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大盛 幹太
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「大盛くん、また太った?」
「ほんとだ、背中が大きくなってる~」
「ダメだよ、このままじゃ、メタボ一直線だよ?」
アハハ、キャハハ、と笑われる対象。
それが僕。
大盛 幹太(おおもり かんた)
26歳。
その名に恥じない体型をしている。
大飯喰らいで、幹が太い。
つまり、太ってる。
でも、どれくらいかと言えば、僕としては小太りに入ると思うのだが、周りからは「太っちょ」扱いで誂われる日々を送る社畜である。
仕事は営業。こんな太って、根暗な僕が営業である。当然、結果は、ほとんど全戦全敗。
あまりの業績の悪さに、近いうち部署異動をする、と上司から告げられたのは1週間前。それから、僕は食べ続けている。
今も、ガムシロップたっぷりカフェオレを飲みながらパソコンで営業先の資料作りをしている。一応は引き継ぎしないといけないから。毎日、深夜まで残って作る資料は、本当に使って貰えるのだろうか。
時々、机の引き出しからお菓子を取り出してモグモグ食べ、カフェオレ、お菓子、とエンドレス。
「大盛くん?今日の外回り終わったの?」
「……あはは、もう行かなくて良いそうです……この資料作ったら、僕、異動になるんで」
元々、営業志望だった訳じゃない。
入社した時に、丁度、営業の人員が足りなかった。ただ、それだけ。
本当は事務が良かったから、今度の異動で事務に行ければ良いな、と思っている。
そこに、僕の居場所があるかは分からないけど。
「えーっ!さみしくなるよぉ」
「そうそう、大盛くんがいなくなったら、誰をイジればいいのー?」
アハハ、と盛り上がる周りに愛想笑いをして、僕はお菓子を食べる。
「その腹の肉が見れなくなるかー、残念」
「まあ、成績最下位だもんな。課長も悩んでたし」
「ウフフ、次のところでは、がんばってね?」
ここでも頑張ったんだけどな……
「はい……がんばります。ありがとうございます」
僕に言えたのは、これだけ。
昔から、散々イジられキャラだったから、それがすっかり身に染み込んでいる。
とにかく笑う。何を言われても笑っておけば、それは虐めじゃなくて、イジり。
仲間扱いだと自分に言い聞かせられる。
悲しい自己防衛の手段だ。
営業の最終日、小さな花束を受け取った。
「大盛くん!元気でね!またご飯でも行こうね!」
「元気でな!向こうでも頑張れよ!」
同じ社内なのに、まるで退社のように見送られた。きっと、二度と一緒にご飯を食べることは無いだろう。
僕が配属された異動先は、1人きりの部署だった。
『備品整理係』
営業課の隣の小さな倉庫。
そこに、小さな机と椅子が置かれていた。
部屋のほとんどを段ボールが埋め尽くしている。換気扇は、一応ある。エアコンは無い。
「あと、質問は?」
一通り、僕の仕事の説明をし終えた課長が面倒くさそうに聞いてきた。
「……ありません」
この部屋で僕は、備品を取りに来た人に、それを手渡す仕事をする。
僕の為に作られた部署と言えば聞こえは良いが、他のどこも僕を断った、と営業課から壁越しに聞こえた噂話で知った。
もちろん、事務も。
「じゃあ、今日からよろしく頼むよ。何かあれば、連絡して」
「……はい、ありがとうございます」
パタン、と扉が閉まれば、そこは薄暗くて、僕にピッタリな陰気な雰囲気だった。隣の営業課から聞こえる笑い声が、まるで僕を嘲笑っているように聞こえて、僕はお菓子を貪り食べた。
どれくらい、そうしていただろう。
ふと、薄暗い部屋に光が射し込んだ気がした。課長が閉めてから誰も入って来ない部屋の扉から。
「だれか…来たのかな」
もしかしたら、営業課の誰かが、僕を心配して覗いてくれてるとか?少しだけ、期待に胸を躍らせた。この際、イジられても良い。誰かと話したかった。
