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野心の館2

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15分ぐらい経っただろうか。

雄司が車へ戻ってきた。

「のん先生、まだ時間大丈夫だよね?」

「はい、時間は空いてますけど・・・」

「少し遅いお昼だけど、お酒が美味しいお店にちょっと寄ろう。」

雄司は慣れた手つきで運転し始めた。

「・・・契約うまくいきましたか?」

「いや、それが他に高値で買う人が現れたようだ。」

雄司は少し顎をかいて、さっきまでの偉そうな態度とは違って大人しく答えた。

「それって私が鑑定した分はどうなるんですか!?」

望美は悔しそうに聞いた。

「コンサルティング料として300万はもらったよ、もちろん。」

「300万っっ!!?」

望美は思わず声を大きくした。望美の給料からすると、かなりの高額だ。

「ビルはもういいんですか?」

「父も俺も薄々こうなることは予想できていたんだ。しかし、望美先生はこのこと予想できなかった?」

雄司は意地悪そうに笑いながら望美に聞いた。

「そこまでは鑑定料に含まれてませんから!!それに私はコンサルティング代貰ってませんからね?」

望美も負けないように言い返したが、言い返した後に子供みたいな反応を取ったことに少し恥ずかしくなった。

「あはは!それはこれから、ご馳走するから。それにのん先生は月給制だろ?」

「それはそうですけど、鑑定内容にケチつけるんだったら私だって怒るんですからね」

望美は給料については得に文句を言うつもりはなかった。

何故なら、この占いの館の仕事は給料の割には平日はヒマで、普段からよくお店を抜けては他の占い師と飲んだりしていたからだ。

ちょうどお店に着いたので雄司も言い返してこなかった。

到着した場所は望美がずっと行きたいと思っていた、占いの館からも近い港通り沿いにある静かなレストランだった。

どうしてまだ行ったことがないかというと、カップル向けのオシャレなお店なのだ。

エミリー先生やカトリーヌ先生を誘うのも少し違うし、まだ登場してないが中国人のおじいちゃん先生を誘うのも違うと思っていた。

「わぁーここ、お昼から開いていたんだ」

望美は目をキラキラさせながらお店の外観を見て思わず呟いた。

「実はここ、エミリー先生とカトリーヌ先生から望美が行きたがっているお店だって聞いたんだ。
帰り道でもないのにわざわざここのお店の前を通って、お店の中のカップルを羨ましそうに見ているから連れて行ってやれって。」

望美の目のキラキラは一瞬で消えた。

「誰が羨ましそうに!ちょっと入りづらいなって思っていただけです!もう、エミリー先生とカトリーヌ先生ってば、そんなこと言うなんて。
しかもいつ見られてたんだろう。帰り道、反対方向なはず・・・。」

「俺と一緒なら、こういったところも入りやすいだろ?次から行きたいところがあれば誘って。連れて行くから」

雄司はそういうとスタスタとお店の中に入っていったので、望美はキョトンとして言い返すことができなかった。


席に付いてから、しばらくすると料理とシャンパンが出てきた。雄司がコースで何か頼んでいたのだろう。

「何に乾杯しようか?」

雄司がグラスを持って望美に聞いた。

「契約できなかったし、乾杯するものないですよ。お疲れ様でした、で普通に乾杯しちゃいましょうよ」

望美はお皿に乗せられたお肉が早く食べたくて、さっさと乾杯を済ませたかった。

すると雄司が望美の目を見て微笑んだ。

「コンサルティングおめでとう、乾杯」

これには望美も不意を突かれたので乾杯をするしかなかった。

望美が食事に夢中になっていると雄司が口を開いた。

「さっきの取引先の堂園さんの仕事運も視てもらえるか?」

少し考えて望美は答えた。

「神戸牛のステーキも注文してもいい?」

「まだ食べるつもりか。残さないなら注文してもいいですか?」

雄司が承諾してくれたので、ニコっとして望美は水晶のネックレスに手をかざした。

見えたのは堂園の持っている夢の映像だった。彼は現状よりも、もっと沢山の名声を得たいようだった。

良く言えば向上心のある男、冷静に見ると現状に満足できていない状態である。

それは時として、不安や焦りを伴うことになるだろう。

望美は深呼吸をして口を開いた。

「堂園さんはこれから3~4年は仕事面で大変な思いをするわ。それが彼にとって学びとなるみたい。本当に大切なものはもう
すでに彼の手に入っていることが気づける、遅くても5年後には沢山の人から感謝されるような人になりそうよ」

未来を視るとお腹が空く。食べているのに物足りない。望美は雄司に鑑定内容を伝えるとすぐに店員を呼んで料理を追加した。

「本当にたくさん食べるな。うちの占い師たちは仕事中にも、よく食べて飲んでるようだし・・・」

「そんなことも知っているの!?」

「知っているも何も、エミリー先生たちは隠し事なんて基本ないし、むしろ鑑定にはエネルギーが必要だとか言って開き直っているくらいだぞ。
それに、みんなが働きやすいと思ってくれれば、それでいいと父は思っているしな。特に注意なんかするつもりはないさ」

注意しても占いの館にいるメンバーは聞く耳持たないだろうな、と望美は思いながらステーキを口いっぱいに頬張った。

「知っているなら口止め料じゃないけど、あなたの運勢もサービスで診てあげるわ。何か気になることはないの?」

雄司は少し考えてから答えた。

「特に知りたい未来なんてないな。未来は自分で叶えていくから」

望美はグラスに入ったシャンパンをクイっと飲み干した。

「結婚運とか、恋愛運とか運命の相手とか知りたくないの?」

雄司は真剣な顔で望美の目を見て答えた。

「俺はメリットのある相手としか付き合わない。だから結婚や恋愛をしても相手を幸せにしてやれない。こんな俺なんかと誰も付き合いたいなんて思わないさ」

望美はシャンパンの酔いもあってか、雄司の話しを聞いてキョトンとしてしまった。

とは言っても、今日は雄司に結構振り回されてたので、キョトンとしたのはこれが初めてではない。

一日中一緒にいて、自信家で自己中でイヤな奴だけど美味しいご飯をご馳走してくれる奴としか思ってなかったが
恋愛に臆病な一面を見てしまい、少し可愛らしく見えてしまった。

こっそりと雄司の恋愛運を見ようとしたが、雄司に「お節介はエミリー先生とカトリーヌ先生だけで十分だ」と言われたのでやめた。

デザートの追加は許可が出たので、追加でフォンダンショコラを頼んだ。

帰りは2人ともお酒を飲んでいたので、お店の人に頼んで車をレストランに置かせてもらった。

「明日、取りにいくぞ」

雄司は1人で取りに行くのがイヤなようだった。

「はいはい、分かりましたよーだ」

望美はそう言って今日の分の仕事を片付けに占いの館に戻った。
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