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番外編
タルクと尊の番外編
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暗い暗い大きな穴に吸い込まれながら、俺は神殺しの呪具を握り締めた。
「殺す!!!どんな手を使ってでも、アイツを殺す!!!」
拳を振り上げると、暗闇を落下し続ける俺の頭の中に静かな声が響いた。
『まあまあ、これから地球に行きますから、そんなに怒らないで』
「お前っ!!誰だっ!!!尊と俺の仲を引き裂く奴は全員殺す!!!」
『そう言われましても…これから行く地球は、その尊さんとやらが、元々生きていた世界ですよ』
「尊が…生きていた?どういうことだ?ちゃんと全て話せ。全部話せば、条件によっては、お前を殺さないでやる」
『恐いわぁ、だから引き受けたく無かったのに、あの大魔王から無理矢理押し付けられて…ゴホン、貴方の言う尊さんは、元々は地球で生きていて、貴方の世界の神が暇つぶしの遊びで、あちらへ転移させたのです』
「はぁ…??じゃあ、尊は、元々は、その地球とかっていうところに居たのか?」
この間も、俺はずっと落下してる。体を鍛えていて良かったが、よくも、御高齢なジェントルマンに、こんな仕打ち出来たもんだな。風圧で端正な顔が歪んだらどうしてくれる。あのクソ魔法使い…百万回千切れろ。
『えぇ、ですから、あの大魔王…いえ、あちらの新しい神が、貴方が喜ぶし、地球の役にも立つ、とか何とか言いくるめられて…本当は嫌だったんですが…』
俺は拳を高々と振り上げて見せた。
そこには、しっかりと呪具が握られている。
「よし、俺からの条件だ。地球に尊が居た時に、俺を会わせろ。あと、俺を尊と同じ歳にしろ。アイツは、地球に来れないんだろ?なら、俺が尊を独り占めすれば、俺達は必ず恋に落ちる」
神が、明らかに戸惑ったように、あう、えぇ、と言い募っている。感じがする。
知らんけど。
『居た時って…それは、でも…神の違反スレスレというか、流石に時空を歪めるのは…』
「あのクソ魔法使いは、違反して無いのか?あぁ??」
しばらく、神が沈黙した。そして、俺の落下はゆっくりと減速し始めた。この神も、あのクソに対して思うことがあるんだろう。神と共闘になれば、こっちのモンだ。
『貴方のおっしゃることも、良く分かります。あの大魔王は、他の神々も恐怖で従わせていますからね。確かに…違反しているのは、完全にあちらです。分かりました、貴方の望みを全て叶えましょう』
少しだけ、神の声に張りが出た。
うん、やる気になったらしい。もう一押し。
「んじゃ、尊と俺だけの箱庭を作ってくれよ。あっちの世界に飛ぶんじゃなくて、行き先を箱庭にしてくれるだけでいいから」
『は?箱庭?と言うと?』
察しの悪い神だな。そんなだから、他の世界から干渉されるんだよ。今後は俺がビシッと仕切ってやらないとな。
「俺と尊の二人だけで暮らす世界。その地球ってとこの、ほんの一部に、他の人間が入れない空間を作って貰うだけで良いから。あ、必要な物は、その都度頼むから、用意してもらえる?」
もう、完全に俺は地面に着いていた。
周りは真っ暗だが、ずっと神は近くに居る感覚がする。話し声が隣だ。
『…それは、パシリでは?あと、箱庭と言われましても、どのような物が…』
「あー、俺が今から頭に思い描くから、その通りの物を作って。神なんだから、それくらい出来るだろ?」
はぁ、と深いため息が隣で漏れた。
そんなことは気にしないで、俺は詳細な箱庭のイメージを思い描いていく。
尊に似合う小ぢんまりとした可愛い家と、畑、動物、台所は俺と尊のサイズ違いを2つ。寝室のベッドは勿論一つで、特大にして…季節は、いつも程よく暖かくって…そこで、俺と尊が見つめ合って、そして…
ニマニマと笑いながら考えていると、ポンと肩に手を置かれた。隣には、中肉中背のぼんやりとした男が立っていた。
コイツが地球の神か。確かに勝ち目無いな、こりゃ。
『あの…もう、分かりました。全て叶えますから、それ以上は止めて貰えますか』
俺の想像にぐったりしたらしい。
仕方なく、俺の詳細なイメージは止めてやる。これから、永く世話になるからな。
「んじゃ、よろしく!!」
『はぁ…気が重い…なんでこんなことに…』
ブツブツと文句を言いながらも、神の体が光り出した。ぼんやり見えても流石は神。
よっ、頑張れ!ぼんやり~ぬ!
