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暴漢の正体

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「·········ぐすっ、誠に申し訳ありませんでしたぁっ!えっと、か、神のように美しく気高きアルト様の腕を汚い手で掴んでしまったこと、心からお詫び申し上げますッ?!これで合ってますでしょうか?」

「違う。『神のよう』ではなく、アルトさんが神なんだ。『汚い』ではなく、アルトさんの前では、汚物だ。全然分かって無いな、お前」

石畳を軽く爪先で蹴れば、ボコリと石畳が足の形に凹んだ。案外脆いものだな、石畳は。
それを見た暴漢はガタガタと震えて、再び深く深く頭を下げている。

「すっ、すびばせんっ!かっ、神様のアルト様に、このような無礼を働き、どのようにお詫びすれば良いかっ」

「一番良いのは死ん·····」

「ブレイブさん!僕は大丈夫ですから。そろそろ終わりにして下さい。ほら、何だか通りが暗くなって来ましたよ?」

腐った肉のような腐臭を放つ汚物に時間を取られている間に、見れば煌々と明るかった通りが、すっかり暗くなっていた。
これは、店の灯りが消えたらしいと気付く。各店で火を焚いていたのだろうが、炭が燃え尽きたか、消したか。
こんなに同時に炭が燃え尽きることは無いから、恐らく消したのだろう。

「········本当ですね、アルトさん。何てことだ。この汚物のせいでアルトさんとの大事な時間がめちゃくちゃだ。やはり死ん···」

「ひいぃぃぃぃぃっっっ!!!!」

暴漢の頭を鷲掴みにしようとした俺の腕が美しく優しい腕に包まれた。天使だ。いや、神だ。

「ねぇブレイブさん、お店も閉まっているようですし、昼間の食べ物の御礼に、ひとまずルンブレンさんの家に行きませんか?」

「···························はぃ」

腕を組まれて夢心地だが、俺は不服だった。アルトさんとの二人きりの幸せしか無い時間に、あの禿頭に会うのだ。憂鬱しか無いではないか。いや、腕を組まれているのは天国。禿頭は地獄。どっちだ、俺。

「あ、ルンブレンさんに会うの、緊張してますか?大丈夫ですよ、御礼を言って、この布を差し上げたら帰りますから。案外、人見知りなんですね、ブレイブさんってば。かわいい♡」

アルトさんは、スルリと俺の腕から離れると、大きな織物を両手で拡げて掲げて見せてくれる。まさに天使。いや、やっぱり神だった。夢のような景色に目頭が熱くなって両手で顔を抑える。

「え、ルンブレンって、もしかして町長のルンブレン?」

俺の手から、隙を付いて免れた汚物が、アルトさんに気軽に話しかけて来た。許すまじ。アルトさんは、神だと言っているだろうが、馬鹿者!!もう一度頭を鷲掴みにしようとすると、アルトさんの後ろへ隠れやがった。殺。

「そうですよ。ルンブレンさんは町長だと聴きました」

「なんだ、ルンブレンの友達?それならさっさと言ってよ。オレはミヤ。ルンブレンの息子様よ!」

胸を張って、嫌味ったらしく言い切ったソイツの頭を、今度こそガッシリ鷲掴みにして持ち上げた。

「ぎゃあぁぁっ!!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!!」

「ちょ、ブレイブさんっ?!どうしたんですか?あ、もしかして頭に虫が止まってました?」

「そうなんです。危険な毒虫がいたので、退治してます。ご心配無く」

「嘘付け~っ!!!離せっ!!」

ジタバタと暴れるゴミを、石畳へ軽く放り投げた。
ぎゃんっ!!と鳴いてうつ伏せに蹲っている。本当にうるさい。

「大丈夫ですか?えっと、ミヤ、さん?」

「アルトさん、ソイツの名前はゴミです」

「え、ゴミ、さん?変わった名前ですね。ルンブレンさんの息子さんなんですか?僕達、ルンブレンさんにお世話になって御礼に伺おうかと思って」

うつ伏せに丸まっていたゴミが、ガバッ勢い良く起き上がった。案外、身体は丈夫らしい。叩き甲斐がある。
アルトさんも、ゴミの勢いに少し慄いてゴミから離れて俺の方へ寄って来た。ほっとして、アルトさんの肩を俺の方へ引き寄せる。腕の中から、気が付いたアルトさんが上目遣いで見上げてくる。かわいい。好き。愛が止まらない。

「おっ、親父に、言いつけてやるかんなぁ!!この街で、お前ら生きて行けると思うなよぉ!!!ゴミは、お前らだ、バァカ!!」

涙と鼻水を垂らしながら、そのゴミは走り去った。小さくなる背中を見送りながら、アルトさんがポツリと言った。

「お父さん、大好きなんですね。あの子」

「········やはり、親とは特別なものなのでしょうね。俺は分からないですが」

あのバカが、これから何をするのかは分からないが、アルトさんは間違い無く俺が守る。
だから、何も問題は無い。
あるとすればーーーーー


「うーん······とりあえず、時間も遅くなったし、彼も大変そうだから、ルンブレンさんのお宅に伺うのは明日にしましょうか」

「そうですね、アルトさん。あ、あの店がまだ明るいですよ。ちょっと覗いてみましょう」

二人で、明かりを消そうとしていた店を覗いて、残っていたパンや野菜を買った。
大きな岩塩も買って、二人仲良く肩を並べて家へ戻る。

「あのお店の灯りは不思議でしたね。初めて見ました」

「火では無いのが驚きました。やはり村とは全く違う暮らしなのですね。面白いです」

二人で荷物を分け合い、笑い合う。
空いた手を繋いで夜道を歩けば、そこは天への道だった。
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