ダークエルフと触手と

にじいろ♪

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ディーの過去

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俺は、田舎の街の孤児だった。
父親は俺が3つの頃に魔物退治に行って死んだんだと。
母親は、俺が5つの時に流行り病で死んだ。
俺は兄弟もいないから、孤児になって、同じような奴らとその日暮らしをしていた。
教会で食べ物を恵んで貰えたらラッキー。
落ちてる小銭を集めたり、仲間と協力して薬草を集めて薬屋に持ち込んだり。
そうやって、仲間と協力することで、どうにか俺は生き延びて来た。
一人なら、早々に死んでたはずだ。

「あんたが、ディーか?強いらしいな。うちのパーティに入らないか?」

だから、田舎から出てきて、初めて声を掛けてくれたソール達とパーティを組んだ時、絶対に大事にしようと思ったんだ。

「なんだ、ディーは孤児か。苦労したんだな」

「大変だったんだね、ディー。これからは私達がいるから、何でも話してよね」

「これからは、このパーティが家族だ」

良い奴らだったんだ、本当に。
この5年、喧嘩らしい喧嘩もしたことが無かった。
そりゃあ、ヘラの治癒魔法は、まだ洗練はされてない。
けど、いつか、きっと彼女はAランクのヒーラーになれると俺は信じていた。
ソールだってそうだ。
まだまだ、これから強くなる剣士だったのに。
魔法使いのマルクだって、攻撃魔法を少しずつ覚えていた最中だった。
力を合わせて、ようやくBランクに上がった俺達じゃあ、竜なんて、そりゃ倒せないけど、それでも必死に這い上がって手に入れたBランク。
ランクが上がった日には、ギルドで、四人で手を取り合って抱き合って喜んだのが、もう遠い昔のようだ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「ごめんね、ディー。あたしね、Aランクのパーティから誘われたの」

あの日、追いかけた俺の顔を見ずにヘラは言った。

「え?この街にはAランクパーティは、今は一組しか……」

「そうよ。そのパーティから誘われたの。優秀なヒーラーを探してるんですって。ついでに美人。あたしでしょ?」

長い髪を掻き上げて、ヘラは笑った。
綺麗な横顔だった。
俺は、ほんの少し、ヘラに淡い気持ちを抱いていたんだ。
ヘラにも悪くは思われてないと思っていた。

「だから、あたしならって、ザアル様が推薦して下さったのよ。二度と来ないかもしれない幸運だもの、掴まなきゃ。応援してくれるわよね?ディー」

「ザアルが?推薦?」

口の中が乾いてカラカラした。
なんだか胸がモヤモヤして、苦しい。
俺の知らないところで二人が繋がっていたことも考えたくない。

「ザアル様は、本当に良くして下さるわ。あたしが美人で優秀だからでしょうけど。ディーも可愛がられてるんだから、温情を貰った方が得よ」

「温情……?」

ヘラは、もう興味が無いというように、髪にクルクルと指を巻き付けて歩き出す。
俺の目も見ない。

「じゃ、パーティから抜ける手続きはお願いね。皆にも、よろしく言っておいて?送別会とかいらないから。これから、新しいパーティでの歓迎会なの。それと、どこかで会っても、あたしに話し掛けなくて良いから。あ、荷物は宿屋に届けてくれる?あとで、今のパーティとの宿屋に移すわ。街で1番の宿屋なんですって!もう、今までの安宿なんて二度と泊まらないわ!!ふふ、じゃあね、ディー」

「……元気でな」

俺は、ヘラを見送って、その足で、今度はそのAランクパーティの剣士のところへ向かった。
人気のパーティだから、大通りで、すぐに見つかった。
走り寄って、必死に剣士を掴まえる。
ギョッとされながらも、お構いなしに話し掛けた。

「あの!!ヘラが加入するって、本当?」

「あぁ、君は確かBランクの……えーっと、ヘラの元パーティメンバーかな?」

顔が整っていて人当たりの良さそうな奴だった。
急な俺の剣幕にも穏やかに返答してくれている。流石はAランク。俺とは格が違う。

「うん。丁度、新メンバーを探しててね。ザアル様が推薦する程の人物なら安心出来るからと加入を急いでしまったんだが。悪かったね、君たちのパーティから突然、抜ける形になってしまって……」

