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神様仏様アビル様

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 そこは、まるで静かな森の中。
 木漏れ日と、鳥の囀りが聞こえる。
 ピチチチチ………
 どこかから、水の流れる音も………
 足元を見れば地面は、土と石……ミミズ?

『我が愛し子よ』

「はわっ!!!???」

 振り返ると、人が立っていた。
 細かく言えば、それはまるで人のようだった。光ってる。後光?さしてるってやつ。

『我が愛し子よ、そなたの願いを叶えよう』

「わっ!!えっ、ちょ、何すかっ?!」

 その人は口を動かしていないのに、僕の頭の中に声が聞こえる。高くもなく、低くもない。声も顔も、男性か女性かも分からない。綺麗だけど、なんだかこわい。
 良く見れば、足が地面から浮いてる。

 というか、さっきまでいた僕がいた備品管理室はっ?!え、うそっ!跡形もない!!
 扉を探しても、その人の後ろにあるのは、同じ森。
 そして、地面から浮かんだ謎人と二人きり。

『そなたの願いを叶えよう』

「えっ!なに、こわいぃっ!!!ドッキリ?これ、ドッキリ?!」

 僕はカタカタと震える。
 両手で自分を抱きしめる。体が太すぎて両肘までしか届かないけど。

「カメラは?!誰か!誰かぁぁ!!!」

『我が愛し子よ……』

「ちょっと、誰か出て来てよ!!変な人と二人にしないでよぉおおおお!!!」

『………スゥーーっ…………黙れ!!こんのクソデブがぁあ!!!神の話を聞けぇ!!!頭が高いわぁあ!!!!』

「ひぃーー!っ!!」

 後光の射す浮いた人の目が、クワッと見開かれ、思い切り怒鳴られた。

「す、すすすすすみません!!!ごめんなさい!怒らないで下さいぃ!!!」

 僕は慌てて頭を下げて謝った。
 謝罪だけは営業で唯一慣れたことだ。もう営業じゃないけど。

『……よかろう。そなたも驚くのも無理は無い。ここは、そなたの居た世界とは異なるからな。だから、我は特別にそなたの願いを叶えることとしたのだ』

「は、はぁ……」

 分かるようで、全く分からない説明だ。
 これ、営業でやったら詐欺と言われるヤツ。
 え、まさか詐欺?

『それで?何を望む?』

「いや、急に言われても、その……ここ、どこなんですか?」

 詐欺師かもしれない人が、少しイラっとしたらしく、顔を顰める。え、これ僕が悪いの?あんまり質問したらダメなやつ?

『ここは、我が治める美しき世界。だが、この世界はおかしな方向へと進んでしまっている。そなたには、この世界をあるべき姿へと導いてもらいたい』

「は、はぁ………なるほどですね……」

 何一つ、なるほどと思えなかったのに、悲しき営業の性で、相槌を打ってしまう。
 は?
 この人、全然話しが通じないんだけど。言葉は分かるのに、意思疎通が取れない。

『分かってくれるか……我も難しい立場にいるのだ。それで、そなたを召喚した』

「それは、大変ですねー」

 棒読み過ぎる返答をするが、合っていたらしい。
 うんうん、と後光射した人が大きく頷いている。

『それで、何を望む?我も時間が無いのでな。早く決めろ』

 えぇーーー………この説明だけで、僕は何だか大事な決定をしないといけないらしい。
 強く聞けない僕のバカ!バカ!バカ!!

「えっと……何でも良いんですか?」

『無論だ。我に不可能は無い』

 僕は少しだけ逡巡する。
 これって、異世界転移?転生?とかいうやつ?夢なら、思い切れるかな……
 うわ、何か強くなった方がいい?魔法?それとも、剣?でも、この世界に魔物とかいるのかも分からないし…でもでも、スローライフとか、えっと、この場合は、どうしたら……

『あと5秒で答えろ。答えなければ時間切れだ』

「えっ!!そんなっ!!ちょ、ちょっと」

 無表情な浮いてる人の顔が一瞬、課長に見えた。

『5、4、3、2……』

「い、い、いくら食べても、太らない体ぁあああーーーー!!!!!」

『よし』

課長が微笑んだ気がした。
僕の体は眩い光に包まれた。
あったかい……
このまま眠って目が覚めたら、あの備品管理室か……
そうだと嬉しいなぁ……いや、嬉しいのか?あんな所に帰りたい?いや、帰りたい訳じゃないけど、こんな変な人と二人きりよりは1人の方がマシな気がする。
でも、綺麗な森でスローライフっていうのも、良いなぁ。
美人なエルフとかと出会ったりなんかして……いや、怪我した獣耳の女の子を手当てして……マンガの読みすぎか。
そんなこと、現実に起こるはず無いんだから。変な夢見ちゃったな…僕。

「神の愛し子だ!!!皆の者!!神の愛し子だぞ!!!」

眩い光が治まると、僕の周りには大勢の人だかり。男、男、男………うげ、最悪な目覚め。いや、備品管理室じゃないってことは、まだ目覚めて無いのか。
状況を確認しようと思わず僕が立ち上がると、周りの人達が、おおっと声を挙げて一歩下がった。

「だめだ!お前たち、易易と近付いてはならん!愛し子様、どうぞ、こちらへお越し下さい」

痩せたおじさんが、笑顔で僕を案内しようとする。何ここ。洞窟?祠?薄暗い……

えー……この夢、まだ続くの?
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