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村雨くんの刀は竹光じゃない??
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大きな目的だった妙椿退治。
それはあっさりと成就した。
それを知った鎌倉公方 足利成氏から恩賞を与えるとの知らせが届けられた。
私的には興味の無い話だけど、村雨くんが八犬士たちのためにもと言うので、足利成氏のところに向かう事にした。
そんな知らせが届けられた事と、大きな任務を果たした達成感からか、信乃ちゃんたちは上機嫌で酒宴を楽しんでいる。
私は別室で村雨くんとおあきちゃんの三人でいる。
「妙椿は倒せたと言う事でいいのかな?」
やはり不安できいてみる。
「だと思います」
きっぱりと言い切った。村雨くんの言う事が正しいとしたら、私は妙椿を倒しても元の時代に戻れない事になる。
もしかすると、もうこのままこの時代に残るしかないのかも知れない。
「そっかぁ」
「私も一緒に行きたかったです」
おあきちゃんが村雨くんだけを見ながら、そう言った時、部屋の外の廊下を歩いて行く人の気配を感じた。
廊下に視線を向けると、角ちゃんが廊下を歩いていた。その進んでいく方向から言って、厠に向かっているらしい。そして、視線を村雨くんに戻した時、村雨くんは立ち上がっていた。
「厠へ」
そう言い残して、厠へ向かった村雨くんはすぐに戻って来たけど、話の途中で突然トイレに立った村雨くんの態度から言って、さっきの話を村雨くんと続ける気は無くなってしまった。
黙り込む私に代わって、おあきちゃんが村雨くんに話し続けている。
「鎌倉公方様とはどのようなお方なのでしょうか?」
「立派なお方です」
二人の会話に興味はなく、薄暗さも手伝って、目を閉じると、そのまま眠ってしまいそう。そんな静かな空間は文ちゃんによって崩された。
どたどたと廊下を慌ただしく走る足音。
「みんな来てくれ」と、慌て気味な文ちゃんの声。
何か緊急事態と言うのが伝わってくる。
「何かあったのかな?」
「さあ?」
そう言って、村雨くんがゆっくりと立ち上がった。
「犬村殿が」
文ちゃんの言葉から言って、角ちゃんに何かがあったに違いない。
信乃ちゃんたちも部屋から飛び出して、文ちゃんと合流し、厠に向かって行く。
私も立ちあがり、信乃ちゃんたちの後を追った。
「こ、こ、これは」
「犬田殿、犬村殿を救う事は?」
信乃ちゃんたちの背後からのぞく光景に、私は両手で顔を覆った。
狭く薄暗い厠の中は、赤黒い血で塗り染められ、その床に転がるのは角ちゃん。
「もはや私の力の及ばぬ状態で」
文ちゃんは治癒の力がある。でも、死人を蘇らせる事は出来ない。
角ちゃんは死んでいると言う事だろう。
床と壁を染める赤黒い角ちゃんの血の量から言って、それは確実っぽい。
と言うか、生きていたら、こんなところで突っ伏したまま動かないなんて事もないはず。
「誰がこんな事を」
「そんな事より、早く部屋に」
信乃ちゃんの言葉に、角ちゃんの遺体を部屋に運び入れた。
揺らめくろうそくの明かりが映し出す角ちゃんの死に顔。
取り巻くのは信乃ちゃんたち八犬士たちと、私に村雨くん。
「せっかく妙椿を倒し、公方より恩賞をもらえると言うのに」
「誰がこのような事を」
「そ、そ、そ」
私の横で、村雨くんの口からそんな言葉が聞こえて来た。
大きな声ではなかった事と動揺からか、信乃ちゃんたちは気づいていないらしく、誰も村雨くんに視線を向けようとしていない。
村雨くんはと言うと、目が泳いでいる。
なんで?
何か知っている?
「そう言えば、村雨くん、角ちゃんと同じ時に厠に行かなかった?」
何か知っている事を言うんじゃないかと思って、村雨くんに話を振ると、信乃ちゃんたちの視線が村雨くんに集中した。
「まことですか、村雨殿」
「私が厠に行った時には、犬村殿はおられませなんだ」
村雨くんはきっぱりと言い切った。
厠は一つ。
文ちゃんがあの時、厠へ行ったのなら、村雨くんと会わなかったなんて事は無いはず。
としたら、あの時、角ちゃんがトイレに行ったと思ったのは、私の思い過ごし?
確かに厠に入る所は見ていない。
「犬村殿がわれらの部屋を出た時に、村雨殿も部屋にはおられなんだと言う事ですか?」
「犬村殿は漏れそうだと申しておったゆえ、まっすぐに厠に向かったはずじゃが」
「犬村殿の傷は背後から刀で刺されておる。
しかも傷口の位置から言って、小柄な者の仕業」
状況から言って、村雨くんに疑いが向いている。
私は村雨くんじゃないと分かっている。
竹光で人は殺せない。
でも、それは口にできない。
「じゃあさ、誰か怪しい人を見なかったかな?」
信乃ちゃんたちの疑いの矛先を向けるべき他の誰かを求めた。
村雨くんが見ている可能性はあるはず。
「いえ。誰も」
私のそんな思いに気づいているのか、いないのか分からないけど、村雨くんは淡々と言い切った。
それがきっと村雨くんとしての事実。
ここで、誰かを見たなんて嘘を言っても仕方ないのも確か。
「そうですか。
では、村雨殿を疑う訳ではございませぬが、念のため刀を見せていただけませんでしょうか?」
信乃ちゃんが村雨くんに言った。
「そ、そ、それは」
竹光を暴くのはかわいそう。信乃ちゃんたちを止めようとした。
でも、止める理由が見つからず、言葉はそこで止まってしまった。
信乃ちゃんたちは私に視線を向けて、続く言葉を待っている。
どんな理由なら、みんな納得してくれるの?
そう悩んでいた時、村雨くんが立ち上がった。
「仕方ありません。
お見せいたします」
そう言って、自分の刀の柄に手をかけた。
信乃ちゃんたちも立ち上がり、注意を村雨くんの動きに集中させた。
もし、そのまま村雨くんが襲ってきた時のためかも知れない。
チャッ!
そんな音を立てて、村雨くんの刀が抜き放たれた。
私は少し顔を背けて、その刀を見ないようにした。
「おお」
「こ、こ、これは」
信乃ちゃんたちがどよめいている。
きっと、竹光の事実を知ったからだろう。
これで、村雨くんの無実は証明されたはず。
そんな思いで視線をみんなに戻した時、信じられない光景が目に飛び込んできた。
村雨くんが右手に持つ刀は、禍々しささえ感じずにいられないほどの妖しい金属光沢を放っていた。
「嘘っ!」
そんな言葉が私の口からこぼれ出た。
ただの刀には思えない禍々しさを持った刀を構える村雨くん。
さっきの信乃ちゃんたちの反応は、その禍々しさを感じ取っての事。
そう思った私に、意外な言葉が届けられた。
「村雨殿。これは失礼つかまつった」
「おしまいくだされ」
「村雨殿の刀では、人は斬れぬ。
やはり、犬村殿を殺めたのは他の誰かに違いあるまい」
「えっ?
そうなの?」
どう見ても、人を斬れそうな。いえ、それ以上にもっと危険なものを感じてしまう。
でも、刀と言うものに詳しくない私には分からない何か理由が?
そんな思いで、信乃ちゃんに目を向ける。
「姫。失礼ですが、この事は内密に」
信乃ちゃんが、悪い事をした的な表情で私に言った。
村雨くんの刀には隠さなければならない何か秘密があって、人を斬れない。
その秘密を誰にも言わないでって事?
でも何か違うような?
もしかして、竹光に見えているとか?
「えぇーっと、あれって竹光?」
私の言葉に信乃ちゃんたちが静かに頷き返した。
どう言う事?
信乃ちゃんたちにはあれが竹光に見えたらしい。
いいえ。以前に見た時、確かに私も竹光に見えた。
でも、今は真剣と言うより、もっと禍々しい、そう妖刀に見えた。
二回目に見ると、竹光に見えない?
私と一度、一緒に村雨くんの刀を見ているおあきちゃんの反応を知りたくて、おあきちゃんに目を向けた。
「二度と、こんな事しないでください。
村雨殿がかわいそうです」
「おあき、大丈夫。
これだって、私は強いですから」
会話の内容から言って、おあきちゃんには竹光に見えているっぽい。
二回目だから、竹光に見えないと言う訳じゃ無さげ。
としたら、どうして私だけ、妖刀に見えるの?
妖刀?
その言葉に、信乃ちゃんと出会った時に教えてもらった話が、脳裏によみがえって来た。
「抜けば、刀の付け根より……」
「妖力を吸収された物の怪たち……」
私の頭の中にこれまでの出来事が浮かんできた。
突然現れたお侍の一団、幻術を破られた化け猫。
もしかすると。
私の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
その仮説が正しくて、村雨くんの刀が竹光でなかったとしたら、多くの謎が解ける気がする。
その仮説を確かめるためには、確かめなければならない事がいくつかある!
村雨くんにかけられた疑いが無くなり、悲しみと、向ける相手を失った怒りだけに満たされた静かな部屋を一人、私は後にした。
旅籠の外。
人通りもない通りを照らしているのは、月明かりと星明り。
右手を差し出し、人差し指だけを伸ばしてみる。
小さな炎。
心に描いたとおりの炎が私の人差し指に灯った。
やっぱり。
そう思った時、暗闇の中に人の気配を感じた。
通りの端に身を寄せて潜めながら、ある事を試すチャンスに感じた。
恐ろしい物の怪で、人を化かしそうなもの。
狐か狸?
九尾の狐。その姿を思い浮かべた。
夜の星明りを打ち消す金色の光が夜道を照らし出すと、通りを歩く怪しげな二人の男の姿を浮かび上がらせた。
天より降り注ぐ金色の光に、空を見上げる二人の視線の先には金色に輝く九尾の狐が怪しく空を舞っていた。
「あ、あ、あれは」
その声を聞きつけたのか、九尾の狐が男たちに視線を向けて、ぺろりと舌を出した。
「ひぇぇぇ」
九尾の狐と言うとんでもない物の怪。
そんな物の怪に視線を向けられ、舌なめずりされたのだから、その恐怖は計り知れない。
男たちが情けない声を上げて、逃げ出して行く。
やっぱり。
私は自分の仮説の正しさを確信した。
これで今まで起きた不思議な事が何だったのか、村雨くんの刀が私にだけ竹光に見えなかった理由も説明できる。
そして、角ちゃんを殺した理由も。
でも、その先の理由が分からないし、敵意を今も隠し続けている理由も分からない。
いえ。
もしかすると、敵意は無い可能性も。
だったら、目的は何なの?
そこが分からなければ、どうしていいのか分からない。
ただ、危険と隣り合わせ。それだけは確実っぽい。
私の脳裏によみがえった、人を突き刺した状態で笑みを浮かべた村雨くんの横顔に、背筋が凍りつかずにいられなかった。
それはあっさりと成就した。
それを知った鎌倉公方 足利成氏から恩賞を与えるとの知らせが届けられた。
私的には興味の無い話だけど、村雨くんが八犬士たちのためにもと言うので、足利成氏のところに向かう事にした。
そんな知らせが届けられた事と、大きな任務を果たした達成感からか、信乃ちゃんたちは上機嫌で酒宴を楽しんでいる。
私は別室で村雨くんとおあきちゃんの三人でいる。
「妙椿は倒せたと言う事でいいのかな?」
やはり不安できいてみる。
「だと思います」
きっぱりと言い切った。村雨くんの言う事が正しいとしたら、私は妙椿を倒しても元の時代に戻れない事になる。
もしかすると、もうこのままこの時代に残るしかないのかも知れない。
「そっかぁ」
「私も一緒に行きたかったです」
おあきちゃんが村雨くんだけを見ながら、そう言った時、部屋の外の廊下を歩いて行く人の気配を感じた。
廊下に視線を向けると、角ちゃんが廊下を歩いていた。その進んでいく方向から言って、厠に向かっているらしい。そして、視線を村雨くんに戻した時、村雨くんは立ち上がっていた。
「厠へ」
そう言い残して、厠へ向かった村雨くんはすぐに戻って来たけど、話の途中で突然トイレに立った村雨くんの態度から言って、さっきの話を村雨くんと続ける気は無くなってしまった。
黙り込む私に代わって、おあきちゃんが村雨くんに話し続けている。
「鎌倉公方様とはどのようなお方なのでしょうか?」
「立派なお方です」
二人の会話に興味はなく、薄暗さも手伝って、目を閉じると、そのまま眠ってしまいそう。そんな静かな空間は文ちゃんによって崩された。
どたどたと廊下を慌ただしく走る足音。
「みんな来てくれ」と、慌て気味な文ちゃんの声。
何か緊急事態と言うのが伝わってくる。
「何かあったのかな?」
「さあ?」
そう言って、村雨くんがゆっくりと立ち上がった。
「犬村殿が」
文ちゃんの言葉から言って、角ちゃんに何かがあったに違いない。
信乃ちゃんたちも部屋から飛び出して、文ちゃんと合流し、厠に向かって行く。
私も立ちあがり、信乃ちゃんたちの後を追った。
「こ、こ、これは」
「犬田殿、犬村殿を救う事は?」
信乃ちゃんたちの背後からのぞく光景に、私は両手で顔を覆った。
狭く薄暗い厠の中は、赤黒い血で塗り染められ、その床に転がるのは角ちゃん。
「もはや私の力の及ばぬ状態で」
文ちゃんは治癒の力がある。でも、死人を蘇らせる事は出来ない。
角ちゃんは死んでいると言う事だろう。
床と壁を染める赤黒い角ちゃんの血の量から言って、それは確実っぽい。
と言うか、生きていたら、こんなところで突っ伏したまま動かないなんて事もないはず。
「誰がこんな事を」
「そんな事より、早く部屋に」
信乃ちゃんの言葉に、角ちゃんの遺体を部屋に運び入れた。
揺らめくろうそくの明かりが映し出す角ちゃんの死に顔。
取り巻くのは信乃ちゃんたち八犬士たちと、私に村雨くん。
「せっかく妙椿を倒し、公方より恩賞をもらえると言うのに」
「誰がこのような事を」
「そ、そ、そ」
私の横で、村雨くんの口からそんな言葉が聞こえて来た。
大きな声ではなかった事と動揺からか、信乃ちゃんたちは気づいていないらしく、誰も村雨くんに視線を向けようとしていない。
村雨くんはと言うと、目が泳いでいる。
なんで?
何か知っている?
「そう言えば、村雨くん、角ちゃんと同じ時に厠に行かなかった?」
何か知っている事を言うんじゃないかと思って、村雨くんに話を振ると、信乃ちゃんたちの視線が村雨くんに集中した。
「まことですか、村雨殿」
「私が厠に行った時には、犬村殿はおられませなんだ」
村雨くんはきっぱりと言い切った。
厠は一つ。
文ちゃんがあの時、厠へ行ったのなら、村雨くんと会わなかったなんて事は無いはず。
としたら、あの時、角ちゃんがトイレに行ったと思ったのは、私の思い過ごし?
確かに厠に入る所は見ていない。
「犬村殿がわれらの部屋を出た時に、村雨殿も部屋にはおられなんだと言う事ですか?」
「犬村殿は漏れそうだと申しておったゆえ、まっすぐに厠に向かったはずじゃが」
「犬村殿の傷は背後から刀で刺されておる。
しかも傷口の位置から言って、小柄な者の仕業」
状況から言って、村雨くんに疑いが向いている。
私は村雨くんじゃないと分かっている。
竹光で人は殺せない。
でも、それは口にできない。
「じゃあさ、誰か怪しい人を見なかったかな?」
信乃ちゃんたちの疑いの矛先を向けるべき他の誰かを求めた。
村雨くんが見ている可能性はあるはず。
「いえ。誰も」
私のそんな思いに気づいているのか、いないのか分からないけど、村雨くんは淡々と言い切った。
それがきっと村雨くんとしての事実。
ここで、誰かを見たなんて嘘を言っても仕方ないのも確か。
「そうですか。
では、村雨殿を疑う訳ではございませぬが、念のため刀を見せていただけませんでしょうか?」
信乃ちゃんが村雨くんに言った。
「そ、そ、それは」
竹光を暴くのはかわいそう。信乃ちゃんたちを止めようとした。
でも、止める理由が見つからず、言葉はそこで止まってしまった。
信乃ちゃんたちは私に視線を向けて、続く言葉を待っている。
どんな理由なら、みんな納得してくれるの?
そう悩んでいた時、村雨くんが立ち上がった。
「仕方ありません。
お見せいたします」
そう言って、自分の刀の柄に手をかけた。
信乃ちゃんたちも立ち上がり、注意を村雨くんの動きに集中させた。
もし、そのまま村雨くんが襲ってきた時のためかも知れない。
チャッ!
そんな音を立てて、村雨くんの刀が抜き放たれた。
私は少し顔を背けて、その刀を見ないようにした。
「おお」
「こ、こ、これは」
信乃ちゃんたちがどよめいている。
きっと、竹光の事実を知ったからだろう。
これで、村雨くんの無実は証明されたはず。
そんな思いで視線をみんなに戻した時、信じられない光景が目に飛び込んできた。
村雨くんが右手に持つ刀は、禍々しささえ感じずにいられないほどの妖しい金属光沢を放っていた。
「嘘っ!」
そんな言葉が私の口からこぼれ出た。
ただの刀には思えない禍々しさを持った刀を構える村雨くん。
さっきの信乃ちゃんたちの反応は、その禍々しさを感じ取っての事。
そう思った私に、意外な言葉が届けられた。
「村雨殿。これは失礼つかまつった」
「おしまいくだされ」
「村雨殿の刀では、人は斬れぬ。
やはり、犬村殿を殺めたのは他の誰かに違いあるまい」
「えっ?
