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闖入者

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そうして、僕達は愛を深めていった。
あの出会いから一ヶ月。

毎日が素晴らしく楽しかった。

ブレイブさんは、恥ずかしがり屋だけど、僕にお願いされると断れない、と涙ぐみながらも神儀に必ず応じてくれている。

あと、神儀の時は僕の性格が変わるとかって言われる。良く分からないけど、それだけブレイブさんが魅力的過ぎるんだと思う。普通、あんなに素敵な人を前にしたら、誰だって冷静でいられない。
そう言ったら、またブレイブさんが顔を真っ赤にして震えてた。かわいい。

「アルトさん、どうですか?」

「うん、良い感じです」

僕は、ブレイブさんがパッカ村から持って来た蚕の繭から糸を紡ぎ始めた。
ブレイブさんは細かい作業が苦手だから、蚕を増やしたら、こっそりと村へ返すつもりだったらしいけど、僕は初めて見た繭にときめきが抑えら無かった。リマ村では、植物の蔦や動物のヒゲを使って動物の皮や毛皮を縫っていたから、こんな繊細な糸は見たことも無い。美しいと思った。

生まれて初めての糸紡ぎは、道具をブレイブさんに聞いて、紡ぐ為の道具作りから始まった。とは言っても、必要な木材は粗方ブレイブさんが用意してくれて、細かいところだけ僕が調整する程度だから、道具は、ほんの半日で完成した。くるくると回転する円盤と糸を巻き取る細い木の枝を組み合わせて造ったそれは、素晴らしく使い心地が良かった。
改めてブレイブさんの有能さに惚れ惚れする。褒めたら真っ赤に照れて謙遜しまくってたけど。

そうして糸紡ぎを飽きることなく続けているうちに、ブレイブさんは狩りや植物を採って来て、あれやこれや美味しい食事を用意してくれる。
なんて最高な旦那様。あぁ、幸せだ。
太陽のように美しい髪を靡かせて、ブレイブさんは僕の手を取る。

「俺は、アルトさんの為に何か出来るのなら、全てやりたいんです。貴方の為に尽くせるなら本望です」

傅かれてそんなことを言われて勃たない奴いる?いないよね。

美し過ぎるブレイブさんを、間髪入れず襲ったのは僕です。何度も貪りました。ごめんなさい。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


そうして、僕達の日々は平穏に温かく過ぎて行った。
ブレイブさんは狩りの合間に新居を造り始めて、本当に大きな家を建ててしまった。
どうやって、そんなにピッタリと木を切れるのかは分からないが、全てが丁度嵌って抜けなくなる仕組みで、雨も入らない。信じられない神業だ。

「わぁ、こんなにピッタリで離れないなんて、まるで僕達みたいですね!」

「··············」

そんな感想を言ったら、ブレイブさんが、また真っ赤になって止まっていた。
やっぱり襲った。我慢無理。好き過ぎて。

「ブレイブさんっ好きですっ!!」

「あ、ると、さぁんっ」

舌足らずなブレイブさんが、かわいくて綺麗で堪らない。
そうして昼も夜も愛し合って僕らは愛を育んだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

更にひと月が過ぎた頃。
突然の訪問者があった。

「やあ、ブレイブ。元気だった?」

森から突然、幾人もの人がゾロゾロと現れた。
僕はびっくりしてしまった。急に人が来たことにもだけど、その人達があまりに僕と似ていたから。
細い体型や髪の色、目の色。全員があまりに似ていた。そんな人を見たのは、これが始めてだった。

「サ、サン·········」

先頭に居た人から声を掛けられ、名前を呼ぶと同時に気まずそうに俯いたブレイブさんに、胸がザワザワとする。どういう関係?まさか、あの人と······

「へぇ?君がブレイブの忌み婚儀相手?······なんだ、まともじゃない。これなら私が相手してやっても良かったのに。なんで忌み婚儀なんかしたの?まさか、忌み婚儀なんて最低最悪な生活、自分から望んだ訳無いもんねぇ。村を追い出されるなんてよっぽどのことしたのかな?でも、君は綺麗だから勿体無いよ。欠陥品だとしても、私は心が広いから許してあげる。特別に、私の妾になるなら、今より良い暮らしさせてあげられるよ。こんな醜男よりも美しい私の方が良いでしょう。贅沢もできるし。あ、そうそう、君、ブレイブがパッカ村を追い出された理由知ってる?まあ、醜いのは見ての通りだけど、村の大切な織り機をブレイブが」

