13 / 37
捕えられた信乃ちゃん
しおりを挟む
雷の力を有している八犬士の一人、信乃ちゃん。
雷撃なんて、無敵っぽい。
信乃ちゃんのそんな力があれば妙椿を倒せると考えた私は、元の時代に早く帰りたくて、村雨くんの制止も無視して、今や蟇田の手に落ちた里見の城近くに戻ってきていた。
城門に一人で近づいていく信乃ちゃんの後姿を、離れた場所で隠れるようにして、私と村雨くん、おあきちゃんは見つめている。
「君は行かなくていいのかな?」
村雨くんに意地悪な気分で、問いかけてみた。
「はい。私の任務はありすの警護であって、負け戦に臨む理由はありません」
それが自分も行かない口実だとしても、負け戦と村雨くんはきっぱり言い切った。
でも、それは逆に攻めるポイントでもある。
「いや、さあ、信乃ちゃんだけで勝てないのなら、巨大な竜と戦う君も手助けするとか言うのは無いのかな?」
意地悪気分を潜めた笑みを向けながら言った。
「以前にも申し上げたと思いますが、私では勝てません。
勝てるのは八犬士たちを従えたありすだけです」
これまた、迷いを見せず言い切った。
村雨くんは意外と鈍感?
私の意地悪を感じていないのか、そう言うキャラが身に染みついているのか、全く動じた気配がない。
この手の話題は村雨くんには無駄らしい。
としたら、真面目な話題に戻って、信乃ちゃんと妙椿の戦いの行方が気になる。
「信乃ちゃん、あんなに強いのに本当に勝てないのかな?」
「はい」
何度言われても、村雨くんの言葉を信じ切れない私は信乃ちゃんに期待しながら、その後姿を見つめていた。
城門近くに信乃ちゃんが達した時、その上空に真っ黒な雲が沸き起こり、雷光と雷鳴が轟いた。その次の瞬間、城門は燃え上がり一瞬にして崩れ落ちた。
慌てたように城から敵兵が出て来たのが遠目にも分かる。
信乃ちゃんはそんな敵兵たちに容赦せず、雷の攻撃を浴びせ続ける。
圧倒的な力の差。
「ねぇ、村雨くん。
信乃ちゃんだけで勝てそうなんだけど」
「それは妙椿が出て来ていないから、そう思うだけです。
これだけの騒ぎです。もうすぐ出てきますよ」
村雨くんの言葉はまだ信じ切れない。
妙椿。巨大な猿の物の怪。
その登場は、あの城の建物の中から巨大化して建物を破壊しながら、その姿を現す?
そんな想像をしながら、妙椿の登場を待っている内に、信乃ちゃんの雷の攻撃が止み、城からは次から次に敵兵が飛び出してきて、信乃ちゃんを取り囲んだ。
「何をしているの?」
不安げな私の言葉に、村雨くんが落ち着いた声で返してきた。
「言ったじゃないですか。
勝てないって」
村雨くんに目を向けると、得意げな顔つき。
「えぇーっと、もしかして、自慢している?」
「自慢じゃないですよ。
ほら見た事かって、言いたいだけです」
「やっぱ、君、脳みそ腐ってるよね」
そう言った時、村雨くんが城の方を指さしたので、視線を村雨くんから城に戻した。
取り囲んだ敵兵の一人が、信乃ちゃんを取り押さえ、縄で縛りあげていた。
「なんで、雷で攻撃しないの?」
もどかしさいっぱいの私に、村雨くんが相変わらず落ち着いた声で答えた。
「言いましたよね?
蟇田は妙椿の幻術で操られているって」
「信乃ちゃんも幻術に惑わされているって事?」
「はい」
村雨くんがきっぱりと言ってのけた。
「勝てないとも言いましたですよね?」
平気な顔で、私に追い打ちをかけるような言葉を続けた。
中二病で口だけしか頼りにならなさそうな村雨くんに、追い打ちをかけられて、ちょっと凹みそうになる。
「信乃ちゃん、どうなるのかな?」
私のせいで、信乃ちゃんが捕まった。きっと、殺されるに違いない。私のせい。
そんな自責の念に駆られながら、村雨くんの意見を求めてみた。
「殺されはしないはずです」
いつもどおり、きっぱりと言ってのけた。
こんな時は、そのきっぱり感が嬉しく感じてしまう。とは言え、裏付けが欲しい。
「それはどうしてかな?」
「今、ここで犬塚殿を殺しても、犬塚殿の妖力は他に移るだけです。
八房の本体の力を持つあなた自身を倒す必要があるんです。なので、妙椿としては犬塚殿を餌にあなたをおびき寄せようとするはずです」
村雨くんの話が真実かどうかは分からない。
でも、真実だとしたら、理屈は通る気がする。
「じゃあ、どうするのかな?
信乃ちゃんをそのままにして、ここを離れるのかな?
それとも、私が助けにいけばいいのかな?」
あの時、塀を私に乗り越えろと言ったくらいだから、村雨くんが口にする選択肢はこのどれか。そう思っていた。
「犬塚さんは私が助けてきます」
村雨くんが意外な言葉を口にした。
どもりもせず、目を泳がせもせず、きりりとした表情で、きっぱりと言ってのけた。
「さすが村雨殿!
頼りになります」
村雨くんを信じ切っているおあきちゃんとは違い、私は信じきれないでいる。
はっきり言って、私にはこの村雨くんが分からない。
巨大な竜と戦っているとか言っているかと思えば、関所破りすらできないと言う。
まるっきり当てにできないのかと思えば、信乃ちゃんの時、たまたま運が良かっただけかも知れないけど、きっちりと塀を乗り越えて門を中から開けてくれた。
「本当に?
だとしたら、私に何か出来る事あるかな?」
「ここで、待っていてください。
も、も、もしも、私が戻って来なかったら、助けに来てください」
村雨くんの言葉が、今度はどもった。
さっきまでのきりりとした表情はどこに行った!
やっぱ、不安が沸き起こってくる。
「はぃぃぃ?
信じていいって言ったよね?」
「はい。助けに行くのは信じてもらってかまいません。
でも、結果までは保証できません」
「そ、そ、そうですか。
分かりました」
なんだか詐欺にあっている気分。
「では」
そう言うと、村雨くんは信乃ちゃんの雷撃で破壊された城門に向かって行く。成功を祈る気持ちで見送る村雨くんの後姿は、どんどん小さくなって城門の中に消えて行った。
雷撃なんて、無敵っぽい。
信乃ちゃんのそんな力があれば妙椿を倒せると考えた私は、元の時代に早く帰りたくて、村雨くんの制止も無視して、今や蟇田の手に落ちた里見の城近くに戻ってきていた。
城門に一人で近づいていく信乃ちゃんの後姿を、離れた場所で隠れるようにして、私と村雨くん、おあきちゃんは見つめている。
「君は行かなくていいのかな?」
村雨くんに意地悪な気分で、問いかけてみた。
「はい。私の任務はありすの警護であって、負け戦に臨む理由はありません」
それが自分も行かない口実だとしても、負け戦と村雨くんはきっぱり言い切った。
でも、それは逆に攻めるポイントでもある。
「いや、さあ、信乃ちゃんだけで勝てないのなら、巨大な竜と戦う君も手助けするとか言うのは無いのかな?」
意地悪気分を潜めた笑みを向けながら言った。
「以前にも申し上げたと思いますが、私では勝てません。
勝てるのは八犬士たちを従えたありすだけです」
これまた、迷いを見せず言い切った。
村雨くんは意外と鈍感?
私の意地悪を感じていないのか、そう言うキャラが身に染みついているのか、全く動じた気配がない。
この手の話題は村雨くんには無駄らしい。
としたら、真面目な話題に戻って、信乃ちゃんと妙椿の戦いの行方が気になる。
「信乃ちゃん、あんなに強いのに本当に勝てないのかな?」
「はい」
何度言われても、村雨くんの言葉を信じ切れない私は信乃ちゃんに期待しながら、その後姿を見つめていた。
城門近くに信乃ちゃんが達した時、その上空に真っ黒な雲が沸き起こり、雷光と雷鳴が轟いた。その次の瞬間、城門は燃え上がり一瞬にして崩れ落ちた。
慌てたように城から敵兵が出て来たのが遠目にも分かる。
信乃ちゃんはそんな敵兵たちに容赦せず、雷の攻撃を浴びせ続ける。
圧倒的な力の差。
「ねぇ、村雨くん。
信乃ちゃんだけで勝てそうなんだけど」
「それは妙椿が出て来ていないから、そう思うだけです。
これだけの騒ぎです。もうすぐ出てきますよ」
村雨くんの言葉はまだ信じ切れない。
妙椿。巨大な猿の物の怪。
その登場は、あの城の建物の中から巨大化して建物を破壊しながら、その姿を現す?