僕は、そろっと扉を開いた。
「え…………?」
そこは、会社では無かった。
「ほんとだ、背中が大きくなってる~」
「ダメだよ、このままじゃ、メタボ一直線だよ?」
アハハ、キャハハ、と笑われる対象。
それが僕。
大盛 幹太(おおもり かんた)
26歳。
その名に恥じない体型をしている。
大飯喰らいで、幹が太い。
つまり、太ってる。
でも、どれくらいかと言えば、僕としては小太りに入ると思うのだが、周りからは「太っちょ」扱いで誂われる日々を送る社畜である。
仕事は営業。こんな太って、根暗な僕が営業である。当然、結果は、ほとんど全戦全敗。
あまりの業績の悪さに、近いうち部署異動をする、と上司から告げられたのは1週間前。それから、僕は食べ続けている。
今も、ガムシロップたっぷりカフェオレを飲みながらパソコンで営業先の資料作りをしている。一応は引き継ぎしないといけないから。毎日、深夜まで残って作る資料は、本当に使って貰えるのだろうか。
時々、机の引き出しからお菓子を取り出してモグモグ食べ、カフェオレ、お菓子、とエンドレス。
「大盛くん?今日の外回り終わったの?」
「……あはは、もう行かなくて良いそうです……この資料作ったら、僕、異動になるんで」
元々、営業志望だった訳じゃない。
入社した時に、丁度、営業の人員が足りなかった。ただ、それだけ。
本当は事務が良かったから、今度の異動で事務に行ければ良いな、と思っている。
そこに、僕の居場所があるかは分からないけど。
「えーっ!さみしくなるよぉ」
「そうそう、大盛くんがいなくなったら、誰をイジればいいのー?」
アハハ、と盛り上がる周りに愛想笑いをして、僕はお菓子を食べる。
「その腹の肉が見れなくなるかー、残念」
「まあ、成績最下位だもんな。課長も悩んでたし」
「ウフフ、次のところでは、がんばってね?」
ここでも頑張ったんだけどな……
「はい……がんばります。ありがとうございます」
僕に言えたのは、これだけ。
昔から、散々イジられキャラだったから、それがすっかり身に染み込んでいる。
とにかく笑う。何を言われても笑っておけば、それは虐めじゃなくて、イジり。
仲間扱いだと自分に言い聞かせられる。
悲しい自己防衛の手段だ。
営業の最終日、小さな花束を受け取った。
「大盛くん!元気でね!またご飯でも行こうね!」
「元気でな!向こうでも頑張れよ!」
同じ社内なのに、まるで退社のように見送られた。きっと、二度と一緒にご飯を食べることは無いだろう。
僕が配属された異動先は、1人きりの部署だった。
『備品整理係』
営業課の隣の小さな倉庫。
そこに、小さな机と椅子が置かれていた。
部屋のほとんどを段ボールが埋め尽くしている。換気扇は、一応ある。エアコンは無い。
「あと、質問は?」
一通り、僕の仕事の説明をし終えた課長が面倒くさそうに聞いてきた。
「……ありません」
この部屋で僕は、備品を取りに来た人に、それを手渡す仕事をする。
僕の為に作られた部署と言えば聞こえは良いが、他のどこも僕を断った、と営業課から壁越しに聞こえた噂話で知った。
もちろん、事務も。
「じゃあ、今日からよろしく頼むよ。何かあれば、連絡して」
「……はい、ありがとうございます」
パタン、と扉が閉まれば、そこは薄暗くて、僕にピッタリな陰気な雰囲気だった。隣の営業課から聞こえる笑い声が、まるで僕を嘲笑っているように聞こえて、僕はお菓子を貪り食べた。
どれくらい、そうしていただろう。
ふと、薄暗い部屋に光が射し込んだ気がした。課長が閉めてから誰も入って来ない部屋の扉から。
「だれか…来たのかな」
もしかしたら、営業課の誰かが、僕を心配して覗いてくれてるとか?少しだけ、期待に胸を躍らせた。この際、イジられても良い。誰かと話したかった。
僕は、そろっと扉を開いた。
「え…………?」
そこは、会社では無かった。
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