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第一章
喧嘩
しおりを挟む「絶対やだ!リアムさんと離れない!別れない!死ぬなんて、絶対ダメ!」
「貴方のためになりません!私などと共にいれば、必ず足枷になります。もうご存知なのでしょう?私がいかに醜く蔑まれる存在だということも…貴方様に無断で結婚の契約まで…私は、身も心も悪魔なのです!」
僕達は、子供みたいにぎゃあぎゃあと言い合いをしていた。
「それでもいい!僕はリアムさんと離れたくない!」
「尊様は神の子なのです。神子様なんです!私と一緒に居ることなど神がお許しになりません」
喧嘩の途中でご飯を食べて、一緒に寝て、目が覚めて喧嘩する。
リアムさんの魔力が回復して腕を治しながらも喧嘩は続いた。
「この国がおかしいだけでしょ!他の国に行こうよ!リアムさんの生まれた国とか!」
「は?いえ、私の生まれはこの国ですが?」
だめだ。リアムさんも全然分かってない。
「だからぁ!リアムさんのご先祖がどこから来たかを、探すんだよ!絶対、どこかにリアムさんと同じ姿の人達が暮らす場所があるはずだから!」
「先祖…?私たちの先祖は、神への冒涜により醜い姿に変えられた、と教えられましたが」
僕はぷっくりした足でドシンドシン、と床を踏み鳴らす。
もう、話になんない!!
「んなわけ、ないだろぉーっ!!!リアムさんと、ここの国の人たちは、祖先が違うの!人種が違うの!!遺伝子!!顔が違うのは普通なの!当たり前!リアムさんは醜くなんかないし、むしろ格好いい!そもそも!!神への冒涜なんかで見た目が変わるわけ、あるかぁーーっ!!」
僕のキャラ、変わってない?
ゼエハァ、と息切れを起こしながらも相当長く説得、いやブチ切れて、どうにかリアムさんも渋々了承してくれた。
「本当に、このまま私と旅をして暮らすのですか?見たこともない私の故郷?とやらを探しに?国王陛下の居られる王都へ向かわず?」
「しつこい!もう千回は言った!これ以上言うと、キスするよ!!」
僕は眉間にシワが寄るのをグニグニと指で伸ばす。
イライラは血圧を上げるから良くないのに!
デブに高血圧はダメ、絶対。
「うっ…それは魅力的過ぎて…し、しかし…国王陛下の元へ行けば、尊様はこの国の全てを手に入れられるお方なのに…」
いつまでも、ウダウダウダウダ。
本当にキスしちゃうからね!!
「国王なんて知らないし、そこまで太った人は生理的に無理。絶対に仲良くなれない」
国王の絵姿とやらをダーダに見せてもらい、あまりにデブ過ぎてムリ!と一刀両断した。
皆がドン引きしてたけど、そんなこと気にしない。
むしろドン引きしたのは僕の方だから。
僕も太ってるけど、この国王程じゃない。
この人、絶対一人で歩けないよ。
絵のほとんどが着飾った国王の肉で埋まってた。
肉に埋もれて目があるのかどうかさえ分からない。
これが好きな人もいるんだろうけど、僕には無理って話。
「はぁ、私は、なんと罪深い…強欲で神をも欺く…地獄へ何度落ちれば良いのか。神よ、どうか尊様だけはお許し下さい。私の罪は私だけに…」
「それも千回聞いた!もうそれ禁止!神への贖罪禁止ね!!」
リアムさんが、およよ、と項垂れている。
なんなの、それ。
僕と一緒が嫌なわけ?
僕は、こんなに大好きなのに。
そんなに離れたいって言われても、もう意地でも絶対に離れてやらないんだから!!
「そんなわけで、お陰様でリアムさんも回復したということで僕達は出発します。本当にお世話になりました!」
ダーダ達への出立の挨拶。
項垂れるリアムさんの背中をバシンと叩いて猫背を直させる。
僕、世話女房みたい。
でも、リアムさんの魔力も回復したおかげで、左腕もすっかり全快して良かった。
「滅相もございません、この思い出は生涯の宝です」
「貴重な魔石まで頂いてしまい、なんと御礼を言ったら良いか」
リアムさんは、お世話になった御礼にとダーダ達にたくさんの魔石を用意した。
ダーダ達は、まだ少しだけ複雑そうな顔ながらも感謝してくれてた。
丁寧に御礼を言われて、リアムさんも嬉しそうだった。
僕の伴侶、すごいでしょ?
「それで、その…伴侶様」
ダーダとダードが視線で会話をしてから、言いにくそうに、でも、はっきりと言った。
「…どうか、私たちの罪をお許し下さい」
「…え?」
リアムさんは、目をパチクリさせている。
僕も、小さい目で、ちょっとだけパチクリ。
「貴方様を、その…見た目だけで悪魔と決めつけ、手を下そうとした私達の方が、余程悪魔に心を奪われておりました。汚れた私共から神様は貴方様を身を挺して守り、手づから癒されました。また、神様を助ける為に、己の命を顧みず全ての魔力を使い切っ貴方様を見て、私達は…」
ダーダとダードの小さな目から、ポロポロと涙がこぼれた。
豚に涙。
価値あるのか分からないけど、それは綺麗だった。
なんかわからないけど、僕も涙が出た。
「…っ、うん、うんっ」
泣きながら、僕は頷く。
胸がいっぱいになる。
みんな良い人達だった。
子豚ちゃんも素直で可愛かったし。
「…っありがとう…ございます…」
リアムさんが頭を下げながら漸く振り絞ったのは、その一言だけだった。
でも、その一言に込められた気持ちが、僕達には深く伝わった。
握り締めたリアムさんの拳に手を添える。
震える肩を撫でる。
「なーにー?なんでみんな泣いてるのぉー?わっ!神様も泣いてる!大変だぁ!」
子豚ちゃんが心配して周りをコロコロ転がるから、僕達はいつの間にか笑っていた。
「はあ、子供はいいよねー。まあ、僕は男だから産めないけどさ」
「「「はあ?」」」
「?うん?」
僕には、まだ分からないことばかりらしい、この世界。
「神様、その、男?とは?」
「皆、神の祝福を受ければ子供は産めます」
「私、魔術師ですから、その祝福を授けられます。むしろいつでも!尊様が望んで下されば!!」
同時に喋られて、何のことやらさっぱり分からないけど、ここはやっぱり異世界だ。
「うーん?とりあえず、出発しましょ!旅しながら、ゆっくり聞きますから。あ、今度は嘘なしで!ね?リアムさん?」
「…かしこまりました、ご主人様」
リアムさんは、きまり悪そうに再び頭を下げている。
ご主人様って響き、なんかちょっと良いかも。
こんなイケメン執事がいる御主人なんて最っ高!
「じゃあ、ありがとうございました!お元気でー!!」
僕達は、ダーダ達から譲ってもらった大きな馬に乗って、新しい未来へと旅立った。
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