悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

文字の大きさ
上 下
54 / 232
第二章 悪役令嬢は暗躍する

54.悪役令嬢は冒険者となる

しおりを挟む
「いやぁ、まさかまさかよね」

 アリエルは上機嫌でそう言った。それもその筈で、現在、私達がいるのはリンガロイ伯爵領にある魔導洞窟ダンジョンのある街でクラスタリアムに来ている。当然、ここに来るまでには色々と問題もあったし、時間も掛かった。

 ちなみにアリエルが悪役令嬢同盟を宣言してから3ヶ月ほど経っている。今回、許可が出たのは丁度、リンガロイ伯爵領に視察の用があった女王キャロラインの視察団に組み込まれることになったからだ。

 現在は自由時間というわけでは無いけれど、私とアリエルは時間が空いたので、現在宿泊先として使用しているリンガロイ伯爵が持っている別邸の客間にてお茶を飲みながら話をしていた。

「そうね。ただ、護衛付きの魔導洞窟ダンジョンアタックというのは微妙な気持ちになるけれどね」
「それは仕方ないところでしょ。そう言えば、今回変わった物を持ち込んでるって聞いてるけど、それってもしかして……」

 アリエルがの事が気になっているようだ。どうせ見たら分かるわけだけど、今はそれが何かを周囲に知らせる事はしたくないので、彼女の言葉を止める。ウィンディ嬢が不思議そうな顔をしているがニッコリと微笑むことで黙らせる。

「もう一つ、懸念があるのだけど、たぶんどうする事も出来ないでしょうから言っても仕方ないわね……」
「エステリアってば、そんなに色々と思い悩んでいると剥げちゃうわよ」
「アリエルみたいにお気楽な性格じゃないから仕方ないじゃない。と、いうかウィンディももっと気楽にすればいいのよ」
「いやぁ、なかなか難しいです……」

 周囲から失礼のないようにとか色々と言われているのを見ちゃったせいもあるけど、周囲の目を気にしすぎじゃないかしら?

「そういえば、今回はウィンディも来るのよね」
「はい! 私がアリエル殿下とエステリア様の従者です! おまかせください。ただ、護衛で凄く強い方が来るという噂ですが、どこの誰が呼ばれたのかは知らないんですよね」

 この国で凄い強いに含まれる人物って意外な事に結構いるのよね。ここ最近は周辺国の情報とかもお父様から教えて貰っているけれど、ミストリアって周囲の国からはかなり警戒されている理由としては優秀な魔導師が多くいる事なのよね。因みにだけど、騎士も魔導師とイコールで、騎士は職業で、魔導師は職業というより魔法を様々な事に利用できる者的な扱いなのだ。

 だから、基本的に魔法や魔術を使う者を魔導師と呼ぶ事が普通で私達の概念では魔導師も騎士と同じような職業だと思っていたので、知った時は大いに混乱した。職業的な魔導師も存在するせいで本当に最近まで理解していなかった。

 たぶんだけど、この国でNo.1とNo.2の魔導師は女王キャロラインとお母様であるハーブスト公爵夫人であり、キャロラインの双子の姉であるステファニーだ。どちらが上かに関しては考えるまでも無く魔法だけならキャロラインで魔術であればお母様だ。

 ただし、戦闘には様々なシチュエーションが存在するから魔法や魔術の実力や魔力量が高いという理由では判断出来ない。例えば王配であるランパード・ティルムス・ラパスティ・ミストリア公やクーベルト辺境伯のように単騎での剣技や身体強化に特化した対魔導師や対魔獣戦においてはその評価も変わってくる。

 と、いってもお母様達は集団戦から単騎戦、どちらも国内上位の戦闘力を持っているのでトップは変わらないと思うけど。

「と、いうか誰が来るのかしらね。近衛からか、騎士団からだと思うんだけど……」
「近衛や騎士団からってのが普通よね。団長クラスはお父様と一緒に王都でお留守番みたいだけど、うーん、他に実力者って冒険者って可能性は? そもそも冒険者登録を持っている人間じゃないとダメでしょ?」
「まぁ、そこは確かにね。でも、魔導師や騎士になっている人間の内、結構な人数が冒険者登録はしてるハズだから、気にしていなかったわ。そういえば、リンガロイ伯爵領に滞在中の上位ランクの冒険者っているのかしら?」

 ウィンディは首を傾げて「うーん」と唸る。現在、冒険者登録されている人物で上位ランクの冒険者というのは実は国はどこに滞在しているのかという情報を持っている。ちなみに今回用にお父様から貰った資料を読んだので大体の上位ランク冒険者は把握している……ハズなんだけど、時折、流れだったり、把握し難い動きをする冒険者がいるのは確かなんだよね。

