7 / 37
八犬士たちを求める旅へ
しおりを挟む
伏姫を伴い、富山の地に移った八房はすでに死期が迫っていた。
八房は伏姫に特に何かをする訳でもなく、自らの屍を人目にさらさないために、1ヶ月ほどでどこへともなく姿を消した。
その後、伏姫を追って富山に入った元の許嫁だった金碗大輔と里見義実が、伏姫の下に現れると、伏姫はお腹の中に八房の子がいない事を証明するため、自らのお腹を切り裂いた。
その瞬間、伏姫のお腹の中から白く輝く光の珠が現れ、9つに分かれて飛散して行った。
そこまで話が進んだ時、私の記憶の中にあった昔の物語に似ている事に気づいて、口を挟まずにいられなくなった。
「9つ?
数珠の玉、8つじゃなくて?」
「9つですが」
「義とか、仁とかに分かれたんですよね?」
「何の事でしょうか?
そのようなものではなく、八房が取り込んだ他の物の怪たちの8つの妖力です」
「妖力ですか?」
「はい。
そして、もう一つが八房自身の力。
その力の継承者こそ、姫様でございます」
「よく分かんないんだけど、どうして、私がその力の継承者になるのかな?」
「その近くに居合わせました仙童が、そのように申したそうにございまする。
九つ目の力、八房自身の力を持った者は伏姫の姪として現れると。
これすなわち、浜路姫でございまする」
「そんな言い伝えがあったんだぁ。
だとして、どうしてその妙椿とか言う物の怪が私を狙うのかなぁ?」
「かつて、八房と妙椿は戦った事があると言われており、妙椿は八房の力を恐れていると言われております。
それゆえ妙椿は、八房の力を受け継ぐ姫様がその力を目覚めさせる前に亡きものにしようとたくらんでいるのです」
「なるほどぉ。
犬の物の怪ってのも、ありがちな設定だよね。
大猿の物の怪と犬の物の怪が戦うって訳なんだぁ」
私が置かれている立場が少しは分かった。
妙椿とか言う大猿の物の怪が私を狙っているとすれば、私が自分の身を守るには、妙椿に勝つだけの力を持たなければならない訳だし、この家の主は私に戦えと言う様な事を言ったけど、でも、どうすればそんな物の怪を相手にできるって言うの?
「じゃあ、私はどうしたらいいのかな?」
「八つの妖力はこの世界に飛び散りました。
その力を継承する者たち、すなわち八犬士たちと共に妙椿と戦い、倒されるのがよろしかろうかと」
私は未来の世界から、ここに呼び寄せられた存在。
とすれば、そこにやはり何かがあるのかも知れない。そう思わざるを得ない。
その理由こそ、八犬士たちを集めて、妙椿を倒す事?
妙椿を倒せば、私は元の時代に帰れるのでは?
確実ではないけど、その可能性に私は希望を感じた。
とにかく、八犬士とやらを探せばいい。
私と八犬士たちのやるべきことは分かったけど、村雨くんは?
「じゃあ、村雨くんは何するのかな?」
「私ですか。
それは姫様の護衛です。
ど、ど、ど、どこまでもついて行きます!」
なぜにどもる?
泳いだ目でそう言われると、ちょっと危険な気がしてしまい、視線を家の主に移した。
「ところで、その奴力を継承する人って、どこにいるのかなぁ?
八人も探すのは、大変だと思うんだよねぇ」
「それは姫自身が感じられるのでは?」
「私自身が感じる?」
目を閉じ、心静かにしてみると、確かに行きたい方角のようなものは感じる気がした。
「自信はないんだけど、なんとなくそうかも」
「それに、その者たちには体のどこかに、このような痣があるそうです」
家の主が一枚の紙を差し出した。
大きな○の上、ちょうど耳のような位置に二つの小さな△。
犬のマーク?
「こんな痣を持つ人を探せばいい訳ね。
とりあえず、やらないといけない事は分かったわ」
私が言い終えると、村雨くんが勢いよく立ち上がった。
「では、姫様、参りましょう」
「村雨くん。
物事には準備と言うものがあると思うんだけどなぁ。
それに、姫様って呼んでたら、私が姫だってばればれだと思うんだよねぇ」
「では、準備は進めるとしまして、何と呼ばせていただきましょうか?」
「そうねぇ」
私の元の名前。こんな世界で名乗るのはちょっと避けたい気がする。
私は変な世界に迷い込んだ女の子。としたら、これしかない。
「アリス。
私はアリスにします」
「ありすですか?