そうなの?」
どう見ても、人を斬れそうな。いえ、それ以上にもっと危険なものを感じてしまう。
でも、刀と言うものに詳しくない私には分からない何か理由が?
そんな思いで、信乃ちゃんに目を向ける。
「姫。失礼ですが、この事は内密に」
信乃ちゃんが、悪い事をした的な表情で私に言った。
村雨くんの刀には隠さなければならない何か秘密があって、人を斬れない。
その秘密を誰にも言わないでって事?
でも何か違うような?
もしかして、竹光に見えているとか?
「えぇーっと、あれって竹光?」
私の言葉に信乃ちゃんたちが静かに頷き返した。
どう言う事?
信乃ちゃんたちにはあれが竹光に見えたらしい。
いいえ。以前に見た時、確かに私も竹光に見えた。
でも、今は真剣と言うより、もっと禍々しい、そう妖刀に見えた。
二回目に見ると、竹光に見えない?
私と一度、一緒に村雨くんの刀を見ているおあきちゃんの反応を知りたくて、おあきちゃんに目を向けた。
「二度と、こんな事しないでください。
村雨殿がかわいそうです」
「おあき、大丈夫。
これだって、私は強いですから」
会話の内容から言って、おあきちゃんには竹光に見えているっぽい。
二回目だから、竹光に見えないと言う訳じゃ無さげ。
としたら、どうして私だけ、妖刀に見えるの?
妖刀?
その言葉に、信乃ちゃんと出会った時に教えてもらった話が、脳裏によみがえって来た。
「抜けば、刀の付け根より……」
「妖力を吸収された物の怪たち……」
私の頭の中にこれまでの出来事が浮かんできた。
突然現れたお侍の一団、幻術を破られた化け猫。
もしかすると。
私の頭の中に一つの仮説が浮かんだ。
その仮説が正しくて、村雨くんの刀が竹光でなかったとしたら、多くの謎が解ける気がする。
その仮説を確かめるためには、確かめなければならない事がいくつかある!
村雨くんにかけられた疑いが無くなり、悲しみと、向ける相手を失った怒りだけに満たされた静かな部屋を一人、私は後にした。
旅籠の外。
人通りもない通りを照らしているのは、月明かりと星明り。
右手を差し出し、人差し指だけを伸ばしてみる。
小さな炎。
心に描いたとおりの炎が私の人差し指に灯った。
やっぱり。
そう思った時、暗闇の中に人の気配を感じた。
通りの端に身を寄せて潜めながら、ある事を試すチャンスに感じた。
恐ろしい物の怪で、人を化かしそうなもの。
狐か狸?
九尾の狐。その姿を思い浮かべた。
夜の星明りを打ち消す金色の光が夜道を照らし出すと、通りを歩く怪しげな二人の男の姿を浮かび上がらせた。
天より降り注ぐ金色の光に、空を見上げる二人の視線の先には金色に輝く九尾の狐が怪しく空を舞っていた。
「あ、あ、あれは」
その声を聞きつけたのか、九尾の狐が男たちに視線を向けて、ぺろりと舌を出した。
「ひぇぇぇ」
九尾の狐と言うとんでもない物の怪。
そんな物の怪に視線を向けられ、舌なめずりされたのだから、その恐怖は計り知れない。
男たちが情けない声を上げて、逃げ出して行く。
やっぱり。
私は自分の仮説の正しさを確信した。
これで今まで起きた不思議な事が何だったのか、村雨くんの刀が私にだけ竹光に見えなかった理由も説明できる。
そして、角ちゃんを殺した理由も。
でも、その先の理由が分からないし、敵意を今も隠し続けている理由も分からない。
いえ。
もしかすると、敵意は無い可能性も。
だったら、目的は何なの?
そこが分からなければ、どうしていいのか分からない。
ただ、危険と隣り合わせ。それだけは確実っぽい。
私の脳裏によみがえった、人を突き刺した状態で笑みを浮かべた村雨くんの横顔に、背筋が凍りつかずにいられなかった。
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