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番外編

愛し合う二人

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尊は、俺のことを覚えていなかった。
いや、俺と出会う前の尊なんだから、致し方ないが。それでも、やはりショックだった。
出会った時から、既に尊は大魔王のモノで、絶対に手は出せなかった。常に見張られていたから。
でも、ここでは違う。
あの毛色が気に食わない猫はいるものの、尊と二人きりだ。流石にここまでは、あの大魔王の力も及ばない。
むしろ、俺をこっちの世界に飛ばしてくれてありがとうと礼が言いたいくらいだ。

今、俺の腕の中でスヤスヤと眠る尊を抱き締めて、幸福感に満たされる。
ずっと、ずっと、こうして抱き締めたかった。涙が俺の頬を伝って尊の頬に落ちた。起こすといけないから、そっと拭う。
愛おしい。好きだ。愛してる。
初めは、ただの子豚だと思っていた。妊娠したから診察をしていただけだった。けれど、その肌に触れる度に、尊の快感に溺れる顔を見る度に、自分を抑えられなくなった。相手が絶対に敵に回してはいけない大魔法使いだってことは分かっていた。周りからも散々止められた。
俺だって分かってる。お陰で何度も死にかけた。
だから、俺はあっちの世界中を歩いて、大魔法使いからの呪いを跳ね除ける呪具を大量に身に付けた。怪しい物も沢山あったが、ほとんど全財産を叩いて集めた。
俺には尊しか居なかったから。尊以上に欲しい相手なんて居なかったから、結婚もしなかった。だから、俺は天涯孤独。
尊は大魔法使いと大家族を築いて、いつも幸せそうに笑ってた。俺は、それを見ているしか無かった。
でも、尊が亡くなって、次に生まれ変わる時には……って期待して赤い糸を尊の手首に結んだ。当然、尊の家族には内緒だ。墓に入れる寸前に状態確認の為、と医者の権限を発動して気付かれないように、そっと付けた。尊の家族は、大魔法使いと尊のことを凄く大切にしていたから。俺が一緒の墓に入ることなんて許して貰えないだろう。分かっていたが、どこまでも報われない想いに、俺は毎日泣いていた。
そんな日々の中で、俺は町中を虚しく歩いていたら、尊の存在を近くに感じた。
よく目を凝らすと、そこに薄っすらと尊の形の光が見えた。
声も聞こえた。尊が、会いに来てくれたと俺は有頂天だった。とうとう、俺の気持ちを受け入れてくれた!そう思ったのも束の間、尊はあのクソ魔王と天に戻ってしまい、大切にしていた赤い糸は突然切られ、俺は暗い暗い大きな穴に吸い込まれた。

ギリギリで、地球の神を脅すことを思い付き、ここを用意させた。
我ながら名案だった。
ここなら、今まで、絶対に手に入らなかったものが得られる。
尊との二人きりの時間だ。こうして抱き締めても、俺の首や腕が切り落とされる心配も無い。外の猫はうるさいが、この際、雑音として無視しよう。

「尊……愛してる……愛してるんだ」

眠る尊の瞼に、また俺の涙がぽたりと落ちた。起こしてしまわないか不安になりながら、自分の目元をグイッと拭い、そっと尊の瞼に唇を落とす。
少し塩辛い自分の涙を吸い上げて、額同士をコツリと付けた。

「こんな幸せがあるなんて……神よ、ありがとう」

『あー……どういたしまして?』

コホン、と咳払いした神から返事がきた。
見てたのか、変態。

『ただ、やはり、その、尊さんのお気持ちというのを第一に、ですね』

「俺は尊をいつだって一番大切にしてる」

俺は天井を睨み返した。尊を大切にするなんて当たり前だ。

『はぁ…私に力があれば…尊さんには申し訳無いですが、適応して頂きましょう。あの、必要な物は箱に入れておきました。それと、私はしばらく持病の頭痛と腰痛と通風で来れませんので、必要な物は紙に書いて箱へ入れて下さい。自動で届きますから。では、お幸せに』

「あ?お前、逃げるのか?おい!」

尊を起こさないように小声で呼び掛けるが、もう神から返答は無かった。逃げたな。まあ、良い。俺は尊と二人で暮らせるなら、他に何もいらない。

俺は、寝ていることを確認しながら、隅々まで尊の肌を堪能した。
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