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龍神様に口説かれてしまいました!
9、枯れた露天風呂
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きしきしと鳴く廊下を歩きながら、ため息をついた。
手には盆と皿いっぱいの料理の数々。
母親から是非にと渡されたのだ。
何度言っても一度ついた印象は変えられないらしい。
このままだときっと結婚式はいつなの? と言われかねない。
誤解を解きたいのは山々なのにどうしてもいい考えが思いつかない。
何とか説得するはずだったのに、これはもう絶望的ではないのだろうか。
「はあ……」
これも皆んなあの横暴な俺様系龍神のせいじゃないか!
「なんとかして考え直して貰わないと!」
キッと顔を上げて、部屋へと急ぐ。
「あれ?」
つま先で器用に襖を開けては見たものの中はもぬけの殻だった。
ただ座布団の上に小さな寝息を立てて子猫が眠っているくらいだ。
「レン……?」
がらんとした部屋の中を見渡す。特に何も変わったところはなく、ただ先ほどの龍神だけがいない。
「どういうこと……? あっ!」
少しだけ開いた障子の隙間、それに飾り窓から見える庭先で竹垣が少し崩れているのが目に飛び込んできた。
「あ……、あいつっ!」
ローテーブルに盆を置いて飛び出る。
庭先へサンダルを飛び出て竹垣の隙間からそっとなかへ入ると、
そこにはレンがしゃがんですでに枯れてしまった露天風呂の様子を見ていた。
だいたい5メートルくらいの露天にしては少々こぶりなサイズだが
乳白色で美肌の湯としてそれなりに人気だったらしい。
しかし今ではもうそのそぶりすらなく、
岩肌は土で汚れているし、落ち葉でぱっと見これが露天風呂だとは誰も気づかないだろう。
レンのなんの興味を引いたのか、彼の視線はただ露天の底に注がれているように見えた。
「ねえ……。何やってるの? あっ……! ていうか、裸足じゃない。あとでちゃんと綺麗に……」
小言を言う私にレンがポツリと呟く。
「龍脈だな」
「りゅ……?」
聞きなれない言葉にただレンの顔を見つめているとニヤリと笑った。
「まあ、見ておれ」
すっと立ち上がった姿を目で追う。
その瞳は静かに閉じられ、手のひらを下にして枯れた露天風呂にかざした。
(一体……、何が始まるの?)
先ほどレンの力を見ているからちょっとやそっとのことでは驚かないつもりだ。
そのまま息を飲んでいると、何か聞こえてくる。
(な……なんの音?)
固唾を飲んで見守っていると、次第に音が大きくなる。
最初こそちょっとした違和感のような気がしたのに、次第にそれは確信に変わった。
「……じ、地震?」
細かな揺れ。しかし、まるで地響きのように次第に大きくなり不安が胸を襲った。
海に面したたつみ屋に大きな地震など来たらひとたまりもない。
「慌てるでない」
ピンと張りつめた空気の中、レンの声が響く。
「で……でも」
グラグラと足元が揺れる。
(どうしよう。家族を連れて逃げた方がいいかな?)
不安な表情を投げかけるもレンは微動だにしない。
その間にも揺れは増すばかりでたまらずに地面に座り込む。
(や、やばい! 走らないと!)
そう思った途端にずしんと鈍い響きが脳天を貫いたかと思うと、体がふわりと浮き上がったような感覚に陥った。
「えっ……!」
そうして鼻をかすめるどこか緩やかでかぐわしい香り。
ふんわりとしているのに、どこか清涼感もあって気持ちが爽やかになるような。
戸惑っていると揺れも収まり、ふうと息をついた。
「わあ……」
岩に衝撃が走った途端、露天風呂の中央が割れ、そこから湯が吹き出して来たのだ。
それだけではない。湯のしぶきが小さく舞い上がり、それがたなびいて光の粒がキラキラと輝いている。
風が光ると言えばいいのだろうか。
ふわりと風呂を隠していた土埃も枝葉も全て取り除かれて
目の前には寂れた枯れた石造りの風呂跡ではなく、
まるで高級旅館のような白い濁り湯の露天風呂が現れた。
「……ふむ。湯加減もちょうどいいではないか」
「あっ。て言うか、これ何? 何をしたの? いきなりお湯が出たのは何で?」
矢継ぎ早に質問責めにする私にレンは得意そうに笑い返す。
「言ったであろう? ここは龍脈が途絶えていた。だから湯が枯れた。ここは龍穴の上にあると言うのに何かのはずみで塞がれてしまったのだろうよ。俺が直した。だからまた湯が吹き出た。感謝せいよ」
「はあ……? 龍穴?」
手には盆と皿いっぱいの料理の数々。
母親から是非にと渡されたのだ。
何度言っても一度ついた印象は変えられないらしい。
このままだときっと結婚式はいつなの? と言われかねない。
誤解を解きたいのは山々なのにどうしてもいい考えが思いつかない。
何とか説得するはずだったのに、これはもう絶望的ではないのだろうか。
「はあ……」
これも皆んなあの横暴な俺様系龍神のせいじゃないか!
「なんとかして考え直して貰わないと!」
キッと顔を上げて、部屋へと急ぐ。
「あれ?」
つま先で器用に襖を開けては見たものの中はもぬけの殻だった。
ただ座布団の上に小さな寝息を立てて子猫が眠っているくらいだ。
「レン……?」
がらんとした部屋の中を見渡す。特に何も変わったところはなく、ただ先ほどの龍神だけがいない。
「どういうこと……? あっ!」
少しだけ開いた障子の隙間、それに飾り窓から見える庭先で竹垣が少し崩れているのが目に飛び込んできた。
「あ……、あいつっ!」
ローテーブルに盆を置いて飛び出る。
庭先へサンダルを飛び出て竹垣の隙間からそっとなかへ入ると、
そこにはレンがしゃがんですでに枯れてしまった露天風呂の様子を見ていた。
だいたい5メートルくらいの露天にしては少々こぶりなサイズだが
乳白色で美肌の湯としてそれなりに人気だったらしい。
しかし今ではもうそのそぶりすらなく、
岩肌は土で汚れているし、落ち葉でぱっと見これが露天風呂だとは誰も気づかないだろう。
レンのなんの興味を引いたのか、彼の視線はただ露天の底に注がれているように見えた。
「ねえ……。何やってるの? あっ……! ていうか、裸足じゃない。あとでちゃんと綺麗に……」
小言を言う私にレンがポツリと呟く。
「龍脈だな」
「りゅ……?」
聞きなれない言葉にただレンの顔を見つめているとニヤリと笑った。
「まあ、見ておれ」
すっと立ち上がった姿を目で追う。
その瞳は静かに閉じられ、手のひらを下にして枯れた露天風呂にかざした。
(一体……、何が始まるの?)
先ほどレンの力を見ているからちょっとやそっとのことでは驚かないつもりだ。
そのまま息を飲んでいると、何か聞こえてくる。
(な……なんの音?)
固唾を飲んで見守っていると、次第に音が大きくなる。
最初こそちょっとした違和感のような気がしたのに、次第にそれは確信に変わった。
「……じ、地震?」
細かな揺れ。しかし、まるで地響きのように次第に大きくなり不安が胸を襲った。
海に面したたつみ屋に大きな地震など来たらひとたまりもない。
「慌てるでない」
ピンと張りつめた空気の中、レンの声が響く。
「で……でも」
グラグラと足元が揺れる。
(どうしよう。家族を連れて逃げた方がいいかな?)
不安な表情を投げかけるもレンは微動だにしない。
その間にも揺れは増すばかりでたまらずに地面に座り込む。
(や、やばい! 走らないと!)
そう思った途端にずしんと鈍い響きが脳天を貫いたかと思うと、体がふわりと浮き上がったような感覚に陥った。
「えっ……!」
そうして鼻をかすめるどこか緩やかでかぐわしい香り。
ふんわりとしているのに、どこか清涼感もあって気持ちが爽やかになるような。
戸惑っていると揺れも収まり、ふうと息をついた。
「わあ……」
岩に衝撃が走った途端、露天風呂の中央が割れ、そこから湯が吹き出して来たのだ。
それだけではない。湯のしぶきが小さく舞い上がり、それがたなびいて光の粒がキラキラと輝いている。
風が光ると言えばいいのだろうか。
ふわりと風呂を隠していた土埃も枝葉も全て取り除かれて
目の前には寂れた枯れた石造りの風呂跡ではなく、
まるで高級旅館のような白い濁り湯の露天風呂が現れた。
「……ふむ。湯加減もちょうどいいではないか」
「あっ。て言うか、これ何? 何をしたの? いきなりお湯が出たのは何で?」
矢継ぎ早に質問責めにする私にレンは得意そうに笑い返す。
「言ったであろう? ここは龍脈が途絶えていた。だから湯が枯れた。ここは龍穴の上にあると言うのに何かのはずみで塞がれてしまったのだろうよ。俺が直した。だからまた湯が吹き出た。感謝せいよ」
「はあ……? 龍穴?」
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