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龍神様に口説かれてしまいました!
18、かくなる上は……
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水しぶきが上がり、周りに湯が飛び散る。
レンがそのまま押さえつけているが、猫又の暴れようはすごいものでレンに次々と爪の跡が残っていく。
「レン!」
「心配ない」
そのまま無理やりつかせること数分。やっとの事で静寂が訪れた。
「もう……こちらへ来ても平気だ」
恐る恐る近寄ってみると、先ほどの猫又ではなくシンタのふた周りくらいの三毛猫がレンの手に抱かれながらぷかぷかと漂っていた。
「お母ちゃん……!」
シンタが叫ぶ。
「案ずるな。気を失っているだけだ」
「でも……、どうして湯船に使ったら元に戻ったんだろ?」
「ふむ……、そうだな」
レンの視線がそっと猫又に注がれる。
「それは……おそらくだ。龍穴に繋がるこの湯が、奴の穢れをとったのだろう」
「穢れ?」
疑問を浮かべる私の顔にレンが視線を向ける。
「理由はわからない。しかし、おぞましいほどの憎悪に身を包まれていたように思う。それが、龍穴の力が溶け出した湯が洗い流したのだろうよ」
「っていうか。大丈夫なの?」
「心配ない。そろそろ引き上げてもいいだろう。少し寝かせてやれば半刻で目を覚ますだろうよ」
「ううん! 違うよ! 私が言っているのはレンの方だよ」
「俺?」
私はそっとレンに手を伸ばす。
「そうだよ、身体中傷だらけじゃない。今手当してあげるから。部屋に戻ろう?」
レンの瞳が大きく見開く。
まるでお日様のような強い光なのに、どこか眩しいものをみているかのようにふっと優しく細められた。
「……ああ、そうか。そうだな……」
「?」
レンは私の手を取ってぎゅっと握った。まるで離したがらないと言わんばかりに強く。
「さて、お前も俺もぼろぼろだ。一度戻ろう。諸々立て直さないとな」
部屋に帰ると、私は学校の芋ジャージ(部屋にいるときはいつもこれなのだ)に着替えて、
レンには宿泊用の浴衣を放り投げて、シンタとシンタのお母さんをタオルでゴシゴシと洗った。
「……大丈夫かな?」
「問題ないさ」
レンの視線が猫又だったシンタのお母さんに注がれる。
「でも……、まさか湯船で正気に戻るなんて」
「幸運だったな……。この場所が運よく龍穴の上にあったから良かった」
「うん……、あの。ありがと」
「なぜ俺に礼を言う? 此度はお前の奮闘によるものだろう?」
首をかしげるレンに私はそっと笑う。
「だって……、もしあのと先に手を出していたら今頃は死んでたはずでしょう? それに決断を私に委ねてくれたから。露天の龍穴ができたのだってレンが繋いでくれたからだし。ありがと。おかげで助かった」
レンは大きく目を見開いたかと思うと、そのままそっと顔を背けた。
「別に……どうってことない」
その眦がちょっとだけ赤いように見えたけど、私だけの秘密にしておこう。
レンの顔を見つめていると、もそりと衣擦れの音が聞こえた。
「あ……! お母ちゃん! 」
レンがそのまま押さえつけているが、猫又の暴れようはすごいものでレンに次々と爪の跡が残っていく。
「レン!」
「心配ない」
そのまま無理やりつかせること数分。やっとの事で静寂が訪れた。
「もう……こちらへ来ても平気だ」
恐る恐る近寄ってみると、先ほどの猫又ではなくシンタのふた周りくらいの三毛猫がレンの手に抱かれながらぷかぷかと漂っていた。
「お母ちゃん……!」
シンタが叫ぶ。
「案ずるな。気を失っているだけだ」
「でも……、どうして湯船に使ったら元に戻ったんだろ?」
「ふむ……、そうだな」
レンの視線がそっと猫又に注がれる。
「それは……おそらくだ。龍穴に繋がるこの湯が、奴の穢れをとったのだろう」
「穢れ?」
疑問を浮かべる私の顔にレンが視線を向ける。
「理由はわからない。しかし、おぞましいほどの憎悪に身を包まれていたように思う。それが、龍穴の力が溶け出した湯が洗い流したのだろうよ」
「っていうか。大丈夫なの?」
「心配ない。そろそろ引き上げてもいいだろう。少し寝かせてやれば半刻で目を覚ますだろうよ」
「ううん! 違うよ! 私が言っているのはレンの方だよ」
「俺?」
私はそっとレンに手を伸ばす。
「そうだよ、身体中傷だらけじゃない。今手当してあげるから。部屋に戻ろう?」
レンの瞳が大きく見開く。
まるでお日様のような強い光なのに、どこか眩しいものをみているかのようにふっと優しく細められた。
「……ああ、そうか。そうだな……」
「?」
レンは私の手を取ってぎゅっと握った。まるで離したがらないと言わんばかりに強く。
「さて、お前も俺もぼろぼろだ。一度戻ろう。諸々立て直さないとな」
部屋に帰ると、私は学校の芋ジャージ(部屋にいるときはいつもこれなのだ)に着替えて、
レンには宿泊用の浴衣を放り投げて、シンタとシンタのお母さんをタオルでゴシゴシと洗った。
「……大丈夫かな?」
「問題ないさ」
レンの視線が猫又だったシンタのお母さんに注がれる。
「でも……、まさか湯船で正気に戻るなんて」
「幸運だったな……。この場所が運よく龍穴の上にあったから良かった」
「うん……、あの。ありがと」
「なぜ俺に礼を言う? 此度はお前の奮闘によるものだろう?」
首をかしげるレンに私はそっと笑う。
「だって……、もしあのと先に手を出していたら今頃は死んでたはずでしょう? それに決断を私に委ねてくれたから。露天の龍穴ができたのだってレンが繋いでくれたからだし。ありがと。おかげで助かった」
レンは大きく目を見開いたかと思うと、そのままそっと顔を背けた。
「別に……どうってことない」
その眦がちょっとだけ赤いように見えたけど、私だけの秘密にしておこう。
レンの顔を見つめていると、もそりと衣擦れの音が聞こえた。
「あ……! お母ちゃん! 」
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