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お見舞い
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「よお、千尋!調子はどうだ?」
高校から電車と徒歩で40分、病室に到着した俺は扉を開けると布団で寝ている妹に声をかける
ここは荒木山病院、俺の唯一の家族である妹が4年前から入院している病院だ。妹の病気が原因不明と言うこともあり、担当医や看護師の人たちはとても俺たちのことを気にかけてくれる。
今や受付の人にも顔を覚えられ、俺はもはや顔パスで入れる
「……ん? あ!おにいちゃん!」
真っ白な髪に黒い瞳、枯れ枝のように痩せた体を薄い白い肌が包み込む。食欲が無いのだろうか、妹の体はところどころうっすらと骨が浮き出ている。
入院前の健康的な姿と比較すれば、この4年間が如何に妹にとって辛いことだったかを伺い知ることができる。
そんな俺の心配をよそに、ダルそうに顔を向けた妹の寝ぼけた目がみるみる意識を取り戻す。
「ああ、今日はちょっと遅くなってな、寝てたか?」
時刻はもう夕方、病室には暮れゆく夕日が差し込み、逆光の中でぼんやりと妹の影が俺の瞳に映る
妹は手を置く位置を確かめるように布団をさすると、力を入れてゆっくりと上体を起こす。
「う~ん……寝すぎた~」
妹は起きると必ず伸びをする。なんとなく猫のようにも見えなくもない
「ほらよ、今週号だ」
俺は妹の好きな少女雑誌を布団に置く。妹は毎週これをみるのが唯一の楽しみだそうだ。
「わあー!! ありがとう!! 続き気になってたんだ~」
ニコニコしながら雑誌を取る妹、気のせいだろうか、また腕が細くなった気がする。
今日も色々と検査をしたのだろうか、妹の顔から疲れているのが分かる。だが俺が来る直前まで寝ていたのは初めてだ。
俺が見舞いに行く日は妹の毎週定期的に行われる検査の日であり、疲れ切った妹を元気づけようと思って雑誌を買い始めたのがこのお見舞いの始まりだ。妹はいつも俺がくる時間になると必ず起きて出迎えてくれたのだ。
(今日はどんな検査をしたんだろうか……食事も常に病院食……本当はプリンでも食わせてやりたいんだけどな……)
現在妹は小学6年生、4年前までは元気に友達と遊んでいたのだが、急遽入院を余儀なくされた。最初こそ友人が遊びに来てくれたそうだが、今はもう担任の先生が来るくらいだ。修学旅行も行けない、友達とも遊べない、思い出が作れない、そんな妹が何を考え、どんな気持ちで生きているのか……俺が完全に理解することはできないのだろう
「おにいちゃん?どうしたの? 」
「え? 何が?」
妹が急に顔を覗き込んでくる
「いや、なんか元気無いなって……もしかして疲れてる?」
「いや、ちょっとテストでしくじって落ち込んでいただけさ……勉強も難しくなってね」
「ふーん、勉強かー……最近出来てないな……」
妹はぼんやりと病室の外を眺めはじめる。少女雑誌はまだ半分も読んでいない
入院したばかりの頃は問題なく宿題ができていた妹も、病状が悪化してからは医者に止められ勉強ができていない。
「どうした? 今日の検査…辛かったか?」
俺は普段と違う反応が気になり探るように聞く
「ううん、いつまでこんな生活続くのかなぁって……お兄ちゃんにも迷惑かけてさ、お父さんもいなくなっちゃたし……私も…」
閉じられた少女雑誌に光を失いつつある妹の目、夕日の差し込む病室からは先ほどまでの明るさが嘘のように消えていく
(……やめてくれ、お前までそうなったら……俺はこれからどうすれば……)
今にも枯れてしまいそうな妹の姿を捉える俺の目から涙が一粒頬を伝って落ちていく。それと同時に何かが胸の内からこみ上げる感覚を得ながら、俺は必死でそれを押し殺す。
「……生きていれば、生きていればいいこともある。千尋…兄ちゃんな、今勉強頑張ってんだ。今回テストはダメだったけど次回はいい点とれると思う。それに、例え今テストがダメでも大学受験までに頑張って成功すれば大丈夫なんだ。だからな…千尋、今はまだ勉強も学校にも通えないかもしれない、でも生きていれば後で取り返せるんだ!絶対に!兄ちゃんも協力するから!」
言葉を押し出すように妹に訴える。俺はしっかりと妹の目を見れているのだろうか? こんなにも話していて辛いことは初めてだ。
「うん……そうだね、お父さんもそういうよね…… 分かった、お兄ちゃん!私も頑張る!」
うつむいていた顔が俺に向き、妹の目に光が戻った……ような気がする。しかしその顔はまるでよくアニメなどでみる仲間を逃がすために囮役を引き受け、明るく振舞う一種のキャラクターのように見えた
「そうだ!俺も頑張る!だから千尋も頑張る! 約束だ!」
「うん!」
