悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

146.悪役令嬢は魔導洞窟で寛ぐ

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 現在、私エステリア・ハーブストは第一級大型魔導洞窟ダンジョン『アンダンテール大洞窟』の下層27階層でノンビリしております。

 ディルヘルト・セイス・ティルムス・クーベルト辺境伯閣下は幾度も溜息を吐いておられますが、現状、動きようがないのでどうする事も出来ませんので諦めてくださいませ。

 何があったのか――と、いうところですが、私と閣下が少し調子に乗り過ぎてしまったのが原因なのです。

「何度も来ている閣下がこのような仕掛けに気が付いていなかったとは、この罠はよほどの希少性と言えますね」
「――いや、本当にすまない」
「あ、別に嫌味のつもりではありませんから。その……珍しい事もあるのだと」

 私がそう言うと彼は再び小さく溜息を吐いてしょんぼりします。うーん、どうやって励ませばよいのやら。

「下層でこのような罠は一度も見たことが無いのだ……本当に申し訳ないとしか言えない」
「謝られても何も変わりませんよ? それよりも暫くはこの閉鎖空間に留まるしかないのですから、解決策を考えましょう」
「……まぁ、そうだな」

 と、まだしょんぼりされている閣下を見ながら、すこーし、可愛いなぁ。なんと思ってませんから! ませんからねっ!

 因みに閉鎖空間と言いましたが、別に別空間とか、そういうのでは無く、隠し部屋を見つけてしまったところ、私達は不用意に入ってしまっただけで、出れなくなった……と、いうわけ。そう、誰も悪くない。

「それにしても、変わった部屋ですよね。ここ……」
「確かに、魔力反応も全く感じなかったのに中側からはしっかりと、魔力反応がある」
「ですよね。特にこの板みたいなモノから、凄い不思議な反応を感じます」

 部屋の中は25メートル四方くらいの正方形の部屋で今は閉じられている扉――外側からはただの壁に見える――から入って奥側に祭壇のようなモノがあって、そこに飾られている埃かぶった板のようなモノ。私達はこれに触ることでさらなる罠の発動を恐れてただ見ているだけ、と、いう状況である。

「リア嬢はここに施されている術式がどういうモノか解析出来ないだろうか?」
「ハッキリしているのは隠蔽の魔法なんですけど、これってかなり時代が古いモノだと思うんですよね。私の知っている魔法や魔術の術式と若干様式が違う感じがするんです」
「――やはりか」

 閣下も似たような事を感じていたのか、そう言って難しそうな顔をする。実のところ、一つだけ心当たりがあるんだけど、それは言っても良いのか悩むところなんだけど、ま、いっか。

「この特徴ある術式様式はたぶん【失われし遺産アーティファクト】だと思うんですよね。特に古の賢者である賢人サルバトーレの作品かと……」

 魔術における始祖でもある賢人サルバトーレでもかなり古い時代のモノだと思われます。現在の魔術はサルバトーレの魔術を元に様々な時代様式を得て数百年前の賢人によって作られた物なので、古い時代の物は別物だとよく言われる所以になっている。

「閣下はサルバトーレの【失われし遺産アーティファクト】を見たことはありますか?」
「残念ながら、かの作品は国宝級と言われているからな。天帝が所有していることは知っているが……」

 普通はそうよね。現存する【失われし遺産アーティファクト】に関しては数百年という期間を考えると意外と数はあるのだけど、賢人サルバトーレの作品と云われる物は全て国宝級として扱われており、天帝が所有する宝物庫に収められているらしい。

「なんだか、触れるのは危険な気がするんですよね、これ……」
「ああ、分かるが……この部屋の仕掛けを解除する方法を考えた時にこの目の前にあるヤツが怪しすぎるんだ」
「ですよね。んー、とりあえず――お茶でもしながら考えましょう」

 私はそう言って、空間収納アイテムボックスからテーブルと椅子を2脚、取り出してからポットと湯呑を用意する。こういう時は落ち着きたいので、お茶はほうじ茶に限る。

 閣下は少し呆れ気味に私がお茶を淹れる様子を見ていたけれど、視線が少し気になったので閣下に何かあったのか訊くと、彼は少しバツが悪そうにしつつ言った。

「以前から思っていたが、公爵令嬢だというのにお茶を淹れ慣れていると思っただけだよ」
「あら? 我が家ではお母様も淹れますよ?」

 小学でも思ったけれど、我が家は少し変わっているのかもしれない。いや、まぁ。私が淹れれるのは前世の記憶を持っているからだけど、お母様に至っては普通に自身でお茶を振る舞うこともあるので、特殊なのだろう。

「はい、どうぞ」
「……すまないな」

 そう言って、閣下は湯呑を取ってお茶を啜る。

「はぁ、落ち着くな……こんな場所でなければ」
「それを言ってはいけませんわ。こんな場所でも少し落ち着けば、何か見えて来るモノもあるかもしれませんもの」
「確かにな。君は本当に強いな」
「そんな事はありませんよ。どちらかというと……こういう事に慣れているだけです」

 実のところ、あまり記憶には無いけれど、前世でも似たような場面で似た様にお茶を飲んで落ち着いたような感じがある。自身の事はあまり記憶にないけれど、なんとなく分かる。

「っと、別にこんな場所でお茶をするのに慣れているという意味ではありませんからね?」
「分かっているよ」

 と、閣下は小さく笑った。
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