悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

文字の大きさ
上 下
169 / 232
第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

169.悪役令嬢は不埒な冒険者を尋問する

しおりを挟む
 男は私の微笑に何故か恐ろしいモノを見るような表情を見せ、視線を左右に動かすが閣下に抑え付けられているせいでどうすることも出来ない――が、可哀想とは露とも思わない。なぜ、そんなに怯える?

「で、貴方は何者なのかしら?」

 私の質問に男は再び視線を動かして何かを言いたげな雰囲気を見せながらも、口ごもった。言いたくない――と、いうことなのだろうか。

「先ほど、彼が言ったようにミストリアへの反逆罪になるわ。まぁ、そのつもりが無いのならしっかりと言う事を聞いた方が身の為でなくって?」

 男はイマイチ乗らない感じがある。誰かを庇っている? もしくは自身に権限が無い?

 そんな事を思っていると押し黙っていた男の視線が気になり、私は閣下に声を掛けた。

「どうやら、後ろの髪の毛の無い男が話したいようです」
「――そうか」

 と、閣下は素早く男の元へ行き、強引に放り投げて私の前へ連れて来て、猿轡を外し先程の男と同じように動けないように押さえ付けた。

「『黒狼』殿、我は何もせん。すまぬがどいてもらえぬか……」

 彼がそう言うと閣下が私に視線を向け、私はコクリと頷くと閣下は男からスッと離れ「少しでもおかしな動きをしたら、分かっているな?」と、圧を掛けるが、男は小さく「フッ」と息を吐くだけだった。

「貴方が『幻魔』なのかしら?」

 私の言葉に男は何も答えず、周囲に沈黙が広がる。閣下とエルーサが凄い殺気を出しているのだけど、抑えて貰えるかな。

「――正確にはこの怯えた男と我で『幻魔』だ」
「冒険者ギルドでは一人に対して一つの登録だと思っていたけれど、違うのかしら?」

 そう言うのを聞いて男は小さく笑う。少し小馬鹿にされたような感じがして、イラっとするけれど、それくらいでキレるほど私はバカじゃない。

「言えぬわけでは無いが、言っても我らに得は無し――そうだな。お主らが本当にハーブスト公爵に与する者か証明して頂こうか?」

 そう言いながら男は妙な魔力の動きを見せ、複数の魔法を発動させようとするが、私はソッとそれを解除すると、男は驚きの表情を見せる。

「何をしようとしたのかは知らないけれど、私の前でそういう動きは良く無いわね――次、同じように動こうとしたら、私が殺す前に『黒狼』か私の専属メイドが貴方を殺すわよ」

 そう言うと男はムッとした表情で押し黙る。

「一応、証明だけはしておきましょう。こちらの指輪を見なさい、貴方くらいの冒険者であれば分かるでしょう?」

 私が嵌めている幾つかの指輪の中でお母様が用意してくれた空間収納アイテムボックス
になっている指輪にはハーブスト公爵家の紋章が象られている。これは私がハーブストの公女である証明のひとつとなっているし、自身がどの家に所属しているかを証明する為に指輪に紋章を付ける事は貴族家でよくあることなのだ。

 男はそれを見て「なるほど……」と、何かを納得するような雰囲気を見せた。

「さぁ、証明したわよ。とりあえず話して貰おうかしら?」
「――仕方あるまい。相手の認識を眩ませる魔法を使って、我の隣にいる男と我が同じ人間だと認識させて登録を誤魔化した。当然、魔力登録は一人だ」

 なるほど、相手の認識を眩ませる――ね。精神感応、洗脳とかの魔法か、これは問題大ありかもしれない。そもそも、古来から人心を狂わせる魔法というのは大帝国内でも禁呪として扱われているハズだ。

「貴様、禁呪と分かっていて話したのか?」
「クックックッ、その通りだ。それに我が受けたのは王家からの依頼だ。今までも、これからも、王家からの依頼で――グホォッ」

 なんだか、ムカついたので思わず顔面に蹴りを入れてしまったわ。

「残念ながら、王家は関わって無いわよ。いま、王宮は大変なことになっているでしょうね。全く、女王陛下の意に反するクソが貴方のような危険な者を使っていたと知れば、もっと大変な事になりそうだわ」
「エステリア、いいか?」

 と、アリエルが苛立ちを見せてこちらにやって来る。そして、男の前で剣を取り出す。

「さすがにここで殺すとかは止めなさい」
「分かってる。名も聞く気も起こらんクソ野郎。我が王家、いや、我が母を愚弄するクソめ! いいか、お前は私を襲おうとしたのだぞ? 理解しているのか?」

 男は流石に混乱しているようだ、私に蹴られたダメージさえも吹っ飛んだように目を丸くしている。

「一体、何が? どういうこと……だ?」
「ハーブスト公爵令嬢が居て、『黒狼』のような【白金】冒険者、複数の王家の影、普通はありえんだろう? なんだ、私は彼女の付き人か何かと思っていたのか? ふむ、悲しいな~、私はそんなに存在感が無いのか?」

 王女様モードに入ったアリエルは色んな意味で面白いが、楽しんでいるわね。そして、頑張って魔法を使おうとしても、私が魔法解除カウンターして無効化されるから、必死よね。

「じょ、冗談では無いっ! な、なんなのだっ!!!」
「【白金】冒険者『幻魔』――いえ、ただの暗殺者ね。こちらにいらっしゃるのはアリエル・ミストリア、王位継承権第一の姫君、頭が高いわよ」
「何故だ! どうしてこうなった? なぜ、魔法が使えぬ!!!」

 うん、ダメだな。情報も出てこなさそうなので、会話も面倒臭くなってきた。

「殿下、コレは使えなそうなので、止めましょう」
「む? エステリアどうしたのだ?」

 と、不思議そうな顔をするアリエルを少し離れた場所へ連れて行き、耳打ちするのだった。

「なんだか、不毛な会話を繰り返しそうな雰囲気だから、そろそろ止めようかなって。とりあえず、お縄にして連れ帰って貰おうと思ったけど、禁呪使われても困るし」
「しかし、ここでヤルのか? いいのか?」
「とりあえず、魔導洞窟ダンジョンの糧になって貰おうかな……って」
「――なんだか、悪人みたいだけど、どうなの?」
「まぁ、悪役令嬢だし、とりあえず、世にいてはいけない人もいるし、あの魔法は危険すぎる」

 こうしている間に魔法を使われてもエルーサがいるから大丈夫だけど、私達が居ない間に相手の魔法を封じる隙が無いし、方法も無い。と、いうかそういう魔道具も作った方がいいかもしれないなぁ。ってか、世の中には存在はしているんだけど――かなりの貴重品だからね。

「でもなぁ。いや、結局、遅かれ早かれって話ではあるのか……」
「まぁね。いい人であれば、心が痛む部分もあるんだけど、あのハゲ、色々とヤバそうだし」
「まぁ、だよね」

 と、私とアリエルは決断するのであった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...