「黙れ」

自分の声があんまりにも低くてびっくりした。でも、それよりも全身が熱く頭が沸騰していた。

「黙れ黙れ黙れ!!!ブレイブを侮辱するな!!枯れ枝みたいなお前に何が分かる!!今すぐ帰れ!!!」

僕は無我夢中で近くにあった木の枝を掴むと、思い切り振り回して、ソイツらを退けた。後ろの奴らも後ずさりながらも、ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべて僕を嘲るように見ている。僕と似た奴らに虫酸が走る。

「嫌だなぁ、もう情が移ったの?そんな獣に情なんて意味無いのに。うちの村長が、そんな獣を拾って育てるから、パッカ村の皆が迷惑を掛けられたんだ」

「そうそう、散々迷惑掛けられたよな?ひどいものだよ」

「それなのに、こっちが困った時には何の恩返しもしないで。礼も言わずに出て行くなんて許せない」

幾人もが意地悪く言い合う。何なんだ、こいつらは。僕は奴らに向けて駆け出そうとした。
寸で、大きな影が僕の前に現れた。ブレイブさんだ。その逞しい背中が僕を止めた。

「········サン、はっきり言ってくれ。何の用事なんだ」

「これだから獣は困るんだよね。察してよ、一応人間なら。建物の修理が幾世帯も滞ってる。それに新居を待ってる夫婦もいる。木を切ったり家を造るなんて野蛮な事をする奴は、誇り高きパッカ村でお前だけなんだから、わざわざ私に手間をかけさせるな。私がどれ程パッカ村で大事な仕事をしているか分かっているだろう?あと、旅商人が、不味い肉を高値で売り付けてくるようになった。またお前の狩った肉を引き取ってやるから、早く出せ。全部だ。ありがたく思えよ?」

この人は、何を言っているんだろう。頭に疑問しか浮かばない。

「·······俺はもう、パッカ村には戻らない。村長から二度と戻らないよう言われている。それに肉は、今は無い」

ブレイブさんの声は、静かだけれど、芯の強い響きで彼らを拒絶していた。

「はぁ?私の言う事に従えないとでも言うのか?織物も出来ない木偶の坊が!」

「そうだそうだ!お前がやらなきゃ、誰が家の修理をするんだ!あんな野蛮なこと!さっさと仕事をしろ!ウスノロ!」

「肉を隠すな!お前が下品な狩りばかりするから、仕方なく食べてやってたのを忘れたのか!恩知らずめ!」

空いた口が塞がらない。
コイツら、家造りや狩りをブレイブさんに頼っていた癖に、感謝どころか一方的に搾取することしか考えていない。僕の心がドロドロと泥濘んでいく。傷付けられたブレイブさんの痛みを奴らに返したい。僕はブレイブさんの背中から横へ一歩進み出た。

「彼はパッカ村には二度と足を踏み入れません。肉もありません········まさか貴方達··········忌み婚儀の僕達と関わると呪われることを知らないのですか?」

出来るだけ低く暗い声音を作って話し出す。
丁度、空に雲も掛かり辺りは薄暗くなってきた。これから雷でも鳴り出しそうな雲行きだ。
ブレイブさんが、僕を振り返って、訝しげに見ている。片目を瞑って合図すると分かってくれたようで口の端が持ち上がった。

「呪いだと?そんなこと、聞いたことが無いな!大体、大昔にあったというのも本当かどうか怪しいもんだ!どうせ村長が適当な嘘を·····」

「それは、関わった人達が皆、呪い殺されたからですよ。リマ村で僕は確かに聞きましたから、これは本当です」

ニヤニヤしていた後ろの奴らが、少し青褪めて後退った。
サンとかいう奴は顔を引き攣らせながらも、まだ強気な態度は崩さない。

「そ、そんな迷信、この私が信じるとでも思ってるのか?たかが忌み婚儀が·····」

「忌み婚儀の神儀をした二人と関わると恐ろしい災いが訪れる。決して二人を村へ戻らせてはならない。もしも、神儀をした二人と関わった者がいれば、その者も二度と村へは戻してはならない。当然、知ってますよね?」

