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第一章

危機

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フワが、魔王様の魔力を俺のココから強く感じると言っていた。
あれは、どういうことなんだろう。
ぼんやりと考えながら広い廊下を歩く。
舐められると、魔王様の魔力が俺に移るのか? 
考えても分からない上に、想像するとまた膨らんでしまうから、ええい、とやめた。

「人間!なぜこんなところにいる!」

バッタリと廊下で出会った大きなガーゴイルが、大声で叫びながら俺の方へ突進してくる。まずい。 
非常にまずい。
俺は猛ダッシュで逃げるが、これは分が悪い。

「俺は、魔王様のところでっ」

「待てぃっ!この魔王城で見逃す訳には!」

追いつかれる!と思った瞬間、ドオンっという轟音が鳴り響いた。
ガーゴイルの足元に大穴が空いている。

「この人間は、我のもの。何人たりとも触れることは許さん」

そう冷たく言い放つ威圧の塊は、魔王様。

「──っこれは、魔王様!しかし、にん」

「次にこの者に手を出せば、消滅させるぞ」

魔王様は、バサッとマントを翻して俺を連れてその場を後にする。
ガーゴイルから離れて角を曲がり、姿が見えなくなると、抱き締められた。

「すまない…危ない目に合わせた」

「…ごめんなさい。行くところがなくて、歩いていたら」

魔王様が、悲しげに俺を見つめる。

「我の部屋は不快だったか」

「それは、フワが…あ、いや、シーツを交換する仕事の邪魔になるから、部屋を出ておりました。申し訳ありません」

恥ずかしさで俯いて答えると、魔王様も何か気づいたようで。

「ああ、それで…う、あの、シーツ…」

「は、はい…その、シーツで…えーっと」

はあーーっと再びの溜息が隣で聞こえる。

「もう、いい加減くっつけよ、こいつら。全然仕事進まないわ」

何か宰相殿が小声でブツブツ言っている。
気の所為だろうか。

「はい、撤収。とりあえず魔王様の部屋へ戻ります」

三人で廊下を進む。
ちなみに俺は魔王様に抱きかかえられているが、全然こちらを見てくれない。
迷惑をかけて、あんなコトまでさせて…面倒な奴だと呆れられたのだろうか。
俺は、魔王様の役に立っているのだろうか。

こんな役立たず、好きになんて、なってもらえないよな…


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「さっさと終わらせて下さいね、私も忙しいのですから!」

ドミルには、自分の部屋で待ってもらうことにした。
また、誰かと鉢合わせたりしないように。
全く、ドミルに攻撃しようなんて、あの者は後で懲らしめよう。

それにしても…部屋を冷気がびゅうびゅう吹き荒れて寒いし書類が巻き上がる。 
ドミルが居た時は暑かった部屋が、今や北部の氷に閉ざされた領地のようになっている。
我が何も言わずに急に転移してドミルのところへ助けに行ったから、メリアの目が釣り上がってる。

しかし、それどこりではない。
何よりも、さっきのドミルの言葉…我を、我を、好き…
思い出すと顔と下半身がカッと熱くなる。
ブリザードが吹き荒れていても、そこが熱いと案外寒さに強いらしい。
我は夢中で書類をさばいていく。
もしかして、もしかして…我の気持ちが通じたのか?
指先が震えて上手く紙をめくれず、手首から先を入れ替えた。

「…少しよろしいですか、魔王様」

メリアに声を掛けられて、恐る恐るメリアを見る。

「先程の件ですが…あのガーゴイルの罪を問うことは出来ません。なぜなら、魔王様は、他の高位魔族にすら何も知らせずにドミル殿を城内に住まわせました。城内のほとんどの者が、人間が住んでいることすら知りません。ですから、ドミル殿を見れば手をかけようとするのも当然の反応。これまでドミル殿のことを周知しなかった魔王様の無責任さが、今回のドミル殿の危機を招いたと言っても過言ではありません」

我は声も出なかった。
我がドミルのことを知らせなかった為に、ドミルの命が狙われた?
そんなことが。

「大切な方であれば、すぐにでも全魔族へ知らせるべきでしょう。魔王様の気持ちが本当であるなら…ですが」

我の気持ちは、紛れもなく本当だ。
これは、すぐにでも周知しなければ!
我は、椅子に座り直すと全魔族への通信を開始した。


『我は魔王フィガル。皆の者、よく聞け。魔王城にはドミルという人間が住んでおる。その者は我が最愛の伴侶である。万が一、その者に指1本でも触れてみろ。我への反逆とみなし消滅させるのは勿論、ドミルに危害を加えれば、この魔国全てが塵と化す』

ふぅ、言い切った。
これでドミルの身は守られるだろう。
全く、我が最愛の伴侶に手をかけようとするなど万死に値…ん?
今、なんて言った?最愛の、伴侶って言った?

「ああああああああああ!!!!どうしよう!勢いで伴侶って言っちゃった!どうしよう!ねえメリア、ドミルに聞かれちゃった?!」

メリアが肩を震わせて俯いている。

「魔王様、先程の通信は魔族のみに対してしか聞こえません。人間のドミル殿には聞こえておりませんから、御安心を。しかし、これでドミル殿を間違いなく伴侶にしなくてはならなくなりましたね。よろしいのですか?魔王様の伴侶になりたい者など塵芥程もおりますが」

我は顔を赤くしながらも、大きく頷く。

「も、もちろんだ、ひゃ、100年かかってもドミルを我が伴侶としてみひぇる!」

噛んだ。
舌がちぎれた。
急いで生やす。

「魔王様、人間はそんなに長く生きません。長くてもあと80年程で死にます」

「なにっ?!なぜだ!ドミルも死ぬというのか?!」

考えられない。
そんなに早くドミルが我の前から消えるなど。

「魔王様、人間と魔族は違うのです。人間はすぐに死ぬ。共に居られる時間など、魔族からすれば、ほんの一瞬でしょう。まあ、魔王様の魔力を大量に注ぎ続ければ、あるいは…」

「あるいは?!あるいは、なんだ!ドミルが生きる方法があるのか?!」

必死にメリアに食い下がる。
なんでもいいから、ドミルを生かしていたい。

「魔王様の強力な魔力をもってすれば、人間を魔族に近い状態にすることも可能かと…」

「なに?!やろう、それやろう。今すぐやろう。どうすればいい?」

我は立ち上がる。
ドミルを失うなど、考えられない。

「…ですから、ドミル殿に魔力を注ぎこむのです。魔王様の魔力の塊を」

「ほう、それはどこからだ?」

スっとメリアは手を後ろに回す。

「ドミル殿の後孔です」

「………え?」

「そこから、魔王様の陰茎で魔力を注ぎこむのです」

我は天を仰いだ。神よ、我に勇気を。
メリアに恥じらいを。
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