悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第三章 悪役令嬢は学院生活を送る

88.悪役令嬢はサロンで約束する

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 皆にお茶とお菓子が行き渡り、昼前の静かなお茶会が始まる。今回用意したのはマリーのところの商会から買っている最高級の茶葉と我が家の料理長自慢のプリン。後でサンドウィッチも出そうとは思っているけど、それは秘密だ。

 そして、皆が緩んだ顔になっている頃合いに私は口を開いた。

「さて、今日は色々と決めて行かなくてはいけない事があるのだけど、その前に私から言っておきたい事があるの」

 と、皆の注目が私に集まる。悪役令嬢達には事前に言ってあるので理解しているだろう。不安そうな表情をしているのは残りの3名だ。

「以前に話したサロンでの勉強会に関してもそうだけど、ここでは他家では見かけないような様々な魔道具を置くことになります。使い方も当然教えてさしあげます。ただし、紛失や持ち出し、身内も含めた外部の人間には一切口外しない事を約束して頂きたいの」

 分かってるわよね。と、ニッコリ圧を掛けておく。せめて生活用品についてはある程度は市場に流せるような形をそろそろ取っておかないと私が不便だし、イチイチこういう言い方をしてミーリアやジェニーに圧を掛けるのは少し心苦しい。そこはお母様やお父様と相談が必要ね。

「あと、技術的な話は絶対に教えませんが――」

 と、私は指輪からもう一つ、ポットの魔道具を取り出す。

「私はこういった空間魔術を使った魔道具を幾つか身に着けています」
「アイテムボ――」

 ウィンディが興奮して思わずアイテムボックスと言いかけてから、私の視線で気が付いて口に蓋をする。

「既に女王陛下にも献上してありますが、世間的に知られると下手をすると命の危険もあるくらいの物だと認識して貰えるかしら?」

 私がそう言うと、ミーリアとジェニー、ルアーナも無言で頷く。理解力のある娘達で本当によかったわ。

「それから私からの一方的な約束は脅迫だという事も理解しています。だから、ここにいる皆にも利益を約束します。まずは私から贈り物を渡しておきます。扱い方も教えますが、何度も言うように絶対に口外したり、他の者に貸すなどもダメです。無理に奪おうとする者もいるかもしれませんが、その場合は我が家の名を出しなさい。分かりましたか?」

 再び皆は静かに頷く。それを見て私は箱を6つ取り出し机に並べる。

「見た目は私の物と同じくある程度シンプルなモノにしました。箱に名前が書いてあるから、自分の物を取って身に着けて貰えるかしら?」

 因みに、数日前に既にアリエルの元にも手渡しに行った。

「ほ、本当に貰ってもよいのですか? わ、私でもよいのですか?」
「ミーリアは心配性ね。私の側近では無くって?」

 と、ミーリアは涙を堪えながら箱を開け、指輪を手にした。

「私と同じように右手の中指用に作らせました。多くの魔導師も魔道具の指輪を付けていることは多いと思うので不振には思われないでしょう。ただし、家の者には必ず、特別に貰った旨は説明するように。また、成長過程で指に入らなくなることもあるでしょう。その時はすぐに言ってくださいね、サイズを直します。普通の指輪のように直すことは魔道具なので出来ませんから、絶対に私に言ってください」

 一人で作るのには結構大変だったけど、とてもいい練習になったわ。

「エステリア様、これはどうやって使うのでしょうか?」

 と、ルアーナが聞いて来る。当然、気になって仕方ないわね。

「まず、魔力を通してみて」

 私がそう言うと、全員が指に嵌めた指輪に魔力を通す。キチンと制御用の魔術式が浮かんでいるのを確認する。

「一度目の起動時のみ、思ったより魔力を持っていくから気をつけてね。で、術式に魔力が行き渡ると黄色から青色へ変わるわ。それで魔力登録が完了するわ。そしたら魔力を送るのを止めてね」

 そう言っている間に全員の術式が青色へ変化する。

「で、次はそうね。鞄から筆記具を出してみて」

 皆がガサゴソと自分の手持ち鞄から筆記具を取り出す。私はそれを確認してから次の説明に移る。

「では、指輪に魔力を通しながら、入れたい対象物へ魔力で包み込んで、『入れ』と念じてみて」
「わ、わ、き、消えましたっ」

 と、ミーリアが驚きの声を上げる。他の面々も驚きや喜びの表情を浮かべている。

「入れる事が出来れば、次は再び指輪に魔力を通して、出したい物を思い浮かべて『出ろ』と念じてみて」
「おおっ、これは……面白い。エステリア様、武器などもこれにしまっておける……と、いうことでしょうか?」

 これが広まると多分暗殺案件が大量に増えそうだとお母様が言っていた通り、武器を仕舞えるというのは本当に大きな点だ。まぁ、対抗手段は無くはないけど、タイミングとか状況次第では本当に危険よね。

「当然、可能よ。冒険に出ても、戦に出る時も遂行能力も格段に上がるでしょうね。ただし、普段使いしないように周囲には気をつけなさい。ただし、私を護衛する時は存分になさい。帯剣していなくて油断を誘ったりなんかも出来るでしょうね。悪用も出来るから危険だけど、物は使いようよ」
「確かに多くの者に広がればよいでしょうが、暗殺などに利用されそうで問題が多いですね。エステリア様が慎重になさるのもなっとくです」
「分かっていればいいのよ、ルアーナ。貴女を信頼しています」

 私がそう言うと彼女は即座に席を立ち、臣下の礼を取って深く頭を下げる。

「そこまで畏まらなくていいわ。皆も扱いには注意してね。使うとしても今はこのサロン内と自分の家でプライベートになれてメイドや執事が見ていないタイミングを考えて使用するように。後、サロンでも下級貴族やその他の者がいる時は基本使用しない事。他に質問はあるかしら?」
「あ、はい。湯沸かしの魔道具などの扱い方は皆に教えるのでしょうか?」

 そう言ってきたのはジェニーだ。出来れば自分だけの特別が欲しいのかもしれないけど、ミーリアと二人に教えると言ったのだからね? と、いうか貴族令嬢がそもそも自分で茶を淹れるタイミングがあるかどうかを聞かれると結構微妙だけど。

「ええ、皆にも美味しいお茶の淹れ方を教えてさしあげるわ。それには湯沸かしは必要だものね。因みに、先ほどキッチンを見てきましたが、水桶なども無かったので、基本的に魔法で出すことになると思いますけど、大丈夫かしら?」

 うーん、あからさまに落ち込んじゃったわね、ジェニー。はぁ、仕方ないわね。

「でも、先に私がジェニーとミーリアに教えると言ったのだから、他の人が淹れると言わない時はお二人のどちらかが淹れて貰えるかしら?」
「は、はいっ、必ずエステリア様の好みのお茶を淹れれるようになりますから!」

 と、ジェニーは力いっぱいに言った。少し苦笑気味のミーリアとはとても対照的で少し面白くて思わず笑ってしまったわ。
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