悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

文字の大きさ
上 下
67 / 232
第二章 悪役令嬢は暗躍する

67.悪役令嬢は婚約者と王家のお茶会に出席する?

しおりを挟む
 会場には王族専用の場所があり、まずはそこに座り、女王キャロラインが挨拶をしてからお茶会が開始される。なお、殿下と私は王族だけが使用する通路から会場に入るわけだけど、殿下がエスコートせずに入って来て、女王やランパード閣下も一瞬不思議そうな表情をしてから、即座にそれを見せないように微笑んだ。

「そこに座るといい」

 と、殿下は吐き捨てるように言うとサッサと自分に用意された席へ彼は座ってしまう。私はとりあえず微笑んで着席する。その後、アリエルが王女の皮を被ってやって来て優雅に私の隣の席に着席する。

「随分と視線を集めているようね」

 アリエルは小声でそう言ってくる。私はニコリと笑顔で答える。取り敢えず暫く黙っておいて欲しいなぁ。の、気持ちを込めて。

 すると、アリエルは小さく微笑む。くっ、ワザとか? 煽ってるのか!?

 そうして表面上、周囲には感じさせないようにしつつ内心どぎまぎしていると、女王キャロラインとランパード閣下が立ち上がり、閣下が我が家制作の魔道具を起動させて女王キャロラインに渡す。

 この三年の間に制作した魔道具の一つで、簡単に言えばマイクだ。スピーカーいらずで周囲に音を伝えるという風系の魔術で大勢の人が集まるところで使える魔道具となっている。これも、魔法では元から存在するので、そこまで難しい物ではなかった。

『本日は天候にも恵まれ、太陽神ラミリア様や多くの神々も喜んでいるだろう』

 と、貴族らしい挨拶が始まるが、いつもよりはかなり短めの予定らしい。これは集まっているのが小学くらいの子供達が集められているからだけど、それでも正直なところ長く感じる。

『――そして、今日は我が息子であるクリフトとハーブスト公爵令嬢であるエステリア・ハーブストとの婚約をこの場の者達に伝える場でもある。これからのミストリアを支える者達として、この婚約を祝福して欲しい』

 結局のところ、殿下との婚約は回避することが出来なかった。これは強制力なのかもしれないと思いつつも、国内の事情含めて仕方ない状況だったので諦めるしか無い。まぁ、条件が整えば婚約破棄出来るのだから、私はそれを目指すのみだんだけどね。そんな事を考えつつも会場に響く拍手の音がとても耳障りだった。

『では、短い時間だが存分に楽しみ、交流を深めると良い』

 と、女王キャロラインはそう言って、ランパード閣下にエスコートされて会場を後にする。そして、次々と会場にメイド達がワゴンを押して現れる。はじめは決められた席で紅茶とお茶菓子を楽しみ、その後は自由に移動しながら挨拶や会場に用意されている食べ物や飲み物を楽しむ時間となっている。

 因みにだけど、私と殿下はこの席から移動する事は禁止されていて、挨拶に来た者達に対応する時のみ、席を立つようにと言われている。

 今回用意されている紅茶はマリーがこの三年間で必死に研究開発した物のひとつで、前世のクオリティまでは到達していないが、十分に美味しい紅茶が出来上がっている。先日、試飲させて貰ったのでどういったお茶が用意されているか、既に知っている。

 なお、茶菓子はマドレーヌを用意しておいた。こちらは我が領で用意した物になっている。味も南方貿易で手に入れたカカオ豆から作ったチョコレートが入っている物と普通のプレーンな物を用意した。いやぁ、チョコの再現は本当に大変だったけど、我が家では既に前世レベルの調理器具が色々とあるので、安定していろんなものを作る事が出来るようになった。

 そして、目の前のお茶を飲もうとした時に殿下の冷たい声が私に向けられる。

「私がまだ手を付けていないのに婚約者である君が先に茶を飲もうとするのはいただけないな」
「も、申し訳ありません……」

 って、最も上位の人間が手を付けている時ならば、その後は自由のハズだ。既にアリエルは優雅にお茶を飲んでマドレーヌを上品にフォークで一口大に分けて、口に放り込んでいる。けど、クリフト殿下からすれば、同位もしくは自分の方が上位と考えている可能性もある。

「おい、そこのメイド。毒見は済ませてあるのだろうな」

 と、給仕のメイドが驚いた顔をする。たぶん、そんな事を言われた事は無いと思う。私達もそうだけど、毒などの浄化魔法は基本中の基本で、多くの者が毒見をする風習がそもそも無い――ハズなんだけど。アリエルは『何言ってんだ、コイツ』みたいな視線を向けてる。

「変な物は入っていないと思いますが――」

 メイドの声に殿下は「フン」と鼻を鳴らす。どちらかというと舌打ちしたかったのかもしれないけど、さすがにそこまでは……と、思ったのかもしれない。

「それにこの茶はなんだ? このように匂いがキツク自然じゃない感じがする茶を私に飲めと?」

 それはメイドに言っても仕方ないと思います。それにそもそもこの場は女王キャロラインが誂えたお茶会で自身の母親が変な物を食べさせるわけは無いと思うんだけど……と、いうかクリフト殿下ってこんなキャラだったっけ?

「あら、お兄様。このお茶会を整えたのはお母様である陛下ですよ? 女王陛下を信用されていないとお兄様はいうのかしら?」

 アリエルがクリフト殿下に冷めた視線を向けて、そう言った。すると、殿下は小さく舌打ちをする。

「陛下を信用していないと思われたくは無いね……仕方ないな」

 そう言ってお茶に口を付ける。と、紅茶特有の渋みが気に入らなかったのか訝しい雰囲気を出しつつマドレーヌを口に放り込み、驚いたような表情をする。それにしても意外と表情豊かよね。んー、確かに分かりにくいかもしれないけれど、視線の揺れや動きで感情がよく分かる。

 ゲーム時のクリフト殿下はもっと表情を隠すのが上手くなっていった。ってことなのかな?

 そんな事を考えながら、私はお茶を口に含んだ。

「いい仕事してますわね。芳醇なお茶の香りと薔薇のフレーバーがとても良く合っていますね」
「フンッ、そういうものか? これが?」

 クリフト殿下はマズそうな雰囲気を出しながら、マドレーヌを口に運び続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...