妹は満面の笑みで俺の手を力強く握る。それは先ほどの表情よりはよかったものの、俺は妹には無理をさせているようで罪悪感でチクチクと心が痛んだ
高校から電車と徒歩で40分、病室に到着した俺は扉を開けると布団で寝ている妹に声をかける
ここは荒木山病院、俺の唯一の家族である妹が4年前から入院している病院だ。妹の病気が原因不明と言うこともあり、担当医や看護師の人たちはとても俺たちのことを気にかけてくれる。
今や受付の人にも顔を覚えられ、俺はもはや顔パスで入れる
「……ん? あ!おにいちゃん!」
真っ白な髪に黒い瞳、枯れ枝のように痩せた体を薄い白い肌が包み込む。食欲が無いのだろうか、妹の体はところどころうっすらと骨が浮き出ている。
入院前の健康的な姿と比較すれば、この4年間が如何に妹にとって辛いことだったかを伺い知ることができる。
そんな俺の心配をよそに、ダルそうに顔を向けた妹の寝ぼけた目がみるみる意識を取り戻す。
「ああ、今日はちょっと遅くなってな、寝てたか?」
時刻はもう夕方、病室には暮れゆく夕日が差し込み、逆光の中でぼんやりと妹の影が俺の瞳に映る
妹は手を置く位置を確かめるように布団をさすると、力を入れてゆっくりと上体を起こす。
「う~ん……寝すぎた~」
妹は起きると必ず伸びをする。なんとなく猫のようにも見えなくもない
「ほらよ、今週号だ」
俺は妹の好きな少女雑誌を布団に置く。妹は毎週これをみるのが唯一の楽しみだそうだ。
「わあー!! ありがとう!! 続き気になってたんだ~」
ニコニコしながら雑誌を取る妹、気のせいだろうか、また腕が細くなった気がする。
今日も色々と検査をしたのだろうか、妹の顔から疲れているのが分かる。だが俺が来る直前まで寝ていたのは初めてだ。
俺が見舞いに行く日は妹の毎週定期的に行われる検査の日であり、疲れ切った妹を元気づけようと思って雑誌を買い始めたのがこのお見舞いの始まりだ。妹はいつも俺がくる時間になると必ず起きて出迎えてくれたのだ。
(今日はどんな検査をしたんだろうか……食事も常に病院食……本当はプリンでも食わせてやりたいんだけどな……)
現在妹は小学6年生、4年前までは元気に友達と遊んでいたのだが、急遽入院を余儀なくされた。最初こそ友人が遊びに来てくれたそうだが、今はもう担任の先生が来るくらいだ。修学旅行も行けない、友達とも遊べない、思い出が作れない、そんな妹が何を考え、どんな気持ちで生きているのか……俺が完全に理解することはできないのだろう
「おにいちゃん?どうしたの? 」
「え? 何が?」
妹が急に顔を覗き込んでくる
「いや、なんか元気無いなって……もしかして疲れてる?」
「いや、ちょっとテストでしくじって落ち込んでいただけさ……勉強も難しくなってね」
「ふーん、勉強かー……最近出来てないな……」
妹はぼんやりと病室の外を眺めはじめる。少女雑誌はまだ半分も読んでいない
入院したばかりの頃は問題なく宿題ができていた妹も、病状が悪化してからは医者に止められ勉強ができていない。
「どうした? 今日の検査…辛かったか?」
俺は普段と違う反応が気になり探るように聞く
「ううん、いつまでこんな生活続くのかなぁって……お兄ちゃんにも迷惑かけてさ、お父さんもいなくなっちゃたし……私も…」
閉じられた少女雑誌に光を失いつつある妹の目、夕日の差し込む病室からは先ほどまでの明るさが嘘のように消えていく
(……やめてくれ、お前までそうなったら……俺はこれからどうすれば……)
今にも枯れてしまいそうな妹の姿を捉える俺の目から涙が一粒頬を伝って落ちていく。それと同時に何かが胸の内からこみ上げる感覚を得ながら、俺は必死でそれを押し殺す。
「……生きていれば、生きていればいいこともある。千尋…兄ちゃんな、今勉強頑張ってんだ。今回テストはダメだったけど次回はいい点とれると思う。それに、例え今テストがダメでも大学受験までに頑張って成功すれば大丈夫なんだ。だからな…千尋、今はまだ勉強も学校にも通えないかもしれない、でも生きていれば後で取り返せるんだ!絶対に!兄ちゃんも協力するから!」
言葉を押し出すように妹に訴える。俺はしっかりと妹の目を見れているのだろうか? こんなにも話していて辛いことは初めてだ。
「うん……そうだね、お父さんもそういうよね…… 分かった、お兄ちゃん!私も頑張る!」
うつむいていた顔が俺に向き、妹の目に光が戻った……ような気がする。しかしその顔はまるでよくアニメなどでみる仲間を逃がすために囮役を引き受け、明るく振舞う一種のキャラクターのように見えた
「そうだ!俺も頑張る!だから千尋も頑張る! 約束だ!」
「うん!」
妹は満面の笑みで俺の手を力強く握る。それは先ほどの表情よりはよかったものの、俺は妹には無理をさせているようで罪悪感でチクチクと心が痛んだ
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