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第一章 悪役令嬢は動き出す
25.悪役令嬢はお母様とお茶をする
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バーブスト公爵邸の薔薇の庭、初夏のこの時期は色とりどりの薔薇が咲き、色鮮やかな薔薇と甘い香りに包まれている。
「お母様、忙しい時にありがとうございます」
「いいのよ、ちょうど煮詰まっていたところだもの。エステリアの可愛い姿を見ると癒し効果抜群なんだから」
と、お母様は楽しそうにお茶を飲む。本日のお茶請けはカヌレもどきにしてみた。プリンからの発展系で研究中なのだけど、前世のカヌレの完全再現とまではいっていないけど、結構おいしい出来なのだ。ま、私が作っているわけじゃないけどね。
出来上がりのバランスが難しいお菓子なんだよね。固くなりすぎたり、柔らかかったり……と、あと一歩なんだよね。
「これでも美味しいと思うのだけど、エステリア的にはまだ満足出来ない仕上がりなのね」
「そうなんです。私的には外側はもう少し固く、中はもう少しフンワリが理想なんです」
「なるほどねぇ。コンロ……でしたっけ? 今、手を付けているヤツ」
そうなのだ、この世界の調理は基本的に薪や窯を使っての火加減はとても難しいのだ。故に魔術コンロを設計しようとしているのだけど、火力調整の術式が意外とバランスが難しくて実験機では幾つもの食材を炭にしている。
「魔石を粉にした回路ではやはり出力が強すぎて、火加減のバランスが悪いのです。例の件が片付いてくれれば魔晶石に切り替えれそうなので、上手くいくと思うのです」
「ハフルスト伯爵領から魔晶石が来るのが来月になってからですものね」
ハフルスト伯爵が持つ魔晶石鉱山から商品としてやってくる魔晶石は現在頑張って鉱夫たちが掘っているところなのだ。それを計上して我が領に輸出されるまでに思ったより時間が掛かっている。サンプルで幾つかきた魔晶石は別の回路で使っちゃったせいでもあるのだけど。
「はい、じっくりと待つしかありませんね。でもコンロが出来れば凄い弱火でじっくり煮込んだスープなども作れるので、夢は広がりますよ」
「美味しい物ばかりを食べていると気を付けないと太ってしまいそうね」
と、お母様は柔らかい笑みを浮かべる。どちらかというとお母様はかなりお痩せになっているので、もう少し食べても大丈夫だと思う。
「それで、私に相談があるのですよね?」
「はい。実はアリエル王女殿下と仲良くなりたいのです」
「――それは王家と懇意にしたいと?」
「え、えっと……それは嫌です」
私の言葉にお母様は首を傾げる。王家と懇意にしたいわけじゃなくて、アリエル王女と仲良くなっておきたいのだ……第一王子と第二王子はいりません!
「クリフト殿下やリストリア殿下とは懇意にしたくない……と?」
「勿論です。特に婚約とかは絶対嫌です!」
「知っているとは思うけど、クリフト殿下の婚約者候補の一人だということを理解していますよね?」
「はい……それは理解はしています。でも、婚約者候補と婚約者は違いますよね?」
私がそう言うと、お母様は何かを考えるように視線を動かして、カヌレもどきをナイフで解体する。
「エステリアの言う通り、確かに婚約者候補というところで言えば公爵、侯爵、伯爵もしくは周辺国の姫君も対象に入っています。ただ、現時点で言えばエステリアが第一候補だと、気が付いていますね?」
「……はい」
確かに、現在年齢的且つ、爵位で言えば私が最も適任なのは候補者名簿から気が付いていた。例え、クリフト殿下がお茶会で私に一目惚れしていなかったとしても、婚約という流れになるのは止めれないのだろう。
「ですが、もしクリフト殿下が王太子となった場合は王太子妃となってしまいます。後の王妃ですよ? 私、まだ色々と研究や商売の方に注力したいのですが、王太子殿下……いいえ、王家と婚約してしまうと多くのモノを諦めなくてはいけません。それは出来れば回避したいのです」
断罪回避が一番だけど、王妃なんて面倒そうな立場は正直いっていらないのだ。それにお母様もこれに関してはある程度共感しても貰えると思っている。お父様に恋したのは確かだけど、上手く王族から抜け出るのに利用した部分もあるのだ、生涯に渡って魔術理論の研究が出来る道筋を自ら掴み取った方なのだから。
「なるほど、確かに王家に嫁げば商売や研究は無理でしょうね。エステリアは私と同じ道を模索したいと思っているのね?」
「はい、お母様」
お母様は私の言葉を聞きながら、さらぬカヌレもどきを切り刻むのであった。
「お母様、忙しい時にありがとうございます」
「いいのよ、ちょうど煮詰まっていたところだもの。エステリアの可愛い姿を見ると癒し効果抜群なんだから」
と、お母様は楽しそうにお茶を飲む。本日のお茶請けはカヌレもどきにしてみた。プリンからの発展系で研究中なのだけど、前世のカヌレの完全再現とまではいっていないけど、結構おいしい出来なのだ。ま、私が作っているわけじゃないけどね。
出来上がりのバランスが難しいお菓子なんだよね。固くなりすぎたり、柔らかかったり……と、あと一歩なんだよね。
「これでも美味しいと思うのだけど、エステリア的にはまだ満足出来ない仕上がりなのね」
「そうなんです。私的には外側はもう少し固く、中はもう少しフンワリが理想なんです」
「なるほどねぇ。コンロ……でしたっけ? 今、手を付けているヤツ」
そうなのだ、この世界の調理は基本的に薪や窯を使っての火加減はとても難しいのだ。故に魔術コンロを設計しようとしているのだけど、火力調整の術式が意外とバランスが難しくて実験機では幾つもの食材を炭にしている。
「魔石を粉にした回路ではやはり出力が強すぎて、火加減のバランスが悪いのです。例の件が片付いてくれれば魔晶石に切り替えれそうなので、上手くいくと思うのです」
「ハフルスト伯爵領から魔晶石が来るのが来月になってからですものね」
ハフルスト伯爵が持つ魔晶石鉱山から商品としてやってくる魔晶石は現在頑張って鉱夫たちが掘っているところなのだ。それを計上して我が領に輸出されるまでに思ったより時間が掛かっている。サンプルで幾つかきた魔晶石は別の回路で使っちゃったせいでもあるのだけど。
「はい、じっくりと待つしかありませんね。でもコンロが出来れば凄い弱火でじっくり煮込んだスープなども作れるので、夢は広がりますよ」
「美味しい物ばかりを食べていると気を付けないと太ってしまいそうね」
と、お母様は柔らかい笑みを浮かべる。どちらかというとお母様はかなりお痩せになっているので、もう少し食べても大丈夫だと思う。
「それで、私に相談があるのですよね?」
「はい。実はアリエル王女殿下と仲良くなりたいのです」
「――それは王家と懇意にしたいと?」
「え、えっと……それは嫌です」
私の言葉にお母様は首を傾げる。王家と懇意にしたいわけじゃなくて、アリエル王女と仲良くなっておきたいのだ……第一王子と第二王子はいりません!
「クリフト殿下やリストリア殿下とは懇意にしたくない……と?」
「勿論です。特に婚約とかは絶対嫌です!」
「知っているとは思うけど、クリフト殿下の婚約者候補の一人だということを理解していますよね?」
「はい……それは理解はしています。でも、婚約者候補と婚約者は違いますよね?」
私がそう言うと、お母様は何かを考えるように視線を動かして、カヌレもどきをナイフで解体する。
「エステリアの言う通り、確かに婚約者候補というところで言えば公爵、侯爵、伯爵もしくは周辺国の姫君も対象に入っています。ただ、現時点で言えばエステリアが第一候補だと、気が付いていますね?」
「……はい」
確かに、現在年齢的且つ、爵位で言えば私が最も適任なのは候補者名簿から気が付いていた。例え、クリフト殿下がお茶会で私に一目惚れしていなかったとしても、婚約という流れになるのは止めれないのだろう。
「ですが、もしクリフト殿下が王太子となった場合は王太子妃となってしまいます。後の王妃ですよ? 私、まだ色々と研究や商売の方に注力したいのですが、王太子殿下……いいえ、王家と婚約してしまうと多くのモノを諦めなくてはいけません。それは出来れば回避したいのです」
断罪回避が一番だけど、王妃なんて面倒そうな立場は正直いっていらないのだ。それにお母様もこれに関してはある程度共感しても貰えると思っている。お父様に恋したのは確かだけど、上手く王族から抜け出るのに利用した部分もあるのだ、生涯に渡って魔術理論の研究が出来る道筋を自ら掴み取った方なのだから。
「なるほど、確かに王家に嫁げば商売や研究は無理でしょうね。エステリアは私と同じ道を模索したいと思っているのね?」
「はい、お母様」
お母様は私の言葉を聞きながら、さらぬカヌレもどきを切り刻むのであった。
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