エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

文字の大きさ
上 下
26 / 37

幽霊登場!

しおりを挟む
 岩窟の中は雨露はしのげる。でも、寝床の床はただの地面の上に、持っていた布一枚敷いただけ。ごつごつしているし、硬いしで、寝心地いい訳ない。
 今までも、寝心地のいい夜なんて無かったけど、これは今までの中でも最悪。

  眠りにつけず目を開けてみると、月と星の明かりが岩窟の入り口付近に陣取っている現ちゃんと荘ちゃん二人の影を浮かび上がらせている。剣の腕に、妖力まで持っているとあっては、最強の男たちに囲まれている訳で、安心、安心。
 そんな事を思いながら、岩窟の奥側に寝返りを打った。

 げっ!

 一番奥に寝たつもりだったのに、誰かがいる。
 目を凝らして確かめてみると、小柄なサイズから言って、村雨くんらしい。
 竹光の刀を抱きかかえるような姿。
 そう言えば、村雨くんは刀を肌身離さず持っている。

 なんで?
 持った重さで、竹光と見破られるのを避けるため?
 納得の私。
 そんな事より、ちょっと距離が近すぎ。
 村雨くんの手が伸びてきたら、また胸を揉まれそう。
 間をとろうと起き上がって、場所を移動しようとした時、立っている人の気配を感じて、その人に目を向けた。

 誰?
 目を凝らして見てみる。
 その背景にはほんのりとした月明かり。
 何か変な気が?
 変なところは、その人の体を透かして、背後の光景が見える事。

 なにこれ?
 ホログラム通信かな?

 脳裏に浮かぶ最悪の答えを避けたくて、そんな発想で手を伸ばしてみる。
 私の右手の手のひらの上に浮かぶ、男の人のホログラム。

 そうそう。
 間違いなく、ホログラム通信。
 さ、通信もさっさと終えて、寝よ、寝よ。

 そんな思いで、闇に浮かぶ男の姿に背を向けて、布団を頭からかぶり、寝ようとした。
 でも、布団みたいなものは無いんだった。
 怖い現実から逃げる術がなく、体が震えてしまう。

 すがるとしたら、村雨くん??
 村雨くんは脳みそが腐っているとしか思えない発言はするけど、嫌いと言う訳じゃない。もちろん、恋愛感情も持っていないけど。

 やっぱ、ここは村雨くん!

「む、む、む、村雨くん!」

 村雨くんの体を揺さぶりながら、声をかけると、村雨くんはむくりと起き上がった。

「何ですか?
 よ、よ、よ、夜這いですか?」
「だ、だ、誰がですか。
 誰か立っていない?」
「やっぱり夜這いなんじゃないですか。
 私のは今、立ちました」
「はい?
 じゃなくて、そんなもの立っていてもいなくてもいいんだけど。
 ほら、そこよ」

 後ろを振り返らずに、さっき男が立っていた辺りを指さした。

「確かに」

 そう言うと、村雨くんは立ち上がり、刀に手をかけた。
 頼もしい!
 いえ、竹光だった。
 いえいえ、それ以前に刀じゃ斬れないよ!!
 あれが何だか、気づいていないの?

 チャッ!

 村雨くんが刀を少しだけ抜いた。

 ど、ど、どうするのよ?
 ホログラムは斬れないよ!

「これは?
 幻術ではないようですね」

 村雨くんが言った。

「幻でもないけど、人でもないよね?」
「私は赤岩一角と申す者」

 私の言葉に答えるかのように、岩窟の中に響くような声が聞こえた。
 村雨くんは立ったまま、じっとしている。

 もしかして、幽霊と知って固まっている?

 それでも、一人でいるよりましなので、そそくさと膝立ちで歩いて、村雨くんのところに辿りつくと、村雨くんの腰の辺りに手を回してしがみついた。顔を村雨くんのお腹の辺りにうずめる様にして。

 これで赤岩と名乗ったホログラム、いえ幽霊の姿は見なくていい。
 ちょっと匂うけど、幽霊を見るよりかはまし。
 村雨くんが私の後頭部を包むように、自分の両手をあてがった。

 なに?
 頭を守ってくれているの?

 そんな事を考えている内に、再び岩窟の中に再び声が響いた。

「あの化け猫の血の匂いがする。
 誰かあの化け猫を殺ったのか?」

 この幽霊は、今日出会った化け猫の血の匂いに誘われてやって来たらしかった。

「いえ。左目を突き刺しただけで、殺してはいません。
 逃げて行きましたので」

 相手が幽霊だと言うのに、村雨くんは落ち着いて答えた。
 どうも、恐怖に固まってしまっているのではないらしい。

「あの化け猫の左目を潰されましたか。
 私はあやつを退治しよう殺された者。
 あやつは幻術を操る事ができ、今は私の姿でこの先にある私の村で暮らしているはず。
 あやつには気をつけて下され」

 そこまで男の幽霊が言った時、信乃ちゃんたちの声がした。

「何ごとですか?」

 振り返りたいけど、怖くて振り返れない。

「そこに幽霊が!」と言うつもりだったのに、村雨くんが私の頭を村雨くんの腹部に押し付けていたので、うまくしゃべれなかった。

「ん、ん、んんんん」

 言葉とも言えない意味不明の声になった。

「こ、こ、これは」

 私はうまく話せなかったけど、信乃ちゃんたちも幽霊に気づいたらしい。
 そう思った次の瞬間、予想外の言葉が私の耳に届いた。

「い、い、いやらしいぃぃぃぃ!
 何してるのよ!
 村雨殿から離れてよ!」

 村雨くんのすぐ横で眠っていたおあきちゃんが、私たちの声で目覚めて叫んだ。

「失礼いたしました」
「我々は何も見ておりませぬゆえ」
「もちろん、音も聞こえていませんから」
「私どもは寝ますゆえ。お二人のお邪魔はいたしませぬ」

 信乃ちゃんたちの反応も何か変。
 村雨くんの手が離れたので恐々振り返ると、あの幽霊はおらず、代わりに立っていたのはおあきちゃんで、その影はぷるぷると震えている。信乃ちゃんたちはと言うと、私たちの方向に背を向けて寝転がっていた。

「早く離れてよ!」

 おあきちゃんの口調はちょっときつい。

「えぇーっと、どう言う状況?」
「それはそう言う事だと」

 村雨くんの言葉に、今の私の姿を思い返してみた。
 もしかして、信乃ちゃんたちは私がいやらしい事をしていたと誤解したのかも。

「信乃ちゃんたち、寝なくていいから。
 私の話、聞いてくれないかな?」

 村雨くんから離れて、慌てるように言った。

「お二人はそう言うご関係ですゆえ」
「いえ。それ全然誤解ですから」

 そう言って、私は信乃ちゃんたちを起こして、今ここで起きた事を話した。

「なるほど。さようでございましたか」

 信乃ちゃんは頷いてくれているが、私の方に目を合わせていない。

「えぇーっと、もしかして、信じてくれてないのかな?」
「いえ、信じておりまする。
 のう、みんな」
「左様でございます」

 そう言っていても、誰も私に目を合わせていない。
 はっきり言って、私の事を疑っている。
 とんでもない濡れ衣。さっさと晴らさなければいけない。

「明日朝から、この先の村に行きましょう。
 そこに行けば、その赤岩一角に化けた猫がいるはずです」
「ですが、そこに一角と言う者がいたとして、それが化け猫だとどうすれば分かるのでしょうか?」
「左目を怪我しているはずですよね?」
「なるほど」
「そこに赤岩一角を名乗る左目を怪我した者がいれば、今の私の話、信じてくれますよね?」
「もちろん。
 いえ、最初から信じていますよ」

 村雨くんじゃないけど、そう言った信乃ちゃんの目は泳ぎ気味。
 村雨くんにいやらしい事をしていたなんて思われるのは嫌。
 さっさと疑いを晴らしたくて、次の朝早くから岩窟を出た。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件

なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。 そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。 このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。 【web累計100万PV突破!】 著/イラスト なかの

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

処理中です...