「ヒィッ!!そっそんなっ!!聞いて無いぞ!!」

後ろの奴らから、引き攣った声が上がった。カタカタと震え出している奴も見える。後少し。

「僕達は、既に神儀を済ませて呪いをこの身に宿しています。そして、貴方達も僕達と関わってしまった」

一歩踏み出すと、奴らが一歩下がる。サンも明らかに青褪めて、震える脚で後ろへ下がり始めた。
空は暗く陰り、雷はゴロゴロと低音を響かせる。ある意味、最高の状況だ。

「間もなく、貴方達に呪いが降り掛かるでしょう。特に一番近くで直接会話をした貴方·······サン?でしたっけ?」

「ヒグウッ!!やっやめてくれっ!!」

何もしていないのに口の端から泡を飛ばして後ろにいた奴らの背後に回り、そいつらを盾にしてガタガタと震えている。胸がスッとした。ポツポツと雨も降り出した。

「これから、貴方達にどんな呪いが降り掛かるのか·····無事に村へ戻れると良いですね。ふふっ」

その時、サンの近くにあった大木に雷が落ちた。

ズガーーーんっ!!!!!!という大音量と共に大木が真っ二つに割れてサン目掛けて倒れて来た。
か弱い奴らは、叫びながら、それぞれ逃げるが、サンは身体が硬直したようで全く動かない。あ、コイツは終わったな。僕はその光景を見て、冷静にそう思った。

「ーーっよっ、と。大丈夫か」

ズズぅーーーん········

ブレイブさんが、倒れて来た大木を片手で支えて避け、サンを助けた。サンの下衣は雨では無く、すっかり濡れていた。恐怖で失禁したらしい。

「怪我はしてないか」

ブレイブさんがサンに手を伸ばすが、その手をサンが叩き落した。

「私に触るな!!汚らわしい!呪いが感染るだろう!!」

サンは恐怖で青褪めながらも、恐ろしい形相でブレイブさんを睨み付けた。助けて貰ってありがとうも言えないのか。

「······すまない」

「もう二度と来ないからな、こんな所!わざわざ来るんじゃなかった!村に呪いが掛かったらお前のせいだ!精々、死ぬまでここで呪われて暮らせ!!お前らには、こんな谷の底がお似合いだ!!」

呆気に取られるとは、このことだ。
そんな捨て台詞を残して突然の訪問者達は去って行った。

「······嵐のような人達だったね」

「······なぜあんな嘘を?」

ブレイブさんに顔を覗き込まれて僕は横を向く。

「嫌だったんです。ブレイブさんのことを悪く言われるのも、僕の知らないブレイブさんを知っているのも」

小声で呟くように言えば、ブレイブさんが優しく頭を撫でてくれる。
僕は思わずブレイブさんの大きな掌を掴んで頬に擦り寄せる。

「·······なんで助けたんですか、あんな奴。下敷きになってしまえば良かったのに」

「·······サンは、パッカ村で一番腕の立つ縫製職人だから、怪我をしたら村の収入が大きく減ってしまう。それは駄目だと思ったんです」

ブレイブさんの瞳は優しいけれど哀しみに満ちていた。
奴等の態度を思い出せば頭に来るけど、あんな扱いを受けていたから、自分を卑下する癖が付いてしまっていたんだな、と腑に落ちた。

「ブレイブさんは優しいですね」

「アルトさんも、俺の為に怒ってくれてありがとうございました。その、すごく········嬉しかったです。怒って良いことなんだと分かりました」

「······辛かったですね、ブレイブさん。これから二人で幸せになりましょう」

二人抱き締め合うと、雨が少し強くなってきた。二人で絡まりながら新しい愛の巣へ転がり込む。雨はやっぱり入って来ない。

「アルトさん······今日は俺を好きにして下さい。俺の全ては貴方のものです」

「!!!!!ギューーン!!!」

その後のことは言うまでもない。
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