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「…これ、なに…?」
いつもと変わらない様に言ったつもりだったのに、私の声は掠れていた。
目の前にある紙に書いてあるのは、「合格」の文字。
高校名は二人で決めた志望校じゃなくて、田舎に住んでいる私ですら知っている、東京のいわゆる「芸能人御用達」の学校。
見えているのに読めなくて、そのうち文字が滲んだ。
「あぁ…ごめん…東京に行く…」
「東京に行こうと思うんだけど、どう思う?」でもなく、「東京に行く」
言い切っちゃうんだね。
もう、決めちゃったんだね。
そういう、チャンスを掴もうと即決する翔の事、大好きだよ。
いつも頼もしく思ってた。
一緒にやろうって、物心ついたときから引っ張ってくれた。
男気溢れる翔が大好き。
だけど、分かってるかな。
東京に行くって、別れるって事なんだよ。
誕生日も産まれた病院も一緒で、習い事だけでなく予防注射だって一緒に打って泣いてたのに。
とてつもなく短い春も、BBQが何回出来るかワクワクした夏も、紅葉しない秋も、そんなに寒くならないのに頑張ってコート着る冬も。
毎年巡って来た季節に、一緒にいれないって事なんだよ。
頭は忙しなく動くのに、言葉にする事が出来なくて。
それでも涙は止まらなくて。
なのに翔はずっと立ち止まったまま。
応援したいんだよ。
側にいたいんだよ。
だって、15年、そうやってきたじゃん。
たった15年だけど、今の私の全てに翔が居るんだよ。
この部屋だって、私が触れてないとこなんて1㎜も無い。
お互いの家族だって知っているし、知らないとこなんて無かったハズなのに。
秒針の音だけが響く。
見上げた先には、困った様な顔を浮かべた翔がいて。
…あぁ、もう何を言ってもこの決定は覆らないんだって悟った。
「…いつ…引っ越すの…」
「…卒業式の次の日…」
「私の合格発表は見に行かない…?」
「…うん。」
「…そっか…」
その後はどうしたか覚えていない。
唯一の救いは、学校が自由登校になった事で、翔ともクラスメイトとも会わなくて済んだ事。
入試だって受けたハズなんだ。
でも何も覚えてなくて。
毎日毎日、息をするのがやっとの状態で生きていた。
卒業式の日。
実は頭の良かった翔は、卒業を代表して挨拶をして。
クラスの子達と楽しげに写真を撮っていた。
私を目の敵にしていた陽キャの女の子達が、私と翔との写真を撮ってくれた。
いつも怒ってばっかりだった先生が号泣してるのをみんなで笑って。
帰り間際には、後輩の女の子達から学ランのボタンを強請られて。
晩御飯は翔の家族と私の家族で、いつもお祝いの時に使う、海辺のホテルの中華レストランでいっぱい食べた。
信じられない位笑って、明日から会えないなんて、実は壮大なドッキリなんじゃないかって何度も願った。
だけど、ドッキリなんかじゃなくて。
ちゃんと空港にお見送りに行った。
「私は女優」
そう自分に言い聞かせて、人生一番の笑顔を見せた、と思う。
友達・家族に見送られながらゲートに向かう翔を、本当に見えなくなるまで見続けた。
振り返って、振り返って!
最後まで祈ったけど、翔が振り返る事はなく。
明確な別れの言葉もないままに、私の世界は色を失った。
そして私は、二人で行くハズだった高校に進学した。
あんなにテンションの上がった制服も、新しい出会いにも心動かないままに。
「…これ、なに…?」
いつもと変わらない様に言ったつもりだったのに、私の声は掠れていた。
目の前にある紙に書いてあるのは、「合格」の文字。
高校名は二人で決めた志望校じゃなくて、田舎に住んでいる私ですら知っている、東京のいわゆる「芸能人御用達」の学校。
見えているのに読めなくて、そのうち文字が滲んだ。
「あぁ…ごめん…東京に行く…」
「東京に行こうと思うんだけど、どう思う?」でもなく、「東京に行く」
言い切っちゃうんだね。
もう、決めちゃったんだね。
そういう、チャンスを掴もうと即決する翔の事、大好きだよ。
いつも頼もしく思ってた。
一緒にやろうって、物心ついたときから引っ張ってくれた。
男気溢れる翔が大好き。
だけど、分かってるかな。
東京に行くって、別れるって事なんだよ。
誕生日も産まれた病院も一緒で、習い事だけでなく予防注射だって一緒に打って泣いてたのに。
とてつもなく短い春も、BBQが何回出来るかワクワクした夏も、紅葉しない秋も、そんなに寒くならないのに頑張ってコート着る冬も。
毎年巡って来た季節に、一緒にいれないって事なんだよ。
頭は忙しなく動くのに、言葉にする事が出来なくて。
それでも涙は止まらなくて。
なのに翔はずっと立ち止まったまま。
応援したいんだよ。
側にいたいんだよ。
だって、15年、そうやってきたじゃん。
たった15年だけど、今の私の全てに翔が居るんだよ。
この部屋だって、私が触れてないとこなんて1㎜も無い。
お互いの家族だって知っているし、知らないとこなんて無かったハズなのに。
秒針の音だけが響く。
見上げた先には、困った様な顔を浮かべた翔がいて。
…あぁ、もう何を言ってもこの決定は覆らないんだって悟った。
「…いつ…引っ越すの…」
「…卒業式の次の日…」
「私の合格発表は見に行かない…?」
「…うん。」
「…そっか…」
その後はどうしたか覚えていない。
唯一の救いは、学校が自由登校になった事で、翔ともクラスメイトとも会わなくて済んだ事。
入試だって受けたハズなんだ。
でも何も覚えてなくて。
毎日毎日、息をするのがやっとの状態で生きていた。
卒業式の日。
実は頭の良かった翔は、卒業を代表して挨拶をして。
クラスの子達と楽しげに写真を撮っていた。
私を目の敵にしていた陽キャの女の子達が、私と翔との写真を撮ってくれた。
いつも怒ってばっかりだった先生が号泣してるのをみんなで笑って。
帰り間際には、後輩の女の子達から学ランのボタンを強請られて。
晩御飯は翔の家族と私の家族で、いつもお祝いの時に使う、海辺のホテルの中華レストランでいっぱい食べた。
信じられない位笑って、明日から会えないなんて、実は壮大なドッキリなんじゃないかって何度も願った。
だけど、ドッキリなんかじゃなくて。
ちゃんと空港にお見送りに行った。
「私は女優」
そう自分に言い聞かせて、人生一番の笑顔を見せた、と思う。
友達・家族に見送られながらゲートに向かう翔を、本当に見えなくなるまで見続けた。
振り返って、振り返って!
最後まで祈ったけど、翔が振り返る事はなく。
明確な別れの言葉もないままに、私の世界は色を失った。
そして私は、二人で行くハズだった高校に進学した。
あんなにテンションの上がった制服も、新しい出会いにも心動かないままに。
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