13 / 20
品評会
しおりを挟む
「これは……」
目の間に広がっている光景。
野菜やフルーツ、そしてハムやソーセージなどで作られた色とりどりの料理と、会場を鮮やかに装飾している花々。
そして、奥にはアメニティや化粧品の瓶が所狭しと並んでいる。
「今日はパーティか何かか?」
「いえ、品評会ですわ」
「品評会?」
怪訝な顔をするアルフレッドに私はにっこりと微笑む。
「ええ、我が家の農園で採れた生産物を加工したもの……、そして他の農園や他国の特産物を扱ってる方々においでいただいたのです。さあ、せっかくですから。アルフレッド様もどうぞこちらに」
「あ……ああ」
そうして連れて来たのは、料理が広がるコーナーだ。
「ようこそ、リーザ様。アルフレッド様。どうぞ、今回の出来を味わってくださいませ」
にっこりと笑う料理人から渡されたのは、茹でたばかりのブルストと付け合わせのマッシュポテトだ。
「これは?」
「農園で育てている豚から作ったブルストですわ。少し手を加えて改良したものです」
「ふむ……」
アルフレッドと私はゆっくりと口に運ぶ。
「お……美味しい~~! 前に比べてハーブを利かせてるのが実に生きてる!
胡椒も粗挽きにしたのが良かったわ!」
「ええ、お嬢様のアイディア通りにしましたところ実に味わい豊かになりました。正直調合には首をかしげることも多かったのですが、実にいい仕上がりになったと思います」
「うん! このマッシュポテトも最高ね! 小ぶりであってもあの品種ならきっと合うって思ってたわ。いかがです、アルフレッド様?」
「あ……ああ。悪くはないな」
「ふふっ、でしょう! さあ、次も召し上がってくださいませ」
そうして私は品評会を案内した。
加工品を始め、敷地内で採れた生花を利用した化粧品や香水など。そして他から招いた農園の品も次々と確認していく。
「何故他からも招いたんだ?」
「今季は難しいですがこれから農産物の品種を増やし、新しく開発しようと考えておりますの。ですが、当家の大地に合うものを選ぶのは至難の技です。それに、ただ農作物を作るのではなくなるべく加工品にしやすいものを選びたいのです」
「何故だ? お前の家の農園なら量を作れるだろう?」
「いえ、加工品にした後、流通させより多くの利益を得たいのです」
正直農産物をいくらそのまま売ったところで得られるお金などたかが知られている。
しかし、きちんと手を加えて価値を追加すれば原価以上で売れることも可能だ。
それに万が一国外追放になっても、海外拠点があればある程度食べるには困らないはずだ。
お金はあるほどいい!
いくらでも推しに課金できるわけだから手段は惜しまない!
「今はハッピネスでの流通を考えてますが、ゆくゆくは海外へ輸出し外貨を稼ごうと思うのです。今は主に農園経営ですが来月には加工工場も……」
「何故……そこまでするんだ?」
「へ?」
アルフレッドのつぶやきに思わず顔を上げる。
「何故そこまでしなければならないんだ。第一お前は長年続く名家の令嬢だ。そんなことをせずとも金なら有り余っているだろう?」
「ええっと……それは、その……」
「それに今までは宝石にドレスに……と自分のことばかりだったじゃないか。どうして突然。あまりにも変わりすぎてやいないか?」
「そそそ……それはその……」
(まずった……! 調子に乗って色々話しすぎた!)
まさかこの先、自分が破滅するかもしれない未来のためと、推しに課金する金をめっちゃかせぎたいからなんて口が裂けても言えない。
それに言ったら絶対に変なフラグが立つに違いない! なんか死にそうなくらいの強いやつが!
いかんいかん! 回避しないと!
アルフレッドが納得するようなこと言わないと!
「何故なんだ……リーザ」
「あ……あの。それはその」
どうしよう、全くいい言い訳が考え付かないぞ!
「……俺には言えないことなのか?」
「いいえ! そんな! 滅相もございません」
「だったら何故?」
ええい! ままよ!
第一破滅フラグが怖くて、推しの問いかけに答えられないなんてファンの風上にも置けないぞ! 私。
「こ……婚約破棄されたからですわ!」
「……なんだと?」
「そ……そう! そうですわ。私、気づきましたの。今の私ではハッピネスの後継者たるアルフレッド様には見合わないと。ですから、私。家や血筋の力ではなく……、あ、いえ。今は家の力を借りてはいますけど。自分の人生を自分の力で幸せを掴みたいと考えたのです」
「……」
「まあ、それでとは言いますが。ちょうどいい農園がそこにあったもので。まずは手始めに農園経営をしてみようかなあと……それで」
「俺は……」
「はい……っ?」
「俺はそんな風に言われるほどに、凄い人間じゃない……」
「え?」
アルフレッドのつぶやきの真意を確かめることもなく、ひらりとマントを翻してアルフレッドはドアへと向かう。
「あ……アルフレッド様!?」
「すまないな突然。邪魔をした」
「あ……あの」
止める暇すら与えず、アルフレッドは立ち去っていった。
最後に見せた少し思いつめたような表情が気になる。
「一体……突然どうして……。あ、いや、ちょっと待って! ああああああ!」
思わず私は頭を抱えてその場にうずくまる。
なんか盛大にやらかしてしまったのではないのだろうか……これは!
そう、まさに。
何かのフラグをうっかり立ててしまったのではなかろうか……!
だってあんなに強気なアルフレッドがいきなり憂いを帯びた顔を晒してそのまま憎まれ口も叩かずに立ち去るなどキャラぶれもいいところだもの!
「ま……まずい。これは、これは今のうちになんとかしておかないと!」
知らぬ間に破滅フラグを打ち立てて、ゲーム開始前に国外追放されるのは避けたい。
今のうちになんとかしておかないとだ!
目の間に広がっている光景。
野菜やフルーツ、そしてハムやソーセージなどで作られた色とりどりの料理と、会場を鮮やかに装飾している花々。
そして、奥にはアメニティや化粧品の瓶が所狭しと並んでいる。
「今日はパーティか何かか?」
「いえ、品評会ですわ」
「品評会?」
怪訝な顔をするアルフレッドに私はにっこりと微笑む。
「ええ、我が家の農園で採れた生産物を加工したもの……、そして他の農園や他国の特産物を扱ってる方々においでいただいたのです。さあ、せっかくですから。アルフレッド様もどうぞこちらに」
「あ……ああ」
そうして連れて来たのは、料理が広がるコーナーだ。
「ようこそ、リーザ様。アルフレッド様。どうぞ、今回の出来を味わってくださいませ」
にっこりと笑う料理人から渡されたのは、茹でたばかりのブルストと付け合わせのマッシュポテトだ。
「これは?」
「農園で育てている豚から作ったブルストですわ。少し手を加えて改良したものです」
「ふむ……」
アルフレッドと私はゆっくりと口に運ぶ。
「お……美味しい~~! 前に比べてハーブを利かせてるのが実に生きてる!
胡椒も粗挽きにしたのが良かったわ!」
「ええ、お嬢様のアイディア通りにしましたところ実に味わい豊かになりました。正直調合には首をかしげることも多かったのですが、実にいい仕上がりになったと思います」
「うん! このマッシュポテトも最高ね! 小ぶりであってもあの品種ならきっと合うって思ってたわ。いかがです、アルフレッド様?」
「あ……ああ。悪くはないな」
「ふふっ、でしょう! さあ、次も召し上がってくださいませ」
そうして私は品評会を案内した。
加工品を始め、敷地内で採れた生花を利用した化粧品や香水など。そして他から招いた農園の品も次々と確認していく。
「何故他からも招いたんだ?」
「今季は難しいですがこれから農産物の品種を増やし、新しく開発しようと考えておりますの。ですが、当家の大地に合うものを選ぶのは至難の技です。それに、ただ農作物を作るのではなくなるべく加工品にしやすいものを選びたいのです」
「何故だ? お前の家の農園なら量を作れるだろう?」
「いえ、加工品にした後、流通させより多くの利益を得たいのです」
正直農産物をいくらそのまま売ったところで得られるお金などたかが知られている。
しかし、きちんと手を加えて価値を追加すれば原価以上で売れることも可能だ。
それに万が一国外追放になっても、海外拠点があればある程度食べるには困らないはずだ。
お金はあるほどいい!
いくらでも推しに課金できるわけだから手段は惜しまない!
「今はハッピネスでの流通を考えてますが、ゆくゆくは海外へ輸出し外貨を稼ごうと思うのです。今は主に農園経営ですが来月には加工工場も……」
「何故……そこまでするんだ?」
「へ?」
アルフレッドのつぶやきに思わず顔を上げる。
「何故そこまでしなければならないんだ。第一お前は長年続く名家の令嬢だ。そんなことをせずとも金なら有り余っているだろう?」
「ええっと……それは、その……」
「それに今までは宝石にドレスに……と自分のことばかりだったじゃないか。どうして突然。あまりにも変わりすぎてやいないか?」
「そそそ……それはその……」
(まずった……! 調子に乗って色々話しすぎた!)
まさかこの先、自分が破滅するかもしれない未来のためと、推しに課金する金をめっちゃかせぎたいからなんて口が裂けても言えない。
それに言ったら絶対に変なフラグが立つに違いない! なんか死にそうなくらいの強いやつが!
いかんいかん! 回避しないと!
アルフレッドが納得するようなこと言わないと!
「何故なんだ……リーザ」
「あ……あの。それはその」
どうしよう、全くいい言い訳が考え付かないぞ!
「……俺には言えないことなのか?」
「いいえ! そんな! 滅相もございません」
「だったら何故?」
ええい! ままよ!
第一破滅フラグが怖くて、推しの問いかけに答えられないなんてファンの風上にも置けないぞ! 私。
「こ……婚約破棄されたからですわ!」
「……なんだと?」
「そ……そう! そうですわ。私、気づきましたの。今の私ではハッピネスの後継者たるアルフレッド様には見合わないと。ですから、私。家や血筋の力ではなく……、あ、いえ。今は家の力を借りてはいますけど。自分の人生を自分の力で幸せを掴みたいと考えたのです」
「……」
「まあ、それでとは言いますが。ちょうどいい農園がそこにあったもので。まずは手始めに農園経営をしてみようかなあと……それで」
「俺は……」
「はい……っ?」
「俺はそんな風に言われるほどに、凄い人間じゃない……」
「え?」
アルフレッドのつぶやきの真意を確かめることもなく、ひらりとマントを翻してアルフレッドはドアへと向かう。
「あ……アルフレッド様!?」
「すまないな突然。邪魔をした」
「あ……あの」
止める暇すら与えず、アルフレッドは立ち去っていった。
最後に見せた少し思いつめたような表情が気になる。
「一体……突然どうして……。あ、いや、ちょっと待って! ああああああ!」
思わず私は頭を抱えてその場にうずくまる。
なんか盛大にやらかしてしまったのではないのだろうか……これは!
そう、まさに。
何かのフラグをうっかり立ててしまったのではなかろうか……!
だってあんなに強気なアルフレッドがいきなり憂いを帯びた顔を晒してそのまま憎まれ口も叩かずに立ち去るなどキャラぶれもいいところだもの!
「ま……まずい。これは、これは今のうちになんとかしておかないと!」
知らぬ間に破滅フラグを打ち立てて、ゲーム開始前に国外追放されるのは避けたい。
今のうちになんとかしておかないとだ!
1
お気に入りに追加
428
あなたにおすすめの小説
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
【完結】悪役令嬢の反撃の日々
アイアイ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。
「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。
お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。
「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。
姉に全てを奪われるはずの悪役令嬢ですが、婚約破棄されたら騎士団長の溺愛が始まりました
可児 うさこ
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生したら、婚約者の侯爵と聖女である姉の浮気現場に遭遇した。婚約破棄され、実家で贅沢三昧をしていたら、(強制的に)婚活を始めさせられた。「君が今まで婚約していたから、手が出せなかったんだ!」と、王子達からモテ期が到来する。でも私は全員分のルートを把握済み。悪役令嬢である妹には、必ずバッドエンドになる。婚活を無双しつつ、フラグを折り続けていたら、騎士団長に声を掛けられた。幼なじみのローラン、どのルートにもない男性だった。優しい彼は私を溺愛してくれて、やがて幸せな結婚をつかむことになる。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
悪役令嬢に転生したのですが、フラグが見えるのでとりま折らせていただきます
水無瀬流那
恋愛
転生先は、未プレイの乙女ゲーの悪役令嬢だった。それもステータスによれば、死ぬ確率は100%というDEATHエンド確定令嬢らしい。
このままでは死んでしまう、と焦る私に与えられていたスキルは、『フラグ破壊レベル∞』…………?
使い方も詳細も何もわからないのですが、DEATHエンド回避を目指して、とりまフラグを折っていこうと思います!
※小説家になろうでも掲載しています
王子好きすぎ拗らせ転生悪役令嬢は、王子の溺愛に気づかない
エヌ
恋愛
私の前世の記憶によると、どうやら私は悪役令嬢ポジションにいるらしい
最後はもしかしたら全財産を失ってどこかに飛ばされるかもしれない。
でも大好きな王子には、幸せになってほしいと思う。
悪役令嬢、第四王子と結婚します!
水魔沙希
恋愛
私・フローディア・フランソワーズには前世の記憶があります。定番の乙女ゲームの悪役転生というものです。私に残された道はただ一つ。破滅フラグを立てない事!それには、手っ取り早く同じく悪役キャラになってしまう第四王子を何とかして、私の手中にして、シナリオブレイクします!
小説家になろう様にも、書き起こしております。
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる