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番外編
殺意と胸キュン
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僕は今、森を走っている。
自分の荒い息遣いが耳に響く。
他は、何も聞こえない。
「ハアっハアっ、フゥーッ、大分走ったけど……えぇっ?!なんで?!」
あのファンシーハウスを抜け出して森へ駆け込んだ僕は、どれだけ走っても振り返ると、あの家が見えた。あれ?森に走り込んだよね?なんで?
全然、あの家から離れてないんですけど?!はぁ?!
いくら、僕の足が短くて鈍臭くても、これだけ走れば流石に異変に気付く。
不思議なことに、僕がどれだけ走っても、あの家から100m程しか離れられないのだ。
ここは、本当に天国なのか、地獄なのか……額から流れ落ちる汗を拭って、ふと天を仰げば、抜けるような青空を、チチ……と鳥が羽ばたいて行くのが見えた。
その鳥は、僕を置いて遥か遠くへと飛んで行った。姿が見えなくなるまで、見送って溜息をつく。足元の土が、じゃり、と現実的な音を出す。
どうやら、離れられないのは、僕だけらしい。
「なんだよ、これ……なんで?」
僕は地面にぺたりと、しゃがみ込んだ。
そこは、土だ。きっと栄養豊富なんだろう。あちこちで虫も動いてる。でも、そんなことに構っていられない。
鳥は勿論、虫さえも好きなところへ行けるのに、僕だけ行けないんだ。離れられないんだ。
あんな家、いや、正確に言うなら、あんな人間がいる家へは帰りたくないのに。
「ニャア」
「……?あ、スカイ……ありがとう」
いつの間に隣にいたのか。
座り込んだ僕の涙を、ザラザラとした舌でスカイが舐めて慰めてくれた。僕の心を癒やすのは、やっぱりスカイだけだ。ふわふわの毛並みを撫でていると、胸の苦しさも落ち着くらしい。
あ、スカイっていうのは、白銀の綺麗な毛並みだから、僭越ながら僕が命名した。だって、凄く綺麗な空みたいに澄んだ瞳をしてるから。あと、僕にだけ、すごく懐いてくれて可愛い。僕にだけ、ね。
スカイを愛でながら、僕は、つい先程のことを思い出して更に深く溜息を吐いて、余計に落ち込んだ。
「ん……んっ……」
「あぁ…甘い……尊、甘いよ……」
どこかで、酷く甘ったるい声が聞こえる。
夢心地の僕は、何だか気持ち良い夢を見ているようで、幸せだった。
「んっ……もっとぉ」
「あぁっ、愛してるよ、尊」
チュパチュパという濡れた音と、僕の快感が重なる。その事実に、急に意識が浮かび上がる。
……ん?はぁ?これ、現実??えっ?!
「んあっ、あぁ?!」
僕がガバッと起き上がると、僕の乳首に吸い付いていた男が驚いたように顔を上げた。YOUよ、なぜそこに。
「どっ、どうしたんだ?尊」
「なっ、はっ?えっ、なっ、え?!」
言葉にならない言葉を発した僕は、自分の有り様を確認した。乳首は濡れてる。下は……
うん、大丈夫。
履いてないです。
うん、何も履いてない。どころか、何も着てない。
んんんん??
相手の男も全裸だ。
コイツ、男同士で、一体何を……待てよ……確か………あっ!と僕は色々と思い出した。股の間の感覚も。
「ああぁぁぁーーーーー!っ!!!」
「なんだ、尊?!もしかして……俺のことを思い出したのか?」
パァン!!!
気付けば、僕は男の顎に、下から華麗なスクリューパンチをお見舞いしていた。
生まれて初めてスクリューパンチをした。有名なアニメみたいなシーンを再現することが、僕の人生の中で起こるなんて。
僕自身が一番驚いて。でも、それどころじゃない。許すまじ、クソイケメン。
「◯ね!クソイケメンが!!僕が陰キャだからって、子豚だからって、やって良いことと悪いことがあるんだ!!バカにするのも、いい加減しろ!!リア充爆ぜろ!!バーーーカ!!!」
僕は全力を振り絞って怒鳴り散らした。俯いて顎を抑えるクソイケメンをそのままにして、近くにあったシーツを手繰り寄せて身体に巻き付けて家を出た。
そこから、走り続けて、現状という訳だ。
あのクソイケメンは追いかけては来ないらしい。あんなことしておいて放置とか、本当最低だな。
いや、来られても困るんだけど。でも、ほら、そういうのって、やっぱりフォローとか必要じゃない?普通。
そんな経験の無い僕が普通を語るなって感じだけど。
でも、ほらドラマとかでは
『待てよ!』
『やめて!離して!』
『違うんだよ、誤解だよ!話し聞けって!』
『聞かない!聞きたくない!もう無理!』
『あーもう、クソッ!』
逃げようとする彼女の腕を引き寄せて強引なチュウ♡からの優しい抱擁♡みたいなのあるでしょ?
『ごめん……でも、好きなのは本当だから…俺のこと信じて欲しい』
『ん……私も……』
で、更に深まる二人の愛!!
俺は一人で二役やりながら感動していた。一人ハグだ。寂しくなんてない。
こういうのが気持ち悪いって言われるんだろうけど。
俺には、抱き締め合える相手なんていないから。ふと脳裏を過った男の顔は急いで消し去る。代わりにすぐに好きな女性アイドルを思い浮かべるが、全然気持ちが盛り上がらない。
トキメかない。おかしい……推しなのに。
僕は、自然と、あの家を見つめていた。
自分の荒い息遣いが耳に響く。
他は、何も聞こえない。
「ハアっハアっ、フゥーッ、大分走ったけど……えぇっ?!なんで?!」
あのファンシーハウスを抜け出して森へ駆け込んだ僕は、どれだけ走っても振り返ると、あの家が見えた。あれ?森に走り込んだよね?なんで?
全然、あの家から離れてないんですけど?!はぁ?!
いくら、僕の足が短くて鈍臭くても、これだけ走れば流石に異変に気付く。
不思議なことに、僕がどれだけ走っても、あの家から100m程しか離れられないのだ。
ここは、本当に天国なのか、地獄なのか……額から流れ落ちる汗を拭って、ふと天を仰げば、抜けるような青空を、チチ……と鳥が羽ばたいて行くのが見えた。
その鳥は、僕を置いて遥か遠くへと飛んで行った。姿が見えなくなるまで、見送って溜息をつく。足元の土が、じゃり、と現実的な音を出す。
どうやら、離れられないのは、僕だけらしい。
「なんだよ、これ……なんで?」
僕は地面にぺたりと、しゃがみ込んだ。
そこは、土だ。きっと栄養豊富なんだろう。あちこちで虫も動いてる。でも、そんなことに構っていられない。
鳥は勿論、虫さえも好きなところへ行けるのに、僕だけ行けないんだ。離れられないんだ。
あんな家、いや、正確に言うなら、あんな人間がいる家へは帰りたくないのに。
「ニャア」
「……?あ、スカイ……ありがとう」
いつの間に隣にいたのか。
座り込んだ僕の涙を、ザラザラとした舌でスカイが舐めて慰めてくれた。僕の心を癒やすのは、やっぱりスカイだけだ。ふわふわの毛並みを撫でていると、胸の苦しさも落ち着くらしい。
あ、スカイっていうのは、白銀の綺麗な毛並みだから、僭越ながら僕が命名した。だって、凄く綺麗な空みたいに澄んだ瞳をしてるから。あと、僕にだけ、すごく懐いてくれて可愛い。僕にだけ、ね。
スカイを愛でながら、僕は、つい先程のことを思い出して更に深く溜息を吐いて、余計に落ち込んだ。
「ん……んっ……」
「あぁ…甘い……尊、甘いよ……」
どこかで、酷く甘ったるい声が聞こえる。
夢心地の僕は、何だか気持ち良い夢を見ているようで、幸せだった。
「んっ……もっとぉ」
「あぁっ、愛してるよ、尊」
チュパチュパという濡れた音と、僕の快感が重なる。その事実に、急に意識が浮かび上がる。
……ん?はぁ?これ、現実??えっ?!
「んあっ、あぁ?!」
僕がガバッと起き上がると、僕の乳首に吸い付いていた男が驚いたように顔を上げた。YOUよ、なぜそこに。
「どっ、どうしたんだ?尊」
「なっ、はっ?えっ、なっ、え?!」
言葉にならない言葉を発した僕は、自分の有り様を確認した。乳首は濡れてる。下は……
うん、大丈夫。
履いてないです。
うん、何も履いてない。どころか、何も着てない。
んんんん??
相手の男も全裸だ。
コイツ、男同士で、一体何を……待てよ……確か………あっ!と僕は色々と思い出した。股の間の感覚も。
「ああぁぁぁーーーーー!っ!!!」
「なんだ、尊?!もしかして……俺のことを思い出したのか?」
パァン!!!
気付けば、僕は男の顎に、下から華麗なスクリューパンチをお見舞いしていた。
生まれて初めてスクリューパンチをした。有名なアニメみたいなシーンを再現することが、僕の人生の中で起こるなんて。
僕自身が一番驚いて。でも、それどころじゃない。許すまじ、クソイケメン。
「◯ね!クソイケメンが!!僕が陰キャだからって、子豚だからって、やって良いことと悪いことがあるんだ!!バカにするのも、いい加減しろ!!リア充爆ぜろ!!バーーーカ!!!」
僕は全力を振り絞って怒鳴り散らした。俯いて顎を抑えるクソイケメンをそのままにして、近くにあったシーツを手繰り寄せて身体に巻き付けて家を出た。
そこから、走り続けて、現状という訳だ。
あのクソイケメンは追いかけては来ないらしい。あんなことしておいて放置とか、本当最低だな。
いや、来られても困るんだけど。でも、ほら、そういうのって、やっぱりフォローとか必要じゃない?普通。
そんな経験の無い僕が普通を語るなって感じだけど。
でも、ほらドラマとかでは
『待てよ!』
『やめて!離して!』
『違うんだよ、誤解だよ!話し聞けって!』
『聞かない!聞きたくない!もう無理!』
『あーもう、クソッ!』
逃げようとする彼女の腕を引き寄せて強引なチュウ♡からの優しい抱擁♡みたいなのあるでしょ?
『ごめん……でも、好きなのは本当だから…俺のこと信じて欲しい』
『ん……私も……』
で、更に深まる二人の愛!!
俺は一人で二役やりながら感動していた。一人ハグだ。寂しくなんてない。
こういうのが気持ち悪いって言われるんだろうけど。
俺には、抱き締め合える相手なんていないから。ふと脳裏を過った男の顔は急いで消し去る。代わりにすぐに好きな女性アイドルを思い浮かべるが、全然気持ちが盛り上がらない。
トキメかない。おかしい……推しなのに。
僕は、自然と、あの家を見つめていた。
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