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品評会

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「これは……」



 目の間に広がっている光景。

 野菜やフルーツ、そしてハムやソーセージなどで作られた色とりどりの料理と、会場を鮮やかに装飾している花々。

 そして、奥にはアメニティや化粧品の瓶が所狭しと並んでいる。



「今日はパーティか何かか?」

「いえ、品評会ですわ」

「品評会?」



 怪訝な顔をするアルフレッドに私はにっこりと微笑む。



「ええ、我が家の農園で採れた生産物を加工したもの……、そして他の農園や他国の特産物を扱ってる方々においでいただいたのです。さあ、せっかくですから。アルフレッド様もどうぞこちらに」

「あ……ああ」



 そうして連れて来たのは、料理が広がるコーナーだ。



「ようこそ、リーザ様。アルフレッド様。どうぞ、今回の出来を味わってくださいませ」



 にっこりと笑う料理人から渡されたのは、茹でたばかりのブルストと付け合わせのマッシュポテトだ。



「これは?」

「農園で育てている豚から作ったブルストですわ。少し手を加えて改良したものです」

「ふむ……」



 アルフレッドと私はゆっくりと口に運ぶ。



「お……美味しい~~! 前に比べてハーブを利かせてるのが実に生きてる! 

胡椒も粗挽きにしたのが良かったわ!」

「ええ、お嬢様のアイディア通りにしましたところ実に味わい豊かになりました。正直調合には首をかしげることも多かったのですが、実にいい仕上がりになったと思います」

「うん! このマッシュポテトも最高ね! 小ぶりであってもあの品種ならきっと合うって思ってたわ。いかがです、アルフレッド様?」

「あ……ああ。悪くはないな」

「ふふっ、でしょう! さあ、次も召し上がってくださいませ」



 そうして私は品評会を案内した。

 加工品を始め、敷地内で採れた生花を利用した化粧品や香水など。そして他から招いた農園の品も次々と確認していく。



「何故他からも招いたんだ?」

「今季は難しいですがこれから農産物の品種を増やし、新しく開発しようと考えておりますの。ですが、当家の大地に合うものを選ぶのは至難の技です。それに、ただ農作物を作るのではなくなるべく加工品にしやすいものを選びたいのです」

「何故だ? お前の家の農園なら量を作れるだろう?」

「いえ、加工品にした後、流通させより多くの利益を得たいのです」



 正直農産物をいくらそのまま売ったところで得られるお金などたかが知られている。

 しかし、きちんと手を加えて価値を追加すれば原価以上で売れることも可能だ。

それに万が一国外追放になっても、海外拠点があればある程度食べるには困らないはずだ。



お金はあるほどいい! 

いくらでも推しに課金できるわけだから手段は惜しまない!



「今はハッピネスでの流通を考えてますが、ゆくゆくは海外へ輸出し外貨を稼ごうと思うのです。今は主に農園経営ですが来月には加工工場も……」

「何故……そこまでするんだ?」

「へ?」



 アルフレッドのつぶやきに思わず顔を上げる。



「何故そこまでしなければならないんだ。第一お前は長年続く名家の令嬢だ。そんなことをせずとも金なら有り余っているだろう?」

「ええっと……それは、その……」

「それに今までは宝石にドレスに……と自分のことばかりだったじゃないか。どうして突然。あまりにも変わりすぎてやいないか?」

「そそそ……それはその……」



(まずった……! 調子に乗って色々話しすぎた!)

 まさかこの先、自分が破滅するかもしれない未来のためと、推しに課金する金をめっちゃかせぎたいからなんて口が裂けても言えない。

 それに言ったら絶対に変なフラグが立つに違いない! なんか死にそうなくらいの強いやつが!

 いかんいかん! 回避しないと! 

 アルフレッドが納得するようなこと言わないと!



「何故なんだ……リーザ」

「あ……あの。それはその」



 どうしよう、全くいい言い訳が考え付かないぞ!



「……俺には言えないことなのか?」

「いいえ! そんな! 滅相もございません」

「だったら何故?」



 ええい! ままよ! 

 第一破滅フラグが怖くて、推しの問いかけに答えられないなんてファンの風上にも置けないぞ! 私。



「こ……婚約破棄されたからですわ!」

「……なんだと?」

「そ……そう! そうですわ。私、気づきましたの。今の私ではハッピネスの後継者たるアルフレッド様には見合わないと。ですから、私。家や血筋の力ではなく……、あ、いえ。今は家の力を借りてはいますけど。自分の人生を自分の力で幸せを掴みたいと考えたのです」

「……」

「まあ、それでとは言いますが。ちょうどいい農園がそこにあったもので。まずは手始めに農園経営をしてみようかなあと……それで」

「俺は……」

「はい……っ?」

「俺はそんな風に言われるほどに、凄い人間じゃない……」

「え?」



 アルフレッドのつぶやきの真意を確かめることもなく、ひらりとマントを翻してアルフレッドはドアへと向かう。



「あ……アルフレッド様!?」

「すまないな突然。邪魔をした」

「あ……あの」



 止める暇すら与えず、アルフレッドは立ち去っていった。

 最後に見せた少し思いつめたような表情が気になる。



「一体……突然どうして……。あ、いや、ちょっと待って! ああああああ!」



 思わず私は頭を抱えてその場にうずくまる。

 なんか盛大にやらかしてしまったのではないのだろうか……これは!

 そう、まさに。

 何かのフラグをうっかり立ててしまったのではなかろうか……! 

 だってあんなに強気なアルフレッドがいきなり憂いを帯びた顔を晒してそのまま憎まれ口も叩かずに立ち去るなどキャラぶれもいいところだもの!



「ま……まずい。これは、これは今のうちになんとかしておかないと!」



 知らぬ間に破滅フラグを打ち立てて、ゲーム開始前に国外追放されるのは避けたい。

 今のうちになんとかしておかないとだ! 
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