不本意恋愛

にじいろ♪

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朝チュン

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「ん……」

朝陽の眩しさに目覚める。
なんだろう、身体に違和感。すっきり目覚めてるのに頭の中が真っ白。
隣に確かな温もり。
途端にぼんやりとだけど、生々しい記憶が蘇る。
ガバッと起きて隣を見る。

「あ、起きた?おはよう、愛」

肌面積多すぎる超イケメンが朝陽を浴びて光輝いていた。何もかも忘れる位の輝きだ。

「ぐあっ、眩しいっ!!目が、私の目がぁっ!!」

「カーテン閉めようか?でも、それよりシャワー浴びて準備した方が良いかも」

枕元の時計を彼が指差す。
それは、私の出勤時間20分前を指していた。

「えっ!今日、仕事?!ヤバい、遅刻する!!」

「じゃあ、まずはシャワー浴びてね」

もう二人共が全裸なことには構っていられない。
慌ててベッドから飛び起きてシャワーを浴びて気付く。

ここ、私の家じゃない。
途端にサーッと血の気が引く。

「ここに着替えあるからね」

脱衣所から声を掛けられて、ホッと息をつく。そうだ、彼の家だった。

「あ、ありがとう」

あれ?と何か忘れてる気がするけど、それが何かは分からない。
それより、早くしないと遅刻だ!!

「はい、これ。朝ごはんにおむすびと、お昼のお弁当ね。愛の好きなエビフライ入れてあるよ♡」

ピッカピカの笑顔の彼に手作り愛妻?愛夫?弁当を持たされる。
嬉しいのに、どこか違和感がある。でも、それが何かは分からない。

「あ?うん。いつもありがとう、涼」

うちは夫が在宅だから、こうして家事を引き受けてくれて本当に助かる。
こういう夫婦の形も良いよね。だって令和だもの。8歳の年の差なんて今時、普通!
私達は、ごく普通の夫婦なの。

「急がないと遅刻するよ?車で送るから、車の中で食べな」

優しい。私の夫は、とっても優しいの。イケメンな上にめちゃくちゃ優しいなんて完璧すぎる。幸せすぎてこわい。

「うん♡ありがとう、涼♡大好き♡」

「愛のためなら、何でもしたいから」

胸がキュウウン♡と高鳴って、濡れちゃう。私は、彼が好き過ぎて、いつもこうなる。

「んもう、涼ってば♡ずっと大好きだよ♡」

「僕もだよ、愛。ほら、おむすび落とさないでね」

「あーん♡食べさせて♡」

ラブラブな私達は、職場へと向かいながら、イチャイチャとおむすびを食べさせあった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「はぁ?!で、その人と急に結婚したの?なんそれ!!」

「うふふ♡そうなんです!幼なじみの彼と運命的に再会して、私達、恋に落ちて!!そのまま結婚したんです!まだ式はしてないんですけど♡自分でも、びっくりです♡本当に運命ってあるんですね♡」

「なんだそりゃ。ねえ、あの結婚詐欺の男はどうなったの?」

「??結婚詐欺??なんですか?それ」

「ありゃまあ、こりゃ恋に浮かれて記憶喪失か?まあ、詐欺に引っ掛からなかったなら安心したわ。ちゃんと結婚したんだもんねぇ。良かったじゃない、今度こそ普通の人みたいで」

「そうなんです!本当に普通の人なんです♡私達、普通の夫婦になっちゃいました♡」

「はーぁ、なんか最近ぼんやりしてると思ったら、これだ。この前の報告書、まだでしょ?新婚旅行行く前に提出しなさいよ。おめでとう」

「「「おめでとーう!!」」」

「ありがとうございます!!!」

看護師長も混ざってワイワイと盛り上がる。
休憩時間だもの、狭い休憩室での会話は何でもあり。
そして、大事なことにハッと気付く。

「新婚旅行!!そうだ、新婚旅行行きたい!!」

「なに?考えて無かったの?ハワイ、いいわよ~」

「ヨーロッパも良いんじゃない?ねえ!思い切って長い休み取りなさいよ。仕事は皆で何とか回すからさ」

「そうよ!まだ有休あるんでしょ?仕事のことなんて忘れて、パーッと結婚式から空港へ直行よ!」

こういう時、先輩方は仕事でグチグチ言ったりしない。そこが素敵で頼れる先輩。

「人生楽しむ為に仕事してるんだもの、仕事の為に人生を犠牲にしちゃダメ」

これは、よく大先輩方に言われる言葉。
なんでも、院長先生の座右の銘らしい。
あのおじいちゃんの…と思うと不思議に感慨深い。

「はーい!!ハネムーンベイビー目指して頑張ります!!」

「はいはーい。応援してるわー」

休憩時間も終わり、ぞろぞろと各持ち場へ。
ポン、と肩を叩かれて振り向くと、看護師長さん。

「明後日、あなた夜勤でしょ?患者さんに急変無いか注意して見てね。早乙女ちゃんと組むと憑いてるなんて噂になってるから、夜勤組む相手が塩撒いたりして困るのよ。ただの偶然で、あなたも困ってるでしょうけど」

「あー……すいません。気を付けます」

「あなたが悪い訳では無い。憑いてるだけで」

後ろから急に話し掛けられて、びくりとする。まさか幽霊?!そろーっと振り返る。

「い、院長先生……」

「お疲れ様です……」

「ご苦労さま。まあ、この病院は最後を看取る方ばかりだから、あんまり気にしないで。早乙女さんに見送られて皆さん喜んでるでしょう」

「はぁ……ありがとうございます……」

良く分からない御礼を言って頭を下げる。

「それから、ご結婚おめでとうございます」

「あっ、ありがとうございます!!」

まさか聞こえていたとは!!

「新婚旅行は海外が良いですよ。思い切って色んな所へ行って見聞を広げて来て下さい。仕事にもきっと役立ちます」

「はっ、はいっ!!」

はっはっはっ、と笑って去って行くおじいちゃん先生。
ほーっと看護師長と胸をなでおろす。

「聞かれてたね……」

「はい、聞かれてました……」

「資格の名字変更して再提出してね。結婚後の諸々手続きあるだろうけど、明日休みでしょ?」

「はい、やっておきますぅ……」

尻窄みになる私の背中をパシンと軽く叩かれる。

「なーに暗くなってんの!!患者さん待ってるわよ!笑顔、笑顔!!行くよ~っ」

「はい、よろこんで!!!」

どこかで聞き覚えと、最近言ったことがあるような微かな違和感をさっくり脱ぎ捨てて、私は業務へと戻って行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「は~っ、疲れた~」

アパートに帰って来てドアの鍵を開ける。
が、開かない。

「ん?んん?」

頭を捻っていると、隣のドアが開いた。

「愛?そこは隣だよ」

「え?は、あれ?」

私が開けようとしていたのは、彼の部屋の隣だった。
でも、確かにここだと不思議に確信していたんだけど……なんで?

「僕達、同棲してるでしょ?ほらほら、早く入って。ビーフシチュー出来てるよ」

「え!ビーフシチュー!?大好き♡」

頭を撫で撫でされて全身の疲れが癒えていく。

「今日もお仕事頑張った愛のために作っておいたんだ」

「うわぁ、涼ってば最高の旦那様♡愛してる♡」

きゅむっと抱き着けば、すぐに抱き締め帰される。

「僕も愛してるよ、愛。ご飯とお風呂の後、ご褒美くれる?明日、休みだもんね」

「あ、明日、資格とか諸々の変更手続きしないと。名字変更したから。まだ職場では早乙女だけど、篠山愛になったもん♡」

「ネットで出来るものは、僕が全部やっておいたよ」

「へ??どうやって?」

そんなの本人でなくても出来るの?とか、何で知ってるの?とか疑問があるはずなのに、なんだか疑問が上手く頭でまとまらない。最近、やたらに頭がふわふわしてる。

「ふふ、愛が、僕に頼んでたんじゃない。朝、寝坊して慌ててたから忘れてるんだよ。仕事の時は早目に起こしてあげるね?キスが良い?それとも……」

耳元に温かい吐息がかかる。

「舐められたい?」

低音のセクシーボイスに、私の腰が砕ける。
分かった、頭がふわふわする訳。
このセクシーボイスに下半身に血液が集中してるからだわ!!

「ごっ、ご飯食べたい!!」

股をモジモジさせながら真っ赤になって叫ぶ私。彼はクスクスと笑って私を席に座らせる。
完全にからかわれた。
全く、彼は本当に昔から……
昔?いつのこと?彼との思い出って……

「愛?どうしたの?冷めちゃうよ、ビーフシチュー」

「うん。あのね、涼との昔の思い出って何だったかなって。最近、頭がぼんやりしてるから、よく思い出せなくて」

コトリ、と甘い紅茶が置かれた。

「思い出は沢山あるけど、僕は今の愛との暮らしが一番楽しいな。それよりさ、新居と結婚式のことだけど…」

私は甘い紅茶を飲みながら、ふんふんと涼と今後の暮らしについて相談していた。

「それで、この平屋が良いと思うんだけど、今度内見に行かない?」

「うん、行く」

「式は、僕の両親と愛の職場の人だけで良いかな」

「うん、良い」

私は、ちゃんと話を聞いてるし、分かってる。でも、頭の表面しか動いていないような感覚。

「じゃあ、それで予定組んでおくね。楽しいな、毎日が充実してる。幸せだよ」

「私も幸せ」

オウム返しの返事。
頭が真っ白で、それ以上浮かばない。

「食べ終わった?僕が片付けておくから、愛はお風呂先に入ってて。後から行くから」

「うん、分かった」

私はふらふらと浴室へ向かう。
服をバサバサと脱ぎ捨て浴槽へ浸かる。

「愛、今日の下着も濡れてたよ。僕の声で濡れたの?」

少しすると洗い物を終えた彼が浴室へ入って来た。当然、全裸だ。

「うん、濡れた」

「愛は、僕の声が好きだよね。昔から、愛は僕の声が好きだったんだよ。僕達が5歳の頃から、両想いだったんだ。ごく普通のカップルと同じだよ。一時は離れていたけれど、また偶然再会出来たなんて運命だ。愛と結婚出来て嬉しいよ。沢山、二人で幸せになろうね」

「うん、幸せになる」

彼が私を後ろから抱き締めて耳元に唇を寄せる。

「愛、愛、愛……僕達は、普通の夫婦だよ。普通の夫婦、普通の普通の夫婦……僕のすることは普通なんだ」

「うん、私達は普通の夫婦、涼は普通」

私はオウム返しをする。
胸をやんわりと揉まれれば吐息が漏れる。

「普通の夫婦がするエッチをしよう」

「うん、普通のエッチ、する」

全身を涼の手で隈なく洗われ、私はベッドへと運ばれた。
これは、ごく普通のこと。普通の夫婦と同じ。
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