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第一章
醜い顔
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それは、まさにこの世の終わりの瞬間だった。
遂に、遂に、見られてしまった。
まるで神の子ように儚く美しいこの方に。
誰もが忌み嫌う私の魔物のような禍々しくも醜い顔を。
それは、あまりに辛い時間だった。
こんなにも清らかで美しい方から、これからどんな言葉を投げつけられるのか。
神は、なぜこうも私を追い詰め、陥れることばかり繰り返すのか。
これも、我が祖先が遥か昔に大罪を犯した贖罪なのか。
ぎゅうっと目を閉じて爪が皮膚に食い込む程に拳を強く握り締めて待つ。
それが、私に出来る最大の防御だった。
私は既にこの方に魂を奪われてしまっている。
果たして、この麗しい唇から放たれる酷い言葉の羅列に耐えることが出来るだろうか。
…?
しばらく待つ。
何も来ない…
まさか、私を見て、もう逃げ出されたのでは…?
しかし、この雨の中、外を歩くのは危険だ。
ならば、馬を差し上げて私の僅かな荷物も全て差し出せるものはお渡しして、私がここから去る方が良いだろう。
そう決意して、そぅっと目を開ける。
すぐ目の前に、あの美しい顔があった。
思わず身体がビクりと大きく跳ねる。
既に居なくなったかと思われた方は私の目の前でじっと立ち、穴が空くほど私のことを見ていた。
あまりの物珍しさに見ているのだと俯くが、その目に蔑みや侮蔑の色が無いことに遅れて気が付く。
純粋に驚いているようだ、とほんの少しだけ安堵する。
「こんなに醜いものは、初めて見ましたか」
自虐的に笑いながら声をかけると、ハッとしている。
どの表情も、まるで絵本に出てくる美しい神の子ようで見惚れてしまう。
こんなにも美しい存在が、この世にいただろうか。
神の子の美しさの前では、かの王様さえも霞んでしまう程だ。
「ごっごめんなさい!そのっ、あ、あんまりにもきれいだから、見惚れちゃったんです」
え?は?
聞き間違いだろうか。
うん、そうに違いない。
が、一応確認だけさせて頂こう。
「あの…今、なんとおっしゃいましたか?」
私の空耳だろうことは分かっているが、念の為、確認だ。あくまで念の為。
「ご、ごめんなさ、い?」
私の顔を伺いながら、恐る恐るという雰囲気で答えて下さる。
こんな私に、そのようにへりくだる必要も無いのだが、愛らし過ぎる上目遣いに胸が締め付けられるどころか、恐らく肋骨辺りが折れた。
肺を骨が刺している気がする。
息が上手く出来ない。
これも神の子様に出会えた今日という日の記念にしたい。
「そ…その、後です…私を…」
聞き間違いなのは分かっているが、あんまりにも自分に都合の良い空耳は正しておかないと、次は背骨が折れる。
少し考える表情も、とてつもなく絵になる。
絵師に頼んで家宝にしたい。
「んー…あと…?あ!あんまりきれいだから、見惚れちゃった?」
聞き間違いじゃなかったー!!!
いや、これは、どういうことだろうか。
きれい?誰が?
きれいとは、醜いという意味だったろうか。
「つかぬ事をお聞きしますが、きれいとは、どのような意味で、誰のことですか?」
私の質問に、神の子、いや化身様は一旦ポカンとしてから、ハッとした様子で焦りながら説明して下さった。
私に真正面から向き合って、こんなにも輝く表情で話しかけてくださる方がいるなんて。
私は生きてて良かった。
神様、ありがとうございます。
もう、くそったれなんて思いません。
「えっと…あ!男の人に、きれいってダメでしたよね、ごめんなさい。あまりにカッコよくて、素敵だから、つい変なこと口走っちゃって。なんか、醜い?みたいなこと言ってたましたけど、冗談ですよね?あなたみたいに素敵な方、生まれて初めて見ました。あ、こんなこと、僕に言われたら気持ち悪いか…すみません…」
なぜか、少ししょぼんと項垂れる神子様。
その神のお告げのような美しい声に酔いしれる間もなく、その内容を頭の中で復唱する。
今度は、私がポカンとする。
かっこいい?素敵?
この、この私が?
「私が…きれい?かっこいい…?素敵…?」
「そりゃーもう!あなたみたいな素敵な人、初めて見ました。男だけど、こういう人なら、抱かれてみたいってやつです!…あっ、ごめんなさい!」
私の呟きに、すぐさま反応してきらきらと輝く笑顔で返された。
少し恥ずかしそうに、最後はふいっと横を向いて俯く。
確かに、この天の御遣い様は言った。
あははは、と笑っている笑顔が、薄暗い洞窟を眩しい程に明るく照らしていた。
この美を司る神のようなお方が、このような悪魔の化身と蔑まれる私を、きれいと…素敵と…褒めてくれた。
これは、間違いない。
私は、深く確信した。
これこそ、白昼夢だ。
遂に、遂に、見られてしまった。
まるで神の子ように儚く美しいこの方に。
誰もが忌み嫌う私の魔物のような禍々しくも醜い顔を。
それは、あまりに辛い時間だった。
こんなにも清らかで美しい方から、これからどんな言葉を投げつけられるのか。
神は、なぜこうも私を追い詰め、陥れることばかり繰り返すのか。
これも、我が祖先が遥か昔に大罪を犯した贖罪なのか。
ぎゅうっと目を閉じて爪が皮膚に食い込む程に拳を強く握り締めて待つ。
それが、私に出来る最大の防御だった。
私は既にこの方に魂を奪われてしまっている。
果たして、この麗しい唇から放たれる酷い言葉の羅列に耐えることが出来るだろうか。
…?
しばらく待つ。
何も来ない…
まさか、私を見て、もう逃げ出されたのでは…?
しかし、この雨の中、外を歩くのは危険だ。
ならば、馬を差し上げて私の僅かな荷物も全て差し出せるものはお渡しして、私がここから去る方が良いだろう。
そう決意して、そぅっと目を開ける。
すぐ目の前に、あの美しい顔があった。
思わず身体がビクりと大きく跳ねる。
既に居なくなったかと思われた方は私の目の前でじっと立ち、穴が空くほど私のことを見ていた。
あまりの物珍しさに見ているのだと俯くが、その目に蔑みや侮蔑の色が無いことに遅れて気が付く。
純粋に驚いているようだ、とほんの少しだけ安堵する。
「こんなに醜いものは、初めて見ましたか」
自虐的に笑いながら声をかけると、ハッとしている。
どの表情も、まるで絵本に出てくる美しい神の子ようで見惚れてしまう。
こんなにも美しい存在が、この世にいただろうか。
神の子の美しさの前では、かの王様さえも霞んでしまう程だ。
「ごっごめんなさい!そのっ、あ、あんまりにもきれいだから、見惚れちゃったんです」
え?は?
聞き間違いだろうか。
うん、そうに違いない。
が、一応確認だけさせて頂こう。
「あの…今、なんとおっしゃいましたか?」
私の空耳だろうことは分かっているが、念の為、確認だ。あくまで念の為。
「ご、ごめんなさ、い?」
私の顔を伺いながら、恐る恐るという雰囲気で答えて下さる。
こんな私に、そのようにへりくだる必要も無いのだが、愛らし過ぎる上目遣いに胸が締め付けられるどころか、恐らく肋骨辺りが折れた。
肺を骨が刺している気がする。
息が上手く出来ない。
これも神の子様に出会えた今日という日の記念にしたい。
「そ…その、後です…私を…」
聞き間違いなのは分かっているが、あんまりにも自分に都合の良い空耳は正しておかないと、次は背骨が折れる。
少し考える表情も、とてつもなく絵になる。
絵師に頼んで家宝にしたい。
「んー…あと…?あ!あんまりきれいだから、見惚れちゃった?」
聞き間違いじゃなかったー!!!
いや、これは、どういうことだろうか。
きれい?誰が?
きれいとは、醜いという意味だったろうか。
「つかぬ事をお聞きしますが、きれいとは、どのような意味で、誰のことですか?」
私の質問に、神の子、いや化身様は一旦ポカンとしてから、ハッとした様子で焦りながら説明して下さった。
私に真正面から向き合って、こんなにも輝く表情で話しかけてくださる方がいるなんて。
私は生きてて良かった。
神様、ありがとうございます。
もう、くそったれなんて思いません。
「えっと…あ!男の人に、きれいってダメでしたよね、ごめんなさい。あまりにカッコよくて、素敵だから、つい変なこと口走っちゃって。なんか、醜い?みたいなこと言ってたましたけど、冗談ですよね?あなたみたいに素敵な方、生まれて初めて見ました。あ、こんなこと、僕に言われたら気持ち悪いか…すみません…」
なぜか、少ししょぼんと項垂れる神子様。
その神のお告げのような美しい声に酔いしれる間もなく、その内容を頭の中で復唱する。
今度は、私がポカンとする。
かっこいい?素敵?
この、この私が?
「私が…きれい?かっこいい…?素敵…?」
「そりゃーもう!あなたみたいな素敵な人、初めて見ました。男だけど、こういう人なら、抱かれてみたいってやつです!…あっ、ごめんなさい!」
私の呟きに、すぐさま反応してきらきらと輝く笑顔で返された。
少し恥ずかしそうに、最後はふいっと横を向いて俯く。
確かに、この天の御遣い様は言った。
あははは、と笑っている笑顔が、薄暗い洞窟を眩しい程に明るく照らしていた。
この美を司る神のようなお方が、このような悪魔の化身と蔑まれる私を、きれいと…素敵と…褒めてくれた。
これは、間違いない。
私は、深く確信した。
これこそ、白昼夢だ。
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