エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

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城からおちることに

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 蟇田ひきたの軍勢が攻めて来たと言うその声に呼応して、さっきまで静かだった屋敷の中が、一気に慌ただしくなった。

 どたどたと廊下を駆け回る人々の足音。
 障子に映る廊下を小走りで行き来する人たちの影。

 一方の村雨くんは他の者たちの慌てぶりに対して、どっかりと座り、落ち着いた表情のままである。
 もしかして、マジで村雨くんは強いから?
 そんな事を少しは思いながら、村雨くんに目を向けてきいてみた。

「えぇーっと。ひきたって、誰?」
「お忘れですか?
 館山城主です。反旗を翻したものかと」
「そう言う訳じゃないんだけどね。
 そいつが攻めてきたって事は、村雨くんも戦いに行くのかな?」
「えっ?
 私ですか?」
「だって、天下無双の剣の技を持ってんだよね?」
「い、い、い、行きたいに決まっているではありませんか」

 村雨くんが胸を反らし、そして目を泳がせながら言った。

「村雨くんが行けば、敵なんか一瞬で片付けられちゃうよね?
 人間の軍勢なんて、竜よりも弱いでしょ」
「も、も、もちろん。
 ですが、私が本気を出せば、この国全てが無くなってしまいますので、本気で戦えないのです。
 残念ですっ!」
「そっかぁ。だったら、しかたないね」

 これはだめそう。
 そんな確信を強めながらも、とりあえず話を合わせて、残念そうに言いながら、視線を村雨くんに向けて、もう一度観察してみる。

 服の袖口あたりからのぞく腕は決して筋肉隆々じゃない。
 肩幅もがっしりではなく、どちらかと言えば全体的に華奢な体のつくり。
 竜と戦っている村雨くんが強いのは、頭の中で繰り広げられる戦いの中だけっぽい。

 とは言え、戦はなにも村雨くんを戦わさなくてもいいはず。他の兵たちの活躍に期待したい。
 で、この戦い、そもそも勝てるの?
 もしも、もしもだけど、戦で負けたとしたら、燃え上がるお城が炎の中で崩れ落ち、殿様はお城の奥の間で自刃し、奥方や姫も自らの手で喉に刃を。
 今、正に始まろうとしている戦で負ければ、きっとこの最悪のパターンになって、その中に私も参加することに……。
 
「ところで、この戦、勝てるのかなぁ?」

 そう聞きながらも、こんな時の答えはきっと「もちろんです」。それがたとえ、社交辞令的なものであっても、少しは心が落ち着くかも知れないのを期待していた私に、意外な言葉が返って来た。

「ちょっと、厳しいかも」
「はぃぃぃ?」

 予想外の返事に、目が点になってしまう。
 うーん。なんで、少しでも気が楽になるような言葉を言ってくれないのかなぁ?
 そんな思いで、中二病の村雨くんの心中を想像しながら、たずねてみる。

「それって、天下無双の村雨くんが出陣しないからなのかなぁ?」

 そう。自分がいないからと言いたいのだ。なら、さっきの村雨くんの言葉は無視してもいいはずだと言うのに、村雨くんはまたまた私を不安に陥れる言葉を発した。

「いえ。
 向こうは出陣の準備をして、攻めて来たはずですが、こちらに防御の準備はありません。
 いわゆる不意打ちですね。
 これでは籠城が精いっぱいですが、この城に今、兵は集まっておりませんから、時間の問題かと」
「えぇーっと。とんでもない事、平気で言ってるけど」
「事実を申し上げたまでです」

 なぜだか、村雨くんはきりりとしたマジな顔つきで、さらっと言ってのけた。
 じゃあ、私はどうなるのかな?
 なんて、思っているところに、この城の者らしい男が私たちの部屋に駆けこんできた。

「姫っ!」

 そこまで言って、部屋の中に村雨くんがいる事に気づき、視線を村雨くんに移した。

「村雨、今ならまだ間に合う。
 姫様を連れて、直ちに落ちろ」

 そして、私に視線を移して、私に言った。

「姫、すでに聞き及んでおられると思いまするが、蟇田の軍勢が城に迫っておりまする。
 殿より、姫を落とせとの命が下されておりまする。
 直ちに、城より落ちて下さりませ」

 ここから逃げるのと、ここに居残ると言う二つの選択肢。
 人生を左右する選択。
 これはきっと、大学を選んだり、結婚相手を選んだりするより、はるかに慎重に決めなければならないに違いない。

 村雨くんの言葉や、この城の殿が逃げろと言うのだから、確率的にはこの城は落ちると考えてよさそう。それに、ここの殿、つまり、今の私の体の元の持ち主のお父様と会話をするようなことになれば、会話がかみ合わず、本物の姫じゃないと疑われる可能性が高い。
 いずれにしても、ここは出た方がよさげ。

「分かりました」

 そう言って、私は立ち上がった。

「多くの者を連れるより、村雨とおあきだけくらいの方が目立たぬかと」

 廊下に出ようとする私に、男が言う。
 村雨くんが本当に天下無双の剣の腕を持っているのなら、それでもいいんだけど、どうも怪しいだけに、ちょっと不安。
 でも、中途半端に人を連れていても、逆に目立つだけと言う事も。

「分かりました」

 そう言って、廊下に出ると「あき」と言う13歳くらいの女の子が廊下に控えていた。
 そのおあきちゃんと村雨くんとで、私は城を出る事にした。
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