悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

213.悪役令嬢は面倒くさいと溜息を吐く

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「不正だ! 不正に決まっている!」

 そう声を上げたのは立ち会い役の教師だった。何をどう不正なのか説明して欲しいところだけど、周囲の視線はまちまちな感じだ。

 仲間達は私と同様に呆れた――と、いった雰囲気でジェニーは不安そうにしているのに対してミーリアは私を信じて疑わないという視線を向けている。ルアーナは苛立ちピキピキしているけれど、勝手するほどの駄犬では無いわ。

「――はぁ」

 と、私は面倒くさいという思いに思わず溜息を吐いてしまう。なんとも、教師の視線が私を敵視しすぎて相手をするのが面倒くさいと言ってしまいたくなるくらいだ。

 そんな事を思っていると意外な人物が現れる。

「ほぅ、ハーブスト公爵令嬢が不正? 面白い冗談を言う者がいたものだな」
「あら? アリエル……どうして学園に?」

 私がそう聞くとそばにいた学園長が畏まった貴族の礼を行ってから妙な圧のある笑みを浮かべる。

「本日は私の方からお呼びしたのですよ。殿下とは色々とお話がございますので――」
「と、言うわけだが、ちと騒ぎを聞きつけて学園長に案内をしてもらったわけだが、そこな男は教師か?」

 そう言ったアリエルの言葉を聞いた教師は狼狽し始めるのだけど、なんという小物感が凄いわね。

「ええ、今日までは教師であった者ですが、明日からはこの学園の教師では無い者ですね。まず、大きな勘違いを正さねばならぬでしょう――」
「それは私が見せてやろう。誰か、訓練用の剣を持ってまいれ」

 アリエルがそう言うと、ついて来ている近衛が素早く動き、一振りの訓練用の剣を彼女に手渡し、それを楽し気に手に取る。

「さて、ここにいる者達は我が剣の腕前を噂で聞いた事があるか? まぁ、それはよいか――エステリア。少しだけ手合わせ願おうか。で、そこな男よ。見ておれ、彼女に不正など無いことをなっ!」

 そう言った瞬間、アリエルは物凄い速度で私に斬り込んで来る。それを私は剣を当てて受け止めつつ、受け流し、さらにアリエルに斬りつける――が、彼女も同じように受けて斬る、受けて斬るを繰り返す。

「さすが、エステリア。ここまでついて来れる者はそうはおらん――」
「全く、こっちは私って専門じゃないのよっ!」

 と、彼女の攻撃をはじき返すと、お互いに距離を取る為に後ろへ飛び、お互いに剣を構えた状態を保つ――流石に女王キャロラインから手ほどきを受けているアリエルは強い。少しでも気を緩めると確実に負ける。

 こういう時に魔法が使えればなんとか出来なくはないだろうけど、これはジリ貧ね。

「姫様方、周囲の者達も納得したでしょう。あまり遊び過ぎてお互い怪我するのも誰も望みませんでしょう」

 と、学園長が止めてくれて私はホッとするけれど、アリエルは子供っぽく不満そうな顔をする。

「アリエル。助かったけれど、学園長とお話があるのでしょう。貴女の貴重な時間を無駄にしてしまうわけにはいかないわ」
「――はぁ、仕方ない。たまには私とも手合わせしてくれ。学園長、こちらに案内してくれて助かった。なかなか、エステリアとこういう遊びは出来ぬからな」

 そう言ってアリエルは満足そうに笑い声をあげつつ「皆、楽しめたであろう。では息災にな」と、言って学園長や近衛達と共に去って行くのだった。

「では、私達も立ち去らせて頂きますわ。それでは――」

 と、私達もその場から逃げるように立ち去ることにした。因みに立ち合い役の教師はガックリとした状態で呆けていた。なお、オーリオー伯爵令息は皆から遠巻きに哀れな視線を受けて、半泣きで何かを叫びながら逃げて行った。

「なんと腹立たしいことです」

 ルアーナはまだ怒りが冷めないようで、そう言ったわけだけど、私とアリエルの立ち合いを見て色々と複雑な想いがあるようだ。

「時間があれば、貴女とも手合わせしてもいいのよ。それに武闘大会に貴女も出るのでしょう?」
「――いいのですか?」
「もちろんよ。剣の腕で私の騎士になりたいのでしょう? 強くなりたいと思う者を応援したいというのも私の本心よ」

 と、私が言うとルアーナはザッと臣下の礼を取って「宜しくお願いいたします!」と、暑苦しく言うのだった。うん、相手しすぎるのも面倒かもしれない。と、思いつつも、サロンに出入りしている子達の強化は大事なのだから、他の子達とも、剣の鍛錬をする機会を設けようと思うであった。

「やる事が多いと大変ねぇ。私は今月はもう一儲け出来そうで楽しいこと満載な感じだけど」
「マリーはホンッと、そればっかりね」
「一部は学園の儲けになるし、王宮にもキチンと申請していて公益ギャンブルなんだから、いいのよ」

 魔法技術大会では多くの者がナスティア伯爵令息に賭けていたようで、リンリィに賭けていた者からは彼女は勝利の女神と呼んでいるらしいけれど、その話をすると、リンリィは困ったような表情を浮かべていた。まぁ、知らぬところで勝手にそう呼ばれていると知って、喜ぶ人間はそうは居ないでしょうね。

 そんな事を考えつつ、私達はサロンへ向かうのであった。
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