これまた奇妙な名ですなぁ」
家の主が小首を傾げて、怪訝そうに言ったので、筆と紙を用意させた。
その紙の上に、裾にフリルの付いたエプロンを着て、背後で大きなリボンを結んだメイド服調の女の子を描いてみせた。スカートはちょっとミニ気味にして、髪はストレートロングにカチューシャ。
「これよ。これがアリス」
「おぉぉぉ。これもまた萌えぇぇです」
「ありすで、よろしいかと」
二人がそう言って、私の名前はありすに決まった。
「で、で、で、ですがこの着物、かなり脚が出ておりますっ!
これでは、時折、ちらりちらりと見えてしまうのではないでしょうか?
私はそれが楽しみですっ!」
「おお、確かにそうじゃのう」
「なにが?」
私の問いかけに、男二人の視線が私の下腹部にロックオンしたのを感じた。
「見えませんっ!」
ムッとした口調で、男二人を睨み付ける。
「なぜですか?
これなら、見えますよね!!」
「下着、つまり、下に別の服のようなものをつけてるんですっ!」
「なんと、そのような」
「まるで、それでは見えそうで見せない、詐欺のようなものではないのでしょうか?」
がっかり顔の男二人を無視して、普通の着物のまま、髪型を三つ編みにすると、二人は、さらにがっかり感を増幅させた表情で、口をそろえて言った。
「それじゃあ、ありすじゃないよね?
萌えぇぇじゃないよね?」
そんな男二人、いえ、村雨くんにおあきちゃんが冷たい視線を向けながら、ぽそりと言った。
「そんな格好、姫様にはさせないんだから!」
男二人の不満を無視し、一人の応援を喜びながら、私は村雨くんとおあきちゃんの二人と共に村を後にした。
八房は伏姫に特に何かをする訳でもなく、自らの屍を人目にさらさないために、1ヶ月ほどでどこへともなく姿を消した。
その後、伏姫を追って富山に入った元の許嫁だった金碗大輔と里見義実が、伏姫の下に現れると、伏姫はお腹の中に八房の子がいない事を証明するため、自らのお腹を切り裂いた。
その瞬間、伏姫のお腹の中から白く輝く光の珠が現れ、9つに分かれて飛散して行った。
そこまで話が進んだ時、私の記憶の中にあった昔の物語に似ている事に気づいて、口を挟まずにいられなくなった。
「9つ?
数珠の玉、8つじゃなくて?」
「9つですが」
「義とか、仁とかに分かれたんですよね?」
「何の事でしょうか?
そのようなものではなく、八房が取り込んだ他の物の怪たちの8つの妖力です」
「妖力ですか?」
「はい。
そして、もう一つが八房自身の力。
その力の継承者こそ、姫様でございます」
「よく分かんないんだけど、どうして、私がその力の継承者になるのかな?」
「その近くに居合わせました仙童が、そのように申したそうにございまする。
九つ目の力、八房自身の力を持った者は伏姫の姪として現れると。
これすなわち、浜路姫でございまする」
「そんな言い伝えがあったんだぁ。
だとして、どうしてその妙椿とか言う物の怪が私を狙うのかなぁ?」
「かつて、八房と妙椿は戦った事があると言われており、妙椿は八房の力を恐れていると言われております。
それゆえ妙椿は、八房の力を受け継ぐ姫様がその力を目覚めさせる前に亡きものにしようとたくらんでいるのです」
「なるほどぉ。
犬の物の怪ってのも、ありがちな設定だよね。
大猿の物の怪と犬の物の怪が戦うって訳なんだぁ」
私が置かれている立場が少しは分かった。
妙椿とか言う大猿の物の怪が私を狙っているとすれば、私が自分の身を守るには、妙椿に勝つだけの力を持たなければならない訳だし、この家の主は私に戦えと言う様な事を言ったけど、でも、どうすればそんな物の怪を相手にできるって言うの?
