エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

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八犬士たちを求める旅へ

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 伏姫を伴い、富山の地に移った八房はすでに死期が迫っていた。
 八房は伏姫に特に何かをする訳でもなく、自らの屍を人目にさらさないために、1ヶ月ほどでどこへともなく姿を消した。

 その後、伏姫を追って富山に入った元の許嫁だった金碗大輔かなまりだいすけと里見義実が、伏姫の下に現れると、伏姫はお腹の中に八房の子がいない事を証明するため、自らのお腹を切り裂いた。
 その瞬間、伏姫のお腹の中から白く輝く光の珠が現れ、9つに分かれて飛散して行った。

 そこまで話が進んだ時、私の記憶の中にあった昔の物語に似ている事に気づいて、口を挟まずにいられなくなった。

「9つ?
 数珠の玉、8つじゃなくて?」
「9つですが」
「義とか、仁とかに分かれたんですよね?」
「何の事でしょうか?
 そのようなものではなく、八房が取り込んだ他の物の怪たちの8つの妖力です」
「妖力ですか?」
「はい。
 そして、もう一つが八房自身の力。
 その力の継承者こそ、姫様でございます」
「よく分かんないんだけど、どうして、私がその力の継承者になるのかな?」
「その近くに居合わせました仙童が、そのように申したそうにございまする。
 九つ目の力、八房自身の力を持った者は伏姫の姪として現れると。
 これすなわち、浜路姫でございまする」
「そんな言い伝えがあったんだぁ。
 だとして、どうしてその妙椿とか言う物の怪が私を狙うのかなぁ?」
「かつて、八房と妙椿は戦った事があると言われており、妙椿は八房の力を恐れていると言われております。
 それゆえ妙椿は、八房の力を受け継ぐ姫様がその力を目覚めさせる前に亡きものにしようとたくらんでいるのです」
「なるほどぉ。
 犬の物の怪ってのも、ありがちな設定だよね。
 大猿の物の怪と犬の物の怪が戦うって訳なんだぁ」

 私が置かれている立場が少しは分かった。
 妙椿とか言う大猿の物の怪が私を狙っているとすれば、私が自分の身を守るには、妙椿に勝つだけの力を持たなければならない訳だし、この家の主は私に戦えと言う様な事を言ったけど、でも、どうすればそんな物の怪を相手にできるって言うの?

「じゃあ、私はどうしたらいいのかな?」
「八つの妖力はこの世界に飛び散りました。
 その力を継承する者たち、すなわち八犬士たちと共に妙椿と戦い、倒されるのがよろしかろうかと」

 私は未来の世界から、ここに呼び寄せられた存在。
 とすれば、そこにやはり何かがあるのかも知れない。そう思わざるを得ない。
 その理由こそ、八犬士たちを集めて、妙椿を倒す事?
 妙椿を倒せば、私は元の時代に帰れるのでは?
 確実ではないけど、その可能性に私は希望を感じた。

 とにかく、八犬士とやらを探せばいい。
 私と八犬士たちのやるべきことは分かったけど、村雨くんは?

「じゃあ、村雨くんは何するのかな?」
「私ですか。
 それは姫様の護衛です。
 ど、ど、ど、どこまでもついて行きます!」

 なぜにどもる?
 泳いだ目でそう言われると、ちょっと危険な気がしてしまい、視線を家の主に移した。

「ところで、その奴力を継承する人って、どこにいるのかなぁ?
 八人も探すのは、大変だと思うんだよねぇ」
「それは姫自身が感じられるのでは?」
「私自身が感じる?」

 目を閉じ、心静かにしてみると、確かに行きたい方角のようなものは感じる気がした。

「自信はないんだけど、なんとなくそうかも」
「それに、その者たちには体のどこかに、このような痣があるそうです」

 家の主が一枚の紙を差し出した。
 大きな○の上、ちょうど耳のような位置に二つの小さな△。
 犬のマーク?

「こんな痣を持つ人を探せばいい訳ね。
 とりあえず、やらないといけない事は分かったわ」

 私が言い終えると、村雨くんが勢いよく立ち上がった。

「では、姫様、参りましょう」
「村雨くん。
 物事には準備と言うものがあると思うんだけどなぁ。
 それに、姫様って呼んでたら、私が姫だってばればれだと思うんだよねぇ」
「では、準備は進めるとしまして、何と呼ばせていただきましょうか?」
「そうねぇ」

 私の元の名前。こんな世界で名乗るのはちょっと避けたい気がする。
 私は変な世界に迷い込んだ女の子。としたら、これしかない。

「アリス。
 私はアリスにします」
「ありすですか?
 これまた奇妙な名ですなぁ」

 家の主が小首を傾げて、怪訝そうに言ったので、筆と紙を用意させた。
 その紙の上に、裾にフリルの付いたエプロンを着て、背後で大きなリボンを結んだメイド服調の女の子を描いてみせた。スカートはちょっとミニ気味にして、髪はストレートロングにカチューシャ。

「これよ。これがアリス」
「おぉぉぉ。これもまた萌えぇぇです」
「ありすで、よろしいかと」

 二人がそう言って、私の名前はありすに決まった。

「で、で、で、ですがこの着物、かなり脚が出ておりますっ!
 これでは、時折、ちらりちらりと見えてしまうのではないでしょうか?
 私はそれが楽しみですっ!」
「おお、確かにそうじゃのう」
「なにが?」

 私の問いかけに、男二人の視線が私の下腹部にロックオンしたのを感じた。

「見えませんっ!」

 ムッとした口調で、男二人を睨み付ける。

「なぜですか?
 これなら、見えますよね!!」
「下着、つまり、下に別の服のようなものをつけてるんですっ!」
「なんと、そのような」
「まるで、それでは見えそうで見せない、詐欺のようなものではないのでしょうか?」

 がっかり顔の男二人を無視して、普通の着物のまま、髪型を三つ編みにすると、二人は、さらにがっかり感を増幅させた表情で、口をそろえて言った。

「それじゃあ、ありすじゃないよね?
 萌えぇぇじゃないよね?」

 そんな男二人、いえ、村雨くんにおあきちゃんが冷たい視線を向けながら、ぽそりと言った。

「そんな格好、姫様にはさせないんだから!」

 男二人の不満を無視し、一人の応援を喜びながら、私は村雨くんとおあきちゃんの二人と共に村を後にした。
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