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一途な恋は狂気
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村雨丸の手によって、葬ったはずの私たちが整列している姿に足利成氏は完全に狼狽している。
勝利目前から一気に形勢逆転されたのだから、その衝撃は計り知れないはず。
「村雨丸!
何をしておる!」
足利成氏はまだ観念していなさげ。
主である足利成氏の命に応えようと、村雨くんも必死の形相であがいているけど、さっきの場所から全く動けていない。
「諦めた方がいいんじゃない?
無理させると村雨くんの体が壊れちゃうじゃない」
「依代の体など、どうでもよいわ」
「ひどい事いうんだね。
悪いんだけど、村雨くんは返してもらいますね。
それと、この力もあなたには渡さないから」
にこりとした笑みを向けて、首を少し傾げた時だった。
ぐさっ! と、私の横っ腹に何かが突き刺さった。
「なに?」
そこに目を向けた時、私のわき腹に小刀が突き刺さっていて、その小刀を持つ小さな手は大きく震えている。
「おあきちゃん?」
「悪いんですけど、村雨殿のために、死んでください」
手は震えていても、おあきちゃんのその瞳には固い決意が浮かんでいた。
「おあき、何をする」
「お前」
八犬士たちがおあきちゃんを引き離すと、小刀だけが私のわき腹に残った。
怪しげな煌きを放つ小刀に目を向けたまま、私は膝を屈して地面に両手をついた。
「どうした?
傷を治してみろ!」
足利成氏が得意げに叫んだ。
何か仕掛けがあったらしい。
「で、で、できない」
私の苦痛に震える声に、足利成氏が答えをくれた。
「そやつが持つ小刀は、村雨丸と同時に打たれしもの。
八房の力を吸い取る力を持っておるのじゃ。
おぬしたちがよからぬ策を考えていると、そやつが村雨丸に打ち明けおったゆえ、こちらも策を用意しておいたのじゃ。
おぬしたちの策など、最初から知っておったのじゃ」
「おあきちゃんも、その刀に乗っ取られているの?」
「わ、わ、私は違うわよ。
私はただ、ただ、村雨殿が好きなのっ。
村雨殿は殺させない。
村雨殿のためなら、なんだってする!」
おあきちゃんは村雨くん恋しさに、私たちの事を村雨くんにチクったらしい。
そこまでなら、理解もできるけど、村雨くんを殺させないために、自ら人を刺すと言う事までするなんて。
私の元の世界と違い、人の生死の境界が近いから、抵抗感が少ないのかもしれない。
「放て!」
ひゅん、ひゅん、ひゅん。
足利成氏の声に続き、空気を引き裂く音を携え、空を覆わんばかりの弓矢が私たちに向かってきた。
刀を構え、降り注ぐ弓矢を振り払おうと、空を見上げる信乃ちゃんたち。
一方、自由になったおあきちゃんは再び私のところに駆けより、わき腹に突き刺さっている小刀を抜き、大きく構えなおした。
弓矢が降り注ぐ下、もう一度、私を刺す気らしい。
「おあきちゃん。
このままだと、あなたも弓矢に打たれて死んじゃうよ?」
「いいの。
村雨殿のためなら」
そう言ったおあきちゃんの瞳に迷いは、微塵もなかった。
きっと、初めての恋なのかも知れない。
全く一途な初めての恋には困ったものだ。
「村雨くん、君も男の子なら、
この子だけでも、救いなさい!」
私の妖力が薄れた事で、重力の束縛から逃れた村雨くんに向かって、最後の力を振り絞って叫んだ直後、私の首筋におあきちゃんの小刀が突き刺さり、私は地面に突っ伏した。
勝利目前から一気に形勢逆転されたのだから、その衝撃は計り知れないはず。
「村雨丸!
何をしておる!」
足利成氏はまだ観念していなさげ。
主である足利成氏の命に応えようと、村雨くんも必死の形相であがいているけど、さっきの場所から全く動けていない。
「諦めた方がいいんじゃない?
無理させると村雨くんの体が壊れちゃうじゃない」
「依代の体など、どうでもよいわ」
「ひどい事いうんだね。
悪いんだけど、村雨くんは返してもらいますね。
それと、この力もあなたには渡さないから」
にこりとした笑みを向けて、首を少し傾げた時だった。
ぐさっ! と、私の横っ腹に何かが突き刺さった。
「なに?」
そこに目を向けた時、私のわき腹に小刀が突き刺さっていて、その小刀を持つ小さな手は大きく震えている。
「おあきちゃん?」
「悪いんですけど、村雨殿のために、死んでください」
手は震えていても、おあきちゃんのその瞳には固い決意が浮かんでいた。
「おあき、何をする」
「お前」
八犬士たちがおあきちゃんを引き離すと、小刀だけが私のわき腹に残った。
怪しげな煌きを放つ小刀に目を向けたまま、私は膝を屈して地面に両手をついた。
「どうした?
傷を治してみろ!」
足利成氏が得意げに叫んだ。
何か仕掛けがあったらしい。
「で、で、できない」
私の苦痛に震える声に、足利成氏が答えをくれた。
「そやつが持つ小刀は、村雨丸と同時に打たれしもの。
八房の力を吸い取る力を持っておるのじゃ。
おぬしたちがよからぬ策を考えていると、そやつが村雨丸に打ち明けおったゆえ、こちらも策を用意しておいたのじゃ。
おぬしたちの策など、最初から知っておったのじゃ」
「おあきちゃんも、その刀に乗っ取られているの?」
「わ、わ、私は違うわよ。
私はただ、ただ、村雨殿が好きなのっ。
村雨殿は殺させない。
村雨殿のためなら、なんだってする!」
おあきちゃんは村雨くん恋しさに、私たちの事を村雨くんにチクったらしい。
そこまでなら、理解もできるけど、村雨くんを殺させないために、自ら人を刺すと言う事までするなんて。
私の元の世界と違い、人の生死の境界が近いから、抵抗感が少ないのかもしれない。
「放て!」
ひゅん、ひゅん、ひゅん。
足利成氏の声に続き、空気を引き裂く音を携え、空を覆わんばかりの弓矢が私たちに向かってきた。
刀を構え、降り注ぐ弓矢を振り払おうと、空を見上げる信乃ちゃんたち。
一方、自由になったおあきちゃんは再び私のところに駆けより、わき腹に突き刺さっている小刀を抜き、大きく構えなおした。
弓矢が降り注ぐ下、もう一度、私を刺す気らしい。
「おあきちゃん。
このままだと、あなたも弓矢に打たれて死んじゃうよ?」
「いいの。
村雨殿のためなら」
そう言ったおあきちゃんの瞳に迷いは、微塵もなかった。
きっと、初めての恋なのかも知れない。
全く一途な初めての恋には困ったものだ。
「村雨くん、君も男の子なら、
この子だけでも、救いなさい!」
私の妖力が薄れた事で、重力の束縛から逃れた村雨くんに向かって、最後の力を振り絞って叫んだ直後、私の首筋におあきちゃんの小刀が突き刺さり、私は地面に突っ伏した。
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