「じゃあ、私はどうしたらいいのかな?」
「八つの妖力はこの世界に飛び散りました。
その力を継承する者たち、すなわち八犬士たちと共に妙椿と戦い、倒されるのがよろしかろうかと」
私は未来の世界から、ここに呼び寄せられた存在。
とすれば、そこにやはり何かがあるのかも知れない。そう思わざるを得ない。
その理由こそ、八犬士たちを集めて、妙椿を倒す事?
妙椿を倒せば、私は元の時代に帰れるのでは?
確実ではないけど、その可能性に私は希望を感じた。
とにかく、八犬士とやらを探せばいい。
私と八犬士たちのやるべきことは分かったけど、村雨くんは?
「じゃあ、村雨くんは何するのかな?」
「私ですか。
それは姫様の護衛です。
ど、ど、ど、どこまでもついて行きます!」
なぜにどもる?
泳いだ目でそう言われると、ちょっと危険な気がしてしまい、視線を家の主に移した。
「ところで、その奴力を継承する人って、どこにいるのかなぁ?
八人も探すのは、大変だと思うんだよねぇ」
「それは姫自身が感じられるのでは?」
「私自身が感じる?」
目を閉じ、心静かにしてみると、確かに行きたい方角のようなものは感じる気がした。
「自信はないんだけど、なんとなくそうかも」
「それに、その者たちには体のどこかに、このような痣があるそうです」
家の主が一枚の紙を差し出した。
大きな○の上、ちょうど耳のような位置に二つの小さな△。
犬のマーク?
「こんな痣を持つ人を探せばいい訳ね。
とりあえず、やらないといけない事は分かったわ」
私が言い終えると、村雨くんが勢いよく立ち上がった。
「では、姫様、参りましょう」
「村雨くん。
物事には準備と言うものがあると思うんだけどなぁ。
それに、姫様って呼んでたら、私が姫だってばればれだと思うんだよねぇ」
「では、準備は進めるとしまして、何と呼ばせていただきましょうか?」
「そうねぇ」
私の元の名前。こんな世界で名乗るのはちょっと避けたい気がする。
私は変な世界に迷い込んだ女の子。としたら、これしかない。
「アリス。
私はアリスにします」
「ありすですか?
これまた奇妙な名ですなぁ」
家の主が小首を傾げて、怪訝そうに言ったので、筆と紙を用意させた。
その紙の上に、裾にフリルの付いたエプロンを着て、背後で大きなリボンを結んだメイド服調の女の子を描いてみせた。スカートはちょっとミニ気味にして、髪はストレートロングにカチューシャ。
「これよ。これがアリス」
「おぉぉぉ。これもまた萌えぇぇです」
「ありすで、よろしいかと」
二人がそう言って、私の名前はありすに決まった。
「で、で、で、ですがこの着物、かなり脚が出ておりますっ!
これでは、時折、ちらりちらりと見えてしまうのではないでしょうか?
私はそれが楽しみですっ!」
「おお、確かにそうじゃのう」
「なにが?」
私の問いかけに、男二人の視線が私の下腹部にロックオンしたのを感じた。
「見えませんっ!」
ムッとした口調で、男二人を睨み付ける。
「なぜですか?
これなら、見えますよね!!」
「下着、つまり、下に別の服のようなものをつけてるんですっ!」
「なんと、そのような」
「まるで、それでは見えそうで見せない、詐欺のようなものではないのでしょうか?」
がっかり顔の男二人を無視して、普通の着物のまま、髪型を三つ編みにすると、二人は、さらにがっかり感を増幅させた表情で、口をそろえて言った。
「それじゃあ、ありすじゃないよね?
萌えぇぇじゃないよね?」
そんな男二人、いえ、村雨くんにおあきちゃんが冷たい視線を向けながら、ぽそりと言った。
「そんな格好、姫様にはさせないんだから!」
男二人の不満を無視し、一人の応援を喜びながら、私は村雨くんとおあきちゃんの二人と共に村を後にした。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし
みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。
それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。
2回目の人生は異世界で
黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)
田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ?
コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。
(あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw)
台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。
読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。
(カクヨムにも投稿しております)
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる