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第2話 炎の子
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そうだ。たぶん、それが一番、彼らの人数が減らないやり方だった。昨日襲われてから戻ってこないひとたち。きっと、彼らは死んだ。
最初にイラスがつかまっていれば、そのひとたちは死ぬ必要がなかった。
だけど、俺はモヤモヤした。誰かひとりに不幸を押しつけることは、いいことなんだろうか。
たぶんきっと、俺たちが元いた<黒き石の大陸>では、不幸を押しつけられるのは<王国>の子供たち。きっと、そういうときに見捨てられるのは自分だった。そう思うと、俺は許せない気持ちに襲われる。
イラスは体が弱いから。そんな理由で。
「そう思うなら、どうして街に向かっているんですか」
俺は琥珀に尋ねる。イラスを助けるつもりがないなら、彼は街で何をするつもりなのか。
「わからない。じっとしていられなくて」
彼は小さく、首を振った。俺の指に彼の頬の感触。
それは、琥珀が俺に初めて見せた不安げな表情だった。今まで彼はすべて確信に満ちて、何もかもわかっているように話していたのに。今の彼は、不安で傷ついていて、小さい子供のような顔をしていた。
琥珀は、どの子供にも彼の弟を見ていた。俺にもそうだし、イラスにもそうだ。
彼にとって、イラスを失うことはもう一度弟を失うことだろう。それはつらいはずだ。そのくらいなら、街に向かわない方がいい気がした。もう一度彼が見殺しにしなくていけないなら。
「琥珀、あなたはどこに向かうつもりなんですか?」
琥珀は黙っている。
「あの。少し、落ち着かなくて大丈夫ですか? このまま街に行ってあいつらに会っても、どうしていいのかわからないままでは、怪我をするかもしれないし」
不安になって、俺は言った。彼は昨日彼らを傷つけているし、もしかしたら殺したのかもしれない。そんなひとたちと鉢合って、無事でいられるかもわからないのに、彼がどうしたらいいのか決まっていないなんて。
俺は、彼がどう決断しても彼の望むとおりにしたいと思った。だけど、今の琥珀は自分でも決められていない。
そんなときに、状況だけが悪くなってしまったら。俺は別に剣術を学んだことがあるわけでもないし、体も子供だし、彼を守るには力が足りない。
「琥珀、もう一日以上寝ていませんよね? 少し、休んだ方がいいですよ」
俺は日中寝ていたけれど、琥珀は俺たちと合流してからイラスと話して俺と話して、まったく寝ていないはずだ。
そのことにやっと思い至って、俺は彼の頬に触れていた手を下ろして、彼の肩を揺らした。
「ねえ、琥珀」
琥珀はやっと、俺を見る。
「……そうだな。俺は冷静じゃない。少しだけ寝よう」
俺は自分の考えを琥珀が認めてくれて嬉しかった。もちろん、イラスを助けるなら、急いだ方がいいのかもしれないけど、今の琥珀じゃ危ない。
琥珀は一番近くに見える岩影の方にらくだを走らせた。
最初にイラスがつかまっていれば、そのひとたちは死ぬ必要がなかった。
だけど、俺はモヤモヤした。誰かひとりに不幸を押しつけることは、いいことなんだろうか。
たぶんきっと、俺たちが元いた<黒き石の大陸>では、不幸を押しつけられるのは<王国>の子供たち。きっと、そういうときに見捨てられるのは自分だった。そう思うと、俺は許せない気持ちに襲われる。
イラスは体が弱いから。そんな理由で。
「そう思うなら、どうして街に向かっているんですか」
俺は琥珀に尋ねる。イラスを助けるつもりがないなら、彼は街で何をするつもりなのか。
「わからない。じっとしていられなくて」
彼は小さく、首を振った。俺の指に彼の頬の感触。
それは、琥珀が俺に初めて見せた不安げな表情だった。今まで彼はすべて確信に満ちて、何もかもわかっているように話していたのに。今の彼は、不安で傷ついていて、小さい子供のような顔をしていた。
琥珀は、どの子供にも彼の弟を見ていた。俺にもそうだし、イラスにもそうだ。
彼にとって、イラスを失うことはもう一度弟を失うことだろう。それはつらいはずだ。そのくらいなら、街に向かわない方がいい気がした。もう一度彼が見殺しにしなくていけないなら。
「琥珀、あなたはどこに向かうつもりなんですか?」
琥珀は黙っている。
「あの。少し、落ち着かなくて大丈夫ですか? このまま街に行ってあいつらに会っても、どうしていいのかわからないままでは、怪我をするかもしれないし」
不安になって、俺は言った。彼は昨日彼らを傷つけているし、もしかしたら殺したのかもしれない。そんなひとたちと鉢合って、無事でいられるかもわからないのに、彼がどうしたらいいのか決まっていないなんて。
俺は、彼がどう決断しても彼の望むとおりにしたいと思った。だけど、今の琥珀は自分でも決められていない。
そんなときに、状況だけが悪くなってしまったら。俺は別に剣術を学んだことがあるわけでもないし、体も子供だし、彼を守るには力が足りない。
「琥珀、もう一日以上寝ていませんよね? 少し、休んだ方がいいですよ」
俺は日中寝ていたけれど、琥珀は俺たちと合流してからイラスと話して俺と話して、まったく寝ていないはずだ。
そのことにやっと思い至って、俺は彼の頬に触れていた手を下ろして、彼の肩を揺らした。
「ねえ、琥珀」
琥珀はやっと、俺を見る。
「……そうだな。俺は冷静じゃない。少しだけ寝よう」
俺は自分の考えを琥珀が認めてくれて嬉しかった。もちろん、イラスを助けるなら、急いだ方がいいのかもしれないけど、今の琥珀じゃ危ない。
琥珀は一番近くに見える岩影の方にらくだを走らせた。
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