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忘れたい
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目覚めたら、また目の前が綺麗過ぎるダークエルフだった件。
しばし、その長い睫毛を見詰めていた。
そうしているうちに、思い出される自分の痴態……の数々。
「あーーーーーーーっっ!!!!」
俺は叫び出して、頭を抱えて転がった。
クッソ恥ずかしい!!
何してんだ、俺は!!
バカ!バカ!
もう、記憶を消し去りたいぃーーー!!!
「どうしたの?ディー、どこか痛む?」
慌てふためいてザアルが俺を抱きしめる。
止めてくれ、今の俺は一人になりたいんだ!
「すまん、少し一人に……離してくれ…」
もうザアルと視線を合わせられない俺は、真っ赤な顔を両手で隠しながら、なんとかザアルから逃れようと藻掻く。
「どこが辛いの?まさか、後孔が痛む?無理に挿れようとしたから…でも、確認したら、傷は無かったし、腫れても無くて」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」
聞きたくない!聞きたくない!
俺のケツ事情なんて、聞きたくない!
というか、やっぱり夢じゃないのか……
「ディー?!大丈夫?すぐに治療しなきゃ」
ザアルの治癒魔法で、全身が異常にすっきり軽くなった。
軽すぎて、これはこれで感覚がおかしくなる。
「え、あ…ありがとう…」
とりあえず御礼を言うが、にっこりとザアルが俺の顔を覗き込んで来るから、心臓が跳ねて、また叫び出してしまう。
「見るなぁ!見ないでくれぇ!!俺を、俺を見ないでくれ!!」
「???ディー?どうしたの?ねぇ、何があったの?」
何事しか起きてねぇだろうがぁ!!!
とも言えず、俺はひたすらに顔を抑えて床を転がり続けた。
ふと気付けば、周りがダークエルフの集団に囲まれていた。
「ひっ!!!」
俺は慌てて後退り、神樹の壁に背中を付ける。
「ふーむ…元気そうに見えるがの」
「でも、おかしいんだ!叫び出して床を転がって、話しが通じなくて。何かの病気じゃないか、心配で心配で……」
族長が、俺のことをマジマジと眺めている。
「何か変わったことは?」
「変わったこと?うーん…あ、昨日は僕のことを、物凄く欲しがってくれたんだ。でも、まだ拡げてる途中でしょ?挿らなくって、張り型で我慢してもらったんだけど…それでも、気持ち良さそうに、何度も何度も射精して」
「ああああぁぁぁあぁーーーーー!!!やめろぉぉーーー!!」
あまりの恥ずかしさに、俺はザアルの口を塞ごうと駆け寄る。
「??ディー?どうしたの?」
「言わないでくれぇ……ぐすっ、やめてぇ…」
俺はグスグスと泣きながら、ザアルに縋った。
ダークエルフ相手に殴って黙らせることなんて到底出来ないのだから、縋るしかない。
ザアルの脚にしがみつき、だらしなく泣き咽ぶ俺は、なんてみっともない男なんだろう。
「……はぁ、ザアル、分かっただろう?理由が」
族長が、静かにザアルに話し掛ける。
俺は恥ずかしさで顔を挙げられない。
「え?なに、全然分かんないんだけど。は?分かったの?ちょっと、教えて?」
「ほんっとに、お前には情緒というものが欠けとるからなぁ……他は完璧でも、それでは伴侶殿が不憫じゃ……」
「はぁ?この僕に欠けてる物なんて存在しないんだけど?それより、早く教えてよ!ディーが病気なら、僕はどんなことをしても、ディーを助けたいんだ!ディーのいない世界なんて考えられないし、ディーが死んだら僕も死ぬんだから!!」
俺は、びっくりして涙が引っ込んだ。
周りのダークエルフ達も、呆気に取られて黙ってしまった。
族長まで、ポカーンとしている。
「何なの?なんで黙ってるわけ?早く教えろってば!ぶん殴るよ?!」
「ザアル……」
つい声を掛けてしまった。
