エロい村雨くんは天下無双の剣士……なの?

あすか

文字の大きさ
上 下
1 / 37

いじめられている子犬を助けたら

しおりを挟む
 その光景を見た瞬間、私の脳裏にある歌が浮かんできた。

「昔、昔ぃ、浦島はぁ、助けた亀に連れられてぇ」

 いいよね。これって、著作権問題ないよね?
 なんて、一人で意味不明な事も思い浮かべながら、小さな段ボール箱を取り囲んでいる小学生の男の子たちに近づいて行った。

「拾ってください」

 男の子たちが抱きかかえている小さな子犬が入っていたであろう段ボール箱には、そんなメモが貼られていた。そのメモの通り拾って行ってくれそうなら問題ないんだけど、どう見てもいじめにしか見えない。

「ここから落としたら、どうなるかな?」

 上に伸ばした両手で子犬をがしっと掴み、意地悪そうな笑みを浮かべながら言っている。
 こいつはマジかも知れない。

 いくら小さな小学生とは言え、相手は小さな子犬。
 怪我だってするかも知れない。

「えぇーっと、ちょっといいかな」

 子供たちに声をかけてみると、警戒心むき出しの視線を私に向けて来た。

「誰、こいつ?」
「知らねぇよ」

 態度が悪ければ、口も悪い。
 まあ、礼儀正しい子がこんなちいちゃな子犬をいじめる訳もないので、そんな奴らだとは思ってましたけど。

「中学生だからって、口出ししてくんじゃねぇよ」
「あのう。私は高校生なんだけどね」

 そう言った私の制服の胸の辺りをガン見している小学生たち。

「これで高校生なのか?」
「小学生でもいいんじゃね?」

 胸に突き刺さるお言葉、ありがとうございます。
 確かに小学生だって、発育のいい子はいますよ。きっと、私はそんな子には負けてます。
 でも、胸は小さくても私は高2なんです。
 気を取り直して、小学生たちに向き直った。

「えぇーっと。そんな事はいいんだけどさ。
 子犬をいじめるのはよくないんじゃないかな」

 相手は憎たらしいただの小学生だと言うのに、ついつい可愛く小首を傾げて言ってしまった。

「いじめてなんかいねぇよ」
「そうだよ。
 赤ちゃんにだってしてやんだろ。
 高い、高いぃって」

 そう言いながら、犬を手にしている男の子が軽く子犬を上に放り投げては、キャッチを繰り返した。

「くぅぅぅん」

 私的には、そんな声を上げた子犬は涙目に見えちゃう。

「今だって、悲しげな鳴き声だったよ。
 止めてって言ったんじゃないかな?」
「俺には、もっと、もっとと聞こえたけどな」
「おねぇちゃん。本当に高校生だってんなら、おねえちゃんも言ったことあるんじゃねぇの。
 彼氏にもっと、もっとぅってさ」
「うーん。何の事なのかなぁ?」

 意味が分かんなくて小首を傾げる私に、男の子たちはげらげらと大笑いを始めた。

「すっ呆けてるのか、マジで知らねぇのか、どっちなんだ?」
「俺が言わせてやろうか?」
「うーん。あのね。そんな話じゃなくて、子犬を離してやってくれないかな」
「おねえちゃん、この犬、買う?
 買うってんなら、売ってやるけど」

 たちの悪い男子小学生の相手は、私では荷が重すぎ。
 びしっと怒ってやれば、引き下がるのかも。でも、それは私のキャラじゃないし。
 でも、なんだかこの子犬の事は気になってしまう。
 どうしたものかと思っていた時、事件は起きた。
 男の子の両手に掴まれていた子犬がおしっこをしたのだ。

「ぎゃっ」

 子犬を掴んでいた男の子は慌てて、子犬を放り投げた。
 その子犬はちょうど私に背を向けた状態で飛んできた。
 その子犬をがしっと両手で受け止め、ナイスキャッチ。

 子犬はまだおしっこをしていて、小学生たちにおしっこ攻撃を加えている。
 たまらず男の子たちは逃げ出し、子犬のおしっこが終わった頃には、遠ざかって行く小さな後姿になっていた。
 とりあえずは、いじめられている子犬を救うと言う問題は解決。でも、困ったことがある。
 私は子犬を両手で持ったまま、そうおしっこしたての子犬をぎゅっと抱きしめる勇気はなく、少し離した状態で持ったまま、その問題について考え込まずにいられなかった。

 この子犬、どうしたものか?
 マンション住まいの私は連れて帰る事はできない。
 そもそも、今時、犬を捨てるってあり得なくない?
 なんて思った時、声が聞こえて来た。

「やっと、見つけた。
 こんな遠き時代に生まれておったのか」

 その声は正面から聞こえて来た気がするんだけど、正面には私が持っている子犬しかしない。とりあえず、辺りをきょろきょろと見渡してみたけど、人気は無い。

「気のせい?」

 小首を傾げながら、子犬を一旦元の段ボール箱に戻してみる。

「あなたには来てもらいます」

 今度の声も、確かに子犬の方から聞こえて来た。

「えぇーっと」

 小首を傾げていると、目の前の子犬が一瞬の内に巨大化し、大きく開いた口が私を飲み込んだ。

 あれ?
 私、食べられちゃうの?
 これって、ただの子犬じゃなかったの?
 助けた亀は竜宮城に連れてってくれるんだけど、助けた子犬は恩を仇で返すの?

 なんて、真っ暗な闇の中で私は考えていた。
 でも、私の思考はすぐに闇に溶けて、消え去って行った。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

家庭菜園物語

コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。 その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。 異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

生活魔法しか使えない少年、浄化(クリーン)を極めて無双します(仮)(習作3)

田中寿郎
ファンタジー
壁しか見えない街(城郭都市)の中は嫌いだ。孤児院でイジメに遭い、無実の罪を着せられた幼い少年は、街を抜け出し、一人森の中で生きる事を選んだ。武器は生活魔法の浄化(クリーン)と乾燥(ドライ)。浄化と乾燥だけでも極めれば結構役に立ちますよ? コメントはたまに気まぐれに返す事がありますが、全レスは致しません。悪しからずご了承願います。 (あと、敬語が使えない呪いに掛かっているので言葉遣いに粗いところがあってもご容赦をw) 台本風(セリフの前に名前が入る)です、これに関しては助言は無用です、そういうスタイルだと思ってあきらめてください。 読みにくい、面白くないという方は、フォローを外してそっ閉じをお願いします。 (カクヨムにも投稿しております)

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...