エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

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解放された村雨くん

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 村雨くんがやった事なのか、村雨丸がやった事なのかは分からないけど、降り注ぐ弓矢の中、村雨くんはおあきちゃんを救い出した。

「くははは。
 村雨丸、お前も早く八房の力を吸収しろ」
「い、い、い、嫌だ」
「村雨丸!
 急がなければ時間が無いであろうが。
 さっさと妖力を回収せぬか!」
「わ、わ、わ、分かりました」

 そう言うと、村雨くんが林のように数多の弓矢が突き刺さる場所に目を向けて、駆けだした。
 地面に突き刺さっている弓矢を押し倒し、あるいは折りながら、その中で傷つき、行き絶え絶えの信乃ちゃんたちに襲い掛かる。
 もはや、傷つき体力を失っている信乃ちゃんたちでは、村雨くんの敵ではなかった。容赦なく、村雨くんが信乃ちゃんや私を切り刻んでいく。

「村雨丸、どうじゃ?」
「やはり何かが違う気が」
「なんじゃと?
 そこの娘、我らをたばかったのではあるまいな」

 足利成氏がおあきちゃんに向かって言った。

「わ、わ、私は知っている事をすべて村雨殿に話しました。
 村雨殿のために、姫様にも刃を向けました!」
「では、これはどう言う事じゃ?」

 足利成氏が不安げな表情で、辺りを見渡し始めた。また私たちが、どこかからか現れるのではないかと不安になっているのだろう。

「くっ!」

 そんな足利成氏の視界の中で、再び苦痛を浮かべた表情で、村雨くんが地面に跪いた。

「足利さんの想像のとおりなんだよね」

 その声に足利成氏が、私たちに視線を向けてきた。
 私の背後には信乃ちゃんたちがいて、誰も傷ついてもいない事に、足利成氏の顔が歪んだ。

「まだあなたたちは幻術の世界の中にいたの。
 村雨くん大好きのおあきちゃんが裏切るのは想定内だったの。
 まさか、村雨丸の小刀まであって、それで差してくるとは考えていなかったんだけどね。
 ともかく、あなたたちの負けと言う事だね」
「まだ、これも幻術の中と言う事もあるのか?」
「さあ、どうかな?
 敵に手の内を明かす人っていないんじゃない?

 私はね、八房の夢を見たんだ。
 八房はね、元々は飼い犬だったんだ。
 でもね、かわいがってくれていた飼い主は物の怪に殺されちゃったんだ。
 飼い主を守れなかったその悔しさ、怒り、そんな八房の心が物の怪を呼寄せて、取りつかせてしまったんだよね。
 でも、物の怪に取りつかれても八房は飼い主への想いを失う事なく、いつの頃からか主客逆転して、自分の体を取り戻したんだ。
 だからね、八房の望みは物の怪たちのせん滅と、平穏な日々。
 でも、それを果たす前に寿命を迎える事になったので、自分の力を受け継ぐ者に気を使ったみたいなんだよね。
 だからさ、私は八房の力を野望を抱く者に渡してはだめだと思うんだよね」
「な、な、何が言いたいのじゃ」
「この力で天下も狙おうなんて言うあんたには、この力は渡さないって事」

 そう言い終えると、私は信乃ちゃんの所に向かった。

「信乃ちゃん。
 私、頼みがあるんだけど」

 そう言ってから、信乃ちゃんにこれからの事を頼んだ。

「しかし、それはまことなのですか?」

 信乃ちゃんの言葉に頷いてみせる。

「ですが、姫がそのような危険な賭けをされる必要は無いのでは?」
「これはね。私自身の賭けでもあるんだよね。
 頼んだからね。日時と場所はこれに書いてあるから」

 そう言って、一枚の紙を信乃ちゃんに渡してから、村雨くんに近づいていく。
 信乃ちゃんたちが、無茶をしないようにおあきちゃんの身柄を確保しにいく姿が視界の隅に映っている。
 一歩、一歩進むたびに村雨くんの表情がはっきりとしてくる。

「ぐっ!」

 数mの距離まで近づいた時、鬼のような形相でなんと立ち上がり、私に刃先を向けようとした。

「だ、だ、だ、だめです。
 ち、ち、近づか」

 どもって、目を泳がせた村雨くんは体中から力が抜けたのか、地面に突っ伏した。

「村雨くん。大丈夫だよ。
 足の怪我、治してげるね」

 そう言って、村雨くんの足の怪我を治すと、村雨くんを見つめた。

「私を信じて」

 そう言って、村雨くんのすぐ前にまでやって来た。
 重力を強めているのは村雨くんがいる狭い領域。
 その力を緩めて行く。

「ぐっ!」

 再び鬼のような形相で村雨くん、いいえ村雨丸が立ち上がり、私にその刃先を向けようとしている。

「大丈夫だよ。村雨くん」

 村雨丸の中にいる村雨くんに語りながら、その刃先の前に立った。

「さあ。
 突き刺しなさい。
 これで、村雨丸は村雨くんから離れるはず」

 満足に動けない村雨丸にゆっくりと近づくと、その刃先を私の腹部にあてがった。

 痛い!
 ゆっくりと、村雨丸が私の腹部を貫いていく。
 温かいものが体を伝うのが分かる。
 きっと、血が流れ出ているのだろう。
 私の体から力が抜けていく。
 これは私の命の力が抜けているだけじゃない。
 私に宿りし、八つの妖力が村雨丸に流れているんだろう。
 脱力感が私を襲った時、村雨丸が眩い光を放った。

 全てを吸い尽くしたの?
 光が消えた時、私の腹部には村雨丸だけが突き刺さり、村雨くんは少し離れた場所で尻餅をついていた。
 村雨くんの表情は悲壮感いっぱい。きっと、村雨丸から解放された素の村雨くんに違いない。

「あ、あ、ありす。
 そ、そ、そんな」
「村雨丸から解放されても、やっぱどもるんだ」

 村雨くんにそう言って、にこりと微笑んだ。
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