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龍神様に口説かれてしまいました!
15.お母ちゃん
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「痛みもなしに葬ってやることしかできぬ」
はっとして私は立ち上がった。
「だ……! だめっ!」
服が濡れるのもお構いなしに、私はレンに駆け寄った。
「ぜ、絶対に殺しちゃダメだよ!」
しかし、未だにレンの視線は厳しいままだ。
それどころかどこか冷ややかに私のことを見つめている。
「なあ……、お前」
「……な、なに?」
私を見透かすような瞳の強さに思わず、少しだけ慄く。
なんだろう?
何か、レンの気を損ねるような失言でもしたのだろうか?
レンの言葉を待つけど何もして来ないまま私たちは見つめ合う。
少し苦しみを帯びたような声でレンは私に語りかける。
「なぜ……、そこまでしてあやかしを庇うのだ?
普段ならあやかしと人間は相入れぬもの。
しかし、お前はこやつを心底助けようとしている。
それはなぜだ?」
「え?」
「確かになりゆきとはいえ、お前がここまでする必要などないのだよ。
あやかしであれば、子供だけでも生きてはゆける。
現に孤児で生きながらえている者も多い。
先ほども言ったが、あれは俺の力ではどうすることもできない。
俺の神としての力が治癒ではないからな。言っておくがここいらで俺より強いものはおらん」
「で……でも」
神様なんだからなんとか出来るでしょう? 何か方法はあるんでしょう?
そう口に出してしまいそうで唇を噛む。
「お前はそうまでして何故助けようとする?
手段がなければ諦めるのが常だろう?
たとえ助けられなくても、誰もお前を責めるやつなどおるまいて……」
そっとレンの手が肩にかかる。
私をなだめるようなそんな手つきだ。
彼は厳しいことを言っているけれど、でも心の中では私を気遣ってくれているのかもしれない。
期待して後から裏切られて落胆するのを心配しているのかもしれない。
「わ……私は」
正直、どうやったら助けられるかなんて見当もつかない。
だって、神様のレンがそう言っているのであれば本当に方法がないんだと思う。
(でも……)
小さい頃、常に私と一緒にいてくれたのはまぎれもないあやかしだったのだ。
途中で、避けるようになってしまったけどそれでもずっと気にはしていた。
なんとかして方法を見つけたい。この小さなあやかしの力になりたい。
だって……。
「友達を助けるのに、理由なんていらないと思う」
そうきっぱりと告げる。
「……」
レンは私の顔をまじまじと見つめたかと思うと、くっくっと笑い出した。
(……えっ! なになに?)
見つめているだけの私をよそに、レンは上機嫌な声を上げる。
「と、友とな? 本来であれば忌み嫌われても仕方のないあやかしを……。お前は友と呼ぶのか」
「ちょ、ちょっと!レンは神様だから分からないのかもしれないけど! そんな、物騒なあやかしなんて見たことないし! 基本はみんないいあやかしばかりなんだからね!」
ぷりぷりして食いかかると、レンはどこ吹く風といった様子で私の頭を撫でる。
「そうか……そうか。やはり俺の嫁は面白いやつよなあ。
よいよい。どのような形であれ慈悲の心を持つのは良きことだからな」
「だっ! だからまだ嫁になったわけじゃないんだって……!」
そう掴みかかろうとすると、ざあっと風が凪いだ。
普通の海風のはずなのに何か生あたたかくて、不穏さに肌が泡立つ。
「下がれ!」
間髪入れずに、レンが私の前にかばうように立つ。
空気がピリピリとしていて痛い。
レンの視線の先、竹垣の向こうから鈍い鼻息が鼓膜を揺らした。
何かがいる。
人間の私でも分かる。
目には見えないけれど伝わってくるピリピリとした気配。
そして、私たちに向けられた明確な殺意。
おぞましいという言葉がぴったりの憎悪にも似た空気がまとわりつく。
レンが守ってくれなかったらきっと私はその場にきっと座り込んでいただろう。
自然とレンの腕をキュッと掴む。
そうでもしないと叫んでしまいそうだったから。
そうして竹垣の向こうを見守っていたときだった。
「お母ちゃん?」
はっとして私は立ち上がった。
「だ……! だめっ!」
服が濡れるのもお構いなしに、私はレンに駆け寄った。
「ぜ、絶対に殺しちゃダメだよ!」
しかし、未だにレンの視線は厳しいままだ。
それどころかどこか冷ややかに私のことを見つめている。
「なあ……、お前」
「……な、なに?」
私を見透かすような瞳の強さに思わず、少しだけ慄く。
なんだろう?
何か、レンの気を損ねるような失言でもしたのだろうか?
レンの言葉を待つけど何もして来ないまま私たちは見つめ合う。
少し苦しみを帯びたような声でレンは私に語りかける。
「なぜ……、そこまでしてあやかしを庇うのだ?
普段ならあやかしと人間は相入れぬもの。
しかし、お前はこやつを心底助けようとしている。
それはなぜだ?」
「え?」
「確かになりゆきとはいえ、お前がここまでする必要などないのだよ。
あやかしであれば、子供だけでも生きてはゆける。
現に孤児で生きながらえている者も多い。
先ほども言ったが、あれは俺の力ではどうすることもできない。
俺の神としての力が治癒ではないからな。言っておくがここいらで俺より強いものはおらん」
「で……でも」
神様なんだからなんとか出来るでしょう? 何か方法はあるんでしょう?
そう口に出してしまいそうで唇を噛む。
「お前はそうまでして何故助けようとする?
手段がなければ諦めるのが常だろう?
たとえ助けられなくても、誰もお前を責めるやつなどおるまいて……」
そっとレンの手が肩にかかる。
私をなだめるようなそんな手つきだ。
彼は厳しいことを言っているけれど、でも心の中では私を気遣ってくれているのかもしれない。
期待して後から裏切られて落胆するのを心配しているのかもしれない。
「わ……私は」
正直、どうやったら助けられるかなんて見当もつかない。
だって、神様のレンがそう言っているのであれば本当に方法がないんだと思う。
(でも……)
小さい頃、常に私と一緒にいてくれたのはまぎれもないあやかしだったのだ。
途中で、避けるようになってしまったけどそれでもずっと気にはしていた。
なんとかして方法を見つけたい。この小さなあやかしの力になりたい。
だって……。
「友達を助けるのに、理由なんていらないと思う」
そうきっぱりと告げる。
「……」
レンは私の顔をまじまじと見つめたかと思うと、くっくっと笑い出した。
(……えっ! なになに?)
見つめているだけの私をよそに、レンは上機嫌な声を上げる。
「と、友とな? 本来であれば忌み嫌われても仕方のないあやかしを……。お前は友と呼ぶのか」
「ちょ、ちょっと!レンは神様だから分からないのかもしれないけど! そんな、物騒なあやかしなんて見たことないし! 基本はみんないいあやかしばかりなんだからね!」
ぷりぷりして食いかかると、レンはどこ吹く風といった様子で私の頭を撫でる。
「そうか……そうか。やはり俺の嫁は面白いやつよなあ。
よいよい。どのような形であれ慈悲の心を持つのは良きことだからな」
「だっ! だからまだ嫁になったわけじゃないんだって……!」
そう掴みかかろうとすると、ざあっと風が凪いだ。
普通の海風のはずなのに何か生あたたかくて、不穏さに肌が泡立つ。
「下がれ!」
間髪入れずに、レンが私の前にかばうように立つ。
空気がピリピリとしていて痛い。
レンの視線の先、竹垣の向こうから鈍い鼻息が鼓膜を揺らした。
何かがいる。
人間の私でも分かる。
目には見えないけれど伝わってくるピリピリとした気配。
そして、私たちに向けられた明確な殺意。
おぞましいという言葉がぴったりの憎悪にも似た空気がまとわりつく。
レンが守ってくれなかったらきっと私はその場にきっと座り込んでいただろう。
自然とレンの腕をキュッと掴む。
そうでもしないと叫んでしまいそうだったから。
そうして竹垣の向こうを見守っていたときだった。
「お母ちゃん?」
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