俺の体が暖かく光り始める。
『それでは、貴方と地球にいた時の尊さんを、箱庭へ届けます。あとは、ご自由にして下さい』
「あ、必要な物はちゃんと届けろよな」
眼の前に神殺しの呪具を掲げる。
『…わかってます…全く、どうせ神殺しの呪具を使うなら、あっちの大魔王に使えば良かったのに…ブツブツ』
小声で神が不満気に呟く。そんなことは分かってる。
だから、そちらを見ずに、俺は光に体を任せて目を閉じた。
「んなことしたら、尊が悲しむだろうが」
『……案外、まともなんですね』
その声を最後に、俺の意識は途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーっ!!あのっ、大丈夫ですかっ!?」
肩を揺すられて、微かに意識が浮上する。この軽やかで、吸い寄せられるように甘い声は……
ガバッと勢い良く起き上がった。
目の前には、尊が涙を流して座っていた。
めちゃくちゃ若い。かわいい。
なんだこれ、本当に生き物か。
「はあっ、良かったぁ~~~っ!!僕、ビルから落ちて死んだと思ったら、ここに居たんです。貴方も、死んだんですか?ここ、天国かなぁ」
「……………る」
尊が、少し俺に耳を近付ける。その甘い匂いにクラリとする。
初めて見る変わった服に身を包んだ尊は、確かに尊だけど、顔色も悪いし、髪のツヤも無い。あの尊のツヤは、クソ魔法使いによるものだったのか。悔しい。
だが、これからは違う。
「尊、愛してる。結婚しよう」
「はぁっ?!あの、ここって天国てすよね?」
慌てる尊がかわいい。愛しい。
好きだ。
「殺す!!!どんな手を使ってでも、アイツを殺す!!!」
拳を振り上げると、暗闇を落下し続ける俺の頭の中に静かな声が響いた。
『まあまあ、これから地球に行きますから、そんなに怒らないで』
「お前っ!!誰だっ!!!尊と俺の仲を引き裂く奴は全員殺す!!!」
『そう言われましても…これから行く地球は、その尊さんとやらが、元々生きていた世界ですよ』
「尊が…生きていた?どういうことだ?ちゃんと全て話せ。全部話せば、条件によっては、お前を殺さないでやる」
『恐いわぁ、だから引き受けたく無かったのに、あの大魔王から無理矢理押し付けられて…ゴホン、貴方の言う尊さんは、元々は地球で生きていて、貴方の世界の神が暇つぶしの遊びで、あちらへ転移させたのです』
「はぁ…??じゃあ、尊は、元々は、その地球とかっていうところに居たのか?」
この間も、俺はずっと落下してる。体を鍛えていて良かったが、よくも、御高齢なジェントルマンに、こんな仕打ち出来たもんだな。風圧で端正な顔が歪んだらどうしてくれる。あのクソ魔法使い…百万回千切れろ。
『えぇ、ですから、あの大魔王…いえ、あちらの新しい神が、貴方が喜ぶし、地球の役にも立つ、とか何とか言いくるめられて…本当は嫌だったんですが…』
俺は拳を高々と振り上げて見せた。
そこには、しっかりと呪具が握られている。
「よし、俺からの条件だ。地球に尊が居た時に、俺を会わせろ。あと、俺を尊と同じ歳にしろ。アイツは、地球に来れないんだろ?なら、俺が尊を独り占めすれば、俺達は必ず恋に落ちる」
神が、明らかに戸惑ったように、あう、えぇ、と言い募っている。感じがする。
知らんけど。
『居た時って…それは、でも…神の違反スレスレというか、流石に時空を歪めるのは…』
「あのクソ魔法使いは、違反して無いのか?あぁ??」
しばらく、神が沈黙した。そして、俺の落下はゆっくりと減速し始めた。この神も、あのクソに対して思うことがあるんだろう。神と共闘になれば、こっちのモンだ。
『貴方のおっしゃることも、良く分かります。あの大魔王は、他の神々も恐怖で従わせていますからね。確かに…違反しているのは、完全にあちらです。分かりました、貴方の望みを全て叶えましょう』
少しだけ、神の声に張りが出た。
うん、やる気になったらしい。もう一押し。
「んじゃ、尊と俺だけの箱庭を作ってくれよ。あっちの世界に飛ぶんじゃなくて、行き先を箱庭にしてくれるだけでいいから」
『は?箱庭?と言うと?』
察しの悪い神だな。そんなだから、他の世界から干渉されるんだよ。今後は俺がビシッと仕切ってやらないとな。
「俺と尊の二人だけで暮らす世界。その地球ってとこの、ほんの一部に、他の人間が入れない空間を作って貰うだけで良いから。あ、必要な物は、その都度頼むから、用意してもらえる?」
もう、完全に俺は地面に着いていた。
周りは真っ暗だが、ずっと神は近くに居る感覚がする。話し声が隣だ。
『…それは、パシリでは?あと、箱庭と言われましても、どのような物が…』
「あー、俺が今から頭に思い描くから、その通りの物を作って。神なんだから、それくらい出来るだろ?」
はぁ、と深いため息が隣で漏れた。
そんなことは気にしないで、俺は詳細な箱庭のイメージを思い描いていく。
尊に似合う小ぢんまりとした可愛い家と、畑、動物、台所は俺と尊のサイズ違いを2つ。寝室のベッドは勿論一つで、特大にして…季節は、いつも程よく暖かくって…そこで、俺と尊が見つめ合って、そして…
ニマニマと笑いながら考えていると、ポンと肩に手を置かれた。隣には、中肉中背のぼんやりとした男が立っていた。
コイツが地球の神か。確かに勝ち目無いな、こりゃ。
『あの…もう、分かりました。全て叶えますから、それ以上は止めて貰えますか』
俺の想像にぐったりしたらしい。
仕方なく、俺の詳細なイメージは止めてやる。これから、永く世話になるからな。
「んじゃ、よろしく!!」
『はぁ…気が重い…なんでこんなことに…』
ブツブツと文句を言いながらも、神の体が光り出した。ぼんやり見えても流石は神。
よっ、頑張れ!ぼんやり~ぬ!
俺の体が暖かく光り始める。
『それでは、貴方と地球にいた時の尊さんを、箱庭へ届けます。あとは、ご自由にして下さい』
「あ、必要な物はちゃんと届けろよな」
眼の前に神殺しの呪具を掲げる。
『…わかってます…全く、どうせ神殺しの呪具を使うなら、あっちの大魔王に使えば良かったのに…ブツブツ』
小声で神が不満気に呟く。そんなことは分かってる。
だから、そちらを見ずに、俺は光に体を任せて目を閉じた。
「んなことしたら、尊が悲しむだろうが」
『……案外、まともなんですね』
その声を最後に、俺の意識は途絶えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーーっ!!あのっ、大丈夫ですかっ!?」
肩を揺すられて、微かに意識が浮上する。この軽やかで、吸い寄せられるように甘い声は……
ガバッと勢い良く起き上がった。
目の前には、尊が涙を流して座っていた。
めちゃくちゃ若い。かわいい。
なんだこれ、本当に生き物か。
「はあっ、良かったぁ~~~っ!!僕、ビルから落ちて死んだと思ったら、ここに居たんです。貴方も、死んだんですか?ここ、天国かなぁ」
「……………る」
尊が、少し俺に耳を近付ける。その甘い匂いにクラリとする。
初めて見る変わった服に身を包んだ尊は、確かに尊だけど、顔色も悪いし、髪のツヤも無い。あの尊のツヤは、クソ魔法使いによるものだったのか。悔しい。
だが、これからは違う。
「尊、愛してる。結婚しよう」
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慌てる尊がかわいい。愛しい。
好きだ。
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