エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

文字の大きさ
上 下
25 / 37

化け猫!

しおりを挟む
 残る二人の八犬士の内の一人を求めて、今度は山越え。
 山越えの道は当然舗装なんてされていなくて、でこぼこの細い上り坂。
 舗装された坂を上るよりも足が疲れてしまう。

 辺りは木々に覆われた単調な光景がずっと続いているだけじゃなくて、先の光景もよく分からず、あとどれくらい歩けばいいのかも分からない。
 その事が疲れを倍増させている気がする。
 私の耳に届くのは、地面を踏みしめる足音と、時折聞こえる鳥たちの鳴き声だけの単調な世界。

 それを打ち破ったのは一匹の猫。
 キジトラが私たちの前を横切って行った。

「猫ちゃんだぁ」

 単調さに飽き飽きしていたところに猫ちゃん登場で、思わずそんな声を上げた。
 でも、猫ちゃんは私たちにお構いなく、どこかへと姿を消して、二度と目の前には現れなかった。
 盛り上がった私の気分は再びげんなり。

「はぁぁぁ。バスでもあればいいんだけどなぁ」

 そう思った時、少し離れた先に丸い物が目に入った。

「バス停だ」

 その懐かしい形状のものに、思わず声を上げた。
 
「ばすていとはなんですか?」

 信乃ちゃんが訪ねて来た。

「はっ! そうだった。
 こんなものがある訳ないよね」

 目をこすって、もう一度見てみた。
 やはりバス停がある。

「信乃ちゃん。あそこの丸いの見える?」
「はい。
 なんでしょうか? 
 初めて見るものなのですが、あれがそのばすていと言うものなのでしょうか?」
「でも、こんな時代にあるものじゃないんだよね」

 私がそう言い終えた時、強い風と眩しい光を感じた。
 ヘッドライトをバスがやって来て、バス停の前で停止した。
 バスのドアが開くと、会社帰りかのような複数の人が降りて来て、木々の中に消えて行った。
 バスのドアは開いたままで、私たちを誘っている。

「乗っちゃいます?」

 なぜだか、そんな気分になった時、どこかで誰かが刀を抜くような音が聞こえた。

 チャッ!

 その瞬間、バスは禍々しい化け猫に姿を変え、ドアと思っていた所は、化け猫の牙が唾液で怪しく濡れた大きく開いた口に変わった。

「何?」
「化け猫です。
 下がってください」

 そう言ったかと思うと、現ちゃんはその禍々しい化け猫の左目を刀で突き刺した。

「ふんぎゃぁ」

 そんな声を上げて、化け猫は小さな猫に姿を変え、木々の中に逃げ込んで行った。

「化け猫がバスに化けていたって事?」

 バス停の標識があった場所に目を向けてみた。
 そこには枯れた木が一本立っているだけだった。

「現ちゃん、これって、どういう事なのか説明できるかな?」
「私たちはあの化け猫の幻術にはまっていたのでしょう。
 あのままでしたら、自ら化け猫の口の中に進んで入って行くところだったかも知れません」
「じゃあ、なんでその幻術が解けたのかな?」
「それは分かりかねます。
 あの化け猫自らが解いたと言うことなのかも知れません」
「自分から解くかなぁ。
 村雨くんは幻術を使う妙椿に詳しいんだよね?
 幻術を破る方法ってあるのかな?」
「そ、そ、それは、それはですね。
 わ、わ、私には分かりません」

 のけぞってはいないけど、目は泳いでいる。
 何か中二病的な大言壮語を吐いている訳でもなく、否定的な発言だと言うのに、どうしてどもる??
 変な村雨くんの態度に小首を傾げずにいられない。

「でもね。八犬士が揃えば妙椿を倒せるんだよね?
 妙椿の幻術を破る必要があると思うんだけど、違うのかな?」
「げ、げ、幻術をや、や、や。
 わ、わ、私には分かりません」

 再び私は小首を傾げた。
 あの化け猫が本当の姿を現す直前、刀を抜くような音がした気もする。
 でも、刀を抜いたところで、幻術を破れる訳なんてないだろうし。
 現ちゃんが化け猫に襲い掛かった時、他の八犬士たちも抜刀していた。
 きっと、化け猫の正体に気づいたのと同時に誰かが抜いただけに違いない。

 そこまでは正しいはず。
 でも、化け猫が幻術を解いた? 解かれた? 理由は分からない。
 なんだか危機を乗り越えた理由が分からないと言うのが多い気がする。

「ともかく、急ぎましょう。
 日が落ちてしまいます」

 信乃ちゃんの言葉に空を見上げた。
 元々、木々に光を遮られ、薄暗かった空間が少しだけ薄暗さを増し、青く白い光に赤みを帯びさせてきている気がした。

「本当に。急ぎますか」

 そう言って、私は歩き始めた。
 さっきまでの疲れは、近づいてくる闇と言う恐怖に押し流され、早足気味に歩いていく。
 でも山は広かった。
 人気のある町にたどり着く前に、空は夜の闇の気配を色濃くしていったため、途中で見つけた岩窟の中に泊まる事にした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...