上 下
14 / 33
第一章

新しい生活

しおりを挟む

旅立ってからの僕達には、情報が必要だった。

「あのー、この国の人とは少し姿形の違う人たちが暮らす場所を知りませんか?例えば、髪の色が違うとか、肌の色や身体つきが違うとか」

リアムさんの事情もあるからと、僕がフード等で顔を隠して街へ入り、買い物と一緒に情報収集することを繰り返した。
僕は普通の木綿の服を街で買って着ている。
案外、これが着心地が良い。
太っても困らない造りなのも最高だ。

それにしても…本当に太った日本人顔しかいない。
不思議な光景。

うっかり、フードが風で捲れて僕の姿がチラッと見えてしまうこともあったが、大抵は皆、ぽーっと呆けてしまうから、その隙に逃げ出した。
神が降臨したとか噂が拡がったみたいだけど、リアムさんの魔法も駆使して、僕達は見つからずに、どうにか毎日を過ごせている。

本当に僕は、この国では絶世の美人らしい。
嫌な気持ちにはならないけど、ふんぞり返る気にもならない。
鏡に映る自分を見たら、この顔なんだから。

女の人も、どこの街を見ても本当にいなかった。
もういいんだけどさ?
僕にはリアムさんがいるから。
ほんとだよ?

ちなみに王都には、勿論寄らず。
リアムさんを急かして、もう遥か遠くへと進んで来た。
とは言っても、やっぱり野宿や馬での移動は大変なんだけどね。
新幹線欲しい…

「しかし…本当に良いのだろうか…尊様は…」

とか何とか、しばらくは空を見て呟いてたけど、その度に僕がリアムさんの素晴らしさを言葉を尽くして説いて聞かせた。
あまりの恥ずかしさに、とうとうリアムさんも呟くのを諦めたみたい。

「私が美しいなど、そんなこと、あるはずがないのに…」

真っ赤に頬を染めるリアムさんは、そりゃあもう、御馳走様です!って感じ。
こんなに綺麗なリアムさんが認められない国なんて、これっぽっちも未練無し!

そんな二人きりの宛のない旅を続けているうちに、心なしかリアムさんの表情も穏やかになってきた気がする。
少しずつ常に俯いていた顔も上がって、今では前をちゃんと見てくれるようになってきた。

僕も、コミュ障が治ってきたみたい。
一人で街へ出入りするのも慣れたもの。
生きて行くのには、やっぱりお金も必要だから、リアムさんが作った魔石を専門のお店で買い取ってもらってるけど。
すっかり堂に入っている、はず!?

これぞまさに、一石三鳥?!

ところで、例のリアムさんの故郷探しはと言うと。

「んー?ここと違う姿?なんだそりゃあ、そんなの聞いたことねぇなぁ」

王都から離れて、あちこちの大きな街を歩いたけれど、たいていは、そんな返事ばかりだった。
そもそも基本的に、この国から出る人は滅多に居ないらしい。
他の国に対しての恐怖心が強過ぎるのか、皆、基本的にこの国から出ないから、この国のことしか知らない。
だから、こんなに偏った考えになっちゃうんだな、と納得。

でも、たまに。
ほんとのたまに、外の国へ出入りする商人などから貴重な情報が得られることもあった。

「あー、そういや、遙か遠く西の国は悪魔の国だなんて、昔に聞いたことあったっけなぁ。それより、これどうだい?安くしとくよ」

だから、出来るだけ多くの商人が集まる街へ行って、酒場にも寄った。
フードを被るのは必須だ。

「なんだい、そんなモン被って。ほれ、酒でも飲んで楽しみな!西の国?あ~あの海沿いの国だな。遠い昔に行ったが、ありゃあ悪魔の住む地だぞ!あんたも頭から食われるに違いない。やめとけ、やめとけ」

賑やかで明るい街も多くて、ここならリアムさんも入っても大丈夫かも?と思うことも何度もあった。
僕には親切にしてくれる人も多かったから。

けれど、たくさんの人と話せば話す程、僕は理解した。
ここは異世界。
ダーダとダードだって、あんなに良い人達だったけど、見た目で悪魔だって決め付けてリアムさんを殺そうとした。
僕は二人からの言葉を決して忘れない。
無理は禁物。
二度とリアムさんを失う恐怖は味わいたくない。
そう自分の胸に刻み込みながら、今日もリアムさんの元へと急ぐ。
魔石がとびきり高く売れて、美味しいお肉も買えた。
リアムさんの魔石は、込められてる魔力の量が凄いんだって、褒められた。
自分のことのように嬉しい。

「ただいまーっ!!」

街の外の木陰で隠れて待っていたリアムさんに駆け寄る。
僕にしか見えないようになってるらしいけど、僕は例え見えないリアムさんでも、見つける自信がある。

「おかえりなさい、尊様」

よく見ると、何かを空に飛ばしていたらしい。
小型の鳥のような…マジック?

「どうしたんですか?あれ」

それは、空をパタパタと飛んでいく紙の鳥。

「あれは、届けたい相手に伝言や荷物を届けてくれるものです。私の魔力で動いていますから、この大陸全体くらいなら一日で辿りつくでしょう」

ほわーっと僕は感心する。
魔術師って、何でも出来ちゃうんだなぁ。

「すごいんですね、リアムさんって。かっこいい!」

「いえ、私など、王都の魔術師の中では底辺でしたから…あ、今、その王都の職を辞めると上司に伝言を送ったんです」

あっけらかんと言うリアムさんに、びっくりする。

「え!え!?いいんですか?!王都での、すごい仕事なんですよね?そんな簡単に!?あ!僕が無理に旅に出ようなんて言ったせいで!?」

あわあわと慌ててリアムさんのローブの裾をきゅっと掴みながら見上げる。
リアムさんは、穏やかで晴れやかな笑顔で、僕の頭を優しく撫でてくれた。

「いえ、簡単ではありません。ずっと…何年も何年も考えて実行出来なかったことです。何もかも両親のせいにして、己の勇気の無さから目を背けて来ました。両親には詳しい事情を書いた伝言を送りましたので、きっと辞職よりも、私からの突然の結婚の知らせに喜んでくれるでしょう。そういう二人ですから」

すっきりとした顔でリアムさんは、太陽みたいに笑った。
もう、あの寂しい笑顔はそこには無かった。

「尊様のおかげで、やっと自由になれました」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


王都 魔術院

「リアムのグズは、まだ帰って来ないのか?今度こそ、クビにしてやる!あの役立たずの悪魔め!」

魔術長は、山のように溜まった依頼書を前に、イライラと机を叩く。

「あー、この前、魔術長が、3ヶ月は帰って来なくていいって言ったからですかね?」

長椅子に寝そべって副魔術長があくびをする。

「本気にするバカがどこにいる!アイツがいないせいで、仕事が遅いと我らが魔術院の評判が下がってるんだぞ!」

「んー、じゃ、とりあえず魔術長がやっといたらいーんじゃないんすか?」

貴族出身の新任魔術師は、お菓子を食べて他人事だ。
書類で指を拭くな!汚れる!

「な、何を言う!私はれっきとした貴族だぞ?この姿を見れば分かるだろう!貴族が庶民のために働くなぞ、おぞましい」

「じゃー、リアムが戻るまで、待っといてもらいましょーよ」

こうして、何もしない貴族達からこき使われて、魔術院に来る仕事は、全てをリアム一人でこなしてきたのだ。
何から何まで、本当に全て。

ドンドン!
魔術院の扉が、激しく打たれる。

「なんだ!誰だ、騒々しい!」

「国王様が、魔術長様をお呼びでございます」

ヒッと椅子から転げ落ちるように降りた。
太った身体をどうにか起こして、慌てて扉を開く。

「ハッ!お待たせ致しました!」

国王様からの案内について、謁見の間へと向かう。
あの美しい国王様と会える喜びに胸が踊る。
まさか、私を見初めて下さった?
新しい愛妾をお探しときいたが、もしかしたら…

「入れ」

麗しい国王様の声に、胸が高鳴る。
毛足の長い絨毯を進み、恭しく膝をつく。

次の言葉を傅いて待つ。

「して?お主は、何をしておる?」

「…は、はい?何を、と申されますと?」

恐る恐る見上げると、国王様のご尊顔に深い眉間のシワが刻まれる。
そのシワさえ美しい。

「民より、あまりに多くの不満が城に寄せられておる。その全て、お主の魔術院への不満じゃ。おかげで我はこのように痩せこけてしまった。我の美貌をどうしてくれる」

「へっ!?そんな、まさか!あ、あれです!リアムが、リアムという庶民を雇ってから、醜くて困ると苦情が多くてですね」

しどろもどろに、捲し立てる。
国王様に認められたい一心での自己保身しか頭に無かった。

「ほう、ならば、その者は解雇しろ。醜い者は我が城にはいらん」

「さ、さようでございますね!実に英断でございます!流石は国王様!至急、リアムは解雇いたします!ああ、本当に安心致しました!これで仕事が捗ります!どうぞお任せ下さい!」

何度も何度も頭を下げて、ようやく謁見の間から転がるように逃げ出した。

魔術院へ戻る道すがら、魔術長は、ぎりぎりと奥歯を噛みしめる。
これでリアムを解雇しなければならなくなった。
リアムは醜いが、他の者とは比べ物にならないほどの魔術の使い手。
あんなにも醜い庶民は気に入らないが、リアムが居ないと、たった一つの仕事さえも出来ないのだ。
実際には。

自分も含め貴族出身の魔術師は、そもそも禄に魔力など持たない。
稀に出る魔力の強い庶民を見つけて、その力を国民の為にと使わせて成り立ってきたのが魔術院。
その最たる例がリアムだ。
もう何年もリアム一人で、全国民分の仕事をこなさせている。
前の庶民は、とっくに魔力が枯渇して辞めたから、正しく一人だ。


更に言えば、魔力が関係しなくとも貴族は働かない。
美しさが尊ばれる世界で、労働は下等な人間のするものであり、優雅に遊び暮らさなければ、国王様のような豊かな美しさは手に入らないとされている。
その中で働くなど、まさに愚の骨頂。
リアムは、まさに愚の骨頂なのだ。
だからこそ、いくら暴言を吐いても殴っても許された。

しかし、このままではまずい。
国王様にあのように言われては、国民からの要望が上がっている仕事をどうにかしなければならなくなった。
正直、国民など、どうでも良いのだが。

「くそっ!このままでは悩み過ぎて私のほうが痩せてしまうではないか!醜くなったら、どうしてくれる!」

ストレスのせいで肌も荒れ、痩せこけたりしたら、あの素晴らしき国王様の愛妾など夢のまた夢だ。

頭を抱える魔術長のところへ、タイミング良く伝言鳥が来た。
これ幸いと必死の形相で伝言鳥を捕まえる。
これは、リアムだけが使う珍しい魔術だったはず。
下等な魔術だと散々、皆で馬鹿にしていたが、たまには役に立つこともあるものだ。

焦る丸々とした指先で破るように伝言鳥を開いて読み上げていく。

あのウスノロめ、今すぐに帰って来るのなら、この私から国王様へ再度嘆願して、あの細く醜いクビを繋げてやってもいい。
そうすれば、私の言うことを何でも聞くゴミのようなリアムを、これからも罵声を浴びせて蹴り飛ばし、ストレス解消しながら、一生こき使ってやろう。
きっと愚かで醜いリアムは泣いて喜び、庶民の為にあくせくと身を粉にして働くだろう。
リアムの給料の一部は、愚か者の教育費として常に私の懐にも入っているのだから、今回は許してやってもいい。
私は、かくも心の広い魔術長、そして国王様の次期愛妾なのだから。

『王都へ戻る途中、狼の群れに襲われ重傷。生涯戻ること叶わぬ故、退職致します。リアム』

ぷるぷる、と伝言鳥を持つ手が震える。
そのまま、近くの壁に伝言鳥をバシンと投げ捨てる。

「くそっ!くそっ!あんなに目をかけてやったのに!恩を仇で返しやがって!」

リアムにしたことなど、暴言と暴力と全ての仕事を押し付けただけだが、己を美化する能力の高さこそが、貴族の証ともいえる。

「よし!新しく魔術師を募集しよう!庶民の仕事は、庶民に限る!流石は私!名案だ」

そうして、次に来た魔術師が出来るのは、指の先に、ほんの小さな火を灯すことだけだった。

「なんだと?魔法陣も出来ないのか?!それでは何の役にも立たん!結婚の誓約が出来ないと国民から苦情が殺到してるんだぞ?!」

「では、魔術長様、手本をお願いします」

今度の庶民は、とびきり美しく賢く、生意気で全てを言い返される。
つまりは仕事は一切しない。

歯ぎしりしても地団駄踏んでも、フンと鼻で笑われて終わる。
思い通りにならないストレスが溜まり、肌荒れが増々酷くなり、あまりに醜いと庶民にさえ笑われる日々。
こんな顔では、国王様の愛妾になれないではないか!

「うぐっ、今日は、その、体の調子が」

「本当は出来ないんじゃないんですか?先週も、そう言ってましたよ?それに…私、国王様に愛妾にならないかって誘われてるんです。肌の手入れで忙しいんで、二度と声をかけないでもらえますか?魔術長様?ははっ!」

周りの魔術師たちも、常に美しい者の味方だ。
この国は、全てにおいて美しい者の味方なのだ。

「魔術長が魔法陣作るのなんて、見たことないもんねー?」

「そうそう。というか、もう魔法陣なんて誰も出来ないんだから、無理ですって国王様に言ったら?あははっ!ねぇ、新人ちゃん、愛妾になるんでしょ?国王様に、上手く言っておいてよ~」

ぐぬぬ、と頭に血がのぼる。
魔術院の評判は下がる一方で、国王様だけでなく、他の貴族からも酷い陰口をたたかれている。
皆が悪魔と罵っていた醜いリアムがいなくなったら、残ったのはポンコツ集団だと。
あの悪魔がいなければ、何も出来ないお荷物な上に、魔術長は醜い。
もう、苦しい言い訳さえも聞いてもらえなくなっている。
他の貴族は一人も働いてないのに、私は右へ左へ、常に走ってるから、頬が痩けた。
なんてことだ!!私のチャーミングポイントが!!

「くそっ!リアムさえ、リアムさえいれば!」

プライドもかなぐり捨てて思わず口走る。

「えー?あんな奴、魔術長が毎日邪魔だって言ってたじゃなーい?それに、とっくにもう死んでるでしょ?狼に食われて。悪魔にはお似合いの最後~ははっ」

「そうそう、ほんと醜くて、目障りで、気持ち悪かったよねー?あはは。新しく入ったのが美しい子で、ほんと嬉しいよー。国王様の覚えもめでたいし?良かったねー?これで魔術院も安泰、安泰!」

頭の血管がブチブチと切れる音がする。
そんな簡単なことじゃない。
魔術院は、この国を支える重要な機関で、他の貴族が暇つぶしして良いお飾り部署とは違うのだ。
私だって、リアムさえいれば、暇つぶしして一生を過ごせた筈だったのに…!!

「うあー!もう、もう魔術院はおしまいだ!リアム!すまなかった!私が全て悪かった!お願いだから帰って来てくれー!!」

何もかもが、遅かったのか。
初めから間違えていたのか。

そうこうしている間に、遂には国王様の逆鱗に触れ、魔術院は取り潰しとなった。
それまでリアムのお陰で豊富に使えた魔石さえ、自国では新たに作れなくなり、市場に出回っていた魔石も使い果たし、とうとう隣国まで買い付けに行かなければならなくなった。
直接会ってはいなかっただけで、全国民が使っていた魔石は全てリアムが作っていたのだから。
更には魔法陣も誰も使えないが為に、結婚だけでなく子供も産まれなくなり…国力は下降の一途を辿った。

結婚の誓約も、出産のための魔法陣も、何もかもリアムにしか出来なかったのだ。

そのことは、リアムさえも知らないこと。
魔術長も同僚たちも国を貶めた逆賊として、庶民へと簡単に落とされ刑罰も与えられることとなった。
どのような刑罰かは元貴族のため、公にはされていないが、その後、二度とその者達を見た人間はいない。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


くしゅん、と遙か西の国へと旅を続けて来たリアムが、くしゃみをした。
誰か噂してるのかな?まさかね。

「ほら、ね?!言ったでしょ?絶対あるって!」

「まさか、まだ信じられない…こんな国が…悪魔の国…?」

「ほーら、悪魔とか言わないの!!これまでも、色んな人種の人がいたでしょ?!それが普通なの!」

そこは、リアムとよく似た人たちが暮らす国。
つまり西洋人的な人種の国。
これまでに様々な人種の混ざり合う国を旅して来たから、リアムも少しは耐性が付いたみたい。

初めは目を白黒させてたけど、一つ、二つと国を超えるうちに、リアムも街へ入れるようになった。
恐怖心が少しずつ、少しずつ、この青い空に溶けて行ったのかもしれない。

そうして二人で旅を続けて、僕らは、ようやく辿り着いた。

「ねぇ…ここでは、僕の方がへんちくりんかもよ?」

近くの屋台の店員さんに聞いてみる。
やっぱりヨーロッパ系のダンディオジサマだ。

「あの!僕達、ここではモテますか?」

僕の急な質問にも、ベテラン店員さんは、あっはっはっと快活に笑ってくれた。
太陽が似合う明るい国。
リアムだって、この国で生まれ育ったら、こんな風になっていたのかも。

「そうだなぁ、今の流行りは、ムッキムキの筋肉だからねぇ。あんたは痩せすぎてるし、こっちは丸っこくて小さくて問題外。あんた達、二人共モテないな、ここらへんじゃ!」

その返事に、僕とリアムは、ポカンとする。
二人で目を見合わせて、ふふっと笑う。

「丸くて問題外だって」

「私は痩せすぎだと」

ムキッとした腕を見せびらかしながら、オジサマ店員さんが笑ってフォローしてくれる。

「でもね、見た目なんて流行り廃りもあるし、好みもあるし、何より、年取ったら大体みんな同じになるんだから!大事なのは気持ちだよ!結局。気にすんな!俺のコレも、デブだしハゲてるけど、それも全部含めて愛してるからな!あーっはっはっはっ!!」

店員さんの大らかな恋愛論に、僕らも一緒になって大笑いする。
涙が出る程におかしくて、嬉しい。

「あははっ!そうだよね!見た目なんて、年取ったら、皆、大体同じになるよね!」

「ふふっ、本当だ。どうして、あんなにまで拘っていたんだろうか。悩み苦しんで下ばかり見ていた己が愚かに思えてくる」

二人で、手を繋いで笑いながら街を歩く。
ここでは誰も見咎めないし、嫌な顔をする人間も、勿論、石を投げる人間もいない。
あの国を出てからすぐに、リアムは黒くて重いローブも捨てた。


「こんな重いもの、よく後生大事に着てたな、私」

きっと、昔のリアムにとっては唯一自分を守れる鎧だったんだろう。
でも、必要無くなったら、ただ肩が凝る重苦しい塊になった。

僕も、とっくの昔にスーツは捨てて、この世界では一般的な普通の綿の服に革靴。
案外、似合ってる。革靴も、素朴で履きやすい。
無理して買ったスーツの時より似合ってるかも。
紐でウエストを縛ってるだけだから、大食い出来て最高。

今では、リアムは僕の薦めで、身体の線にぴったりと沿った白の上下を着ている。
金の縁取りもされてて、コレが素敵なんだ!
スラリとしたリアムのスタイルの良さが全面に出てるし、どこかの王子様みたいに、空前絶後に最&高にかっこいい。

「うーん。こんなにかっこいいのに、何でモテないのかなー」

思わず呟くと、リアムが僕に向けてバチッとウインクする。
胸がキュン!となる。
こんな仕草をするようになったのも、あの国を出て、リアムの心が解放されたお陰だ。

「私は安心した。この国なら尊を奪われる心配が無いからな」

「もーお、僕もだよ?もしも、リアムがモテモテになったら、僕、嫉妬でおかしくなっちゃうもん!」

クスクス、と笑い合う僕達の間には、何の障害も無かった。
そこにあるのは、澄み渡る青空と僕達の笑い声。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


僕達は、この自由で明るい西の国が大好きになった。
二人暮らしに丁度良い家を探して、あちこち歩いて回るのも楽しい。
旅を続けた僕達も、遂に定住することにした。

「リアム!この家いいんじゃない?ほら、この壁紙がリアムに似合って格好良さが際立つよ」

「うん、ここにしよう。尊は壁紙どころでなく、この世界の何もかもが似合うから選びようがないな。全く、そんなに私を魅了して、一体どうするつもりだ」

「あんたら…凸凹してんのに、お似合いだねぇ~」

家を紹介してくれる案内人を呆れさせる位に、僕らはイチャイチャしていた。
楽しい。
ようやく、旅を終えて、もう毎日がイチャイチャパラダイスだ。
顔も身体も隠す必要もない。
蔑まれることも、笑われることも、呆けられることも。

家を決めたら、仕事だ。
二人で頭を捻って考えて、聞き込みもして、商売を始めた。
西の国では魔石は非常に珍しいらしく、魔石を使った便利な道具もリアムのアイデアで商品として作った。
魔法で、チョチョイと作れるんだから、リアムは天才なんじゃないだろうか。
自慢ですけど、なにか?

その便利道具を僕が露店で試しに売ったら、これが飛ぶように売れた。
庶民に優しい値段設定だと喜ばれたし、僕も嬉しい。
あっという間に人気商品として、あちこちの店に置いてもらえることになった。
小銭がザックザクだ。

それに、この西の国では、元々魔法使いも少なかったという。
足りない時には他国から魔法使いを借りて来ていたらしい。
そこに、リアム登場。
初めは煙たがられるかも、と心配していたけれど。

気付けば、リアムはすっかり魔法使いの皆に溶け込んでいた。
あんなにネガティブの塊だったリアムが、他の魔法使い達と笑い合っている姿は、感動モノだった。

それに、それに…結局、リアムの魔力はこれまでの他国の魔法使いとも桁違いだ!と大歓迎されることになった。

そんなにすごい人だったんだー!と僕は自分のことのように鼻が膨らむ。

黒いローブの魔術師から、白い魔法使いにジョブチェンジ!!
なんかファンシー♡素敵♡

リアムは、普通に仕事をしているだけって言っていたけれど。
その控えめな性格、偉大な魔力や類稀な魔法陣、他を圧倒する高度な魔法技術のおかげで、あれよあれよと国の神殿長なんてすごい役職までもゲットした!
僕の商売は、委託にしたよ。
そんなに、お金には困らなくなったから。

今やリアムは国の尊敬と注目を集める有名人だ。
モテはしないけどね、僕以外には。

「以前の仕事の百分の一の労力で、百倍の利益を得ている」

と、リアム神殿長がお金を数えて、にんまりしてた。
『意外とお金好きなんだね』と言ったら『尊を常に満足させて私の元から決して逃げられなくするため』と少し悪い顔で言われて、下半身が濡れた。
もう!好きーーー!!!

そうして二人の生活の基盤が、トントン拍子に整っていった。


「ああ、そういえば、そろそろ両親をこちらに呼ぼうかと考えているんだが。どうかな?」

「いいね!あ、この家で一緒に暮らす?」

ニヤリ、とリアムが悪い顔で笑う。
こんな顔も、二人きりで旅する内に見せてくれるようになった一面だ。
ワル格好良い。

「一緒だと、思う存分喘げなくなるな?尊が」
    
するりと頬を撫でられて、僕はボンッと顔に熱が集まる。

「なっ、ななななっ!」

「心配いらない。もう両親のための家は目星をつけてある。それにほら、もう一軒買うのに問題無い程の資金もある」

金貨、白金貨を詰めた大袋を掲げてジャラジャラいわせてる。
ニヤニヤ笑いが悪い社長みたいで、断トツに格好良い。
やっぱり好き。

「そういえば、両親だけでなくダーダ達のところに魔石を送った。伝言鳥でな。どうやら、かの国の魔術院が消滅したらしい。優秀な魔術師があれ程いたのに不可思議なこともあるものだ」

「ふぅん、どうしたんだろうね?まあ、あの森で暮らしてたくらいだから、きっとダーダ達なら、関係なく強く生きてくよ」

確かに、と懐かしむように笑い合う。
時々、伝言鳥でやり取りをするのは、リアムの両親とダーダ達くらいだ。

「さて、これで暮らしは大体、整った。あとは私たちの子供のこと、かな?」

「えっ、はっ、でも、そのっ…ね?」

それとこれとは、話が別…だよね?
僕は視線を逸らせて、空を見上げる。
どこまでも続く青い空。

僕は、この世界に落としてくれた神様に幸せですと伝えたい。
僕がモテる国だったから、とかじゃない。
あの日、あの時、あの場所で、たった一人のリアムに会わせてくれたから。

僕達は、決してこの手を離さない。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

美醜逆転世界でフツメンの俺が愛されすぎている件について

いつき
BL
いつも通り大学への道を歩いていた青原一樹は、トラックに轢かれたと思うと突然見知らぬ森の中で目が覚める。 ゴブリンに襲われ、命の危機に襲われた一樹を救ったのは自己肯定感が低すぎるイケメン騎士で⁉︎ 美醜感覚が真逆な異世界で、一樹は無自覚に数多のイケメンたちをたらし込んでいく!

異世界の美醜と私の認識について

佐藤 ちな
恋愛
 ある日気づくと、美玲は異世界に落ちた。  そこまでならラノベなら良くある話だが、更にその世界は女性が少ない上に、美醜感覚が美玲とは激しく異なるという不思議な世界だった。  そんな世界で稀人として特別扱いされる醜女(この世界では超美人)の美玲と、咎人として忌み嫌われる醜男(美玲がいた世界では超美青年)のルークが出会う。  不遇の扱いを受けるルークを、幸せにしてあげたい!そして出来ることなら、私も幸せに!  美醜逆転・一妻多夫の異世界で、美玲の迷走が始まる。 * 話の展開に伴い、あらすじを変更させて頂きました。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

独占欲強い系の同居人

狼蝶
BL
ある美醜逆転の世界。 その世界での底辺男子=リョウは学校の帰り、道に倒れていた美形な男=翔人を家に運び介抱する。 同居生活を始めることになった二人には、お互い恋心を抱きながらも相手を独占したい気持ちがあった。彼らはそんな気持ちに駆られながら、それぞれの生活を送っていく。

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!

結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)  でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない! 何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ………… ……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ? え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い… え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back… ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子? 無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布! って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない! イヤー!!!!!助けてお兄ー様!

処理中です...