そんな想像をしながら、妙椿の登場を待っている内に、信乃ちゃんの雷の攻撃が止み、城からは次から次に敵兵が飛び出してきて、信乃ちゃんを取り囲んだ。
「何をしているの?」
不安げな私の言葉に、村雨くんが落ち着いた声で返してきた。
「言ったじゃないですか。
勝てないって」
村雨くんに目を向けると、得意げな顔つき。
「えぇーっと、もしかして、自慢している?」
「自慢じゃないですよ。
ほら見た事かって、言いたいだけです」
「やっぱ、君、脳みそ腐ってるよね」
そう言った時、村雨くんが城の方を指さしたので、視線を村雨くんから城に戻した。
取り囲んだ敵兵の一人が、信乃ちゃんを取り押さえ、縄で縛りあげていた。
「なんで、雷で攻撃しないの?」
もどかしさいっぱいの私に、村雨くんが相変わらず落ち着いた声で答えた。
「言いましたよね?
蟇田は妙椿の幻術で操られているって」
「信乃ちゃんも幻術に惑わされているって事?」
「はい」
村雨くんがきっぱりと言ってのけた。
「勝てないとも言いましたですよね?」
平気な顔で、私に追い打ちをかけるような言葉を続けた。
中二病で口だけしか頼りにならなさそうな村雨くんに、追い打ちをかけられて、ちょっと凹みそうになる。
「信乃ちゃん、どうなるのかな?」
私のせいで、信乃ちゃんが捕まった。きっと、殺されるに違いない。私のせい。
そんな自責の念に駆られながら、村雨くんの意見を求めてみた。
「殺されはしないはずです」
いつもどおり、きっぱりと言ってのけた。
こんな時は、そのきっぱり感が嬉しく感じてしまう。とは言え、裏付けが欲しい。
「それはどうしてかな?」
「今、ここで犬塚殿を殺しても、犬塚殿の妖力は他に移るだけです。
八房の本体の力を持つあなた自身を倒す必要があるんです。なので、妙椿としては犬塚殿を餌にあなたをおびき寄せようとするはずです」
村雨くんの話が真実かどうかは分からない。
でも、真実だとしたら、理屈は通る気がする。
「じゃあ、どうするのかな?
信乃ちゃんをそのままにして、ここを離れるのかな?
それとも、私が助けにいけばいいのかな?」
あの時、塀を私に乗り越えろと言ったくらいだから、村雨くんが口にする選択肢はこのどれか。そう思っていた。
「犬塚さんは私が助けてきます」
村雨くんが意外な言葉を口にした。
どもりもせず、目を泳がせもせず、きりりとした表情で、きっぱりと言ってのけた。
「さすが村雨殿!
頼りになります」
村雨くんを信じ切っているおあきちゃんとは違い、私は信じきれないでいる。
はっきり言って、私にはこの村雨くんが分からない。
巨大な竜と戦っているとか言っているかと思えば、関所破りすらできないと言う。
まるっきり当てにできないのかと思えば、信乃ちゃんの時、たまたま運が良かっただけかも知れないけど、きっちりと塀を乗り越えて門を中から開けてくれた。
「本当に?
だとしたら、私に何か出来る事あるかな?」
「ここで、待っていてください。
も、も、もしも、私が戻って来なかったら、助けに来てください」
村雨くんの言葉が、今度はどもった。
さっきまでのきりりとした表情はどこに行った!
やっぱ、不安が沸き起こってくる。
「はぃぃぃ?
信じていいって言ったよね?」
「はい。助けに行くのは信じてもらってかまいません。
でも、結果までは保証できません」
「そ、そ、そうですか。
分かりました」
なんだか詐欺にあっている気分。
「では」
そう言うと、村雨くんは信乃ちゃんの雷撃で破壊された城門に向かって行く。成功を祈る気持ちで見送る村雨くんの後姿は、どんどん小さくなって城門の中に消えて行った。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
この世界で唯一『スキル合成』の能力を持っていた件
なかの
ファンタジー
異世界に転生した僕。
そこで与えられたのは、この世界ただ一人だけが持つ、ユニークスキル『スキル合成 - シンセサイズ』だった。
このユニークスキルを武器にこの世界を無双していく。
【web累計100万PV突破!】
著/イラスト なかの
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる