エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

文字の大きさ
上 下
11 / 37

塀を乗り越えた村雨くん

しおりを挟む
 旅を続けて数日が過ぎた。
 私を捕まえるための関所のようなものは、あれからは無かった。

 そして、ようやく私は八犬士の一人の存在を感じていた場所にたどり着いた。
 そこは今までに見た事も無い異様な場所だった。木で造られた塀が張り巡らされ、何か所かある門の近くには櫓が造られていて、私が最初にいた城よりも堅牢そうな要塞のような場所だった。

「これって、お城みたいなものなのかなぁ?」

 関所でいやらしい事をされて以来、村雨くんとは距離を置き、会話も用事がある時以外していなかった村雨くんにたずねてみた。

「このような場所に、城はありません。
 何かの独立勢力かと」
「入れてくれるかなぁ?」
「無理でしょうね」

 きっぱりと、村雨くんは言ってのけた。

「じゃあ、どうするのかな?
 八犬士の人が出て来るのを待つとか?」

 村雨くんがにこりとした笑みを私に向けた。
 その笑みの意味は心の中で、あんた、ばかぁ? と思っている感じ。

 じゃあ、どうするって言うのよ。
 そんな思いで、黙って村雨くんを見ていると、木で出来た塀を指さした。

「あれを乗り越えるって事かな?」
「はい。
 私が肩車で押し上げて差し上げます」

 塀の高さは2m50cmほど、おそらくこの浜路姫の体は1m55cmくらい。村雨くんは私より少し背が高い。
 確かに二人なら、乗り越えられそう。

「か、か、か、肩車! ありすは足を開いてください。
 私が入れさせていただきます!」

 塀に視線を向けている私に,村雨くんがどもりながら言葉を続けた。
 なぜにどもる?
 しかも、目が泳いでいるじゃない。
 何か違ういやらしい事を考えていそう。

「なんで私が塀を乗り越えなきゃいけないのかなぁ?」
「村雨殿。私を肩車していただけませんでしょうか?」

 不満げに即拒否の私に対し、おあきちゃんが村雨くんの前に出て来て言った。

「ありがとう、おあきちゃん。
 でも、私の代わりに危険な目に遭わせられないわ」
「お、お、お、おあきが一人で塀の向こうに言っても仕方ないだろ?」

 私に続いて、村雨くんはそう言うと、今度は泳いでいた目を止めて、私に視線を向けた。

「八犬士を見つけられるのは、ありすだけですよね?
 行くのはありすしかいないかと」

 さっきのちょっといやらしさを滲ませた言葉とは裏腹に、論理的な理由ときりりとした表情。やましい考えを隠し、自分は正しいと言う立場で私の足を開かそうと。もとい、私を肩車させようとしているとしか考えられないじゃない。

「確かにそうなんだけど、何か違わない?
 私がここを乗り越えたとして、中の人たちに取り囲まれたら、どうするのかな?」
「それは自分で考えてください」
「なにそれ?
 村雨くんが乗り越えるってのはないのかな?
 そして、門を開けてくれたらよくない?」

 私だって何もできやしないけど、きっと村雨くんだって、中に入って何かできる訳もないはず。でも、それでも、行くとしたら私じゃなく、剣を持った男の子のはず。

「それでもいいんですけど、私を押し上げてもらわなければならないですよ」

 私が村雨くんを押し上げることになる。
 だから、自分が塀を乗り越えると言うのはだめなんだと言う理屈らしい。

「だったら、私が」

 そう言って、おあきちゃんが塀のところまで走り寄り、塀を見上げた。

「うーん、それたぶん、無理じゃないかな。
 竜と戦うほどの村雨くんなんだから、こんな塀くらい、一人で飛び越えると言うのは無いのかなぁ?」

 塀の高さを村雨くんが飛び越えるなんて、あり得ない事を分かりつつも、ちょっと意地悪気分。関所での事を思い出せば、意地悪もしたくなる。

「分かりました」

 村雨くんはそう言うと、塀に向かって、ぴょんぴょんと飛び跳ね始めた。
 垂直跳びの高さで、きっと30cmほど。
 村雨くんの手の先は塀のてっぺんに届かない。

 言葉ではなく、行動で無理だと言う事を私にアピールしているとしか思えない。
 でも、そんな事で折れる気分じゃない。

「一つ聞いていいかな?」

 私の問いかけに、飛び跳ねるのをやめて、村雨くんが振り返った。

「なんでしょうか?」
「竜と戦う時って、これくらいの高さを飛び越えたりはしないの?」
「私の封印を解いたら、飛び越えられますよ」
「封印解くといけないのかな?」
「とんでもない事になりますから」
「じゃあ、私が押してあげるよ。
 見た中で一番小さかったあそこの門を開けてきね」

 意地悪気分MAXな私は左側を指さしながら、そう言った。

「さ、村雨くん」

 泣いたり、謝ったら、許してやろうと思いつつ、村雨くんを押し上げるため、肩車の体勢に入ろうとした私をおあきちゃんが突き飛ばした。

「だめ!
 それは私がするの」

 私にそんな役はさせられないと言う事なんだろうけど、ちょっと力が入り過ぎていたし、今も私におあきちゃんが向けている視線はちょっと敵意を感じてしまう。
 なんで??

「えぇーっと、何か私に恨みでも?」
「こんな事、ありす様にして欲しくないんですっ」
「そう言う事ね。
 でも、おあきちゃんにできるの?」
「できますっ!」

 そう言うとおあきちゃんは村雨くんの足の間に頭を入れて、肩車し始めた。
 そう大きくない村雨くんとは言え、私より小さなおあきちゃんの体では負荷は大き過ぎて、立ちあがりそうにない。

「ありすも押すと言うのはないのですか?」
「じゃあ、一人で行くって事でいいんだよね?」

 村雨くんの言葉はちょっと癪に障った。
 売り言葉に買い言葉。元々村雨くんを一人で行かせようと本気で思っていた訳じゃないのに、そう言われたら、行かしてあげようじゃないのとなってしまう。

「せーのーで、私も押すから、村雨くんは飛び上がって!」

 そう言って、私は村雨くんの後ろに回り、お尻に手を当てた。

「せーのー!」

 ジャンプした村雨くんのお尻を押し上げる手に力を込めた。
 目いっぱい気合を入れた私の腕はすかっとした空振り感を残して、大きく上に伸び、村雨くんの姿はひょいと塀を飛び越えて、姿を消した。村雨くんのジャンプとおあきちゃんの背筋力と、私の力が見事にかみ合ったらしい。

 ひぇぇぇ。
 自分でした事とは言え、とんでもない事をした気分。

 塀の向こうで、男たちに殴られたりなんかしてませんように!
 大丈夫でありますように!
 そんな事を祈りながら、自分が指さした門の方向に沿って、歩いていく。
 とりあえず塀の向こうは静かで、特に村雨くんが見つかった気配はない。
 中に入った村雨くんの心配をしながら歩いていると、もう門を開けたらしい村雨くんが姿を現して手招きした。

 早っ! 心配して損した気分。

「村雨殿!」

 おあきちゃんが駆け出して行った。

「中の人たちに、見つからなかったのね」

 そう声をかけた私に、村雨くんはにこりとだけ微笑み返して、私を塀の内側に引き入れた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...