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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る
168.悪役令嬢は不埒な冒険者を拘束する
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今回、捕えた不埒な冒険者は全員で八名。その内、【白金】の冒険者らしい男が二人。どちらかが噂の『幻魔』なのだろう。
「閣下はどちらが『幻魔』だと思います?」
「どうかな。幻術を得意としている者だ――周囲には他に誰もいないようだが、もしかすると、特殊な方法で隠れている可能性もあるだろう」
まぁ、端末は魔力を元に判断しているハズだから隠れている。と、いうのは考えにくいのだけど、今回、ダンをこちらに連れて来たのは万が一を考えてではある。色々な仮定はあるのだけど、この中の一人が『幻魔』である――と、いうのが普通の考え方だ。
そもそも、冒険者登録を行えるのは個人であり、複数の人間が一人に成り済ます。と、いうのは普通はありえない。これは乗り越えなければいけない壁が二つあって、幻術が得意な冒険者ということで一つはクリア出来るが、もう一つは無理だと私は思っている。まぁ、ギルド側に協力者が居れば――いや、それもたぶん無理だ。
冒険者の登録に必要なのは正確には魔力だけだ。個人名やその人物がどういった人間かなんてのは担当したギルド職員くらいしか分からない。しかし、登録の魔道具は【失われた遺産】だ。しかも、現在でも帝都の職人だけが作れる特殊な魔道具と云われている。
因みに魔導洞窟の管理端末からも魔力によって個人を判別している事を考えると、同じ技術ではないかと私は思っている。結果、魔力は個人によって判別可能というのが立証されたわけで――ま、その辺りはいいとして。
ともかく、【白金】のクラスが与えられるのは個人であり、二つ名も個人に与えられるモノだ。なので、冒険者登録を誤魔化せる方法は普通ありえないので、捕まえた者達の中に『幻魔』が存在するか、存在しないかの選択になると私は思っている。
思っているのだけど、何か引っかかるのよね。
「閣下、複数の人間がひとりの冒険者として登録されるようなこと、ありえませんよね?」
と、私がクーベルト閣下に聞くと彼は難しそうな表情で腕を組んで「うーむ」と、唸った。閣下には私が気が付いていない何かがあるのだろうか。
「普通に考えるとありえない――のだが、可能性として思うところがひとつだけある」
彼はそう言いながらも、言いにくそうな雰囲気を見せる。因みにアリエルとウィンディは不思議そうな顔をしている。まぁ、それはいいか。エルーサとナスターシアはこちらのやり取りが気になる様子だが、捕えた者達の監視をして貰っている。なお、閣下の部下達は少し離れた位置で魔力探知と監視を行って貰っている。
「お聞かせいただいても?」
「うむ。【白金】の冒険者になると、必ず定期的に冒険者ギルドの担当者とのやり取りを行うことになっている。知っていると思うが、大帝国の管轄と国の管轄で多少扱いが違うところが存在する」
冒険者ギルドは大帝国傘下の各国に存在し、冒険者を管理している。しかし、【白金】の冒険者というのは希少で国にとっても戦力的な価値も存在する。故に常に場所を把握する必要があり、これは大帝国においても同じで多勢を相手に出来るような化物クラスの人間に好き勝手されるわけにはいかないという共通認識から、他のクラス以上に色々と面倒な手続きや監視がついたりするわけだ。
多くの冒険者は国と関係が深い人間はあまりいない。逆に言えばクーベルト閣下が特別だとも言える。強大な力を持つ者というのは、どのような組織であっても扱いが難しいモノなのだ。
「しかし、ギルドの魔力登録や一定期間ごとの面談も踏まえると、複数人が一人の【白金】冒険者になるというのは無茶な話ではありませんか?」
「ああ、それはその通りだ。しかし、誤魔化す手立てはある。面談に関しては幻術で誤魔化す事は可能だろうし、魔力登録に関しては魔力同調が上手い人間であれば、もしかすると可能かもしれないと私は考えている――が、直接聞いてみるのが一番では無いか?」
そう言われて、私は小さく頷いた。確かに色々と難しく考えるよりも、当たって砕けだ方がいいか。と、私は息を吸って捕まえた男達の前をゆっくりと歩く。視線、魔力の揺れ、そういうモノが情報を与えるとは流石お母様の教えは素晴らしい。
私の動きに視線を外した男が一人、我関せずを決めている者が一人、よく分からない状況に戸惑っている者が三人、こちらを睨んでいる者が三人だ。中々に分かりやすいかもしれない。と、私はまず視線を外した男の前で足を止め、私は敢えて見下すようにお母様を意識して微笑む。
「まず、貴方から話を聞かせて貰おうかしら?」
と、そう言うと男はあからさまに動揺した。そして、閣下が素早く男の頭を掴んで地面に叩きつけた。
「グッ……」
「頭が高い、貴様らには現在ミストリアに対する反逆行為を問われている。彼女の質問には素直に答えよ」
「な、何を言って――ヒッ!?」
閣下は素早く背中に装備していた短剣を抜き、男の頭ギリギリに地面へ突き刺した。
「素直に答えよ。分かったな?」
閣下、少しやり過ぎでは? と、言いたい気持ちもあるが、これによって他の男達の反応も見れる事を考えると、仕方なしと思う事にする。
「私はエステリア・ハーブスト。ハーブストの名を聞いて思う事があるかしら?」
「い、いや、じょ、冗談……だろう? は、ハーブストだって? グゥッ!!」
抑え込まれていた男が若干地面にめり込む、うん、閣下――少しやり過ぎです。が、まぁ、仕方ないか。冗談だろうと言ったのは私がハーブスト公爵の娘だという事が信じられないのか、彼が知っている情報が違うのか。もう少し踏み込んでお話をしていきましょうか。
と、私はしゃがみ込んで、彼の顔を覗き込むのであった。
「閣下はどちらが『幻魔』だと思います?」
「どうかな。幻術を得意としている者だ――周囲には他に誰もいないようだが、もしかすると、特殊な方法で隠れている可能性もあるだろう」
まぁ、端末は魔力を元に判断しているハズだから隠れている。と、いうのは考えにくいのだけど、今回、ダンをこちらに連れて来たのは万が一を考えてではある。色々な仮定はあるのだけど、この中の一人が『幻魔』である――と、いうのが普通の考え方だ。
そもそも、冒険者登録を行えるのは個人であり、複数の人間が一人に成り済ます。と、いうのは普通はありえない。これは乗り越えなければいけない壁が二つあって、幻術が得意な冒険者ということで一つはクリア出来るが、もう一つは無理だと私は思っている。まぁ、ギルド側に協力者が居れば――いや、それもたぶん無理だ。
冒険者の登録に必要なのは正確には魔力だけだ。個人名やその人物がどういった人間かなんてのは担当したギルド職員くらいしか分からない。しかし、登録の魔道具は【失われた遺産】だ。しかも、現在でも帝都の職人だけが作れる特殊な魔道具と云われている。
因みに魔導洞窟の管理端末からも魔力によって個人を判別している事を考えると、同じ技術ではないかと私は思っている。結果、魔力は個人によって判別可能というのが立証されたわけで――ま、その辺りはいいとして。
ともかく、【白金】のクラスが与えられるのは個人であり、二つ名も個人に与えられるモノだ。なので、冒険者登録を誤魔化せる方法は普通ありえないので、捕まえた者達の中に『幻魔』が存在するか、存在しないかの選択になると私は思っている。
思っているのだけど、何か引っかかるのよね。
「閣下、複数の人間がひとりの冒険者として登録されるようなこと、ありえませんよね?」
と、私がクーベルト閣下に聞くと彼は難しそうな表情で腕を組んで「うーむ」と、唸った。閣下には私が気が付いていない何かがあるのだろうか。
「普通に考えるとありえない――のだが、可能性として思うところがひとつだけある」
彼はそう言いながらも、言いにくそうな雰囲気を見せる。因みにアリエルとウィンディは不思議そうな顔をしている。まぁ、それはいいか。エルーサとナスターシアはこちらのやり取りが気になる様子だが、捕えた者達の監視をして貰っている。なお、閣下の部下達は少し離れた位置で魔力探知と監視を行って貰っている。
「お聞かせいただいても?」
「うむ。【白金】の冒険者になると、必ず定期的に冒険者ギルドの担当者とのやり取りを行うことになっている。知っていると思うが、大帝国の管轄と国の管轄で多少扱いが違うところが存在する」
冒険者ギルドは大帝国傘下の各国に存在し、冒険者を管理している。しかし、【白金】の冒険者というのは希少で国にとっても戦力的な価値も存在する。故に常に場所を把握する必要があり、これは大帝国においても同じで多勢を相手に出来るような化物クラスの人間に好き勝手されるわけにはいかないという共通認識から、他のクラス以上に色々と面倒な手続きや監視がついたりするわけだ。
多くの冒険者は国と関係が深い人間はあまりいない。逆に言えばクーベルト閣下が特別だとも言える。強大な力を持つ者というのは、どのような組織であっても扱いが難しいモノなのだ。
「しかし、ギルドの魔力登録や一定期間ごとの面談も踏まえると、複数人が一人の【白金】冒険者になるというのは無茶な話ではありませんか?」
「ああ、それはその通りだ。しかし、誤魔化す手立てはある。面談に関しては幻術で誤魔化す事は可能だろうし、魔力登録に関しては魔力同調が上手い人間であれば、もしかすると可能かもしれないと私は考えている――が、直接聞いてみるのが一番では無いか?」
そう言われて、私は小さく頷いた。確かに色々と難しく考えるよりも、当たって砕けだ方がいいか。と、私は息を吸って捕まえた男達の前をゆっくりと歩く。視線、魔力の揺れ、そういうモノが情報を与えるとは流石お母様の教えは素晴らしい。
私の動きに視線を外した男が一人、我関せずを決めている者が一人、よく分からない状況に戸惑っている者が三人、こちらを睨んでいる者が三人だ。中々に分かりやすいかもしれない。と、私はまず視線を外した男の前で足を止め、私は敢えて見下すようにお母様を意識して微笑む。
「まず、貴方から話を聞かせて貰おうかしら?」
と、そう言うと男はあからさまに動揺した。そして、閣下が素早く男の頭を掴んで地面に叩きつけた。
「グッ……」
「頭が高い、貴様らには現在ミストリアに対する反逆行為を問われている。彼女の質問には素直に答えよ」
「な、何を言って――ヒッ!?」
閣下は素早く背中に装備していた短剣を抜き、男の頭ギリギリに地面へ突き刺した。
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「私はエステリア・ハーブスト。ハーブストの名を聞いて思う事があるかしら?」
「い、いや、じょ、冗談……だろう? は、ハーブストだって? グゥッ!!」
抑え込まれていた男が若干地面にめり込む、うん、閣下――少しやり過ぎです。が、まぁ、仕方ないか。冗談だろうと言ったのは私がハーブスト公爵の娘だという事が信じられないのか、彼が知っている情報が違うのか。もう少し踏み込んでお話をしていきましょうか。
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