ハッと俺を見下ろすザアルは、すぐにしゃがみ込み、しっかりと優しく抱き締めてくれる。
「大丈夫だからね、ディー。この老いぼれ達に治療法を聞いたら、僕がどんなことをしてでも、君を必ず治すから……君がいない世界なんて、考えられないんだ。僕を一人にしないでくれ、ディー……」
俺を抱き締める腕が、肩が震えていた。
声も震えて、最後の方には泣いていることが分かった。
ザアルを不安にさせたことに、俺の胸が引き裂かれるように痛んだ。
「違うんだよ、ザアル……ごめん、心配かけて。俺は、その……ただ……」
俺が話し出すと、ザアルが俺の肩を掴んで顔を覗き込んで来る。
「なに?ディー、ゆっくりでいいんだからね?僕に、なんでも話して?」
周りに、まだ他のダークエルフ達が居るんだが……でも、ここでちゃんと言わないと、ザアルはきっと止まらない。
俺は決心して、目をギュッと瞑って一気に吐き出した。
「あっ、あんなことっ、自分がしたなんてっ、恥ずかしくて、その、ザアルと顔が合わせられなかったんだ!!俺っ、俺!あんなコトしたの、生まれて初めてだし、恥ずかしいこと、沢山言っちゃって、シちゃって、あんな、あんな………」
自分で言いながらも、色んな記憶が蘇り涙が溢れて来る。
ダークエルフの秘術で俺の記憶を封じて欲しい。
「あんなこと??……まさか、僕らの優しく愛に満ちた交わりが恥ずかしかったの?あの幸福の頂点の時間が?かわいくて扇情的で、ディーはどこも恥ずかしいところなんて無かったよ?」
ザアルの言い方に、余計に全身が紅くなるのが分かる。
視界が滲んでザアルの顔は良く見えないが、やたらに嬉しそうなのだけは分かる。
「ねぇ、どこが?僕は堪らなかったよ。お陰で、我慢し切れなくて挿れようとしちゃったのが、僕のダメなところだと反省はしてるけど。あの両脚を大きく開いてお尻を掴んで僕を強請るところなんて、何度思い出しても最高で」
「もう止めてやれ、ザアル」
族長がザアルの肩を掴んで制止してくれた。
ありがとう、族長。
僅かに僕は生きてます。
「???え?」
「伴侶殿の気持ちを考えてやれ。恥ずかしくて思い出したく無いと泣いてるんだ、分からんか。気持ちが落ち着くまで、少し一人にしてやれ。まったく、お前は……離縁されても知らんぞ」
俺は泣きながらも、何度も何度も首を縦に振って同意した。
やっと俺の気持ちが分かってくれる人が現れて、少しほっとした。
ザアルが、俺と族長を何度も見比べて、愕然としている。
「え?!そんな、ディー、ほんとに?!あの最高の幸福しかない時間を思い出したく無いの?!嘘、そんな、まさか……」
ショックと顔に書いてある。
だが、俺ははっきり言うことにした。
コイツには、何でもはっきり言わないと伝わらないらしい。
「……俺には、恥ずかしかった記憶でしかない。今は思い出したく無いから、少しの時間、ザアルと離れたい」
泣きながらも、キッパリと告げた。
俺の言葉に、族長や他のダークエルフが深い深いため息をついたのが聞こえた。
ザアルは、生気を失ったように床に崩れ落ちた。
「やっぱり、ザアルだものな……」
「こうなる気はしていたが……」
「見た目が良くとも、中身がな………」
あちこちから、ザアルを非難する声が聞こえて、俺は自分で言っておきながらも、喉が苦しくなる。
ザアルには聞こえて無いようだけど。
「違くて、その、ザアルが嫌とかじゃなくって、俺が落ち着くまで、少しだけ待って欲しいんだ。ザアルは、優しくて、その…格好いいし、俺も、その…す、好き、だし?」
明確な恋愛感情かは分からないが、好きなのは間違ってない。
どうしても、ザアルが非難されるのは嫌だった。
ピクリ、とザアルの肩が揺れた。
ほんの少し、頭も上がったけど、まだ沈んだままだ。
「えっと、俺のこと助けてくれたし、大切にしてくれてるのも、凄く分かって、えと、こんな風に誰かとずっと居るなんて経験したこと無かったから」
「パーティの奴らが居たじゃないか」
ボソリとザアルが低い声で呟く。
「いや、アイツらは、別っていうか。ただの仲間だったから、こういうコトにはならないし、その、ザアルは特別だろ?は、伴侶?だし」
ムク、とザアルの身体が少し起き上がる。
まだ俯いたままで、表情は良く見えない。
「……でも、僕との記憶を忘れたいんでしょ」
震える声に、胸が締め付けられる。
傷付けてしまった、と後悔の念に駆られる。
「それは、その…だって、こんな筋肉ダルマが、あんなことして、気持ち悪いだろ?俺は自分の見た目のことは分かってるから……ザアルは、綺麗だから何をしても様になるけど、俺が、あんな、娼婦みたいな真似して……ザアルだってほんとは嫌だったろ?ほんとは、ザアルだって、俺なんかを伴侶にしなきゃいけなくなって、嫌なはずだし、その…離縁したいとしたら、ザアルの方だろ?」
こんなこと言いたく無いのに。
最後の方は俺も泣いていた。
俺は自分に自信が無い。
こんなに愛される価値が自分に無いのは、誰よりも俺が知っている。
「……ディー……」
震えるザアルの肩を、今度は俺が掴む。
「こんなことになって、本当にすまない、ザアル。俺なんかと、触手の治療しなければ、今頃は絶世の美女と結婚して幸せになっていたかもしれないのに……ごめんな、ザアル」
ザアルが拳を強く握り締め、肩を大きく震わせている。
やっぱり、ザアルも同じことを考えていたんだ。
そりゃそうだよな……
いくら、口では俺への愛を語ってくれてたって、内心は砂を噛むような日々だったに違いない。
「難しいかもしれないが、今からでも俺とは離縁して、ザアルの本当の運命の相手を」
話を続けることは出来なかった。
俺の口が食べられてたから。
何にって?
他にいないだろ。
ザアルだ。
「ふー、やれやれ。こりゃ、二人のプレイじゃ」
「我らを巻き込むとは、ザアルらしい。帰るか」
「まったく、伴侶殿には同情する。ザアルに掴まったのが運の尽きじゃ」
「諦めなされ」
口々に声を掛けられるが、それどころじゃない。
ザアルの手が身体中を弄って止まらない。
皆が部屋を出て行くまで、なんとか声を上げるのを我慢したが、もう俺の服は殆ど脱がされていた。
「はぁっ、ザアルっ?!ちょっと、なんで」
「ディーが僕に釣り合わないって思ってるのは、知ってたけど、まさかそんなに思い詰めてるなんて思わなかった。これから、ディーが僕と釣り合う身体だって教えるから、二度と離縁なんて口にしないで?君を一生、鎖に繋ぐことになっちゃうから」
ギラギラと光るザアルの目は本気だった。
肉食動物どころか、竜よりも恐ろしく、俺を狙うその瞳に、俺は全身が熱くなるのを感じた。
腹の奥が疼く。
「ザアル……俺……」
「ごめん、今の僕には話を聞く余裕は無い」
俺の口に柔らかい布のような物が押し込められる。
呼吸は出来るが、声は出ない。
なぜか、くぐもった声すら出ない。
気付けば俺の両手は頭上で柔らかい何かで縛られていて、両脚は膝を折り曲げた状態で縛り上げられていた。
なんだこれ、自分の身体が自力で動かせない。
「まさか、こんなに愛してるのに、何も伝わって無かったなんてね。離縁なんてしないよ。二度と僕から離れようなんて思わないようにしてあげるから」
熱を孕んでいるのに、酷く冷たいザアルの声。
俺は後悔していた。
自分の身の危機に?
違う、ザアルの心が泣いていたから。
ギラギラとした目の奥が泣いていた。
俺が傷付けた。ザアルを。
抱き締めてやりたいのに、身体が一切動かせない。
どんなに叫んでも、声が出ない。
ごめん、ザアル、君を傷付けるつもりは無かったんだ。
「始めるよ、ディー」
俺への愛という名の責め苦が始まった。
しばし、その長い睫毛を見詰めていた。
そうしているうちに、思い出される自分の痴態……の数々。
「あーーーーーーーっっ!!!!」
俺は叫び出して、頭を抱えて転がった。
クッソ恥ずかしい!!
何してんだ、俺は!!
バカ!バカ!
もう、記憶を消し去りたいぃーーー!!!
「どうしたの?ディー、どこか痛む?」
慌てふためいてザアルが俺を抱きしめる。
止めてくれ、今の俺は一人になりたいんだ!
「すまん、少し一人に……離してくれ…」
もうザアルと視線を合わせられない俺は、真っ赤な顔を両手で隠しながら、なんとかザアルから逃れようと藻掻く。
「どこが辛いの?まさか、後孔が痛む?無理に挿れようとしたから…でも、確認したら、傷は無かったし、腫れても無くて」
「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーー!!!!」
聞きたくない!聞きたくない!
俺のケツ事情なんて、聞きたくない!
というか、やっぱり夢じゃないのか……
「ディー?!大丈夫?すぐに治療しなきゃ」
ザアルの治癒魔法で、全身が異常にすっきり軽くなった。
軽すぎて、これはこれで感覚がおかしくなる。
「え、あ…ありがとう…」
とりあえず御礼を言うが、にっこりとザアルが俺の顔を覗き込んで来るから、心臓が跳ねて、また叫び出してしまう。
「見るなぁ!見ないでくれぇ!!俺を、俺を見ないでくれ!!」
「???ディー?どうしたの?ねぇ、何があったの?」
何事しか起きてねぇだろうがぁ!!!
とも言えず、俺はひたすらに顔を抑えて床を転がり続けた。
ふと気付けば、周りがダークエルフの集団に囲まれていた。
「ひっ!!!」
俺は慌てて後退り、神樹の壁に背中を付ける。
「ふーむ…元気そうに見えるがの」
「でも、おかしいんだ!叫び出して床を転がって、話しが通じなくて。何かの病気じゃないか、心配で心配で……」
族長が、俺のことをマジマジと眺めている。
「何か変わったことは?」
「変わったこと?うーん…あ、昨日は僕のことを、物凄く欲しがってくれたんだ。でも、まだ拡げてる途中でしょ?挿らなくって、張り型で我慢してもらったんだけど…それでも、気持ち良さそうに、何度も何度も射精して」
「ああああぁぁぁあぁーーーーー!!!やめろぉぉーーー!!」
あまりの恥ずかしさに、俺はザアルの口を塞ごうと駆け寄る。
「??ディー?どうしたの?」
「言わないでくれぇ……ぐすっ、やめてぇ…」
俺はグスグスと泣きながら、ザアルに縋った。
ダークエルフ相手に殴って黙らせることなんて到底出来ないのだから、縋るしかない。
ザアルの脚にしがみつき、だらしなく泣き咽ぶ俺は、なんてみっともない男なんだろう。
「……はぁ、ザアル、分かっただろう?理由が」
族長が、静かにザアルに話し掛ける。
俺は恥ずかしさで顔を挙げられない。
「え?なに、全然分かんないんだけど。は?分かったの?ちょっと、教えて?」
「ほんっとに、お前には情緒というものが欠けとるからなぁ……他は完璧でも、それでは伴侶殿が不憫じゃ……」
「はぁ?この僕に欠けてる物なんて存在しないんだけど?それより、早く教えてよ!ディーが病気なら、僕はどんなことをしても、ディーを助けたいんだ!ディーのいない世界なんて考えられないし、ディーが死んだら僕も死ぬんだから!!」
俺は、びっくりして涙が引っ込んだ。
周りのダークエルフ達も、呆気に取られて黙ってしまった。
族長まで、ポカーンとしている。
「何なの?なんで黙ってるわけ?早く教えろってば!ぶん殴るよ?!」
「ザアル……」
つい声を掛けてしまった。
ハッと俺を見下ろすザアルは、すぐにしゃがみ込み、しっかりと優しく抱き締めてくれる。
「大丈夫だからね、ディー。この老いぼれ達に治療法を聞いたら、僕がどんなことをしてでも、君を必ず治すから……君がいない世界なんて、考えられないんだ。僕を一人にしないでくれ、ディー……」
俺を抱き締める腕が、肩が震えていた。
声も震えて、最後の方には泣いていることが分かった。
ザアルを不安にさせたことに、俺の胸が引き裂かれるように痛んだ。
「違うんだよ、ザアル……ごめん、心配かけて。俺は、その……ただ……」
俺が話し出すと、ザアルが俺の肩を掴んで顔を覗き込んで来る。
「なに?ディー、ゆっくりでいいんだからね?僕に、なんでも話して?」
周りに、まだ他のダークエルフ達が居るんだが……でも、ここでちゃんと言わないと、ザアルはきっと止まらない。
俺は決心して、目をギュッと瞑って一気に吐き出した。
「あっ、あんなことっ、自分がしたなんてっ、恥ずかしくて、その、ザアルと顔が合わせられなかったんだ!!俺っ、俺!あんなコトしたの、生まれて初めてだし、恥ずかしいこと、沢山言っちゃって、シちゃって、あんな、あんな………」
自分で言いながらも、色んな記憶が蘇り涙が溢れて来る。
ダークエルフの秘術で俺の記憶を封じて欲しい。
「あんなこと??……まさか、僕らの優しく愛に満ちた交わりが恥ずかしかったの?あの幸福の頂点の時間が?かわいくて扇情的で、ディーはどこも恥ずかしいところなんて無かったよ?」
ザアルの言い方に、余計に全身が紅くなるのが分かる。
視界が滲んでザアルの顔は良く見えないが、やたらに嬉しそうなのだけは分かる。
「ねぇ、どこが?僕は堪らなかったよ。お陰で、我慢し切れなくて挿れようとしちゃったのが、僕のダメなところだと反省はしてるけど。あの両脚を大きく開いてお尻を掴んで僕を強請るところなんて、何度思い出しても最高で」
「もう止めてやれ、ザアル」
族長がザアルの肩を掴んで制止してくれた。
ありがとう、族長。
僅かに僕は生きてます。
「???え?」
「伴侶殿の気持ちを考えてやれ。恥ずかしくて思い出したく無いと泣いてるんだ、分からんか。気持ちが落ち着くまで、少し一人にしてやれ。まったく、お前は……離縁されても知らんぞ」
俺は泣きながらも、何度も何度も首を縦に振って同意した。
やっと俺の気持ちが分かってくれる人が現れて、少しほっとした。
ザアルが、俺と族長を何度も見比べて、愕然としている。
「え?!そんな、ディー、ほんとに?!あの最高の幸福しかない時間を思い出したく無いの?!嘘、そんな、まさか……」
ショックと顔に書いてある。
だが、俺ははっきり言うことにした。
コイツには、何でもはっきり言わないと伝わらないらしい。
「……俺には、恥ずかしかった記憶でしかない。今は思い出したく無いから、少しの時間、ザアルと離れたい」
泣きながらも、キッパリと告げた。
俺の言葉に、族長や他のダークエルフが深い深いため息をついたのが聞こえた。
ザアルは、生気を失ったように床に崩れ落ちた。
「やっぱり、ザアルだものな……」
「こうなる気はしていたが……」
「見た目が良くとも、中身がな………」
あちこちから、ザアルを非難する声が聞こえて、俺は自分で言っておきながらも、喉が苦しくなる。
ザアルには聞こえて無いようだけど。
「違くて、その、ザアルが嫌とかじゃなくって、俺が落ち着くまで、少しだけ待って欲しいんだ。ザアルは、優しくて、その…格好いいし、俺も、その…す、好き、だし?」
明確な恋愛感情かは分からないが、好きなのは間違ってない。
どうしても、ザアルが非難されるのは嫌だった。
ピクリ、とザアルの肩が揺れた。
ほんの少し、頭も上がったけど、まだ沈んだままだ。
「えっと、俺のこと助けてくれたし、大切にしてくれてるのも、凄く分かって、えと、こんな風に誰かとずっと居るなんて経験したこと無かったから」
「パーティの奴らが居たじゃないか」
ボソリとザアルが低い声で呟く。
「いや、アイツらは、別っていうか。ただの仲間だったから、こういうコトにはならないし、その、ザアルは特別だろ?は、伴侶?だし」
ムク、とザアルの身体が少し起き上がる。
まだ俯いたままで、表情は良く見えない。
「……でも、僕との記憶を忘れたいんでしょ」
震える声に、胸が締め付けられる。
傷付けてしまった、と後悔の念に駆られる。
「それは、その…だって、こんな筋肉ダルマが、あんなことして、気持ち悪いだろ?俺は自分の見た目のことは分かってるから……ザアルは、綺麗だから何をしても様になるけど、俺が、あんな、娼婦みたいな真似して……ザアルだってほんとは嫌だったろ?ほんとは、ザアルだって、俺なんかを伴侶にしなきゃいけなくなって、嫌なはずだし、その…離縁したいとしたら、ザアルの方だろ?」
こんなこと言いたく無いのに。
最後の方は俺も泣いていた。
俺は自分に自信が無い。
こんなに愛される価値が自分に無いのは、誰よりも俺が知っている。
「……ディー……」
震えるザアルの肩を、今度は俺が掴む。
「こんなことになって、本当にすまない、ザアル。俺なんかと、触手の治療しなければ、今頃は絶世の美女と結婚して幸せになっていたかもしれないのに……ごめんな、ザアル」
ザアルが拳を強く握り締め、肩を大きく震わせている。
やっぱり、ザアルも同じことを考えていたんだ。
そりゃそうだよな……
いくら、口では俺への愛を語ってくれてたって、内心は砂を噛むような日々だったに違いない。
「難しいかもしれないが、今からでも俺とは離縁して、ザアルの本当の運命の相手を」
話を続けることは出来なかった。
俺の口が食べられてたから。
何にって?
他にいないだろ。
ザアルだ。
「ふー、やれやれ。こりゃ、二人のプレイじゃ」
「我らを巻き込むとは、ザアルらしい。帰るか」
「まったく、伴侶殿には同情する。ザアルに掴まったのが運の尽きじゃ」
「諦めなされ」
口々に声を掛けられるが、それどころじゃない。
ザアルの手が身体中を弄って止まらない。
皆が部屋を出て行くまで、なんとか声を上げるのを我慢したが、もう俺の服は殆ど脱がされていた。
「はぁっ、ザアルっ?!ちょっと、なんで」
「ディーが僕に釣り合わないって思ってるのは、知ってたけど、まさかそんなに思い詰めてるなんて思わなかった。これから、ディーが僕と釣り合う身体だって教えるから、二度と離縁なんて口にしないで?君を一生、鎖に繋ぐことになっちゃうから」
ギラギラと光るザアルの目は本気だった。
肉食動物どころか、竜よりも恐ろしく、俺を狙うその瞳に、俺は全身が熱くなるのを感じた。
腹の奥が疼く。
「ザアル……俺……」
「ごめん、今の僕には話を聞く余裕は無い」
俺の口に柔らかい布のような物が押し込められる。
呼吸は出来るが、声は出ない。
なぜか、くぐもった声すら出ない。
気付けば俺の両手は頭上で柔らかい何かで縛られていて、両脚は膝を折り曲げた状態で縛り上げられていた。
なんだこれ、自分の身体が自力で動かせない。
「まさか、こんなに愛してるのに、何も伝わって無かったなんてね。離縁なんてしないよ。二度と僕から離れようなんて思わないようにしてあげるから」
熱を孕んでいるのに、酷く冷たいザアルの声。
俺は後悔していた。
自分の身の危機に?
違う、ザアルの心が泣いていたから。
ギラギラとした目の奥が泣いていた。
俺が傷付けた。ザアルを。
抱き締めてやりたいのに、身体が一切動かせない。
どんなに叫んでも、声が出ない。
ごめん、ザアル、君を傷付けるつもりは無かったんだ。
「始めるよ、ディー」
俺への愛という名の責め苦が始まった。
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