悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

177.悪役令嬢は再びアンダンテール大洞窟に降り立つ?

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 さすがに最新の馬車は本当に快適で速度も速かった。馬に強化の魔法を施す仕組みを入れたのも今回の特徴だったわけだけど、難点は御者を務めていた我が家の騎士が流石にかなりの疲労だったようで、グッタリとしていたのが気になったところだけど、妙な満足感があったのか、何故かやり切った感のある雰囲気を見せられたわ。

 リーニアンの街に入り、私達は冒険者ギルドへ向かいギルド長であるザクス・バークレーの執務室に向かう。当然、今回は事前にお母様から連絡を入れてハーブスト公爵家から直接の会談申し込みをしたのだ。

「ハーブスト公爵夫人、ハーブスト公爵令嬢、アーマリア侯爵令嬢、よくいらっしゃいました。狭いところですが、どうぞこちらの席にお座りください」

 流石の貴族出身者はしっかりとした所作で対応していることを考えると、以前会った時と比べて別人のようにも見える。

「ザクス殿、出迎えご苦労様。では、座らせて貰うわね」

 と、お母様は優雅な雰囲気でそう言って、ソファにフワリと座る。それに倣って私もソファに座り、リンリィは少し緊張した感じで私の隣に座る。

「冒険者からの苦情はどうでしょう? 一応、騎士団の方からも聞いてはいますが」
「あ、はい。突然の魔導洞窟ダンジョン閉鎖による混乱はまだ続いてはいますが、大分落ち着いた状況となります――一応、本部の方からも苦情が来ていたので、こちらを……」

 リーニアンの冒険者ギルド、ギルド長であるザクスは豪華な装丁の書状箱を取り出してお母様に差し出す。それをお母様は受け取って書状箱を開けて中の書状を見て小さく溜息を吐いた。なんとも珍しいことだけど、溜息を吐きたいくらいに面倒な事が書かれているのか、面倒な相手からの書状だったのか――だけど、ギルド関係なのか聖イーフレイ帝国がらみなのかなのかな?

「ザクス殿は内容は知っていて?」
「いえ、一介のギルド長ですよ私は――敢えて言うならば、苦情の先は本部からでしたので、そちら関係かとは思っています」
「知らないのなら良いです。ひとつ聞きたいのだけど、損害金について渡したと思うのだけど、そちらの扱いはどうなっています?」

 と、お母様が言うとギルド長は苦笑しつつ「本部に送りました」と、言った。お母様は笑顔で答えながら、ソッと書状を箱に戻し、視線を送るとバネッサがそれを受け取って下がる。

「十分な額面でしたが、どうやら冒険者ギルドは更なる額の資金を求めています。そちらに関して、貴方は何か知っていますか?」
「――なるほど。現在、冒険者ギルド本部は随分な資金難だという噂は聞いた事があります」

 ギルド長はそう言いながら申し訳なさそうな顔をする。お母様は笑顔を崩さずに置かれていたお茶を口に含み、静かにカップを置いてゆっくりと息を吐く。

「地方からの収入が殆ど無いという噂は本当のようね。でも、残念ながら要求されている金額が多すぎるので、こちらに関しては女王陛下とも話をした上での返答ということで、そちらに関しては事前に貴方の方から一報入れておいて頂けます?」
「――畏まりました」
「それから、今日はアンダンテール大洞窟の方に入る予定ですが、ギルド職員含め近辺には近づかないように触れを出しておいて。もし、近づくような不届き者が居た場合、貴方含め、多くの覚悟が必要になるわよ」

 と、お母様は伝家の宝刀、圧掛けの笑みを繰り出し、ギルド長は青ざめた表情をした状態で冷や汗を拭う。この圧になんとか耐えたギルド長も中々やるわね。そんな事を私は思いつつ、彼の返事を待つまでも無く立ち上がるお母様に続いてソファから立ちあがる。リンリィにも視線を送って、彼女も焦りつつ、私の後をに続く。

 ギルドから出ると、お母様が「なんとも面倒ね」と、呟くけれど、思っているより機嫌は良さそうなので、私はお母様に尋ねた。

「機嫌よさげなのはどうしてですか?」
「彼って高学時代から意外と頑張ってる子なのを思い出しただけよ。あら? 不思議そうな顔をしているけれど、ここのギルド長であるザクス・バークレーは私よりも年下なのよ?」
「そ、そ、そうなのですか?」

 私の驚いた顔を見て、お母様は楽し気に微笑む。お母様が美魔女なのは分かっているけど、ザクス氏、老け顔が過ぎるわ。4、50代だと思っていたけれど――あ、あれ? 40代なら間違いじゃない感じ? もしかして、30代ということもありうるのか……。

「ええ、昔から老け顔の子ではあったのだけどね。因みにこのリーニアンの街にあるギルド長への推薦をしたのは旦那様よ」
「それは領地的な部分も含めて――と、いう話ですか?」
「そうね。魔導洞窟ダンジョンのある領地に関係の深い人物をギルド長へ据えるのが慣習になっているのよ――まぁ、全てがそうというわけでも無いけれどね」

 お母様の言葉に感心しつつ、お母様について再び馬車に乗り込む。

 現状、西方や東方の国々にある冒険者ギルドが中央に対して独立した動きをしているというのは確実そうね。国府連合が全く機能していないというのもあるでしょうけど、元々、聖イーフレイ帝国直営のハズの冒険者ギルドも随分と腐っているというのは大帝国も大変だろうと思うのだけど、どうして大帝国は周辺諸国に対して働きかけなどしないのだろう。

 そんな事を考えている間にアンダンテール大洞窟の前に到着するのであった。
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