冒険者をやっていれば、パーティの移籍なんて日常茶飯事。
わざわざ改めて挨拶する奴なんて居ない。
しかも、格下相手に新パーティが謝罪なんて有り得ない。
Bランクの俺なんかに申し訳無さそうに謝る剣士は、やはり悪い奴では無かった。むしろ誠意がある好人物。
ヘラが騙されていないか疑って悪かったと、今度は罪悪感に胸が苦しくなる。
俺は、頭に血が上ってたんだ。

「いや……こちらこそ、急にすまなかった。どうぞ、ヘラを宜しくお願いします」

「大丈夫だよ、彼女は優秀らしいじゃないか。みんな、期待してるんだ。彼女のことは任せて」

俺は、頭を下げたきり、もう彼の顔を見れなかった。
ヘラも、万年ギリギリBランクパーティよりも、Aランクパーティの方が遥かに稼ぎも良いし、良い暮らしも出来るし、きっと治癒魔法も上達する。
この人の良さそうな剣士も半端なく強いと噂だ。
きっと、ヘラはこれまでよりも安全に魔物討伐も旅も出来る。
この人の居るパーティなら、ヘラを大切にしてくれるし、ヘラの優秀さも買ってくれている。
ヘラには、この方が良かったんだ。

「じゃあね、わざわざありがとう」

去って行く足音に、いつまでも頭を下げるしか無かった。

「ヘラを、ヘラを宜しくお願いします……」

そう繰り返しながら。
涙と共にヘラを想う気持ちは床に落とした。

次に頭を上げれば、忘れられるように。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


私達、Aランクパーティが新メンバーを加入した。
元々、募集していた訳では無い。

「あのヒーラーの女ね、アッチが、かなり良いらしいよ。治癒魔法は低レベルだけど、娼婦代わりに連れて行けば、どこでも発散出来て良いって。君達にぴったりじゃない?」

ダークエルフのザアル様が、そんなことを私に言ってきたのは、賑やかな食堂の片隅だった。
視線の先には、楽しそうに食事をするBランクパーティ。
旨そうな肉を食べている。
まだまだこれからという若者の集まりらしい。
その中に居た栗毛のヒーラーのことを指してザアル様が私達に目配せする。
彼女の見た目は、良くも悪くも無い。胸が大きいのと化粧が少し濃いという位の印象だ。
いきなり現れたザアル様に話し掛けられたことに驚きながらも、Aランクパーティとして、なんとか落ち着いて返答する。

「……だが、あのパーティにヒーラーが居なくなると困るんじゃないかな?確かに、うちはヒーラー不在だが、もう殆ど負傷せずに戦えるし、薬草で十分だ」

「でも、みんな娼館に金を注ぎ込んでるでしょ。お陰でAランクなのに、すっからかん」

ぐぐ、と三人共に下を向く。
確かに、私達は娼館にハマり過ぎて万年金欠だ。
Aランクとして、周囲からの目もあって装備や宿屋のレベルは落とせないから、日々の食事は最低限にするしかない。
今のようにパンと水の生活は、身体が資本の冒険者にはキツイ。

「あ、奢ってあげるから、何でも好きな物食べて?ほら、頼みなよ。肉がいい?」

「い、いいのか!?肉!肉をくれ!」

「ザアル様!ありがとうございます!!」

「いいよ、困った時はお互い様。だから、ね?あの女を引き抜いてあげて?向こうも望んでいるから、人助けだと思って」

「人助け……それなら、私達も協力しよう」

さも徳のある人間のように答えたが、私達は食べ物に釣られた。
ついでに、肉欲にも。

「あの女はね、誰にでも股を開くから三人一緒にでも楽しめるよ。勿論、一人ずつでも良いし、好きなようにして。きっと悦ぶよ。今のパーティの奴らには飽きたらしいし」

なるほど、これまでも…ね。
それなら私達も同じようにしたって良いじゃないか。
そう三人共、久しぶりに満腹の腹を撫でて、にんまりと笑った。
期待に、胸も腹も股間も膨らませて。

それから、私達はヘラをパーティに迎え入れて、すぐに、この街を出ることにした。
道を歩く時にも、ヘラは上機嫌で私の腕に絡み付いて来る。
期待は膨らむばかりだ。

「うふふ、これから、宜しくお願いしますね♡」

「ああ、勿論だ。君には期待しているよ」

そう、とても期待している。

私達三人が、娼館にハマる理由。
それは普通の女では出来ない特殊プレイが好きだから。お陰で特定の恋人が出来ない上に性欲過多だから毎日通う羽目になっていた。

私は、慣らしていない女の尻を無理矢理犯すのが好きだ。だが娼館では、必ず慣らしてあるから十分に満足出来なかった。普通の女では、そもそも尻が断られるから仕方無く我慢していたが、これからは毎日出来る。
魔法使いは、被虐趣味。相手がヒーラーだと最高だと喜んでいた。どんなに傷付けても自分で治せるから。娼館では賠償金が発生するから、思う存分出来ないと常に悔しがっていた。
弓使いは、薬が大好き。特に強力な媚薬漬けにするのが好みと言っていた。使う媚薬が強過ぎて出禁にされた娼館も多いと零していた。
お陰で、三人とも、通常よりもかなり上乗せで支払わなくてはならず、どんなに稼いでも毎日通うから、いつも金欠。
腹を空かせていた日々とは、これでサヨナラだ。
ザアル様が、街を出る軍資金まで私達に与えてくれた。丁度、次の街まで辿り着ける程の金額を渡され、感謝しきれない。

街を出て、これから次の大きな街までは野宿だ。野宿と聞いて、ヘラは驚いていた。冒険者なら野宿など普通のことだが。
これまで、野宿の経験は無く途中の小さな町や村の宿屋にしか泊まったことが無いらしい。
随分と贅沢なBランクパーティがいるものだ。
まあ、娼館通いが無ければ出来るのかもしれないが、ザアル様から頂いた分から宿代を払えば次の街までの食糧が足りなくなる。私達に贅沢は出来ない。

「野宿はね、とても楽しいよ。君も経験すれば好きになるさ」

「え~そうなんですかぁ♡わたしも、ハマっちゃうかもぉ♡」

それに、外でのプレイは、娼館では出来ない楽しみだ。
三人で話し合い、同時では無く順番に弓使いから始めることにした。弓使いが媚薬に漬けて犯し、そのまま私に回し尻を破り、最後に魔法使い。私も血だらけの女は流石に萎えるからね。尻からの流血は良いけれど。

「ヘラ、君が加入してくれて、本当に嬉しいよ。夢のようだ」

「わたしもぉ、夢みたいですぅ~♡きっと役に立ちますからぁ♡」

「ありがとう、ヘラ。宜しく頼むよ」

これからは、稼いだ分は食費や装備にも回せる。
増々、仕事にも身が入るし、更に上のランクも目指せるかもしれない。
ザアル様には、感謝しか無い。
あのBランクパーティも、きっと今頃、別の女を補充しているだろう。パーティに女を入れて回すなんて、口外出来ないが、実に賢い奴らだ。
しかも、戦士の彼も常に笑顔で好青年に見えるから、人は見た目では分からない。私達も同じだろうが。
もし、ヘラが使い物にならなくなったら、どこかの魔物の森で放置して、また補充すれば良い。次は、もっと美人が良いな。

「さぁ、野宿を始めようか」

ありがとう、ザアル様。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ギルド内にて。

「君が受付のミーナ?ふぅん、ありきたりだね。名前も顔も」

ダークエルフのザアル様が、ある日、突然、アタシに話し掛けて来た。
憧れの美形ダークエルフ!!SSランクの彼は私の受付なんて利用しない。
常にギルド長が彼の自宅を訪問して、頭を下げて依頼させて頂くのだ。

「はっ、はい!ミーナと申しますぅ!!!ザアル様、ようこそいらっしゃいました!!」

顔が真っ赤になるほど、大きな声で答えてしまった。憧れのダークエルフ!!
ザアル様が不快そうに耳を抑える。その姿まで麗しい。

「うるさいよ、君」

途端に私の身体は床に這いつくばっていた。
背中の重みは、誰の足なんだろう。

「……え?」

目の前には、ザアル様の靴。片方しか見えないということは、まさか背中の足は。
更に強く押え付けられて、呼吸が上手く出来ない。

「身の程を知って?君は僕に話し掛けて良い存在じゃないの。勿論、ディーにもね?」

ディー?能天気な筋肉自慢の男の顔が浮かぶ。
明るいディーは、仲の良い若者で、茶飲み友達で、ほのかな好意を抱いている相手でもある。
いずれ、恋人になれたらと妄想することもある。

「ディーは僕の伴侶だからさ。もしかして聞いてなかった?君が迷惑で困ってるって、相談されたんだよね。僕の伴侶にちょっかい掛けないでくれる?うす汚いメス猫の分際で」

「ザアル様?!これは一体!!ミーナが、何か粗相を致しましたでしょうか?!」

ギルド長が騒ぎに気付いて現れたらしい。
私の息も心も止まる寸前だったから、助かった。

「……ごほっ、かはっ」

ようやく、ザアル様の足が背中から外された。
ヒューヒューとかろうじで息が吸える。

「あぁ、ギルド長。良いんだよ、僕が大人げ無かった。彼女はまだ若いから失敗だってあるさ。今回は大目に見ることにする」

いつの間にか、アタシは立ち上がってカウンターに居た。脚はガクガク震えているし、失禁したかもしれない。嫌な温もりが広がって涙が溢れる。
ギルド長が謝罪している声が遠くで聞こえる。

「ただね、次は無いから。それとギルド長、僕たち、街を近々出ることにしたよ」

「そんな!!ザアル様でないと出来ない依頼もあるのです!!………僕たち?ザアル様、パーティは組まれていなかったのでは?」

「あぁ、間もなくパーティを組むことになるから、用意しておいて。ディーと組むんだ。僕たち、運命の伴侶だからさ。ついでに皆に広めておいてくれる?絶対に僕の伴侶に近付くなって。次にディーに近付く人間は竜の餌にするんだ。楽しいでしょ?ね、ミーナ」

ギルド内は、既にシンと静まり返っていた。
アタシは、身体の震えを止められなかった。

「左様でございますか。では、街中に広めておきます。ディー様にも、こちらから謝罪を…」

「ディーは優しいからね。これで許してくれるさ。心配かけて悪かったね、ギルド長。それと、僕の家も売るから手配しておいて。パーティ登録したら、そのまま街を出るから、あとは任せるよ」

「かしこまりました。何なりとお申し付け下さい」

「いつもありがとう。これで皆で酒でも飲んでよ」

銀貨を何枚かギルド長が受け取って口を緩ませている。

「ザアル様、こちらこそ、いつもありがとうございます」

「じゃあね。ディーのこと、くれぐれも宜しく」

最後に、にっこりと微笑んで去って行ったザアル様を見送って、アタシは水溜りに崩れ落ちた。

「ミーナ!大丈夫か?まったく、ダークエルフの番なんかに手ぇ出しやがって。殺され無かっただけ、ありがたいと思えよ」

「ギルド長……ぐすっ、ふえっ」

「分かってるよ。お前の方が前からディーとは仲良かったもんな。だがよ、世の中、諦めも肝心だぜ?生きてりゃ、もっと良い男だって居るんだから」

「ぐすっ、じゃあ、Aランクパーティの……」

「ありゃダメだ。アイツら碌なモンじゃねえ。お前、男を見る目無ぇもんなぁ。ディーは珍しく良い男だから応援してたんだが、こうなったら忘れろ。ま、今日は、この銀貨で豪勢にパーっと飲み食いしてやろうぜ?……まずは着替えだな」

アタシは、ギルド長に支えられて着替えに向かった。

ギルド長が噂話を広める必要なんて無いくらいに、あっという間にディーとザアル様の関係は広まった。
アタシのことは、不思議と広まらなかったのは、きっとギルド長のお陰だ。

アタシの淡い恋は終わった。
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