悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

101.悪役令嬢は両親に相談する

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 学院から帰ってすぐに両親へ面会出来るように手配した後に、執事やメイド達を総動員して緊急会議の準備を急がせる。それから間もなくして、お母様からすぐに時間を取るとの連絡を受け、お父様は王城へ出ていたので可能な限り急いで戻ると伝令が伝えてきた。

 私は脳内で様々なパターンをシミュレーションしつつ、一番良いのは上手に参加を断る。なのだけど、無理な場合も如何にして面倒事を避けるか――お母様との約束の時間まで考えつつ過ごす。

「お嬢様、お時間です。お部屋の方も準備が整っております」

 お母様と二人だけの密談なら庭園でするのだけど、今回はお父様も参加ということで別の部屋を用意して貰った。

「では参りましょう」

 そう言ってエルーサを連れて、私は部屋を出た。私の部屋は王都屋敷の三階に位置していて、侵入者が最も入ってこれない位置にある。それは良いのだけど、どの部屋に向かうにも最も遠い位置にあるので、こういう予定を入れた時は移動が一番面倒臭い。

 お屋敷が広すぎるというのも考え物ね。

 などと思いつつも、E字型の屋敷――前世の学校の作りにも似ているけど――の三階は特に階段の位置も他の階と違い、我が家のプライベート空間となっている。今回は二階にある執務室が幾つかある付近の部屋を準備して貰った。近さから言えばお母様の方が先に着いている可能性も無くはない。

「奥様の方が先に到着しているようです」

 と、目的の部屋近くで別のメイドが私に耳打ちしてきた。私は「ありがとう」と、言って部屋の扉をノックをする。当然、中からお母様専属のメイドであるバネッサが出てきて「奥様がお待ちでございます」と、部屋の中へ案内される。

「私の方が先に着いてしまったわ」
「お待たせして申し訳ありません」
「いいのよ、先にお茶を頂いているわ。ほうじ茶は久しぶりね」

 今日は特別にほうじ茶にしてみたのだけど、急遽お話をする為の時間を作ったので用意していたお茶菓子の選択肢があまりなかっただけだ。因みに本日用意したのは冷やしぜんざいである。明日の茶菓子用に用意していたあんこがあっただけなんだけどね。

「たまには良いでしょう? 後でお茶菓子の方も持ってこさせますのでお待ちください」
「そうなのね。楽しみだわ」

 そして、私は席へ座りエルーサに視線を移す。彼女は何も言わずにソッとテーブルへ例の招待状を置いた。お母様は静かにそれを手に取り、中身を確認して一瞬だけピクリと口の端を上げた。

「クリフト殿下から直接渡されたのですか?」
「いいえ、パルプスト公爵令息であるアーネスト様から叩き渡されました」
「は?」

 お母様にしては珍しくポカンとされたわ。ちなみに私もアーネスト様への対応時にそんな顔をしたのでしょうね。うん、アカンわ。

「とりあえず、パルプスト公爵へは抗議の書状を出しておきましょう。そして、廃嫡して貰いましょう。うん、そうしましょう」
「まぁまぁ、お母様。そんな事をしたらパルプスト公爵と全面対決になりますよ。色々と国内を裏から荒らされている状況なのに相手が喜んでしまうだけです」
「――それはそうね。にしても、そんな無礼を平気で出来るとは一体どんな教育をしてるのでしょうね」

 そこは私が言ったことにキレたからだけど、でも、それでキレるのは確かに短慮ではあるんだよねぇ。教育を疑われても仕方ない部分ではあると思う。

「実は私が彼に『いつから殿下の小間使いになったのか』と、煽ってしまったから――だと思うのです」
「でも、それって事実よね?」
「まぁ、そうなんですが……どうやら彼的には殿下からの大切なお願いだったようで」
「大切なお願いねぇ」

 そう言ったお母様の雰囲気は確実に怒っている。と、いうかこんなに怒った雰囲気を隠さずに漏らすお母様はとても珍しい。いうかそんなに怒ること? と、思わなくもないけど。

「それにしても、クリフト殿下の周囲はどうなっているのでしょうね? 招待状の文面も女性を誘うには余りにも酷いとしか言わざるを得ないわ。しかも、これって正式な招待状ではあるけど、正式な形で書いたモノでは無いから扱いが難しいわね」

 そうなのだ。普通は王城での茶会などを行う場合は陛下に確認を行った上で場所を整えるので、招待状の文面は一度チェックが入るハズだから、今回のような文面では送られてこないのが普通なのだ。アリエルも何度もチェックされてゲンナリしている事もある。当然、私もお茶会をする時にお母様にチェックされて、いまだに添削されるのだから。

「それに学院のある平日の水の日なのです。まだ半休の月の日か休みの天の日なら分かるのですが……」
「クリフト殿下は学院には?」
「残念ながら、入学式の日以降は来ておりません」
「噂には聞いてましたが、本当なのですね。キャロルの方も息子達の扱いに困っているようですし」

 女王キャロラインも困ってたんだ。アリエルは自由奔放だし、クリフト殿下はよくわかんないし、リストリア殿下は引き籠ってるみたいだし、大変そうだね。

「時期的には行事もないでしょう。平日である事は上位貴族では特に問題は無いと言えるでしょう。学院にも許可を取っていれば特に問題は無いと思うのです」
「果たして、許可を取っているでしょうか?」

 そういうのも面倒だからと放置している可能性があるんだよね。と、いうか普通は王家主催で祝いの席もあると思うんだけど――あ、一度もそんなの経験してないから、やってないか。

「三日後よね? 準備の方は?」
「さすがに三日でどうこう出来る問題では無いと思うのです。それに毎年お祝いの席を設けていれば事前に準備をしておくのは普通ですが、さすがに……」
「普通はそうよね。まぁ、失念していた私のミスよ。婚約者の誕生日はさすがに何かしないというのは問題ですものね……」

 それを言えば私も放置してたので何も言えないのよね。

「とりあえず、当たり障りのない感じがいいわよね」

 お母様はそう言いながら何かを考える仕草をする。その当たり障りのないというのが非常に難しいと思うのです。

「最近は剣術に力を入れているそうですから、それに関係した物がよいでしょうか?」
「魔道具はダメよ」

 それくらいは分かってますよお母様。とりあえず手持ちですぐに用意出来て喜ばれそうなラインを考えないとダメよねぇ。魔道具ならいくつも失敗作があるから楽ではあるけど。

「悩ましい――ですね」

 と、私とお母様との間にしばしの沈黙が流れる。すると、部屋の扉が軽くノックされお父様が入室してくる。

「やぁ、待たせてすまないね。先程の話を耳にしたのだけど、これを贈るのはどうかな?」

 そう言ったお父様は長めの箱をテーブルに置いた。
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