろす。
「聞かれてたね……」
「はい、聞かれてました……」
「資格の名字変更して再提出してね。結婚後の諸々手続きあるだろうけど、明日休みでしょ?」
「はい、やっておきますぅ……」
尻窄みになる私の背中をパシンと軽く叩かれる。
「なーに暗くなってんの!!患者さん待ってるわよ!笑顔、笑顔!!行くよ~っ」
「はい、よろこんで!!!」
どこかで聞き覚えと、最近言ったことがあるような微かな違和感をさっくり脱ぎ捨てて、私は業務へと戻って行った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「は~っ、疲れた~」
アパートに帰って来てドアの鍵を開ける。
が、開かない。
「ん?んん?」
頭を捻っていると、隣のドアが開いた。
「愛?そこは隣だよ」
「え?は、あれ?」
私が開けようとしていたのは、彼の部屋の隣だった。
でも、確かにここだと不思議に確信していたんだけど……なんで?
「僕達、同棲してるでしょ?ほらほら、早く入って。ビーフシチュー出来てるよ」
「え!ビーフシチュー!?大好き♡」
頭を撫で撫でされて全身の疲れが癒えていく。
「今日もお仕事頑張った愛のために作っておいたんだ」
「うわぁ、涼ってば最高の旦那様♡愛してる♡」
きゅむっと抱き着けば、すぐに抱き締め帰される。
「僕も愛してるよ、愛。ご飯とお風呂の後、ご褒美くれる?明日、休みだもんね」
「あ、明日、資格とか諸々の変更手続きしないと。名字変更したから。まだ職場では早乙女だけど、篠山愛になったもん♡」
「ネットで出来るものは、僕が全部やっておいたよ」
「へ??どうやって?」
そんなの本人でなくても出来るの?とか、何で知ってるの?とか疑問があるはずなのに、なんだか疑問が上手く頭でまとまらない。最近、やたらに頭がふわふわしてる。
「ふふ、愛が、僕に頼んでたんじゃない。朝、寝坊して慌ててたから忘れてるんだよ。仕事の時は早目に起こしてあげるね?キスが良い?それとも……」
耳元に温かい吐息がかかる。
「舐められたい?」
低音のセクシーボイスに、私の腰が砕ける。
分かった、頭がふわふわする訳。
このセクシーボイスに下半身に血液が集中してるからだわ!!
「ごっ、ご飯食べたい!!」
股をモジモジさせながら真っ赤になって叫ぶ私。彼はクスクスと笑って私を席に座らせる。
完全にからかわれた。
全く、彼は本当に昔から……
昔?いつのこと?彼との思い出って……
「愛?どうしたの?冷めちゃうよ、ビーフシチュー」
「うん。あのね、涼との昔の思い出って何だったかなって。最近、頭がぼんやりしてるから、よく思い出せなくて」
コトリ、と甘い紅茶が置かれた。
「思い出は沢山あるけど、僕は今の愛との暮らしが一番楽しいな。それよりさ、新居と結婚式のことだけど…」
私は甘い紅茶を飲みながら、ふんふんと涼と今後の暮らしについて相談していた。
「それで、この平屋が良いと思うんだけど、今度内見に行かない?」
「うん、行く」
「式は、僕の両親と愛の職場の人だけで良いかな」
「うん、良い」
私は、ちゃんと話を聞いてるし、分かってる。でも、頭の表面しか動いていないような感覚。
「じゃあ、それで予定組んでおくね。楽しいな、毎日が充実してる。幸せだよ」
「私も幸せ」
オウム返しの返事。
頭が真っ白で、それ以上浮かばない。
「食べ終わった?僕が片付けておくから、愛はお風呂先に入ってて。後から行くから」
「うん、分かった」
私はふらふらと浴室へ向かう。
服をバサバサと脱ぎ捨て浴槽へ浸かる。
「愛、今日の下着も濡れてたよ。僕の声で濡れたの?」
少しすると洗い物を終えた彼が浴室へ入って来た。当然、全裸だ。
「うん、濡れた」
「愛は、僕の声が好きだよね。昔から、愛は僕の声が好きだったんだよ。僕達が5歳の頃から、両想いだったんだ。ごく普通のカップルと同じだよ。一時は離れていたけれど、また偶然再会出来たなんて運命だ。愛と結婚出来て嬉しいよ。沢山、二人で幸せになろうね」
「うん、幸せになる」
彼が私を後ろから抱き締めて耳元に唇を寄せる。
「愛、愛、愛……僕達は、普通の夫婦だよ。普通の夫婦、普通の普通の夫婦……僕のすることは普通なんだ」
「うん、私達は普通の夫婦、涼は普通」
私はオウム返しをする。
胸をやんわりと揉まれれば吐息が漏れる。
「普通の夫婦がするエッチをしよう」
「うん、普通のエッチ、する」
全身を涼の手で隈なく洗われ、私はベッドへと運ばれた。
これは、ごく普通のこと。普通の夫婦と同じ。
10
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説



どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

だってわたくし、悪女ですもの
さくたろう
恋愛
妹に毒を盛ったとして王子との婚約を破棄された令嬢メイベルは、あっさりとその罪を認め、罰として城を追放、おまけにこれ以上罪を犯さないように叔父の使用人である平民ウィリアムと結婚させられてしまった。
しかしメイベルは少しも落ち込んでいなかった。敵対視してくる妹も、婚約破棄後の傷心に言い寄ってくる男も華麗に躱しながら、のびやかに幸せを掴み取っていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

社長室の蜜月
ゆる
恋愛
内容紹介:
若き社長・西園寺蓮の秘書に抜擢された相沢結衣は、突然の異動に戸惑いながらも、彼の完璧主義に応えるため懸命に働く日々を送る。冷徹で近寄りがたい蓮のもとで奮闘する中、結衣は彼の意外な一面や、秘められた孤独を知り、次第に特別な絆を築いていく。
一方で、同期の嫉妬や社内の噂、さらには会社を揺るがす陰謀に巻き込まれる結衣。それでも、蓮との信頼関係を深めながら、二人は困難を乗り越えようとする。
仕事のパートナーから始まる二人の関係は、やがて揺るぎない愛情へと発展していく――。オフィスラブならではの緊張感と温かさ、そして心揺さぶるロマンティックな展開が詰まった、大人の純愛ストーリー。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる