友達の医者

にじいろ♪

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あれから三年

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あの合コンから、丸三年。
長かった。
そりゃあもう、辛抱強く待った。
普通の友人としての位置になれるまで。
いや、出来れば親友となれるように。
あくまで下心の無い男友達としての地位を確立するまで。

鈴山貴大は、ヘテロだった。
可愛くて小さい女の子が好きらしい。
でも、なかなか彼女が出来なくて、合コンにも良く参加するものの、全く成果は出ていないらしい。理由は本人は分かっていないが、簡単。
女より綺麗だから。

だが、そんなことは言わない。

「貴大の良さを分かってくれる女の子も、必ずいるから。だから、めげるなよ。次の合コンこそ、運命の出会いがあるかもしれないだろ?肌の手入れは欠かすなよ?清潔感が大事だから」

ただでさえ綺麗なのに、肌の手入れもしたら、普通の女が太刀打ち出来る筈が無い。つまり、出会いなどあるはずが無い、と内心ほくそ笑みながらも、表面的には真剣に話す。

この貴大は、人を簡単に信じる。
素直で実直な男だ。優しく思いやりがあって、私が女なら、こういう男と結婚する。
顔で惚れたが、中身にも惚れている。
もう、ぶっちゃけベタ惚れだ。

だから、作戦を決行する。

場所は私のクリニック休憩室。
これでも、小さな消化器内科の院長をしている。若干32歳で。親のコネだが、それも自慢だ。

「ほら、いつもの」

「あー、サンキュ。神崎のばあちゃんが作る梅酒は最高だよなー」

美味しそうに梅酒を飲み干す鈴山を見てほくそ笑む。

クリニックの診察時間終了後、看護師さんたちも帰った夜の休憩室で酒盛りをするのが、二人の日課になっていた。
そう仕向けたのは私だが。

二人で居酒屋で飲んでいた日。
私はさり気なさを装って、こんな話をした。

『最近忙しくてなぁ、仕事が終わってから、こういう店に行くのが億劫なんだ。勿論、鈴山とは飲みたいんだが……うちのクリニックで飲めると楽なんだけどなぁ……丁度いい休憩室もあるし』

合コンの後に連絡先を交換し、数回飲みに行くようになってから、あくまで気楽な雰囲気で切り出した。

『えー、マジ?病院で飲酒していいの?』

『自分の病院だし、クリニックだから入院患者もいないしな。夜はただの空き部屋なんだよ。勿体無いだろ?それに……』

『それに?』

貴大は、綺麗な顔をズイッと惜しげもなく近付けて話を聞くから心臓に悪い。

『クリニックの倉庫には、ばあちゃん秘蔵の梅酒がある』

『うわぁーっ!なんだよ、早く言えよ~俺が梅酒好きなの知ってるだろ?!』

知ってる。だから、私が自分で漬けた。
ばあちゃんじゃない。むしろ、私のばあちゃんはとっくに死んでいる。ばあちゃんの皮を被った私だ。

『試しに明日、来るか?看護師さんたち、みんな7時には帰るから、その頃、裏口から入れよ』

『んじゃ、ツマミ買ってくわ』

『ピザでも取るから、軽くな』

そんなやり取りをして、クリニック休憩室飲み会を日常化して、三年。現在に至る。

もはや、私への警戒心はゼロだ。

これからが、本番。

ヘテロの鈴山に私を意識させる作戦。
その名も、媚薬お色気大作戦である。
身体から始まる恋って、男なら誰でも経験あるだろう。
そんなものなのだ、男は。
つまり、身体から落とす。
私無しではいられない身体にする。
身の心も私のモノ!!

ふっふっふっ……はーっはっはっはっ!!


「え、大丈夫?思い出し笑い?」

心の中で笑っていたつもりだったが、口からも出ていたらしい。

「いや、最新の呼吸法。これをやると、仕事の効率が上がるって研究結果が発表されてたからな。常に新しい知見を試したいんだ。全ては患者のために」

「………すごいよな、神崎は。同い年なのに、こんな立派なクリニックの院長で、勉強までしてて……尊敬するよ」

尊敬よりも愛がほしい。

「いや、普通だよ、これくらい。それより、梅酒のお代わり飲むだろ?アヒージョ足りてる?」

アヒージョをツマミに梅酒って、女子会か。
なんてことは言わない。
だって、貴大はアヒージョ大好きだから。
可愛い。好き。好きが好き過ぎて、もうピサの斜塔。

さり気なく、いつも通りに梅酒の瓶から酒を注ぐ。
直前に、透明の液体をグラスにほんの少し注ぐ。その上から、梅酒を勢い良く注げば撹拌されて中身がしっかり混ざる。

何も無かったように梅酒を貴大に渡す。

「サンキュー!あー、やっぱりうまいわ。ばあちゃんに御礼言っておいてよ?マジで」

「いつも言ってるから大丈夫だよ。それより、あんまり飲み過ぎんなよ?」

そのまま、さり気なく貴大の座る二人掛けソファの隣に腰掛け、身体を密着させる。いつもは正面に座っているから、これだけでも意識してもらえたら嬉しい。

「あえ?なんか、近くない?」

少し頬を上気させた貴大は、酔って少しぼんやりしていて、可愛くて仕方ない。

「さっきから、酔っ払ってヨロヨロしてるから、身体を支える為だよ。別にいいだろ、友達なんだから」

そう言って腰に腕を回した。
細い腰だ。

「そんな、俺、ヨロヨロしてる??」

「自覚が無いのが酔っ払いだからな」

近距離で貴大の目を下から覗くように見つめる。
貴大の頬が紅いのは間違いでは無い。

「顔が紅いぞ?熱あるんじゃないか?」

前髪を挙げて互いの額をコツンと付けてやる。貴大は、慌てふためいて後退った。が、ソファは二人掛けで狭い。立ち上がらなければ逃げられない。
だが、貴大には立ち上がれない事情があった。
梅酒に混ぜた薬が効いてきたのだ。
要するに、ビンビンだ。
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