 有名なのはミストリア近隣諸国をうろついている冒険者で『黒狼』という人物がいる。分かっているのは男性ってことだけで、実はその実在もよく分かっていないのよね。まぁ、そんな有名人がいきなり現れることはないでしょうけど。

「私の記憶だと、【金】までの冒険者しかいなかったと思います。【白金】【白銀】は現状では把握されていないかと」

 冒険者のランクは最高位が【白金】【白銀】【金】【銀】【鋼】【鉄】【銅】とある。【白銀】より上位ランク冒険者は各国の関所を通れたり、貴族位を持っていなくても貴族扱いを受けたりと優遇される。代わりに様々な制約を受ける。各国のどこにいるか冒険者ギルドへの報告や災害などが起こった際に滞在国からの要請によって仕事を請け負わなくてはいけない。

 ただ、これも形骸化している部分も多く、上位クラスの冒険者で特に有名な者の多くは制約を無視して自由にやっている事が多い。これって結構問題なのよね……冒険者ギルドが甘く見られている――と、いうより帝国の力の権威が落ちていると言えるわね。

「と、いうことは冒険者という線もなさそうね」
「ですねー」
「そうだ、ウィンディ。今回のお出かけ先である魔導洞窟ダンジョンの詳細を教えて欲しいのだけど」

 と、私が言うとウィンディ嬢は『よくぞ聞いてくれました』と、いう勢いで目を輝かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

悪役令嬢の独壇場

あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。 彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。 自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。 正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。 ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。 そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。 あら?これは、何かがおかしいですね。

『悪役』のイメージが違うことで起きた悲しい事故

ラララキヲ
ファンタジー
 ある男爵が手を出していたメイドが密かに娘を産んでいた。それを知った男爵は平民として生きていた娘を探し出して養子とした。  娘の名前はルーニー。  とても可愛い外見をしていた。  彼女は人を惹き付ける特別な外見をしていたが、特別なのはそれだけではなかった。  彼女は前世の記憶を持っていたのだ。  そして彼女はこの世界が前世で遊んだ乙女ゲームが舞台なのだと気付く。  格好良い攻略対象たちに意地悪な悪役令嬢。  しかしその悪役令嬢がどうもおかしい。何もしてこないどころか性格さえも設定と違うようだ。  乙女ゲームのヒロインであるルーニーは腹を立てた。  “悪役令嬢が悪役をちゃんとしないからゲームのストーリーが進まないじゃない!”と。  怒ったルーニーは悪役令嬢を責める。  そして物語は動き出した…………── ※!!※細かい描写などはありませんが女性が酷い目に遭った展開となるので嫌な方はお気をつけ下さい。 ※!!※『子供が絵本のシンデレラ読んでと頼んだらヤバイ方のシンデレラを読まれた』みたいな話です。 ◇テンプレ乙女ゲームの世界。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げる予定です。

悪役令嬢らしいのですが、務まらないので途中退場を望みます

水姫
ファンタジー
ある日突然、「悪役令嬢!」って言われたらどうしますか? 私は、逃げます! えっ?途中退場はなし? 無理です!私には務まりません! 悪役令嬢と言われた少女は虚弱過ぎて途中退場をお望みのようです。 一話一話は短めにして、毎日投稿を目指します。お付き合い頂けると嬉しいです。

断罪イベント返しなんぞされてたまるか。私は普通に生きたいんだ邪魔するな!!

ファンタジー
「ミレイユ・ギルマン!」 ミレヴン国立宮廷学校卒業記念の夜会にて、突如叫んだのは第一王子であるセルジオ・ライナルディ。 「お前のような性悪な女を王妃には出来ない! よって今日ここで私は公爵令嬢ミレイユ・ギルマンとの婚約を破棄し、男爵令嬢アンナ・ラブレと婚姻する!!」 そう宣言されたミレイユ・ギルマンは冷静に「さようでございますか。ですが、『性悪な』というのはどういうことでしょうか?」と返す。それに反論するセルジオ。彼に肩を抱かれている渦中の男爵令嬢アンナ・ラブレは思った。 (やっべえ。これ前世の投稿サイトで何万回も見た展開だ!)と。 ※pixiv、カクヨム、小説家になろうにも同じものを投稿しています。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

村娘になった悪役令嬢

枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。 ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。 村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。 ※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります) アルファポリスのみ後日談投稿しております。

処理中です...