魔族になりたい勇者〜どん底勇者と魔王様〜

にじいろ♪

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第一章

接近

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どれくらい寝ていたのか。
我は意識が浮上するのを感じた。
最近、仕事で疲れ過ぎていたから少し疲れが取れたような?
ふと瞼を開ける。

「おはよう、フィガル」

目の前には、寝台に横になり恥ずかしそうに頬を染めたドミルの顔があった。
我は両手で顔を覆いながら、寝台の上を勢い良くゴロゴロと転がる。

いやーーっ刺激強すぎるーーっ!眩しい!ドミルから放たれる光が!目に刺さるーーーっ!!!

「えっと、嫌だった、かな?やっぱり話し方も元に戻したほうが」

「いえ、そのままでお願いします!!!」

両手は外さずに、それだけ伝える。
顔を見なければ、なんとか話せるかも。

「そう、かな?嫌だったら言ってほしい、宰相殿から言われたもので…その、フィガル?」

「うああああーーーーーっっ!!!」

我は近くの壁に走り込み、頭を強打し始めた。
嬉しい嬉しい嬉しい。
ドミルが名前で呼んでくれてる。
気が付くと、既に辺りの壁は消失していた。
なんて脆い壁だ。 
ドミルに我が城が脆いと思われてしまう。
しっかり作り直さなければ。
慌てて魔術で壁を作り直す。
前の3倍の厚さにしておいた。
魔術結界も付けて。

後ろを振り向くとドミルが呆けていた。

「ドミル、その、我が城は決して脆い訳では…」

ビクッとドミルの肩が揺れる。

「は、あ、ああ、なんていうか、すごいな、その、魔王様は」

褒められた。めちゃくちゃ嬉しい。
すごいって!我がすごいって!
また壁に頭を強打しようとして止める。
まずい、変な奴だと思われる!
一旦、落ち着いて威厳を出しながら歩いてドミルのいる寝台へ戻る。
て、寝台?ドミルのいる、寝台??

「あーーーーーっ!!!寝台って!!そんなハレンチなーーーっ!!!」

ドミルを急いで抱き上げて寝台から離す。
こんな!寝台で二人で寝るなんて、そんなハレンチなこと…

「えっと、寝台に乗ったのが、なにか不味かったか?フィガル」

我の胸元からドミルの声がする。
そして温もりと息が喉にかかる。
いい匂いがする。
ドッドッドッと身体中の血が沸騰していく。
うっかり抱きかかえちまったーーーっ!!!
まずい、これは非常にまずい。
ドミルの良い香りが鼻をくすぐる。
それに…
なんで、執務室で会った時から、こんなにドミルは我の魔力に包まれてるんだ!
これじゃ、こんなの、その、まるで、えと…は、伴侶みたいな!!!

そう考えると同時に頭がスパークした。

我はドミルを抱えたまま後ろへ思い切り倒れた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔王…いや、魔王様は驚く程の力の持ち主だということが分かった。
俺に魔王様の力を見せつける為だろうか。
寝ていた寝室の壁を全て頭突きだけで破壊して見せた。
そして、全壊した壁をいとも簡単に修復して見せた。
これが、魔族と人間との違いか…
純粋にすごいと感心すると同時に、俺の命なんて魔王様にかかれば一瞬で消え去るんだなと身を持って理解した。
本当に…たかが人間の勇者なんて、敵うはずがない。

そして、なぜか魔王様は俺を抱きかかえたたまま豪快に倒れた。
具合い悪いというのも身を持って理解した。



「フィガル?目が覚めたか?」

身体の大きな魔王様を寝台に乗せるのは、本当に骨が折れた。
が、俺も元勇者。
どうにか気合いで乗せることに成功した。
そして、しばらく意識を消失していたフィガルがゆっくりと瞼を開ける。

「大丈夫か?頭をだいぶ打ってるから、余り動かさない方がいい」

そう言いながら顔を覗き込む。
今は、フィガルの頭を俺の膝に乗せている。
いわゆる膝枕だ。
頭を打っているから、少し高くして詳しく様子を見ていた。
フィガルの目がカッと大きく開いたと思ったら、くるっと身体を丸めてしまった。
大きな身体を、よくここまで縮めたものだ。

「どこか痛いか?フィガル、こちらを向いてくれないか?」

フルフルと首を振っている。
耳も首元も顔も全てが真っ赤だ。
熱があるのかもしれない。

「頼む、少し1人にしてくれ…」

「そうか…わかった。力になれなくて、すまない」

俺は、魔王様の健康管理を任されたのに何も出来ないのだろうか。
俺の命を救ってくれた、この謎の病に苦しむ魔王様の為に。
そう考えながら、扉を開いて外へ出る。
扉の中からは魔王様の叫び声が響いていた。

「ドミル殿?どうされましたか?魔王様は?」

すぐに近くにいた宰相が声をかけてきた。
なんだか、ずっとここにいるな、この人。

「それが…1人にして欲しいと言われて」

宰相は、顎に手を当てて考えていた。

「刺激が強すぎたか…分かりました、ドミル殿。これから、貴方の新しい部屋へご案内致します」

そう言ってすぐ隣の扉を開けた。
そこは、今出てきた魔王様の部屋の隣。
カチャリと開けられた部屋は、隣の魔王様の寝室と扉で繋がっているらしい。

「こちらが、ドミル殿の新しい部屋になります。魔王様がお呼びになったら、そこの扉から魔王様の部屋へすぐにお入り下さい。待たせてはなりません。それが貴方様の仕事ですから」

そう指示をされ、部屋を見渡す。
きちんと整理されており、寝台や机などが配置されていて、無駄な装飾も無く機能的で広い。
まさに俺の好みだ。

「ありがとうございます。ところで、先程は教えられた通りにやったのですが、魔王様の身体は大丈夫でしょうか?さっきも俺を抱えたまま後ろへ倒れて…あれが魔族特有の病気なのでしょうか」

真剣に聞くと、メリアは唇と肩をふるふると震わせながら神妙な面持ちで答える。
余程、心配しているんだろう。
俺なんかがお世話係で良いのだろうか。

「そうですね。魔族特有というか、魔王様特有のようで、そうでないような。あれは、我ら魔族では治せません。選ばれた人間でなくては治せないのです。魔王様には、ドミル殿のお力が必要なのです。どうぞ、魔王様をお願い致します」

「なるほど…人間でなければ治せない病…どこまで出来るか分かりませんが、努力します。この命にかけて」


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