悪役令嬢同盟 ―転生したら悪役令嬢だった少女達の姦しい日々―

もいもいさん

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第一章 悪役令嬢は動き出す

53.悪役令嬢の母親達のお茶会はまだ続く

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 全員が協力への確約を行い、用意していた契約書にサインする事で今回の大目的は完遂といえるでしょう。

「では、先程ステファニー様が仰っていた【秘密】を教えて頂いてもよろしいでしょうか?」

 リオーラ様、ターニア、アマンディが目を輝かせて私を見る。いくら外聞を気にしなくても良い環境だからと言って、そんなに鼻息を荒くしてはいけませんよ。まったく。

「ええ、約束ですからね。当然、お教えしますわ。まず、私が使用している魔道具ですが、魔法は一切使用しておりません。全て魔術のみで構成しています」
「どういう事でしょう? その小さな置物に――魔石も上部についている物だけですよね?」
「リオーラ様、この魔道具には小さくても非常に高品質な魔石を使っております。見えている物は一つですが、中には複数の魔石が埋め込まれております」
「中身を見る事は出来るのですか?」
「残念ながら、それは拒否させて頂きます。まだ世に出すべきとは思っていない技術です」

 と、私が言うとあからさまに訝し気な表情をするリオーラ様。教えるとは言いましたが、全てを教えるワケはありませんよ。アーマリア侯爵の者は生真面目な方が多いせいでこういった状況では素直な反応をするのですね。

「でも、ヒントというか重要な事を教えます」
「お、お願いします」
「上部に付いている魔石は魔道具の起動と制御を行う為の魔石です。組み込まれた魔石同士がそれにより連携して動作します」
「そのような事が……可能でしょうか? 魔石に込められる魔法、魔術は一つのハズです。あまり効率的とは言いませんが、魔法であればある程度は可能――いいえ、不可能です。分かりませんわ。どうして複数の効果を待つ術だけで……そして、一つの魔石で行えるのでしょうか?」

 ま、これは私もエステリアに言われなければ絶対に分からなかった答えです。でも、優秀な方であれば答えにたどり着く可能性はあります――が、真面目な方ほど難しいかもしれませんね。

「魔術は魔法ほど様々な事は出来ません。決められた術式で決められた動作しか出来ない……故に魔力の消費を抑える手立てとしては非常に優秀ですが、魔法のように術者の感覚センスによって複雑な現象を起こすことは現代技術の魔術では再現が出来ないハズです」

 現在、皆が使っている魔術は基本的に古代魔術とも呼ばれており、いにしえの賢者が編み出した術式によって成り立っていて、新たに術を構築するという概念は存在せず、新しい術式を作るというより、新しい魔法から陣を丸写しして魔術とする方法論しかない。

 エステリアが編み出した術式分解を使えば、術式を一から構築するという方法が可能となる。そして、魔法から術式を写し、そこから術式を組みさらに扱いやすくしたり、威力を調整したりする事が出来る。いにしえの賢者も同様の方法で術式を作ったのだろうと推測出来る。

「そんな事は無いわ。古き時代ではいにしえの賢者が出来ていたワケなのだから、私達に出来ないと誰が決めたのかしら?」
「そんな方法が……でも……」

 流石にこれ以上のヒントは出して差し上げれないわ。私が言わなくてもエステリアが言いそうな気はするのだけど、その辺は察して頂戴ね我が娘。

「私から教えれるのは今はここ迄です。かなりのヒントは出しましたよ。もし、気が付けたとしても公表するタイミングは私が決めますけどね」
「で、でしたら……」
「リオーラ様、いけませんよ。貴女は与えられた知識で満足する方なのですか? 魔術を学ぶものはこの世界の真理を解き明かす探究者たらんとしなければ……と、学園でも学んだのではないですか?」

 私に教えを乞おうと前のめりになるリオーラにターニアがそう言って止める。それを聞いたリオーラもハッと顔を上げて冷静さを取り戻す。と、いうかターニアは気が付いたようね……さすがに我が娘から買った商品を見ているわけだし、ある程度は予想していたのかもしれない。

「あの、私はそこまで難しい事は分からないのですが、持論だけ聞いていただいてもよろしいでしょうか?」

 そう言ったのはアマンディだ。彼女は学生時代から魔法の腕前に優れた人物で私の側近に選ばれた時も護衛も出来るほどの実力者だったから選ばれたというところもある。一緒に戦場も駆けたこともある戦友でもあるが、彼女の良いところは臨機応変な対応が出来る柔軟さだ。

「ええ、よろしくってよ」
「私は魔術においては此処にいる誰よりも理解出来ていないと自負しております。ですが、本日集まっている者の中で、魔法においてはキャロライン様、ステファニー様に次いで三番目だと自信を持っております。そこで、気が付いたのですが……魔法とは魔法理論でいう基礎魔法の魔力による変質と術者のイメージによって、現象を発現させる技術です」
「そうね。故に魔法を魔術で再現するには魔法の曖昧さを克服しなければいけない」
「ですが、魔法を使用する際、空間には魔力によって魔法陣が形成されますよね? それを写し取って魔術基礎理論に沿って魔術へと写しかえる事は出来ますよね?」

 リンガロイ伯爵領の者達は感覚派の人が多い……と、いうか大らかな性格の者が多いですが、アマンディもそうだけど、感覚センスは一流なのよね。そして、私が教えた基礎をしっかりと覚えているところも偉いわね。

「ええ、正解よ。魔法を魔術へと写しかえる事はそこまで難しくはない。ただし、魔術は魔法のように臨機応変に変更する事は出来ない――と、いうのが魔術基礎理論の常識ね」
「何がどう……と、いうのは分かりませんが、魔術にも幾つかの法則によって変更可能な方法があるということなのかと、思ったのですが間違っていますか?」
「ですが! それだと魔術基礎理論が間違っているという事に――いや、そんな……」

 声を荒げて反論しようとしたリオーラは難しい表情を浮かべて考え込む。何かに気が付いたみたいだけど、まだ正解には至らなそうね。

「次への宿題とするわ。気付きがあればさらに発展可能なのが魔術よ。無限の魔力なんてのがあれば、どう考えても魔法の方が圧倒的ではあるけど、魔術には様々な可能性を秘めていて、いにしえの賢者の凄さを私は実感しているわ。そして、それに匹敵する発想力を持つ我が娘もね……」

 私の言葉にキャロル以外の面々はハッとして私に視線を集める。敵となるなら絶対に許さないからね……しっかりと、私達の大事な娘達を護る役割をこなしてくださいまし。
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